AS オートマティック・ストラトス   作:嘴広鴻

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第26話 おとうさんは聞いていた

 

 

 

――― スコール ―――

 

 

 

「……ただいまぁー」

「お帰りなさい、オータム…………って、何よ、その帽子は?」

「うぅぅ、スコォーールゥゥーー!」

「ちょ、ちょっとオータム?」

 

 

 オータムが涙目で変な帽子を被って帰ってきたけど、IS学園でいったい何があったのかしら?

 盗聴していた警察の無線とかには特に異常はなかったから、何か騒ぎを起こしてしまったというわけじゃないと思うけど、オータムのこの憔悴っぷりは尋常じゃないわ。

 

 ……ああ、よしよし。とりあえず泣き止みなさい。

 エム、悪いんだけどコーヒーを入れてあげてくれないかしら。オータムも何があったか話してちょうだいな。

 

 

 

 

 

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 ……プッ、何よそれぇ?

 変なのに引っ掛かっちゃったわねぇ。引っ掛かったというか墓穴を掘ったというか、そんな料理を出す店があるなんて……。

 まあ、正体がバレなかったのならいいでしょう。

 

「アハハハハ、それは災難だったわね、オータム」

「災難どころの話じゃねぇって。

 苦労してIS学園の情報抜き取って、ついでに織斑一夏たちがどんな奴らなのか見に行ったらあんな目に遭うなんて…………って、オイ。このコーヒー、インスタントの奴じゃねぇか。

 せめて自販機で缶コーヒー買って来いよ、エム」

「ワガママ言うな。ホテルのアメニティだからタダなんだぞ。

 それとその変な帽子をいつまで被っているつもりなんだ?」

「あ? あ……フンッ!!」

 

 アラ、捨てちゃうの、そのおとうさん帽子?

 被ってたオータムが可愛かったのに残念ねぇ、ウフフ。

 

「……ま、それはともかくとして、オータム。首尾はどうだったのかしら?」

「ん、おお、大丈夫だ。ちゃんと仕事はこなすさ。

 ホラ、このメモリースティックに情報を入れてある」

「よくやったわ、オータム。これで修学旅行のときのIS学園襲撃が可能になる」

 

 これであの織斑一夏君に一泡吹かせられるわね。

 地球の守護者になったりして調子に乗っているみたいだけど、そうそう上手くはいかせないわよ。

 

 オータムにはお礼をしなきゃ。今日はたっぷり可愛がってあげるわね。エムが寝静まったら。

 でもまずはオータムが盗ってきた情報を確認しなきゃいけないから、オータムはシャワーでも浴びてサッパリしなさい。

 

 

 

 

 

――― 布仏虚 ―――

 

 

 

「――という情報がおとうさん帽子に仕込んでいた盗聴器から得られました。

 ただし残念ながら、今日のホテルの清掃でオータムがゴミ箱に捨てたおとうさん帽子も回収されてしまいましたので、これ以上の情報は得ることは出来ません」

「グッド! 連中が止まっているホテルの調べはついているのよね?」

「もちろんですとも、お嬢様」

「わぉ、腹黒」

 

 腹黒って、この盗聴器を仕込んだおとうさん帽子の計画立てたのは織斑君じゃないですか!?

 しかも盗聴器でずっと監視していたせいで、私は彼女たちの夜中のお楽しみの嬌声を聞く羽目になったんですよ! 一緒の部屋に泊まっているエムって人に同情しちゃいましたよ、もう!

 

 ……女同士って本当にいるんですね。

 知識としては知っていましたが、実際に見る……というか聞くのは初めてです。いや、例え男女同士の情事だって聞いたことなかったですけどね。本当ですよ。

 

 

 それにしてもここまで上手くいくとは思っていませんでしたねぇ。

 

 もちろん今回の学園祭で亡国機業(ファントム・タスク)に限らず、どこかしらの団体が余計なチョッカイをかけてくるのではないかという予想はしていました。

 学園祭という行事は外部からの客を招くという性質上、どうしてもこういう工作員を忍び込ませてしまいやすくなりますからね。普段の日に比べたら工作員が潜り込むのは格段に楽でしょう。

 

 しかし、来る確率が高いとわかっているのなら、対応策を考えていけばいいだけのことです。

 そこで先日の銀行強盗をおとうさんで取り押さえたときに織斑君が散々ハッチャケましたから、おとうさんでならテロリスト相手でも多少の理不尽な目に遭わせても変に思われないだろうということで、おとうさんの着ぐるみでテロリストを待ち受けることとなりました。

