2013 3/28
修正を加えました。ストーリーに変更はありません
聖堂という言葉がとても似合う、大きな教会。
その主祭壇の眼前で一組の男女が話していた。
「英霊を召喚するというのに、こんな単純な儀式で構わないの?」
真っ赤な両眼を除いて、真っ白というべき女性が男に問いかける。
「拍子抜けかもしれないけどね」
それに答える黒いコートを着た男は、水銀で描いていた怪しげな魔法陣を祭壇の正面に書き終えた。それに向かうようにひざまずいているが、長身だ。
「サーヴァントの召喚には、それほど大がかりな降霊は必要ないんだ。実際にサーヴァントを招き寄せるのは、聖杯だからね。僕はマスターとして、現れた英霊をこちら側の世界に繋ぎ止め、実体化できるだけの魔力を供給しさえすればいい」
男はその姿勢のまま右手で円形の陣の一部を指さし、説明する。どうやら、そこにはそれに関することが書かれているようだ。
本来、英霊のようなものをサーヴァントとして降霊するには目の前にある直径二メートルほどの魔術陣どころではなく、学校の校庭一杯を使うような――それでも足りないかもしれないが――ものと膨大な魔力が必要になる。だが、今回においてはそれらのような大掛かりなものは必要ない。
「————いいだろう。始めようか」
男は重い腰を上げるように立ち上がり、後ろに立つ女性に振り返る。
「アイリ、聖遺物を祭壇に置いてくれ。それで準備は完了だ。
あとは、呪文を唱えればサーヴァントになった英霊が召喚されるって寸法さ」
その言葉に従い、魔法陣を踏まないように祭壇に裏から回り込んだ女性は、抱えていた大きな鞘を祭壇に置く。
それを見てうなずいた男は、彼女が祭壇から離れるのを確認して右手を伸ばし、一の腕には左手を添える。まるで何かを掴もうとするように、何か迫ってくるものに耐えようとするように。
「
詠唱の開始と共に魔法陣から空色の光が放たれ始め、言葉をつむぐたびにそれは強くなる。
しかし、それは正常に儀式が行われている証拠だ。男は平然と詠唱を続ける。
「————告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば答えよ」
更には、魔法陣からは風が吹き、彼のコートが波打つ。祭壇の近くにある燭台は倒れそうだ。その光景を、アイリと呼ばれた女性は胸に手を当てて心配そうに見守る。
「————誓いをここに。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者!」
自分は総ての善となり、悪を滅する。彼の信念を現したような詠唱は終わり、一層強くなった風と発光の末、白い閃光が一瞬で教会の内部を覆った。
きっと外にいるものからは、教会に天使が降臨したように見えたことだろう。
「これは……!?」
閃光に眩んだ目が回復した男が見たのは、整然と立つ青いドレスを着た小柄な少女
男が抱いた感情は、まさに困惑の一言である。
騎士が目を開けると、見たことのない天井が目に入った。優美な模様に立派な木材だ。
神の都アノールロンドや不死院に送られる前ぐらいにしかこの手の物を見たことのない彼でもその値が張るのは理解できるが、竜やデーモンに果ては用済みとなった神を殺すことに命を賭けてきた彼には装飾美などは無価値に等しい。
上半身を起こした彼は自身が鎧を身に着けていないことに気付いて忌々しそうな顔をした。あの『上級騎士の防具』は彼が気に入り、『禊石の原盤』という貴重な鉱物のようなものの最上位まで使用した秘宝級の物なのだ。
素材を手に入れるのにいささか苦労したこともあって、思い入れは強い。
かといって、それ以外の服を着ずに腰巻きのみで動きまわるまでの気は無い彼は、ベッドから立ち上がると『騎士の鎧』を身にまとう。
