AS オートマティック・ストラトス   作:嘴広鴻

8 / 31
第7話 更識

 

 

 

――― 更識簪 ―――

 

 

 

 織斑一夏。世界で唯一の男性IS操縦者。

 おそらく篠ノ之束博士と織斑千冬先生に次いで世界的に有名なIS関係者。

 

 

 彼の動向には世界が注目している。

 

 唯一ISを使える男として。

 ISを持っていながら何処の国にも所属していない人として。

 そして何よりも篠ノ之束博士に影響力のある弟として。

 

 といっても、所属国家がないことについては、本人が言ってた通りに篠ノ之束博士所属ということで世界は受け入れている。博士本人に確認したわけではないけど。

 博士の妹である篠ノ之箒さんについても同様で、IS開発者の博士ならISを所持していても当然のことだし、博士の不興を買ってまで博士が可愛がっている弟妹を無理やり自国の所属にしようとは何処も思わないみたい。

 あえて言うなら二人が日本国籍であることから、日本が自国の所属と見做している感があるけど、二人は日本と博士のどちらかでは博士を優先すると公言しているので、他国は日本所属とは見ていない。

 ただし災害救助などでISが必要な場合は、もちろん喜んで協力するとも言っているから、日本を蔑ろにしているというわけじゃないみたい。

 

 

 そして彼のことを注目している世界の中には、もちろん私の家である“更識”も混じっている。

 何故なら日本政府にとって重要人物である彼とその周辺を陰ながら護衛をするため、更識の人員が動員されていたからだ。

 彼が日本に帰ってきてからの1年半の間は、各国の諜報員と鎬を削る情報戦が行われたと聞いている。

 

 彼がIS学園に入学するまでは、彼の通っていた中学校周辺と仲の良い友人にも護衛を割かなければいけなかったけど、比較的安全なIS学園に入学したので、もう彼の周辺ごと守らなければいけないという地味に大変な作業は終わった。

 その代わりにIS学園で彼の安全を守るのは、このIS学園の生徒会長であり更識家の当主でもある私の姉さんの更識楯無。

 

 

 その姉さんが、彼とISで戦って引き分けた……って本音から聞いた。

 本音も疑問形だったから本当かどうかはわからないけど、

 

『かいちょーが急に真面目になったらしくて、お姉ちゃんが喜んでたー!

 ……数日だけだけど』

 

 って本音が言ってたから、彼が姉さんに何らかの影響を与えたのは間違いないと思う。

 

 

 彼と姉さんは、姉さんが生徒会長になる前からの知り合いだった。

 彼の周辺を守るために更識の人員が派遣された際、彼の性格からして護衛の話を通しておいた方が良いと考えられたので、更識家当主である姉さんが顔合わせを兼ねて何度も会ったことがあるみたい。

 それに加えて彼は中学時代からIS学園に通ってISの訓練をしていたので、生徒会長になった姉さんと更に付き合いが出来たみたい。

 

 そして姉さんが専用機である“霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)”を自ら作り上げた後、彼の実力を見るために模擬戦を行ったところ、IS学園最強である生徒会長の姉さんと引き分けた……らしい。

 どういう戦いだったのかまでは聞けていないけど、あの姉さんと引き分けたなんて……いったいどういう人なんだろう。

 同じクラスになると聞いてから、私は彼に興味を持っていた。

 

 

 

「生徒会長って…………ああ、あの人か」

 

 

 

 彼と会って思った感じとしては…………戦隊ものなら赤というより青っぽいかな? ということだった。

 

 熱血というよりクール系。何というか主人公らしくない人。

 むしろ主人公の兄貴分とか先輩役とか、それかいっそのことライバル役が似合う人。そんな感じの人だった。

 憎まれ口は叩くことはあるけど、それでも仲間のために戦う気概を持っていそうな感じ。

 

 もしくはこんなこと思ったらいけないけど、主人公を庇って死んで、それが主人公の成長に繋がることになるような役柄の人?