 おとうさんなら例えテロリストが暴れたとしてもシールドバリアーがあるから平気ですしね。もしそうなった場合はおとうさん装備の人が生徒や来客者が避難するための時間稼ぎをし、直ちに専用機持ちが駆け付ける予定でした。

 

 お嬢様と織斑君と本音と私が交代でおとうさんの中身を務める予定だったのですが、私だったらあそこまでハッチャケることが出来るかどうかわかりませんでしたね。

 あのお嬢様のハッチャケぶりを見てたらオータムが不憫に思えましたよ。お嬢様の当番のときにオータムが来てくれて助かりました。

 おかげでおとうさん帽子に仕込んだ盗聴器に気付かないぐらいまで消耗させることが出来ましたし、ミッションは無事完了です。これで修学旅行の日に仕掛けてくる亡国機業(ファントム・タスク)の三人に対してより効果的な対応策を事前に準備しておくことが出来ます。

 

 もしかしたら盗聴器に気付いていて昨夜の会話は全て演技なのかもしれませんが、それでも織斑君たちが修学旅行に行く日の警備体制を強化することは確定ですね。

 確かに七人もの専用機持ちがIS学園から一時的にいなくなるので、修学旅行の日は良からぬことを企んでいる連中にとっては絶好の機会でしょう。

 何にせよまずは裏付け調査が必要ですか。

 

 というかお嬢様はノリノリにやり過ぎです。

 絶対個人的にも楽しんでいたでしょう。

 

 

「更識会長が接待していたあの人がオータムですか。

 写真で見たことはありましたけど、俺じゃパッと見ではわかりませんでしたよ。かなり変装をしていたみたいなのに、それを一目で見破るなんて更識会長凄いですね」

「フフン、更識をあまり舐めないでね。

 そりゃ直接的な戦闘力はともかく、こういうことに関しては一夏君よりずっと上よ」

「御見それしました」

「オホホホホ、崇め奉りなさいな」

「はいはい、お嬢様も調子に乗っていないで、さっさとどう処理するか決めましょう」

 

 織斑君の本心からの賛辞はお嬢様も嬉しいみたいですね。思いっきりニコニコとした笑みを浮かべています。

 最近お嬢様にはイイところがありませんでしたから、ようやく生徒会長としての面目躍如が出来てホッとしているのもあるでしょう。織斑君にお礼を言われることはよくありますが、褒められることなんて滅多にないですから仕方がありませんか。

 

「それでどうします? 警察に頼んでホテルに踏み込んでもらいますか?」

「いやいや、IS三機所有しているテロリスト相手では警察じゃ無理でしょう。

 素直に自衛隊のIS部隊に頼むか、もしくは俺が行くか。それとオータムの使用しているISがアメリカから強奪されたアラクネということなら、在日米軍の手助けも借りられるかもしれませんし」

「でもIS三機相手にする市街戦を起こされるのも困るんだけどねぇ。

 私としては相手の目的がIS学園の所有しているISコアということなら、相手の目論見通りに修学旅行のときに待ち受けていた方がいいと思うんだけど」

 

 そうですね。泊まっているホテルが街中なので、流石にISによる戦闘は行うのは好ましくないです。

 

 盗聴器から得られた情報によると、現在の目標としてはスコール、オータム、エムの三人。

 亡国機業(ファントム・タスク)の構成員で、厄介なことに三人全員がISを所持しているとのこと。

 オータムがアメリカから強奪されたアラクネで、エムという人物はイギリスから強奪されたサイレント・ゼフィルス。スコールの所持ISについては彼女たちの話題に登りませんでしたので詳細は不明です。

 

 この三人を相手にするのなら確かに警察では力不足。

 むしろ自衛隊のIS部隊でも戦力が足りないかもしれませんね。三機のISを相手にするのなら、出来れば十機以上で挑むべきですから。

 

 それと不明といえば、エムって人物の詳細がわからないのも困ります。

 スコールとオータムはそれなりに長い間、亡国機業(ファントム・タスク)として働いていたので、織斑君が知っているようにある程度アメリカやイギリスを始めとした各国から貰った情報があります。

 しかしエムという人物についての情報はありません。データベースを探してもなかったということは、今まではあまり表で活動していなかったのでしょう。声も若い感じで、それこそ私たちより年下ぐらいの声でしたので、今まではあまり表立った行動をしていない人物のようです。

 現在わかるのは声ぐらいですので、専門家に頼んで声から身長や体重を割り出してもらうように手配しますか。

 

 ……ところでエムの声は、何だか織斑先生の声に似ているような気がするのは気のせいでしょうかね?