彼からすれば――もとより旅をする者などには当たり前の事だが、いきなり鎧が現れたような様は人をひどく驚かせるだろう。ある程度の訓練を積まねばできないことだ。
そして鎧を着る際に自分に肉体があるという事に気付き、召喚されたという可能性を彼は排除した。もしや”別世界の不死の英雄”に召喚され、霊体となっていたのではないかとも思っていたのだ。
もちろん、彼に召喚される側の施すべき術を行使した覚えがないので当然なのだが。
壁と比較した家具の質から推測すれば自分がいるのは使用人が使う部屋らしいが、それでも廊下に接する場所には上質な木の扉を使ってある辺りここは城だろうかと彼は推測する。
ついでに窓から外を観察しもしたが、雪に覆われた果ての無い森だったので彼は素直にドアから出ることに決めた。
そして、警戒しつつもノブに手をかけた途端。不意にドアが内側へと開かれた。
気配がしなかったわけでは無い。が、何らかの大きな負担が自分にかかった影響で鈍っているようだ。
彼は飛びのいて、反射的に両手へ『絵画守りの曲刀』を出現させる。
“出す”際は隙だらけだが、素手で挑むよりはマシである。
「落ち着いてくれ。脱がしたはずの鎧があるのは気になるけど、君をどうこうしようなんざ思っていないよ。
様子を見に来たんだ」
現れた黒いコートを着た男がそう言うも、彼は瞬きすらせずに曲刀を構える。ソウルを取り込みもしていないただの人間だと一目で分かった彼だが、コートに不自然なふくらみがあるのが見て取れたからだ。
それに、目が殺人を仕事とする者のそれである。警戒すべき類いの人間だ。
曲刀を構えたまま、騎士は自分に何をしたかという言いがかりのような問いをかける。
介抱してくれただけなら失礼もだが、男の眉は少し動いた。
「……君には説明しなければならないことがある。ついて来てくれるか?」
そう言うなり背を向けた男を訝しげに見る彼だが、事態を進展させるために曲刀を腰に差して男の後ろを歩く。無愛想な男を見て、かなり警戒しているのか素なのかを考えた。
とにかく、武器を持っている相手に背を向けたというのは戦う気は無いということに違いはない。
「聖杯戦争という言葉に聞き覚えは?」
歩きながらそう一言問う男に、彼はまったく無いと返す。
すると、それを聞いた男はそれ以上話すこともなく無言で歩き続けた。ただの人間が大嫌いの彼もまた、一言も話しはしなかった。
そうして無言で歩を進め続けると、廊下の突き当たりへとたどりついた。
そこは壁で無く、大きく上質な木の扉が鎮座している。
「ここだ」
扉の前で立ち止まった彼は振り返って言った。
「僕らは君の敵じゃない。くれぐれも荒事は控えてくれ」
男がそう言い切った途端、大扉が内側から開けられる。彼はそれに返答せずに、ただただ扉を睨みつける。
もし相手が自分がここに来た理由を知っているのなら、解決策だけを聞いて立ち去ろうと心に決めて。
「来たか、切嗣」
偉そうな、と言い表すのが最も容易で適切な声を発した老人が、二人を待っていたように大きな椅子に座していた。おまけに、白地に萌黄と黄金という趣味の悪い司祭服を着ている。しかし、彼はその翁よりも、その手前にいる青いドレスを着た少女が気になった。
服装は戦闘のそれではないが、立ち方は武人。その雰囲気は王である。
その少女は誰だ。そう、彼は翁を無視して切嗣に聞いた。
しかし、彼は答えない。自らの主が話している以上は当然であるが。
「……セイバーに気づくか。やはり、ただの兵士というわけではなさそうだ。
身に着けていた鎧も、大したものであった」
そう言う老人の態度は自らが万象の王であるようなもの。
どうも、そのような人物は好きになれない。この老人は、騎士を完全に見下しているのだ。
だが、その座す椅子から見ておそらくはこの城の主だろう。
「さて、おぬしは聖杯戦争に参加しに来たわけでは無いというのは、真か?」