 まあ、悪い人じゃないと思う。

 

 

 でも性格はともかくとして、彼のスペックは物語の主人公そのものだった。

 彼についての報告書を私も読んだけど、まさに成績優秀、文武両道、品行方正を地で行くタイプ。

 多分、こんな完璧超人だったら逆に主人公にはなれないけど。

 

 世界で唯一の男性IS操縦者ということで成績が悪かったとしても入学出来たのだろうけど、実際には彼の成績はトップクラスだったみたい。

 ペーパーテストもそうだし、入試で教師と戦う実機テストでも織斑先生相手に善戦したらしい。

 もちろん織斑先生には負けたみたいだけど。

 

 織斑先生相手にも善戦出来るなら、姉さん相手に引き分けることも出来るかもしれないけど……そうだとしたら、私と同い年なのに代表クラスの実力を持っていることになる。

 

 姉さんは私なんかと違って本当に凄い。

 IS学園最強の代名詞である生徒会長を務めていて、私より1つ年が上なだけなのに自由国籍権を得てロシアの代表になっている。

 私と違って明るいから友達もたくさんいるし、文武両道なだけでなく料理や掃除なんかも私よりも上手。

 

 ……それに私よりスタイルもいい。

 

 

 だけどそんな姉さんと引き分けた織斑一夏。

 ということは姉さんに勝てない私は、彼にも勝てないということじゃないだろうか。

 

 

 

「名字が同じだし顔も似ているからそうだと思っていたけど、やっぱり更識さんはあの人の妹なのか」

 

 

 

 私が姉さんに勝てないのはわかっている。

 勝つどころか引き分けることすら無理だと思う。

 それはわかっていたはずだった。

 

 だけど私は、姉さんと引き分けた同い年の人がいると聞いたとき、何故か凄いショックを受けてしまった。

 

 姉さんと引き分けるなんて、私になんかじゃ絶対出来ないことをしたからだろうか?

 でもそもそも姉さんに勝てないって思っていたんなら、姉さんに追いつくことも諦めていたなら、そんなこと思わなかったんじゃないのか…………そんな考えが浮かんでしまった。

 もしかしたら、まだ私は心のどこかで姉さんに勝ちたいと、私は無能なんかじゃないと証明したいと思っているのかもしれない。

 

 

 そして“あの人の妹”。今まで何度も言われてきたこと。この後には“お姉さんは優秀なのに”と続く言葉。

 どんなに私が頑張って他の人より良い成績を取ったとしても、それでも姉さんと比べたら劣るのでガッカリされる。

 

 彼は自分の姉と比較されたことはないのだろうか?

 世界を救った英雄“ブリュンヒルデ”が自分の姉で、偉大すぎる姉を持って何か思うところがないのだろうか?

 

 

 勝手に私が思っているだけかもしれないけど、私と彼は立場が似ているかもしれない。

 だけど彼は私みたく諦めたりせずに頑張っている。

 姉に迷惑をかけないためにもう一人の姉からASを貰って、そのもう一人の姉の夢を応援するために邁進する。

 

 どうして彼はそんなに頑張れるんだろう。

 私は姉さんと比較されるのは嫌だ。どんなに頑張っても姉さんには追いつけず、“あの人の妹なのに”と失望される。

 

 どうして彼は姉を尊敬し続けることが出来るのだろう。

 私と姉さんだって、別に姉さんが悪いことをしているわけじゃない。ただ姉さんは自分の力で頑張っているだけなんだとわかっている。

 むしろ姉さんに追いつけない私が悪いんだろう。そんなことはわかっている。

 

 

 それでも私は……もう“あの人の妹なのに”って言われるのは嫌だ。

 

 

 

 

 

「裸エプロン先輩の妹なのに、思ったより普通だな」

「げっ、あの人の妹なのか!?」

「ほ、箒! そんなこと口にしたら失礼だよ!」

「(“口にしたら”ってことは……)」

「(シャルロットさんもそう思っていらっしゃるということでしょうか?)」

「(伝説の裸エプロン! やはり実践する者がいるのか!?)」

 

 

 

 

 

 …………もう“あの人の妹なのに”って言われるのは嫌だっ!

