寝オチしたらギレンになっていたが 何か? 作:コトナガレ ガク
サイド1 ザーン
一年戦争初期には反ジオンの急先鋒であったが、一週間戦争におけるジオンの奇襲で連邦駐留艦隊の全滅、ジオンがコロニーに全く手を付けた無かったことから、少し態度が軟化してきている。それでも積極的にジオンに味方するわけでもなく、連邦・ジオンの間をゆらゆらする日和見に徹していて、キシリアに調略を任せているが一向に態度を鮮明にしないで今日に到る。
そんなある意味一年戦争においてコウモリ野郎の侮蔑の代償に平和を享受していたサイドであったが、今首脳部はそのツケを払われようとしていた。
「ジオンですジオンの半個艦隊が此方に向かってきます」
「どういうことなのだ? キシリアは何か言ってきているか?」
「何も」
「まさか態度を鮮明にしないことに業を煮やして武力侵略に踏み切ったのでは?」
「いや向こうはミノフスキー粒子を散布していない、まだ望みはある。
こちらも決してミノフスキー粒子散布はするな、手を出すな」
「寧ろ此方から先制攻撃を仕掛けるべきでは、上手くいけば追い払えます」
「どうやってだ? 治安維持用のスペースシップで役に立つか」
「ルウムと同じ運命を辿るというのか」
「外交ルートを通じて何としてもキシリアと連絡を付けろ」
「そんな暇があるのか」
ザーン首相官邸の会議室にはザーン首脳陣が一斉に揃い、慌てふためいていた。
「首相、進軍中のジオン艦隊から入電です」
「誰からだ? マ・クベかそれともコンスコンか? まさかドズルか?」
「ギレンです」
「「「なんだと!?」」」
このとき慌てに慌てていたザーン首脳陣の心が重なったと言われている。
「やあ、ザーンの諸君。ご健勝かね」
ミノフスキー粒子の散布は行われておらず、会議室の設置された大画面には偉そうに足を組んで座るギレンが鮮明に写しだされたのであった。
ヤマト艦橋の大スクリーンには、狼狽しきるザーン首脳部の面々が写しだされる。
どうやら、外交戦における電撃戦は成功のようだ。
内心ニヤリと笑う横では、澄ました顔して立っているセイラさんが控えている。
今回セシリアはお留守番というか、ジオンの内政もほったらかしに出来ないので(目を離すとキシリアが何するか分からない)信頼できる者として残って貰った。当初は付いていくと聞かなかったが、君しか信用できないと言ったら折れてくれた。
代わりにお目付役というか、将来政治家になるための修行として秘書見習いのセイラさんが付いてきている。彼女には将来ジオンをしょって立って貰わなくてはならない以上、プライドと外見だけが高いくっころ姫のままじゃ困るということでのさせているが、変に擦れてキシリアやマーサみたいな女傑になったらどうしよう。
まあそんな未来の心配してもしょうが無い、今は作戦に集中だ。
「これはギレン閣下。事前通告も無く突然の来訪に驚きます。
そして今日は何の用でしょうか?」
首脳部の一人が代表して俺に恐る恐る問い掛けてくる。
「当然、武力侵攻」
「そっそんな」
この世の終わりのような顔をするが何を今更。
連邦とジオンは戦争をしているんだぞ。そしてザーンは未だジオンに付くとは明言していない。なら元々の連邦側の陣営ということになる。
攻められて当然だというのに。
まさかどさくさで独立国家になれたとでも白昼夢でも見ていたのか?
「冗談だよ。冗談。
笑え」
「はっはは。閣下はジョークのセンスも一流ですな」
ザーン首脳部一同が乾いた笑いを浮かべる。
ふふっ完璧に俺はボタン一つで気に入らない部下を落とし穴に落とす悪の帝王って感じだな。だがいい人じゃ話が進まない、悪に成らねばならぬ時もある。
嫌な時代だ。
「それで今日の用件だが。愚妹に任せていたが、中々協議が進展しないようなので私自ら交渉に来た」
「閣下自らですか」
「そうだ」
「艦隊を率いてですか」
「人聞きの悪い。護衛だよ。何せ私の命を欲しがる奴は、それこそ星の数ほどいるんでね」
外は連邦から身内にはキシリアと上に立つものほど命は狙われる。そして一度上に立った以上降りることは容易には出来ない。
下手に降りれば粛正。
かといって居座り続ければクーデター。
ほどあいを見切るのが非常に難しい。
「ではコロニーに攻撃はしないと」
「はっは、面白い冗談だ。それでは私は悪の帝王みたいでは無いか。
なにか、私にそういう役を演じて欲しいのか?」
「いえいえ、そんなことは。決してございません。つまらない冗談で気分を悪くしたのならお許し下さい」
土下座でもしそうな勢いだな。
だが得てしてこういう人間の方がしぶとく侮れない。
ここで高潔に玉砕などと叫ばない当たり、いい政治家だ。泥を被って市民を守る。こういうところをセイラさんにも見習って欲しい。
チラッと横目で見れば、うわ~セイラさんは豚を見るような目で見ている。くっころ姫のセイラさんとしてはこういう強い奴にへつらう太鼓持ちは嫌いなんだろうな。
「よい。許そう。
それではこれが護衛艦隊であることは分かって貰えたのだな。
なら、この護衛艦隊が補給と休息のためコロニーに接舷することを許可して欲しい」
「なっ」
ザーン首脳部は一斉に息を呑んだのが伝わってくる。
流石に、此方の意図が分からない者はいなか。
外交訪問とか言っているが、見ようによってはザーンはルナツーしいては地球攻撃する為のジオンの補給基地となったと見なされる。
一歩間違えれば連邦の敵に回る行為。
さあどうするザーンの諸君。
「承知しました」
ん? 意外とあっさり承知したな。
何か裏があるのか?
いやこの場ではこう答えるより仕方が無いか。下手に断って怒りを買えばどうなるか、所詮人工の大地、陽炎のように消え失せる。
「うむ。では会談の日程は補給と休息の終了後に此方から連絡する」
「ギレン閣下、場所はこちらでいいのでしょうか?」
つまり俺にザーンの首脳部が用意した会場にノコノコ来いと言うことか。
俺を馬鹿にしているのか、そんなに自分達が信頼されていると思っているのか。
「いや、世話になりっぱなしでは心苦しい。会談はここヤマトで行う。
何か異論はあるか?」
「いえ、ありません」
こうしてオペレーション「ヒキコモリ」の第一フェーズは開始されたのであった。