転生クックは人が好き   作:桜日紅葉雪

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待ってくれていた方、大変長らくお待たせいたしました。

今回、結構な急展開です。後、残酷描写も入ってると思われます。
大丈夫な方のみ、お先へどうぞ


第4話

とある山の地中深く、誰も気づかぬその場所で、その龍は目覚めた。

目を薄く開き、ほとんど動かない喉を震わせる。低く唸るその声は、かすかに、ほんの微かに、山を震わせた。

身動ぎ一つもせず、ただ、目線だけで西の方角を見たその龍は、また再び目を閉じる。

伝説(龍)の目覚めは…近い。

 

 

 

(さてはて、鬼が出るか蛇が出るか…)

 

どちらにしても、デカ物が出てくることだけは間違いがない。

さっきも言ったように、別に俺は平穏を望んでいるわけではない。そも、常時平穏無事な刺激のない生活など、この娯楽のない世界では耐えられそうもないしな。

ただ、いくらなんでも痛いことでも大歓迎ってわけじゃあない。当然だ。その手の趣味は持ってないし。

ってーわけで、

 

(せっかくだから、俺は逃げるぜ!)

 

巣を捨てる気はさらさらないけど、いくら俺でもいきなり大型モンスターとの戦闘になったら勝てる気がしないし…

フルフルは不意打ちで倒したし、リオレウスは…ありゃあただの自爆だね。

まあ、そんなこんなで俺はまだ正面から大型モンスターとぶつかったことはないのだ。イャンクックって初心者卒業の登竜門とある通り、大型モンスターの中ではかなり弱い種族だしね。

巣の天井に空いてる穴から飛び出して、その穴のすぐ脇に着地する。ここなら巣に入ってくる奴からは見にくいし奇襲も不可能。こっちからは巣の入り口に入ってくる奴が微妙にだが見える。

 

(もうすぐ見えるはずなんだが…)

 

そうしてそいつが現れた。頭に誇らしげに生える一本角。強靭そうな二本の脚、ハンマーのような先端を持った尻尾。そうして…

 

(っ!…おいおいおい!!ウソだろ!!)

 

何かによってたたき折られたような傷口の…角。

巣の入り口につっかえそうなその巨体は、先日の火竜など足元にも及ばないような威圧感を放っていた。

絶対強者・天上の存在。圧倒的なまでの、一目見ただけで分かってしまう…その実力差。

俺は知っている。これは、この存在は…

 

(マ王だと!!)

 

ポッケ村のマ王…ゲームの中でなら、上位個体でありながらG級並みの体力と攻撃力を持ち、数多のハンターを苦しめ、トラウマを刻み込んだモンスターだ。というか、やりこんでたわけでもない俺は、ついぞクリアすることができなかった。

絶対的な壁、マ王は鋭い目で一直線に、俺を睨んでいた。

 

(格が、違いすぎる!!)

 

見つからないと思っていた俺は、たったそれだけで蛇に睨まれたカエルのごとく硬直していた。

心構えができていなかった。覚悟ができていなかった。たったそれだけのこと。これだけで逃げる意思ごと叩き潰された。

拮抗するというには一方的すぎるにらみ合いが続く。

勝てない…勝てるわけがない。そんな思考が俺の頭の中を駆け巡り続ける。

ふっ、と俺を睨みつけていた視線が外れる。頭を少しだけ下げて、小さく足を下げる。

次の瞬間…

 

「Gruaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

壮絶とさえいえる咆哮が、衝撃とさえなって洞窟の壁を草を、そうして俺の耳をも貫いて星の光る空へと吸い込まれていった。

圧倒的衝撃に、脳が揺さぶられる。ふらついた俺はふらふらとバランスを崩し、俺の出てきた穴へと落ちた。当然そこにはマ王がいて、無様に地面へと落ちた俺にゆっくりと近づいてきた。そうして、確実に俺の体など潰せるだろうハンマーの付いた尻尾を振り上げて…

俺の中の、何かが弾けた。

 

ズドムッ!!