 

 

 

 

 

 

 

――― 更識楯無 ―――

 

 

 

「お帰りなさい。

 アイ()アン()クロー()にします? チョー()クスリ()ーパー()にします? それともネック()ハンギング()ツリー()?」

「メシ、フロ、寝る」

「一夏君、夕飯はもう食堂で食べてきたでしょう……っていうか簪ちゃんにいったい何を言ってくれたのよーーーっ!?」

 

 

 滅多に私と顔を合わせようとしない簪ちゃんがわざわざ生徒会室までやってきて

 

『……最っ低』

 

 って一言、私をまるでゴミを見るような目で見て言ったのよっ! あの簪ちゃんがよ!

 

 

「それ以前に、人の部屋に勝手に入り込んで何をやっているんですか、裸エプロン先輩?」

「あー、個室っていいわねー。

 このIS学園で個室を割り当てられるなんて流石は世界で唯一の男性IS操縦者。生徒会長の私でもこんな贅沢はしていないのにー……って、ねぇ? 本当に簪ちゃんに何言ったのよ?

 本音ちゃんに聞いても、あの本音ちゃんが言葉を濁してきたぐらいなのよ。昼に食堂で何か言ったんでしょ?

 言ってくれないとお姉さん泣いちゃうわよ」

「別に裸エプロン先輩のことを悪くなんて言ってませんよ。

 聞かれたのは“俺と裸エプロン先輩がISで引き分けたのか?”ってことと、“偉大な姉を持って何か思うことはないのか?”ってことぐらいですから。

 それより裸エプロン先輩、今日が登校初日でしたけど諜報合戦はどうだったんですか? まずはそっちを先に話しましょうよ」

「お仕事の話が優先なんて、この仕事人間め! 初めて会った時から何も変わっていないわね!

 私が簪ちゃんに嫌われてもいいっていうの!?」

「いいから、報告はよ」

 

 

 うぅ……ハァ、わかってますよ。仕事の話をしましょうか。

 その代わり、後で絶対に簪ちゃんに何言ったか教えてもらうわよ! 絶対によ!

 

 

 

「ま、流石にこの時期に騒ぎを起こすようなお馬鹿さんはいなかったわね。

 むしろ各国の諜報員がIS学園から距離を取るぐらいよ。騒ぎが起こったときに巻き込まれるのを防ぐためでしょう」

「俺が今まで住んでいた町は?」

「全く問題なし。予想通り、どの国もあの町からは人員を引き上げ始めたわね。

 ただ少し気になったのは、篠ノ之神社に不審人物が見られたってことかしら」

「篠ノ之神社に? 受験シーズンも終わったのに何故あんなところを今さら?

 束姉(たばねー)さんが身を隠した後、日本政府が徹底的に家探ししたから何もないのは周知の事実のはずでは?」

「いや、諜報員かどうかはわからないわよ。

 篠ノ之博士の生家ってことで、怖いもの見たさで訪れる外国人を含めた観光客も結構いるんだし」

 

 

 そういう観光客とは別に、新年やIS学園入試前は大変だったんだからね。

 それもこれも一夏君がブログで“篠ノ之神社に詣でればIS学園受験の御利益あるんじゃね?”とか言うからよ。そのおかげでお賽銭額がかつてないほどになったみたいだけど。

 それに新年は一夏君が箒ちゃんたちと初詣に行ったから、特にテロ対策を頑張らなくちゃいけなかったし。

 

 他の国の諜報員も少し手伝ってくれたっぽいらしく、無事に済んで何よりだったけど。

 

 

 私たち更識もそうだけど、あの町に潜伏していた各国の諜報員も何か事が起こったら一夏君を守るように厳命されていたみたいなのよねぇ。

 上手くいけば一夏君の貸しになるし、下手をすれば先走った自国のお馬鹿さんが一夏君を襲うなんてことをする可能性があったから仕方がないけど。

 そんなこと起こったら篠ノ之博士が何をしでかすかわからないから、ウチも含めて何処も彼処も去年は戦々恐々だったわ。

 

 それで一夏君がIS学園に入学したので、危険度は下がったと思って人員を引き上げたんだろうけどね。

 でもウチは一夏君に篠ノ之神社や中学時代のお友達のことを頼まれているから、ある程度は人員を残している。

 お友達を守れるほどではないけど、何かが起こったならすぐにわかるでしょう。

 

 

