とある川辺で退屈そうに、心底退屈そうにした少年がいる。
「何か面白い事ねぇかなあ・・・・・・」
ヘッドホンを外すと少年はあることに気づく。
今時、気合の入った格好の不良な生徒が数名、一人の男子生徒を囲んで暴力を振るっていた。
「おいヤベえって。コイツマジ泣きしてるぜ。汚ねえから川に突っ込んで洗濯すっか?」
「どうせなら全裸で跳び込ませようぜ。両手両足縛ってよ」
「ひっ・・・・・・・・・!」
男子生徒はガクガク震えて縮こまっている。
少年は上体を起こし、不良たちに声をかけた。
「・・・・・・あー暇。超暇。暇が売れたらひと稼ぎできる自信があるね。そうだい、そこの頭悪そうな戯け共。娯楽を提供してくれたらもれなく暇という名の長期入院休暇をプレゼンするぜ」
「オラ、さっさと脱いで川に飛び込めよ」
「やっぱり両手くらい縛ろうぜ。足があったら死なねぇって」
「助けて・・・助けて・・・助けて・・・・・・!」
少年に返事は返ってこなかった。
大声を張り上げなかったせいかもしれない。
少年は無言で立ち上がり、手ごろな石を2,3個拾い上げると、今度は声を張り上げて投げた。
「俺も混ぜろやゴラァァァァァァァ!」
第三宇宙速度で着弾した石は川辺ごと不良と男子生徒を吹き飛ばしてしまった。
「ぎゃあああ!」
「さ、逆廻十六夜だ!!全員逃げろッ!!」
「た、助け」
「オラオラ、ドンドン投げ込むぞ!」
投げ込まれた石は次々とクレーターを作っていく。
不良たちも男子生徒も必死の表情で逃げていった。
十六夜は『強きを挫き、弱気も挫く』を座右の銘の一つにしているのだ。
「ハハ、だらしねえだらしねえ!気合が入ってるのは恰好だけかよ!」
腹を抱えて逃げ去る少年たちを嗤う十六夜。
やがて十六夜が笑うのをやめると同時に、静寂が訪れる。
周囲には誰もいなかった。
「つまんね」
吐き捨てるように本音を吐露した。
滑稽さを皮肉に思えても、楽しみは欠片もなく、暇つぶしには程遠いようだった。
十六夜は鞄を拾い立ち去ろうとする。
「ん?」
振り向いた先に奇妙なものを発見した。
それは十六夜の十六年の人生でも見たことがないものだった。
「ハハッ、面白れえ!何だこれは!」
今度こそ心の底から笑う。
それは自分の渇きを癒してくれるものだと真剣に期待していた。
「鏡か?いや、道か・・・・・・?」
それは十六夜の身体より少し大きい楕円形の鏡のようなものだった。
しかし、十六夜の姿は映しておらず、ただ光を放っているだけ。
よく見れば扉の様に見えないこともない。
十六夜は手を差し込んでみる。
「オイオイ、どういう仕掛けだ?全く分からねえぞ、クソッたれ!」
言葉とは裏腹に十六夜の顔は歓喜に満ちていた。
十六夜の手は光の楕円にズンズンと吸い込まれている。
手だけではなく腕、次に肩、早くも胴体に差し掛かっていた。
それなのに十六夜は不安な様子を欠片も見せない。
「どこに繫がってやがる。まぁいいや。行ってみるか!」
最後には自ら楕円の中に踏み出す。
十六夜の視覚は一瞬にして光に包まれた。
細々と書いていこうと思います。応援よろしくお願いします。