「応よ!デルフリンガー様だ!」
「俺は逆廻十六夜だ。しゃべる剣なんて初めて見たぜ」
大概のことには慣れてきた十六夜だが、それでも、意志があり、口を利く剣など想像もしていなかった。
「確か・・・・・・『インテリジェンスソード』っつったか?図書室でも名前くらいは載ってたが、やっぱり実物はおもしれえな」
インテリジェンスソードのことを学院の図書室で調べようとしたら、生徒観覧不可のエリアまで行かなければいけないのだが、十六夜が知っているということは、勝手に入ったに違いない。
本来なら牢屋に入れられてもおかしくないが、バレていないので、捕まることもない。
十六夜はデルフリンガーを柄を握って持ち上げる。
「こっちは実用性もありそうだな。造もしっかりしてるし、手に馴染む。ちゃんと研げば名剣に様変わりしそうだ」
「持っただけでそこまでわかんのかい!さっきの講釈も伊達じゃあ・・・ん?おでれーた!てめ、使い手か!」
「使い手?・・・・・・ああ、俺が『ガンダールヴ』だってことか」
「なんだ!知ってんのかよ!」
十六夜の声はデルフリンガーのやかましい声で揉み消され、他に聞こえることはなかった。
「図書室の奥にあった本でこのルーン文字のことを調べてたら見つけたぞ。神の左手だってな」
十六夜は自らの左の手の甲を見ながら言った。
「そこまでわかってんなら俺を買え!自分の能力くれえ知ってんだろ!」
「ああ。大して入用でもないけどな。だが、お前は欲しい。買ってやるぜ!」
十六夜がルイズを見て、
「オイ!桃チビ!」
「何よ!」
「これを買いたい。金を貸してくれ」
十六夜がハルゲニアに来て一カ月ほどしか経っていない。
こちらの通貨など持っているはずもなかった。
つまり、十六夜がわざわざルイズを連れて来た理由とは、
「あんた、まさかお金を借りるためだけにわたしをここに連れて来たんじゃないでしょうね?」
「そうだが?」
つまり、こういうことであった。
平然と答える十六夜。
ルイズは顔に青筋を立て、
「ふざけるんじゃなわよ!主を、貴族を何だと思ってるのよ!」
「威勢のいいピンク色のチビ(金持ち)」
「いいわ・・・・・・。いいわよ・・・・・・。そこまでバカならわたしにも考えがあるわ」
「ところで、結局貸すのか貸さないのか?」
「お仕置き―――――って全く聞いてないじゃない!」
つくづくルイズの思い通りにならない男だった。
ルイズはいつものごとく怒りを込めた視線を十六夜に向ける。
そして、こちらもいつものごとくどこ吹く風である。
ルイズは一度、自分を落ち着かせるように大きく息を吐いた。
「貸さないわ」
「何故?」
「最後まで聞きなさい。あんたはわたしの使い魔よ。その使い魔が役目を全うするために必要とするものなら、買ってあげる。もちろん、お金は返さなくていいわ」
「つまり、ただで買ってやるけど自分が使い魔だと認めろってことか?」
「そうよ」
ルイズもこのことに関して譲る気は一切なかった。
いい加減認めさせなければ、という貴族としての意地もあった。
だが、それ以前に使い魔でもない者に金を与えるなどルイズの矜持が許さなかった。
ルイズは十六夜の目を真剣そのもの表情で見つめ、彼の回答を待つ。
実際は十秒にも満たなかっただろう。
しかし、ルイズにとっては一時間のように感じた。
そして、十六夜が口を開く。
出てきたのはあっけらかんとした、
「いいぞ」
肯定だった。
「・・・・・・え?」
あまりにも軽い口調で返ってきた答えにルイズは唖然とする。
「え?じゃねえよ。使い魔でいてやるって言ってんだ。もっと喜べ、御チビ様」
そこにいつもの不敵な笑みはあるものの、目は真剣で嘘をついているようには見えなかった。
十六夜は一応とはいえ、ルイズの使い魔であることを認めたのだ。
ハルケギニアに来たばかりの十六夜ならば決して認めず、ルイズを試しでもしただろう。
だが、今の十六夜はルイズがどういう人物か理解していた。
わがままでプライドが高く、ゼロのルイズと呼ばれるほど魔法の才能がないが、使い魔にした者の人生を背負う心構えと、十六夜が認めるに足る意地を持っている少女。
十六夜にとってそれはルイズを認める理由として十分だった。
「まあ、対等な関係としてだが」
「何言ってんのよ?主従の時点で対等じゃないじゃない」
「こっちの意識の問題だぜ、御チビ様」
十六夜はデルフリンガーを店主の元まで持って行った。
状況が把握できていない店主に向かって言う。
「これいくらだ?」
「へ、へえ、百で結構でさ」
「お?さっきの飾り物よりかなり安いじゃねえか」
「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ」
十六夜は顔だけルイズに振り返り、
「買ってくれるんだろ?」
「どこか釈然としないけど・・・・・・。まあ、いいわ」
ルイズは近くに歩み寄り、財布の中身をカウンターにぶちまけた。
金貨がジャラジャラと落ちる。
店主は慎重に枚数を数えると、頷いた。
「毎度」
剣をとり、鞘に納めると十六夜に渡した。
「どうしてもうるさいと思ったら、こうやって鞘に入れればおとなしくなりまさあ」
剣を受け取った時、十六夜の顔はいつも以上に楽しそうに見えた。
結局、デルフ買っちゃいました。自分もモンハン4買っちゃいました。受験しているとは思えない行動だと自分でも思います。