「暗黙のお約束というか紳士協定というか、あれだけの諜報員が打ち合わせもせずに無言で協力し合っていたのは初めての経験ね。ちょっと面白かったわ。

 だけどIS学園に入ったからにはそうはいかないわよ。何しろここは周りが海に囲まれているんだから、外部の人間は入り込みづらい。

 それはいいんだけど、逆に言えば事が起きれば私たちだけで対処しなければならないってことなのだから」

「そこら辺のことは裸エプロン先輩の力を信頼していますので、良い様にしてください」

「丸投げは良くないわよん」

「もちろん俺が手伝えることがあるなら手伝います」

 

 

 自分の立場が分かっているなら良し。

 たまにいるのよねぇ。自分が護衛される立場なのに好き勝手行動するお偉いさんが。

 

 そういうのに比べたら一夏君は万倍マシだわ。

 勝手な行動はしないけど、私たちから要請があったら素直にそれに従ってくれる。

 皆が皆、一夏君のようだったらいいんだけどねぇ。

 

 

「それとこれはオフレコでお願いしたいんだけど、どうやら“亡国機業(ファントム・タスク)”の足取りが完全にわからなくなったみたいなの。

 ISを貸与されるぐらいの上級構成員を捕まえてくれた一夏君には悪いんだけどね」

「遂に逃げ切られたんですか?」

「ええ、あのASショックで捕まえた構成員から得られた情報から、末端はかなり潰せたんだけどね。

 そこから糸を辿って上まで捕まえようとしたんだけど、幹部連中にはのきなみ逃げられちゃったみたい。

 私たち更識の管轄外だから、捕まえることに関しては私たちは何も出来なかったし」

「……これまで何も起こらなかったのは“亡国機業(ファントム・タスク)”が逃げるのに精一杯で余裕がなかったからなんでしょうけど、逃げ切られたということはマズいですね。

 失地回復のためにも、新たにISを手に入れようとするかもしれません」

「ISが1機でもあれば力としては充分だからねぇ。

 ……既に各国にはその旨は伝わっているはずだから、その国のことはその国に任せるとして……」

「問題はこのIS学園ですか」

 

 

 今のIS学園にはISがかつてないほど集まっている。

 学生の訓練のために使用する量産機はもちろんのこと、専用機が1年で7機、2年で2機、3年で1機の計10機という前代未聞の数が。

 2年と3年の専用機持ちの数は普通なんだけど、1年の専用機数がねぇ~。

 

 まあ、ISコア総数468の内の10分の1近くがこの学園にあるので、ISを狙っているテロリストには絶好の獲物だ。

 他の国の軍や研究機関では、プロの操縦者がいるので奪うのには苦労するだろうけど、何しろIS学園の操縦者の大半は学生。

 数が多いとはいえ、難易度的にはむしろ容易いのかもしれない。

 

 

「警備は万端よ! ……って言いたいんだけど、どうかしらね。

 織斑先生とも協力して警備体制は敷いているけど、本気でISに攻められたらISで対処するしかないわ」

「そしてその対処するまでの時間にどれだけの被害が出るのか、ですか?」

「そういうこと。

 守るっていうのは有利なことには間違いないけど、主導権を得られないのが辛いのよ。しかも生徒の一人が再起不能のケガをしただけでも、実質こっちの負けみたいなもんだし。

 まあ、予想通りの展開だから、今まで通りに警備を強化するぐらいしか、これ以上はこっちではしようがないんだけどね。“亡国機業(ファントム・タスク)”自体については、IS委員会や国連軍にお任せしましょ。

 こんなところだけど、何か質問はあるかしら?」

「千冬姉さんとは情報を共有しているんですよね?」

「それはもちろん。あの人がIS学園の警備責任者だからね」

「なら結構。他には特にありません。

 更識さん……妹さんの話をする前にお茶でも淹れましょうか。コーヒーか紅茶か緑茶、どれがいいですか?」

「えー、お菓子は何があるのー?」

「夜に食べると太りますよ」

「大丈夫。美人は太らないのよ」

「はいはい。といっても引っ越ししたばかりだから…………ああ、干し柿ならありますけど」

「……し、渋い趣味ね?」

「健康的でいいじゃないですか。緑茶にしますよ」

「お願ーい」

 

 

 

 そう言ってキッチンに向かう一夏君。

 

 相変わらず変わった子ねぇ。普通はお菓子ったらチョコとかクッキーとかじゃない?