老人のその問いに、聖杯戦争とはそもそも何かと彼は問い返す。
「ふむ……」
彼はそう言い、切嗣と呼ばれた男に目配せをした。
それに従い、男は口を開く
「簡潔に言えば、願いが叶う器を魔術師が英霊をサーヴァントとして召喚、使役して争うものだ。そして、君はセイバーのサーヴァントと共に呼ばれて、今ここにいる」
切嗣のその説明を聞きながら、騎士の視線は目の前の老人に集中していた。
この老人がを行ったのかは不明だが、この者の意志で召喚が行われたのは確かだろう。
欲深い目をしている。
そして、騎士の意識は、殺意は完全に老人へと注がれている。
連れてこられたと思いきや、召喚されたというのだ。肉体があるにせよおそらくここは別世界だろうと彼は思い、老人の肩を揺さぶって「戻せ」と迫りたくなった。
なんせ、自分が途中で抜けた事によって向こうでは世界を照らす”最初の火”のくすぶっていた種火が、今では消えているかもしれないからだ。
そうなれば、変えの利かない世界を照らす光を失った世界には”闇の時代”が到来する。それを防ぐために戦ってきた彼の――同じ目的を持った者たちの行いが、すべて水泡に帰すことになるのだ。
騎士は前に立つ切嗣を突き飛ばし、老人へと歩む。そして、お前が俺を呼んだのかと問い何度も声を上げて問うた。
「――――止まってください」
そんな彼の歩みを二人の間に入って阻んだのは、先ほど注意を惹いた青いドレスを着た少女だ。
荒々しく退くように訴える彼を、彼女は睨み返した。
「マスターにあなたが彼に近づかないようにするよう、命じられています。お引きください」
しかし、彼はそれをお前は事態を分かっていないと鼻で笑って更に近づくと、だったら元の世界に戻せと問い殺す様な勢いで言う。
「君が呼ばれたのは我々にとっても予想だにしなかったことだ。
本来なら、セイバーのみが呼ばれるはずだったのだからな」
つまり、自分たちが願いを叶える物を手に入れるために行ったことで、自分がここに来たというのだ。
彼は、ならばそんな争いに関係のない自分を元の世界に戻せ、と尚更大きな声を出した。
「生憎、我々は英霊を呼ぶ
だが、自害でもすれば帰れるかもしれんぞ」
老人は悪びれる様子もなく、むしろ嘲笑うようなことを言う。
それに憤慨した騎士は老人を睨みつけ、自分を帰すつもりは無いのか、と先ほどまでの露わにしていた激情と真逆の冷たい声で言った。最後通告のように。
「私には無いし、”この”世にはないだろう。」
老人の言葉に、彼は「ならば死ね」と低い声で述べた。
今の彼の思考は「最初の火の薪になるのを邪魔された」ということから煮えた鉛のように音をたてており、彼の人生において一,二を争うほどの感情任せの行動に出た。なにせ、彼は呪いによって不死人になって以降、その使命である「薪になる」ことを最終目的としていたのだ。
それは人の世を救う方法であり、不死人にしかできないことだからだ。人でなくなり全てを失った彼には、それしか残っていなかった。
腰に差していた『絵画守りの曲刀』をしまい、『黒騎士の防具』と『黒騎士の剣と盾』を装備して、老人を叩き斬らんと走り出す。
黒騎士。神に仕えた神族の騎士たちの成れの果て。炎に焼かれたその銀色の騎士たちの鎧は、二本の角も相まって闇の色と威圧感を放つものに変わった。その防御力は、超人的な膂力を要求する重量に違わず折り紙付きだ。
彼にはこの鎧は少々重いものだが、猪突猛進できる防御力を優先したのだ。
「通しません」
彼に反応して同様に一瞬で鎧をまとった少女は、見えない何か――その構えから見るに剣を両手で構えて立ちふさがる。
しかし、彼はそれを想定内と眉一つ動かさず、障害である少女へと走る。
「止まって下さい!」
彼は当然応じず、走る。
警告が無駄だと判断した少女は、腰を低くして剣を振った。