 

 

「連中のホテルの予約からすると少なくとも今週一杯は宿泊し続けるようですので、今のうちに24時間監視の手配もしておきます。

 ホテルに攻め込むにしても、IS学園に攻め込まれるのを待つにしても情報は必要ですからね」

「お願い。だけどバレないように細心の注意を払ってね。エムって子は知らないけど、スコールやオータムはなかなかの実力者と聞いているわ。

 ISのハイパーセンサーにも気を付けてよ」

「もちろんです」

「でもここまで来ると私の一存じゃどうしようもないわねぇ。

 織斑先生の権限もあくまでIS学園内にしか及ばないから、一度日本政府に話を通さなきゃ」

「……俺がたまたま同じホテルに泊まって、たまたま出合いがしらに戦闘に入るとかは駄目ですかね?」

「ホテルが崩壊するからヤメテ」

 

 いくらそこまで大きくないビジネスホテルとはいえ、平日でも宿泊客数は軽く五十人を超すホテルですからね。

 そんなホテル内部で戦闘になったらマズいですよ。

 ステルス機能を持っている白式・ウルフヘジンなら隠密に近づくことが出来るかもしれませんが、相手は三人ですからねぇ。抵抗されずに三人とも仕留めるのはいくら織斑君でも難しいでしょう。

 

 ……それにそう考えたら、白式・ウルフヘジンって暗殺も出来ますか。

 隠密+機動+一撃必殺能力持ちの機体って酷いですね。ホント。

 

「そういえば千冬姉さんには話したんですか?」

「テロリストが学園祭に忍び込んだことと、そのテロリストに警備データを盗まれたこと、テロリストに盗聴器を仕込んだことは既に伝えました。

 しかし現在、織斑先生は警備体制を一から作り直しする緊急会議の真っ最中ですので、盗聴器から得られた情報はまだお渡ししていません。そもそも情報を纏められたのがつい先ほどですので」

「あー、そっか。情報盗まれたんでしったけ。

 すぐさま攻め込んでくるような気配がないなら、まずは警備体制を作り直す方が先決ですか」

「そういうことよ。ま、その緊急会議はもうすぐ終わるでしょうから、会議が終わったら伝えるわ。

 とはいえ、もしものことがあるかもしれないから、こうして一夏君に話をしているわけ。一夏君には悪いけど、しばらくはいつでも迎撃に出られるように準備しておいて。虚ちゃんは引き続き情報収集の手配を。

 私は織斑先生と日本政府に話を通すから」

「了解です。箒たちにも伝えておきますね」

「かしこまりました」

 

 

 さて、それでは人員の手配をしなければ。

 エムはともかく、スコールとオータムは亡国機業(ファントム・タスク)の凄腕の実働部隊として有名です。ここは慎重に事を進めなければいけません。

 

 まずは監視員を配置するだけでなく、日本警察に力を借りて、スコールたちの部屋に盗聴器を仕掛けてもらいますかね? ホテルへの説明は警察にお任せすれば出来るでしょう。

 電波を発信するタイプならISで電波をキャッチされて気付かれる危険性がありますが、録音式の盗聴器でしたらISでも気づけないでしょう。回収はホテルの清掃のときに行えば済みますし。

 むしろ監視員を置いたら気づかれる危険性がありますから、いっそのこと盗聴器オンリーにしていいかもしれません。

 

 いやー、こちらはわかっているのに相手は気付いていないという状況がこんなに楽だとは。

 この有利な状況を手放さないように、絶対に相手に気付かれるわけにはいきませんね。

 

 しかし今回のことでASショック以降、姿を隠していた亡国機業(ファントム・タスク)の上級構成員の尻尾をようやく捕まえることが出来ました。

 是非ともスコールとオータムを捕縛して、この機会に亡国機業(ファントム・タスク)を壊滅させることが出来たらいいですね。

 

 

 

 

 

――― 更識簪 ―――

 

 

 

「やだ、この“おとうさんの手”って凄い便利」

「……私としては使っているところをあまり見たくないんだけどねぇ。

 というかおとうさんの手だけを部分展開しないでよ」

 

 ? おとうさんってデュノア社の製品でしょ? 何でシャルロットが見たくないの?