 それに比べて干し柿って、随分と年より臭いというか……。

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

「……甘い。緑茶がなかったらつらいぐらいに甘いわね、この干し柿」

 

 

 でも美味しいわね。というか桐の箱入りの干し柿とはまた高級な……。

 この緑茶も上物だわ。流石にお金を持っている男の子は違うわねぇ。

 

 

「フム、これならもっとお茶を濃く淹れた方が良かったですね。

 ま、それはそれとして妹さんのことですけど、更識さんと話して思ったんですが、お二人は仲悪いんですか?」

「ぐあっ!?

 いや、まあ…………とりあえず本題に入りましょ。いったい簪ちゃんに何を言ったのよ?」

「本当に変なことは言ってませんよ。

 話をしたのは、まず白式が打鉄弐式の参考になったことでお礼を言われて、“俺と裸エプロン先輩がISで引き分けたのか?”ってことと、“偉大な姉を持って何か思うことはないのか?”ってことを聞かれたぐらいですから」

 

 

 ああ、あの戦いのこと。

 もうかなり前になるわね。

 

 

「……それで、何て答えたの?」

「裸エプロン先輩との戦いについては“YES”とだけ。

 俺としてはあくまで機体の性能差で引き分けに持ち込めただけであって、操縦技術では裸エプロン先輩には敵わないって言いたかったんですがね。

 けど裸エプロン先輩はそういうフォローされるのは嫌いでしょう?」

「それはもちろんよ。IS学園の生徒会長がそういう言い訳をしていいわけがないわ。

 一夏君だって織斑先生相手に“太刀が長ければ勝てるのに”なんて言わないでしょ」

「千冬姉さんに“弟、推参なり”って折檻されるのは勘弁してほしいですね」

「だいたい専用機持ちが機体の性能云々なんか言っていいわけないでしょ。

 専用機を持っていない子に聞かれたら何て思われるやら……」

「本音は?」

「“ズルい”」

「素直でよろしい」

 

 

 フンッ、次は引き分けなんかじゃなく、絶対に勝ってみせるからね。

 “霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)”を作り上げた直後で慣らしが完璧でなかった前回ならともかく、今の私と“霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)”は一味違うわよ。

 

 ……でもその分だけ一夏君のIS操縦技術も上がって、機体に慣れてるんでしょうねぇ。

 伸びしろでいったら、私よりも初心者だった一夏君の方が間違いなく多いわけだし。

 

 それに前回の戦いで見つけた反省点からデュノア社による改修もされたって聞いたし、正直言ってどうなるかわからないんだけど…………本当に負けたらどうしましょ?

 だけど逃げるわけにはいかないし、何より一夏君がどれだけ成長したか興味あるから、お姉さん頑張っちゃうわ。

 

 

 

「フフフ、落ち着いたらまた模擬戦でもしましょうか。

 それで“偉大な姉を持って何か思うことはないのか?”っていう質問はどうしたの?」

「“ライオンが鷹を羨む必要はないし、鷹もライオンを羨む必要はない”」

「お互いに得意なことが違うんだから、他人が出来ることを自分が出来ないということについて気にする必要はないってこと?」

「まあ、陳腐すぎる答えですが、俺はそう思っています。

 というか、家での千冬姉さん見てたらそう思っちゃいますよ。箒が一緒に住んで手伝ってくれるようになってから、ますます家事をしなくなりましたからね。あのグータラ姉は。

 でも言っといて何ですが、この場合の更識さんには適さない答えでしょうね。

 姉弟と姉妹。8歳差と1歳差。これだけ条件が違えば、兄弟姉妹の事情がまったく違いますから。

 姉妹で進路が全く一緒というのも辛いんでしょうね。そこら辺は何とかならなかったんですか?」

 

 

 が、頑張っている簪ちゃんに違う道を選べなんて言えないし……。

 

 でも一夏君の姉弟と私たちの姉妹では確かに事情が違うのよね。

 一夏君姉弟の話を参考にするっていうのは無理か。

 

 

「……やっぱり古い家ってのは大変なんですか?」

「更識の家のこと?

