薪となった不死   作:洗剤@ハーメルン

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短くてごめんなさい


狂戦士?

 始まったばかりの宴から抜け出したアストラは、胸中にもやもやとした思いを秘めながら長く暗い廊下を歩いていた。

 

 白霊も口を利けず、会話などがほとんど無いロードランでの生活は、社会から著しく逸脱している。フラムトの言葉で最期は薪になると確信した後は、俗世に戻る事は無いと確信し、ひたすら戦ったのだ。

 

 その結果が、まさか宴会で語り合う事すらこなせないとはどういう事か、と彼は頭痛を覚える。

 会話をするための話題がほとんど出てこないのは、あのような席では致命的ともいえる。

 

 ロードランにおいては多くの者が亡者となり、多くの化物が立ちふさがり、入り組んだ地形が多いために常に罠や待ち伏せを警戒し、その末に強大な敵を倒さなければならない。更には、殺される時の痛みと、蘇生した時に失ったと自覚する限りある人間性。死ぬのには慣れようと、それらに慣れることはない。

 『不死の英雄』という騎士に託された使命がなかったのなら、アストラは使命を諦めていただろう。もちろん、痛みや人間性の喪失を快感とする元から破綻しているような『不死の英雄』も別の世界にいたが、彼らはその状況をこれ以上ないほど愉しんでいたようだった。

 

 なんとなく立ち止まり、アストラは『橙の助言ろう石』で書かれたメッセージを探す。

 

『この先を右、厠』

 

『あとはガキ一人』

 

『太陽万歳!!』

 

気を付け(be caref)

 

 複数あるメッセージの中で、アストラが注視したのは最後の一つだ。

 途中までしか書かれておらず、内容としては警告だ。ただのいたずらかもしれないが、お人よしの『不死の英雄』が残したメッセージかもしれない。

 途切れている理由を推測してみた彼であったが、結論は見えず不安を煽るだけであり、何か摘もうと食堂へと足を向けた。

 

 

 

 

 

 

 灯りの無い無駄に広い食堂に着くと、装飾みたいなモノだろうが果物が置かれていた。なので、アストラはリンゴを手に取った。

 

 彼の知っているリンゴとは別の物に思えるほど色が良く、とても甘そうだ。夜ばかりが続くせいで作物は枯れ、飢餓の真っただ中にある現世では見られなかったものだ。もちろん、石と土ぐらいしかない不死院と、なんだかよく分からない物が食べ物にも多いロードランは例外だ。

 

 既に洗われたか分からないリンゴを口元に運ぶ。

 

 その時、廊下から音が聞こえた。歩くときに鎧が出すカチャリという金属音。セイバーの歩くペースとは違う、もっと背の高い者の足音だ。

 

 直感で味方ではないと察したアストラはリンゴを皿に戻すと、『上級騎士の鎧』を身にまとい、『紋章の盾』と『ロングソード』を握った。

 

 中庭の方から爆発のような破壊音が響くと同時に廊下の音が消え、音の主が立ち止まったのが分かる。

 

 こちらに気づいているはずはないので先手を打つべくアストラが廊下に飛び出すと、そこにいたのは銀に輝く鎧だった。

 二メートルをゆうに超える身長。鳥を模した兜に、群青の布地を使った鎧。蒼く光る聖剣。――――怪我をしているのか、左腕は力なくダラリと垂れ下がっている。

 

「アルトリウス……」

 

 ありえないその者の存在に、アストラは思わず声を出した。

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■!!」

 

 獣のような雄叫びを上げながら、黒い靄に包まれた騎士――――バーサーカーはセイバーへと斬りかかる。

 

「クッ……!!」

 

 バーサーカーの名に恥じぬその恐るべき一撃をセイバーは受け止めるが、彼女の足が石畳を沈ませる。

 

 その手に持つのは本来は神秘も何もないただのハルバードなのだが、それはバーサーカーの宝具によってDランクと低い物ではあるが確かに宝具となっている。オマケに――――

 

「■■■■ッ!」

 

 バーサーカーは短く吠えると瞬時に体制を変え、下段でセイバーの足首を切り落とそうと

竿を振る。

 セイバーは敏捷がA+であるバーサーカーの速度に追いつくことはできず、飛んでの回避を要求される。彼女の剣は両刃のため、押されて脚に自らの刃が食い込む可能性がある。

 それを考えれば、飛ぶほかに選択肢はない。

 短い息を吐きながら跳んだセイバーはハルバードの攻撃を避けることができた。しかし、追撃が無いはずもなく。

 

「■■!!」

 

 バーサーカーの後ろ蹴りが炸裂した。

 かろうじて剣で直撃は避けた彼女だがその勢いを止められるはずもなく、数メートルほど吹き飛ばされて白い花々の上に着地した。すぐさま状況を確認するべく、セイバーは視線を周囲に見やる。

 正面で唸り声を上げるバーサーカー。それはいい、だが彼女の視界には、いるはずのない存在が映っていた。

 

「アサシン……!?」

 

 中庭にも屋根の上にも立つ数十人ものアサシン。

 そういうタイプの宝具か、とセイバーは検討を付けると、すぐに声を上げた。

 

「アストラ!! アイリスフィールがあぶない! アイリスフィール、ライダーのところへ!」

 

 バーサーカーはマスターがいるにもかかわらず、セイバーを真っ直ぐに狙った。アサシンと組んでいるという可能性もあるが、その命令を無視していることは確かだ。この調子なら、その狂気で多少は令呪にも耐えるだろう。