 

地響きとともに、【洞窟の地面を】大きく陥没させた。

地面を円形に4メートルほどの範囲から陥没させたその威力は、まさに一撃必殺だ。…が、しかし、

耳鳴りが響く。

 

(うるさい…)

 

一撃必殺も、当たらなければただの装飾だ。

頭に血が上り、目の前の脅威が、ただの敵へと成り下がる。頭の中にあるのは、目の前の敵をいかに倒すか、それと、そのためのデータだけだ。

 

ディアブロス、砂漠の暴君として有名な飛龍種。攻撃力と突進時のスピードには目を見張るものがある。弱点は尻尾の付け根。氷属性が有効だったはずだが、今の俺には関係がない。角が一本折れているとはいえ、あの固い頭骨は俺を押しつぶすには十分すぎる威力だ。結局もらえないことに変わりはない。他にもあの尻尾のこぶの部分はシャレにならない。致命傷にもほどがある。ぞっとしないが、先ほどの振り下ろしが当たっていれば、地面に落ちたザクロのようになっていただろう。翼膜は…だめだ。地面の中の圧力にふつうに耐えきるような物質、俺の攻撃力じゃあたりない。実質、攻撃の通りそうなところは2・3個か…

 

先ほどまであった、勝てる、勝てないなんて考えは消え去る。

俺にある選択肢は2つ。このまま死ぬか、足掻きぬいて勝つか。まあ、答えなんて考えるまでもない。

陥没した地面にはまり抜けなくなっている尻尾が目の前にある。先ほど言ったように、このまま尻尾を攻撃しても意味なんてない。尻尾の瘤に飛び乗り、そのまま尻尾を踏みつけながら登っていく。ディアブロスがこちらを振り向いているが、俺が上に載ってるせいでうまく尻尾を抜けなくなっている。無視して尻尾の付け根にたどり着く。

耳鳴りがやまない。

 

(ウルサイ…)

 

尻尾の付け根に右足の爪を差し込み、掻き出す。爪が折れる感覚があったが、鱗はまだ一枚たりとも折れていない。が、多少はがれかけているのが見える。

耳鳴りが大きくなってくる。

 

(うるさい、ウルサイっ)

 

再び右足の爪をつき込む。先ほどよりも深く。そうして、宙返り。爪が足からはがれて鮮血が流れ落ちる。当然痛い。尋常じゃないほど痛い。爪がはがれたのだから当然か。どこか冷静に考える俺の目の前を、たった3枚の鱗が飛んでいた。

耳鳴りが、耳鳴りが…

 

(ウルサイって…っ!!)

 

痛みを耐えて背中側に着地する。ごく小さい範囲ながら、鱗がはがれて肉が露出しているのが見えた。喉の奥に熱。まだだ。まだ足りない。

ディアブロスの尻尾が音を立てて抜ける。これでこいつは自由だ。決めるならもう猶予はない。

熱がどんどん大きくなる。もう、暖かいなんてレベルじゃない。喉が焼けただれて肉が焦げる音が俺の体の中から聞こえてくる。だが、それでもまだ足りない。

ディアブロスがたわめていた足を元に戻す。

同時に、耐え切れなくなったブレスを露出していた肉の部分に吐き出した。吐き出した炎の色は、オレンジでも、ましても赤でもなかった。

 

(言ってんだよっ!!)

 

青。白い光に包まれた、青。

着弾、炎上、爆発。

通常では考えられないほどの熱量は、それでも、この化け物の尾を焼き切るには足りない。が、露出する肉を焼くには十分だった。俺の耳に、初めて悲鳴が聞こえた。

耳鳴りは消えない。

着弾地点からの熱の照り返しで顔がかなり熱いがそれを無視して、爆発ではじけ飛んだり、熱でもろくなった鱗に向けて、俺の最大の武器、巨大なくちばしによる打撃を敢行した。

一回、鱗を砕く感覚。けどやっぱり固い。俺の嘴もダメージを受けたっぽい。

二回、鱗と肉を潰す感覚。正直気持ちが悪い。なれたくはないけど、生きる為だ。

三回、また肉を潰す感覚。鱗はもうほとんどなさそうだ。今度は小さく口を開いて肉を食ってやった。こんな時になんだが、うまい。

四回、行けるかと思ったが、振り落とされた。地面に落ちた俺にディアブロスが振り向く。

口元から、黒っぽい色をした息を吐いていた。怒り状態突入だ。息を吸い込む。くそっ、また咆哮か。

 

「Gruaaaaaaaaaaa!!!!!」

 

(ウルサイ!うるさいウルサイ五月蠅い五月蝿い!!!)