 あー、そうかもね。歴史だけは結構長いし、親族もそこそこいるからしがらみが結構大きいのよね」

「そんなもんなんですか。俺は千冬姉さん以外の親族なんて知りませんから、親族付き合いとかもないのでそういうのってわからないんですよね。

 ところで裸エプロン先輩って、夜な夜なスーパーの半額弁当を狙う“氷○の魔女”って仇名される親戚とかいません?」

「何言ってるかわからないんだけど?」

「いや、家の近所のスーパーに出没するHP同好会の人たちの中に顔と髪型が似てる人がいるんで……」

 

 

 

 ああ、簪ちゃんが一夏君並に割り切れてくれたら、もしくは一夏君並に神経が太かったら…………いや、一夏君並に神経の太い簪ちゃんは見たくないかな。

 一夏君が簪ちゃんに良い影響を与えてくれたらいいんだけど、一夏君の変なところを真似されても困るのよね。

 

 それ以前にやっぱり簪ちゃんと一夏君を同じクラスにすることに反対しておけばよかったかも。

 箒ちゃんのことは知っていたけど、まさか中国代表候補生の鈴ちゃんとキャットファイト寸前まで行くなんて思わなかったわ。

 流石は世界唯一の男性IS操縦者。モテるわね~……って言いたいけど、あの子たちに限ってはIS関係ないのよねぇ。

 本音ちゃんの見る限り、鈴ちゃんは一夏君の情報狙いってわけじゃなさそうだからまだ安心出来るけど。

 

 

 それよりも問題は、一夏君と同じクラスになった簪ちゃんよ。

 箒ちゃんたちみたく、簪ちゃんまで一夏君の毒牙にかかったりしないかが心配だわ。

 

 確かに一夏君は信頼出来るわよ。それはこの1年でよくわかってる。

 勉強も出来るし運動も出来るのはもちろんのこと、もしIS学園にテロが起こったら戦力として当てにするぐらいには信頼している。

 そして簪ちゃんが困っていたら、手を差し伸べてくれるぐらいには甲斐性を持っていると思う。

 

 だけどそれと同時にシビアなところがあるところもわかってるのよ。

 告白してきた女の子に対して、迷いもせずにNOと言えるぐらいにシビアなところが。

 

 

 こう言っては何だけど、簪ちゃんは何処か“王子様”というか“自分を助けに来てくれるヒーロー”を待ち望んでいるところがあるわ。

 そんな純粋な簪ちゃんの近くに完璧超人に見える一夏君がいたら、もしかしたら簪ちゃんが一夏君のことを好きになっちゃうかもしれないじゃない!

 

 といっても、一夏君を好きになること自体は……まあ、仕方がないと諦められるわよ。一夏君みたいな優良物件はそうそういないんだし。

 でもね! 簪ちゃんが勇気を振り絞って一夏君に告白したとしても、

 

『いや、今は彼女とか作る気ないから』

 

 って感じに、悩まれもせずにアッサリ断られるのは目に見えてるわ!

 そんなことされてご覧なさい。簪ちゃんが傷付いちゃうじゃないの!

 

 そ、そんなことを起こさせないためにも、今のうちに一夏君を抹殺しておいた方がっ…………それこそ模擬戦にかこつけて……。

 

 

 

「……そういえばクラス代表を賭けての模擬戦をするんですって?」

「ええ、俺が裸エプロン先輩と引き分けたことを知られましたんで、そこから話が進みました。

 千冬姉さんからもクラス代表を決めるのに都合がいいということで、アリーナの使用許可が取れ次第に行います。

 といっても、箒とシャルロットは参加しませんけど」

「あら、そうなんだ」

「クラス代表をするのは性に合わないってことと、7人で模擬戦をするのは時間がかかりますからね。

 ですので俺とラウラと鈴、オルコットさんと更識さんの5人で行うことになりました」

「あら、簪ちゃんまで?