 ライダーとアーチャーは王である。何か裏で取引があったとしても、宴をこのようにしたアサシンたちと共戦するというのはありえない。

 そう考えたセイバーはバーサーカーに集中するため、その鎧を隠す霞を見通すような眼光を向けた。

 

 

 

 

「時臣め、余計なことをしおって……。しかも、あの狂犬を引き入れるとは」

 

 そう不満を漏らすアーチャーの言動は、この騒動で三人のマスターが協力していると言うのを暴露したようなものだ。だが、肝心の彼は動くつもりが無いようで、宴会の体勢を崩す事は無い。

 

「王の宴に手を出すとは、弁えを知らぬ愚か者が……」

 

 一方のライダーはそう口にしつつ、ゆっくりと立ち上がる。

 彼の横に置かれていた酒樽はダークと呼ばれる短剣が貫通しており、蛇口をひねったような勢いで中のワインが流れ出ていた。その赤い液は石畳の上に広がり、彼のズボンを赤く染めていた。

 アーチャーにかかっていないのが、アサシンにとっての不幸であるか幸いか。

 

「坊主、我の至高の宝具。しっかりと見ておけよ」

 

 ライダーは威嚇をする獣のように大きく両手を広げ、ぶしつけな乱入者たちを睨みつけた。

 

 

 

 

 

 太陽の光の王が誇る四騎士の一角、アルトリウス。彼の伝説は人の世でも語られるほどのものであり、深淵の主を狩ったという伝説であった。

 だが、彼の持ち物には深淵の主と契約したという『アルトリウスの指輪』が残されてもいたので、アストラはその伝説の真偽に疑問を抱いてもいる。だが、まさか生きている彼に会えるとは思ってもいなかったため、ここでそれを確認しようと思いついた。

 

 貴君は騎士アルトリウスに違いないか、とアストラは呼びかける。

 

 冷たい空気が二人の間を流れる。

 

 しばらくの間の後、アルトリウスの足元で何かが動いているのにふと気づき、アストラは視線を移した。

 

 ドロドロとした、影のような液体のようなどこまでも深い黒。深淵だ。

 

「■■■■■■!!」

 

 すぐさま飛び退いたアストラの正面でアルトリウスが咆える。

 騎士の叫び声とも人の叫び声とも違う、闇の底からの叫びだ。

 

 アストラは盾を構え、後ろに回した手で剣を『アルトリウスの大剣』に持ち替えようと、手の内の剣を仕舞う。

 

 だがアストラが大剣を握るよりも速く、アルトリウスが振るった深淵に汚れた大剣――『深淵の大剣』がアストラの盾にぶつかったにも関わらずその勢いを弱めずに、アストラを廊下を十メートル以上にわたって吹き飛ばした。

 『紋章の盾』には亀裂が走り、また深淵の一部が張り付いて盾を喰らいはじめる。

 

 だが、アストラは吹き飛ばされた際にどこか打ったのか力の入っていない足で立ち上がり、盾を捨てて『アルトリウスの大剣』を両手で握った。

 

「■、■■!」

 

 アルトリウスは短く声を上げると、剣を肩に担ぎ、真っ黒な兜の奥からアストラを射抜いた。

 

 シースような狂気に飲まれた意志の無い目。

 

 これがあの深淵歩きアルトリウスの成れの果てか、とアストラは顔を歪める。

 そして、一刻も早く彼を殺してあげるために、先ほどの攻撃の余韻の残る足で駆けだした。

 

 アルトリウスも向かい討つように駆け出し、同時に振られた剣が音を立ててぶつかり合う。

 剣圧で二人の足元の床は割れ、ガラスには亀裂が走り、交差する剣に一瞬赤い火花が散る。

 

 ――――しかし、次の瞬間アストラはまたも大きく吹き飛ばされ、今度は受け身も取れずに床の上を転がる事となった。

 

 

 渾身の力を込めたアストラの剣。だが、その剣と同等の剣を、アルトリウスは右手のみで放ったのだ。そして、空いた左手で、動かないはずの左腕でアストラを殴りつけ、圧倒した。

 

 剣の余韻に浸る事なく、アルトリウスは飛び上がると空中で一回転してアストラへと剣を振り下ろす。

 それを寸のところで交わしたアストラだが、次の瞬間には再びアルトリウスは跳躍している。

 

「■■■■■■■■!!!」

 

 続けての一撃。二撃。それを躱し弾けるように身を起こしたアストラの視界には、剣の切っ先を彼の頭部に向けて貫くアルトリウスの姿があった。

 

 アストラは左手を前に突き出し、剣と顔の間に入れる。

 勢いを殺し、その間に抜ける苦肉の策だ。

 

 向かい来る黒く汚れた剣が、アストラの左手の手甲に衝突する。

 突き立てられた切っ先は金属板を砕き、アストラの肉に突き刺さり、骨を砕いた。

 

 だが、その勢いは止まらない。むしろ、アルトリウスがそれを警戒して力を込めた分、その勢いは増している。

 

 避けられない。アストラは確信した。

 

 そして、閃光のような加速度で進む『深淵の大剣』が、アストラの頭部へ吸い込まれる。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

 

 理性を失った獣が、頭部を兜ごと半分以上失ったアストラの前で勝どきを上げる。

 壁を通して城に響き渡るほどの大声であったか、その声を受け取る者は今、霊体化したバーサーカー以外に存在しなかった。

 




DLC版やったよ!

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