 

 でもこれ本当に便利だよ。ISの整備がとても楽になる。

 私の腕より重い物も持てるし、伸縮自在だし、細くて曲げることが出来るから奥まったところにも手が届くもの。

 さすがにタイピングは自分の手でやった方が早いけど、ネジ締めとかはドライバーを持たせた腕を回転させれば簡単。

 

 最近一夏の関係で技術協力している倉持経由でデュノア社から貰ったけど、これは良い貰い物をしちゃった。

 デュノア社に篠ノ之博士からの技術協力があったとも聞いているけど、やっぱり篠ノ之博士は凄いなぁ。

 

「一夏もこれが気に入ったみたいで、最近はこればっかり使ってるけどさ。

 あれってどう見ても地球外生命体に寄生されたISとかにしか見えないよね」

 

 そ、そう見えなくもないかな?

 

 インコムアンカーを外したウルフヘジンだけど、最近はこのおとうさんの手を取り付けている。

 ……手というか触手?

 

 この触手はインコムアンカーよりパワーはないしスピードもないけど、インコムアンカーに比べたら自由度がとても高い。そして自由度の高い触手を何十本も使い、それぞれに雪片を持たせて操られると、例えそれが雪片偽型だとわかっていても仕掛けにくい。

 たまに本物を触手に持たせてることもあるとはいえ、9割方は一夏自身が雪片弐型(改)を持っている。それでも残りの1割の可能性は否定出来ないし、何よりもこの触手は触れるとまるで吸盤のようにくっつくのが厄介。

 触手一本にくっつかれると、それで引っ張られてバランスを崩して更にくっつく触手が二本、三本とドンドン増えていき、終いには動きが鈍くなって一夏自身の零落白夜のいい的になっちゃう。

 シールドバリアーを触手に纏わせていないから、ISの装備でなら触手の破壊は簡単だけど、触手にばっかり気をかまけていたら一夏本人の瞬時加速(イグニッション・ブースト)からの零落白夜で倒されちゃうしねぇ。

 

 一夏は私たちだけでなくたまに二年生や三年生とも模擬戦を行うけど、先日は二年生の小林先輩がその戦法で倒された。

 その小林先輩と三年生の仰木先輩とのディアボロコンビと称されるコンビネーションは、専用機持ちのダリル・ケイシー先輩とフォルテ・サファイア先輩のイージスコンビに匹敵するぐらいの実力を持っていたけど、不運なことに相手が悪かった。

 触手に小林先輩が捕まって身動きが出来なくなったときの『小林ぃぃいいいーーー!!』という仰木先輩の叫びには胸を打たれたね。

 

 でも白式・ウルフヘジンの装甲の隙間から何十本もの触手を生やしている姿って、明らかに普通のISじゃない。

 シャルロットが言うように地球外生命体に寄生されたISというか、もしくは特撮に出てくる怪人というか……。

 

 

 

「……一夏が気に入ったんなら、それでいいんじゃない?」

「それはそうなんだけど…………そのうち飽きてくれるかな」

「そ、それよりも整備室まで来てどうしたの?

 明日の私の番のことで何かあったとか?」

「ああ、そういうわけじゃないよ。ホラ、一夏の誕生日のこと。

 予定では私たち専用機持ちの他に二年生と三年生の実力者を集めて、“ドキッ☆ ISだらけの私刑(リンチ)大会”を開催することになってたでしょ」

「ねぇ、それ本当にやるの?

 いくら一夏でも絶対に怒ると思うんだけど?」

 

 教師が参加しないといっても、専用機持ちが私たちの他にお姉ちゃんとダリル・ケイシー先輩とフォルテ・サファイア先輩も入れて九人、そして量産機使用とはいえサラ・ウェルキン先輩のような国家代表候補生が数人。残りの先輩方も優秀な人たちばかり。

 大抵なことは許してくれる一夏でも、そんな一対三十なんて戦いを挑まれたら怒るって。

 

 というか、まず何よりも大会名がおかしいから。

 

「いや、どんなに名前を取り繕ったところで、一対三十で襲い掛かるというのは変わりないから無駄だと思うよ。むしろ一夏なら聞いた瞬間に爆笑するね。

 それに内容自体も一夏は喜ぶって。喜ぶというか仕方がないと思うだろうけど、一対三十っていう手加減する必要のない戦いとなれば、普段私たちと戦っているときみたいに手加減する必要がないからさ。