勢いを止めるため、という目的で襲いかかってきた一撃を、その盾で走りながら逸らし、間合いの中に入った上で『黒騎士の剣』の柄先を頭めがけて叩き付ける。
刃を使わなかったのは加減ではない。間合いの中に入り込んだ上での攻撃手段として選んだだけである。
そして、彼を殺すまい、という考えで振られた甘い一撃。決して技量が特別高いわけではない騎士だが、それを逸らせぬ道理はない。
しかし、剣をそらされた勢いに体を乗せて身を躱した彼女は、その回転を乗せた返す剣で足を薙ごうとする。
両足を切り落とすことも辞さないといった鎌鼬。不可視の剣であるために形状を視認できないが、おおよその位置は少女の手の向きを見れば分かる。
それを彼は滑ったように両足を前に放り出し、避けた。
もし彼女の剣が鎌のような形をしていたのなら、彼の足の一本が宙を舞っていたことだろう。だが、不可視の衣に隠されてた彼女の剣は、素直な両刃の西洋剣といった形状である。
騎士は足を付ける地を失い、勢いと重力に身を任せながらもその黒い護手に包まれた手で彼女の頭を横から鷲掴みにした。
「――――ッ!?」
しまった、と目を見開く少女の顔を睨めつけながら、アストラは鎧の重さに身を任せて倒れこんだ。もちろん、自分はうつ伏せに、少女が横向きに倒れるように。
もし彼女の剣がもっと取り回しやすければ、彼の腕を切り飛ばせもしたであろう。しかし、彼女の剣は両手で持つような大型の物。そんな取り回しはできない。
苦しそうな声を上げる彼女と共に倒れこんだ彼は左手で顔を掴んだまま、剣を右手のみで持つ形となった彼女の右手を手で上から包み込んで、馬乗りになる。
一瞬、アストラと少女の視線が交差した。
だが、彼は躊躇いもなく、彼女の頭を大理石らしき床に思いっきり打ち付ける。
馬乗りという、防御がほとんど不可能な体勢での頭部へのダメージ。アストラは、半ば少女を死なないまでも無力化した、と確信して目の前の翁へと視線を移す。
彼は危険の迫る玉座からアストラへと冷ややかな視線を送りながら、錫杖のように手にしていた杖を両手で持ち直した。
「どうした、終わりかね?」
そう嘲笑する翁を、気がふれたのかと思いながらアストラは立ち上がる。――――否、立ち上がろうとした。
突如、アストラの視界が反転し、玉座が一気に遠ざかった。
大理石の床を鎧で削りながら滑りつつ、反射的に四肢を使ってブレーキを掛ける体が訴える痛みで理解した。自分は"吹き飛ばされた"のだ、と。
勢いを殺したアストラの周りに、同様に吹き飛ばされて剥がれた床の破片が落ちる。衝撃波のような、そんなもので吹き飛ばされたようだ。
「悪いが、そのような攻撃は効かない」
アストラを吹き飛ばした少女は立ち上がると、まとっていた雰囲気以上の気迫を放つ目と剣を向けた。もう、加減をするつもりはないようだ。
そして、彼女に衝撃のダメージはあるようだが、どうもおかしい。血が流れているようで、流れていないような妙な感じだ。幽霊の怪我、とでも言うべきか。
「手を抜いていたことを謝罪します。もう容赦はしない。
騎士ならば、名を名乗って剣を構えろ」
全身からソウルのような青い気を立ち上らせながら宣戦布告を行う少女。
遅れて立ち上がった騎士は、一転して感情の無い事務的な目を少女に向けた。この相手は、激情に身を任せていては勝てないと感じたのだ。それで勝とうとするには無謀と言える相手。
彼は『黒騎士の剣』を収めると、その手に『アルトリウスの大剣』を握る。
それは『折れた直剣』を武具の神秘の塊である『楔石』で強化し、それを神の鍛冶屋である巨人が『大狼シフのソウル』――いわば普通の人間とは比べ物にならない膨大な生命エネルギー――で鍛えることで成った大剣。魂を支えていたソウルはその特性を吸収し、それを足されて打たれた物の形状すら変化させる。