 簪ちゃんの性格ならやりたい人がいるならクラス代表を譲りそうな気がするけど、もしかして一夏君と戦うためかしら?」

「かもしれませんね。俺が裸エプロン先輩と引き分けたことを知ってから、俺を見る目が変わりましたよ。

 何だか覚悟を決めたような目というか……」

「か、簪ちゃんには手加減してあげてね」

「“零落白夜”使いがどう手加減しろと?」

 

 

 ちょっと“霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)”の整備を虚ちゃんと薫子ちゃんに頼んでくるわ。

 模擬戦が終わるまでには整備を万端にしてもらわないとね。

 

 一夏君相手にするのは正直辛いけど、簪ちゃんを泣かしたら許さないわよ。

 

 

「ところで一夏君。

 今度の模擬戦には()()も使うのかしら?」

「もちろん使います。新装備の慣らしも終わりましたしね。

 今までは白式との調整が終わってなかったので公開していませんでしたが、これを機に全世界へ見せつけます」

「絶対、皆からズルいって言われるわよぉ」

「構いませんよ。

 何せここはIS学園。IS操縦者育成用の特殊国立高等学校であると同時に、ISの技術発展のための試験機関でもありますからね。

 ()()は今のISの常識に一石を投じることになると思います」

「ま、そうなんだけどね。

 何にせよ、()()にばっかり頼るのはやめなさいよ。

 ()()を使えば強いことは強いんだけど、決して一夏君自身が絶対的に強いわけじゃないんだから」

「それはわかってます。

 週に2~3日は()()を使わずに訓練してますよ」

 

 

 ならいいんだけど。

 

 それにしても……わかっていたことだけど、これを機に事態が動きそうね。

 “亡国機業(ファントム・タスク)”もこれから活動を再開するでしょうし、何よりIS学園内部だけでも忙しくなりそう。

 まずは今度の一夏君たちの模擬戦ね。

 放課後にやるってことだし、一夏君に興味がある娘たちがたくさん押し掛けそうだわ。

 

 ……模擬戦かぁ。

 最初に聞いたときは本音ちゃんに観戦に行ってもらおうと思っていたけど、一夏君との戦いに向けて私も見に行きましょうか。

 その間の生徒会の仕事は虚ちゃんにお任せしましょ。

 

 あ、それと生徒会といえば、

 

 

「そういえば一夏君。

 IS学園の校則では、生徒は何らかの部活動に所属しないと駄目ってことになっているんだけど、やっぱり剣道部にするのかしら?

 お姉さんとしては生徒会に入るのをお勧めするけど」

「え? ……ああ、そんな校則ありましたね」

「一夏君が何処かの部活に入っちゃうとね~。絶対騒ぎになると思うのよ。

 その点、生徒会なら一夏君が自由に動いてもらって構わないわよ」

「部活で身動きを取れなくなるのは困りますね。わかりました。

 まあ、とりあえず剣道部に限らず、部活巡りをしてからですね」

「ええ、その方が良いわね。

 何もせずに生徒会に入ったら、生徒会の方に苦情が来るかもしれないもの。

 一夏君が模擬戦で良いところを見せたら、副会長で迎えてあげる」

「裸エプロン先輩が会長で、確か布仏先輩が会計でしたっけ?

 二人しかいないんですか?」

「そうよ。それと今年入った虚ちゃんの妹である本音ちゃんが書記でいるから三人ね。

 同じクラスだから知っているんじゃない? のほほんとした娘なんだけど…………っていうか、前から言おうと思っていたんだけど、いい加減その“裸エプロン先輩”って呼ぶの止めてくれないかしら?」

「…………“水着エプロン先輩”?」

「そういう意味じゃないわよっ!」

 

 

 確かに一夏君がIS学園に泊まり掛けで訓練に来たとき、訓練終了後に水着エプロンの格好して部屋でお迎えしたことあるけど!

 一夏君は水着エプロンしていた私をまるでゴミを見るような目で見たけど!

 

 

「じゃあ“手ブラジーンズ先輩”か“全開パーカー先輩”で……」

「それは君の趣味でしょうが!」

「いや、俺の趣味は…………あえて言うなら“裸セーター”かな」

「ほほう? Yシャツじゃなくて?」

「Yシャツだと色々透けて見えるじゃないですか。そういうのは何だかわざとらしいように感じる性質でして。

 他の好みなら“チューブトップ+ホットパンツ”とかですかね。健康的な美しさを持ってたら尚更良し」

「いや~ん、随分と露出度高いわね。一夏君のエッチ♪」

「でもああいうのって女子的に難易度高くありません?