 

鼓膜がやられた。あいつの息遣いが聞こえなくなった。土を踏む音さえだ。なのに、耳鳴りはやまない。

ふざけるな。ふざけるなふざけるな!

奴が頭を下げる。足を少し下げたところを見ると突進だろうか??それはダメだな。俺が死んでしまう。

空に飛びあがる。同時に向こうがスタート。ちっ、距離が近すぎた。左足が巻き込まれた。左の足の爪も砕けてしまって使い物にならない。俺が落下するのとほぼ同時に急停止したディアブロスが、体をひねった。が、墜落して、視界がふさがれた俺がそれに気づけるわけもなく…

 

ドガッ!!

 

顔に、尋常ではない衝撃が走った。ディアブロスの遠心力に任せた尻尾攻撃が直撃したのだ。

この時、本当なら死んでいたのだろうが、衝撃を感じるのと同時に直感で、尻尾に「反発」するように動いたことが功を奏した。

俺は、嘴を欠けさせながら吹き飛び、地面に倒れた。脳震盪がひどいのか、力が入らず立ち上がれない。

対してディアブロスはというと…

 

「g…ga」

 

こけていた。まあ、当然といえば当然かもしれない。ずっと自分についていた重りが無くなったのだから。

そう、俺のブレスで焼かれ、嘴で大きくえぐられた尻尾が、俺の嘴と衝突してついに限界を迎えたのだ。幸運だったのは、ブレスの熱で骨がぼろぼろになっていたことだろう。これがなければたぶん嘴で抉れなかったし。

戸惑いを隠せないマ王は、完全な格下、ただの獲物だと思っていたであろう俺から手痛い反撃を食らったせいか混乱状態に陥り、地中へと逃げてしまった。一瞬地面からの攻撃でとどめを刺しに来たのかと思ったが,地響きが遠ざかって行ったので窮地は脱したのだろう。それを認識すると同時にゆっくりと耳鳴りが収まっていき、視界の端に点滅する光を見ながら俺の意識は闇に沈んでいった。

 

 

 

 

とある古龍観測隊の報告

 

マ王が撃退された。

この報告を行うことができたのは、だいたい2年ぶりのことだった。以前は…そう、奴の角がへし折られた時だったはずだ。

その時は、とある村の凄腕ハンターが膝に攻撃を受けながらもカウンターで仕留めていたが…いや、回りくどい言い方はよそう。イャンクックがマ王を倒すところを見たときは、自分の目を疑った。正気を伺ったともいう。イャンクックとディアブロスでは天と地ほどの差がある。ましては奴はマ王だ。通常のディアブロスよりもさらに固く、強いのだ。

確かにあのイャンクックは今ギルドで話題の善性イャンクックだ。故に我らが観察していたのだから。だが、環境適応したフルフルが受けた傷を見るに、攻撃能力は通常のイャンクックと変わらないはずだ。だとすれば、マ王の鱗に覆われたから体に傷一つ与えることができるはずがないのだ。そのはずなのだ…結果はどうか。ディアブロスの弱点である尻尾の付け根。その鱗を剥がしてしまったのだ。普通のイャンクックにはあるはずのない高度すぎる知能。私には、恐ろしいものに思えて仕方がなかった。余談だが、何故あの善性イャンクックは戦闘中に発光していたのだろう??私には理解できない。

 

 

 

ギルド本部への通達

善性イャンクックがマ王を撃退したようです。

 

 

ギルドポッケ支部への通達

そうですか。

………え??

 




書く時間がない…
感想・批判をお待ちしております。

では。

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