さらに、彼はそれを『楔のデーモン』とよばれる魔物から得た『デーモンの楔石』で強化し、性能を数段階も上げている。
強力な『神聖』の力もあるこの剣は、威力だけならばアストラの持つ物でも最高と言っていい。
「その剣……!?」
どうした事か、その剣を見た途端に少女は驚愕の色を表情に出した。気のせいか、毅然とした態度であった老人も驚いていたようだった。
それらを彼は一瞥すると、大剣を両手で握って構えつつ、全身の筋肉に命令を下す。今まで以上に、必死に動くようにと。
この少女を倒し、奥に座す老人に不可能でも元の世界に戻させる。そのために騎士は駆け出した。
玉座の間に障害物はなく、騎士までは一直線。アストラはカウンターを受けることを一切恐れず、両手で握ったその大剣を少女へと叩きつける。
振るわれる重い一撃は、目の前の華奢な少女を容易く両断するかに思われた。しかし――――。
「――甘い!」
少女は正面からその剣を受け止めると、流れるような動きで剣を返し、その勢いを真横に流した。
その剣の重さから受け止めた際に呻くも、受け流しを実行できることから彼女の技量の高さが窺える。
自分に対抗できる、少女の姿をしながらも自分の腕力に対応する者。自分と相対する者が中途半端な力を持つ者ではないと理解しつつも、引くどころか無駄な思考一つ覚えられる状況でない。
姿勢の崩れたアストラはセイバーが剣を構え直す直前に、彼女へと脚力任せの二の腕をぶつけるタックルを行う。
鎧同士がぶつかる大きな金属音と共にセイバーは大きく弾き飛ばされ、空中でくるりと回りながら後方に着地した。やはり、体重は少女らしく軽い。
彼は追撃をせず、剣の構えを下段に変える。彼女もそれを見てか、中腰にまで構えを降ろした。二人は睨み合い、次の一手を予想し合う。
二人の脳内で行われる、未来予想図。互いに考える内容は違っても、その結果は同じだった。
このままでは、二人はどちらかが死ぬまで戦うだろう。お互いの鎧を砕きあいながら、その心臓を引き裂くまでずっと。
「待て!」
だが、それを止めるためにこの計り合いを好機と見た男の声が上がる。
騎士をここまで案内した、黒コートの男。切嗣だ。
「君を元の場所に戻す方法がある。話を聞いてくれるかい?」
障害とすら考えていなかった男の言葉に、彼はセイバーから注意を外して勢いよく振り返った。
「僕たちに君を送り返すことはできない。だが、この"聖杯戦争"が終われば英霊は元いた場所に還る。ならば、君が元いた場所に帰れるのも道理だろう?
一〇〇%とは言えないが、一番望みがある方法だ」
それを聞いた彼は、先ほどまで無かったある物を床に見つけ、そこに視線を移した。
『橙の助言蝋石』によって書かれた、別世界の自分からのメッセージである。時間軸は乱れているの一言で、この状況が過ぎ去ったあとの自分の言葉があるはずだ。
有益な情報を探すため、彼は視線を集中させた。
書かれていた情報の多くが≪攻撃するな≫という短いメッセージ。ふざけた物もあったが、敵対しろと言う言葉は圧倒的に少なかった。
それに従い、どうせなら賭けてみようと半ば自暴自棄のように決断した。斬るという一人で行う行為は簡単だが、協力するという相手も了承して行為はそう簡単ではない。一度の機会を逃せば、不可能な場合がほとんどだ。
終わるまで自分は何をすべきか。何をして欲しいのか。切嗣に騎士は問う。
「できることなら、その力を聖杯戦争において貸してほしい。その代わり、君には衣食住。その他の必要な物を支援すると約束しよう」
その言葉に少女が何かを言ったが、彼は切嗣を見ながら口を緩めた。
そして、「乗ってやる」と言ってメッセージを評価した。後に続く自分が、この答えを選ぶように。
評価されたことによってその放つ光を増した文字が、騎士の視界の中で蜻蛉のように揺れていた。