 何しろ体型を隠すことが出来ないんですから」

「お、お姉さんは平気よ! いつでも水着にだってなれちゃうわ!

 何なら今度見せてあげましょうか!?」

「結構ですよ。いきなりそういうの見せられてもあんまし……。

 やっぱり男女の間ってのは雰囲気とかが一番大事だと思うんですよ」

「あら? 男の子だったら色気の方じゃないのかしら?」

「……男が全員、色気に負けるようだったら、俺はもうこの時点で何人か子供を作ってそうですね。

 ASショック以降、俺が外を出歩くと近寄ってくる女性が凄いことになっているんですから。しかも箒が一緒でもお構いなし。

 あそこまでがっつく女性の姿を散々見せつけられたら正直萎えます。

 何て言うか、千冬姉さんが持ってた女性下着の通信販売カタログを見たような気持ちです。

 目の前にいるのに現実感が感じられません」

 

 

 い、一夏君の目がマズい。コレって女性不信になっているんじゃないかしら。

 道理で箒ちゃんと同棲していたのに手を出さなかったわけね。

 まあ、確かに一夏君に隠れて張り付いていた護衛からの報告によると、わざわざ服を脱いで薄着になってから一夏君に話しかけてくる女がたくさんいたってことだから、こうなるのも仕方がないか。

 

 これなら水着エプロンが逆効果になっちゃうわねぇ。

 清純路線でいった方がよかったかしら?

 

 

 

 

「ってか、何で俺は曲がりなりにも女性である水着エプロン先輩と下ネタを話し合っているんでしょうか?」

「フッ、これが私の人徳というものよ」

「汚れキャラだからですね」

 

 キレちゃったわよ。ちょっと表出ましょうか。

 

「え、水着エプロンなんかする人が汚れキャラではないと? ……ハッ」

「鼻で笑ったわね! っていうか普通に呼んでって…………待って、ちょっと待って!?

 もしかして簪ちゃんの前でも私のこと、“裸エプロン先輩”呼ばわりしてたんじゃないでしょうね?」

「は? …………ああ、それか」

「“それか”じゃないでしょうがぁっ!!!」

「ネック・ハンギング・ツリー!?」

 

 

 あ、あわわ……あの純粋な簪ちゃんの前で“裸エプロン先輩”呼ばわり。

 何てことしてくれたのよ。どう考えても軽蔑されるじゃないの。

 

 い、今すぐ簪ちゃんの所に行って誤解を……誤解を……ご、かい?

 …………ど、どうしましょう。水着エプロンは誤解じゃないわよね。

 

 

「……タンマ。マジでギブ。ギブです……っ!」

「お願い、一夏君!

 何とかして簪ちゃんの誤解を解いて! 誤解じゃないけど誤解を解いて!」

「い、いいから……いったん落ち着いて……」

「そうだ! 水着エプロンは一夏君がリクエストした……って痛ぁっ!?」

 

 

 くっ、両肘のファニーボーンを指で強く押されたっ!?

 肘にビリッとした痺れが走り、ネック・ハンギング・ツリーが解ける。

 マズい。両肘を抑えられたま「フンッ!」づぁっ!? の……脳天に頭突きをっ!? これは効くわ~。

 

 ええいっ! こういうときは身長差や体重差が響いてくるわね!

 でもIS学園生徒会長を舐めないでよね! 生徒会長は生身だって最強なんだから!

 何としても一夏君には簪ちゃんの説得をしてもらうわよ!

 

 

 

 

 








 ……やっぱり“更識楯無=氷結の魔女”は誰でも思いつくみたいですね。でも本当に似てるわ。
 IS二期第1話放映後の感想で、そういうことを書いている人が多かったみたいです。
 京都在住なので放送が一週間遅れなのが悔しい。

 次話で戦闘開始です。まあ、()()についても次話で。
 まあ、予想ついている人は多いでしょうけど。

 “チューブトップ+ホットパンツ”についてはFate/Apocryphaの赤のセイバーを思い浮かべていただければ……。
 作者の趣味です、ハイ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。