 最初はグチグチ言うだろうけど、戦っているうちノリノリになっていくと思うよ」

「……箒と鈴もそう言っていたけど、それでも一対三十は酷過ぎると思うんだけどなぁ」

「何だかんだで私たちには手加減してくれるからね、一夏は。

 まあ、それは置いておいて、その“ドキッ☆ ISだらけの私刑(リンチ)大会”は中止にすることになりました」

「え、何で? ……いや、それが当然だと思うけど……」

「理由? 一対三十でも一夏に勝てないことが分かったからだよ」

 

 ……は? 一対三十で勝てない?

 いくら白式・ウルフヘジンの性能が凄くても流石にそれはないでしょ。

 

「そういう状況になったらどうするか、さっきそれとなく聞き出したんだけどさぁ。

 一夏はそうなったら『アリーナを覆っているシールドバリアーをぶった斬って逃げる』らしいよ」

「え、それ反則じゃ?」

「残念ながら試合ルールには“アリーナを覆っているシールドバリアーを破壊してはいけない”というルールはありません。

 ……ルールブック見返してみたけど、確かにそんなルールなかったんだよ」

「またもやルール不備が原因!?」

「うん。そしてその後は武器庫に行ってサーモバリック爆弾を補給して、シールドバリアー越しに爆弾を量子化解除し続けるんだってさ。そんな戦法使われたら例え三十機がかりでも勝てっこないよ。というか誰も勝てないよ。

 暮桜装備の織斑先生がいれば、同じようにシールドバリアーを切って外に出ることが出来るから何とかなるかもしれないけど……」

「……でもそうなったらアリーナという限定空間から解放されるから、白式・ウルフヘジンの本領発揮出来る非限定空間での戦闘になるよね?」

「うん。だからどっちにしろ無理」

「だよねー」

 

 本格的に勝ち目がない。だったら中止にするしかないかぁ。

 いや、勝ち目がないのは別にいいんだけど、そんなハメ技で勝たれたらお互いに面白くない結果になるからね。

 

「じゃ、どうするの?」

「……どうしよう? とりあえず食堂で自由参加のパーティーはすることになっているけど、それ以外は白紙になっちゃったんだよ。

 アリーナシールド斬るの禁止のアリーナ外に出るの禁止で“ドキッ☆ ISだらけの私刑(リンチ)大会”をやってもいいけど、それをしたら結局一夏にハンデ付けてもらっていることになっちゃうからアレだし…………簪は良いアイディアないかな?」

「ラ、ラウラが言っていたように“ドキッ☆ 水着だらけの混浴大会”でもする?」

「却下。一夏が恋人でない女の子とそんなことするわけがない。例え水着を着ていたとしても」

「うん、言ってみただけ。

 一夏はハッチャケるのは好きでも、ハッチャケられるのは苦手だからね」

「何しろクラスの皆に“Happy Birthday to You”を歌われるのすら勘弁してほしいと言ってたぐらいだし。ハッチャケられるの苦手というか、甘やかされるのが苦手というか。

 まあ、織斑先生が一夏の誕生日に“Happy Birthday to You”を歌っている光景なんか思い浮かばないから、そうなったのも仕方がないんだろうけど」

「だよねー」

 

 でも心の底では甘えたいと思っているから、甘えられてスキンシップ取るのは拒まないんだよね。

 ラウラとか篠ノ之博士とか相手にしているときはそんな感じ。

 

 それと混浴はともかく、普段私たちが使っている大浴場を誕生日の日だけ一夏に貸すってのはいいんじゃないかな?

 臨海学校で温泉に入って以来、一夏って事あるごとに大きいお風呂に行こうとしているでしょ。

 私たちが一夏の家に泊まったときとかもそうだし、二学期始まってからも日曜日なんかは訓練が終わった後の外出でスーパー銭湯に行ったりしているみたいだし。

 

 一夏って嵌り癖あるよね。興味の対象物が他に出来たらあっという間にやめるけど。

 ベルセルクルを使っていたときはあんなにインコムアンカーで遊んでいたのに、ウルフヘジンの機動力やおとうさんの手が新しく出来たらソッチばっかりにかまけているし。

 

「……まあ、それはともかくとして、一夏ってワガママを言うのは悪いことと思っている節があるから、あまり大袈裟なものだったら受け取ってくれないかもしれないでしょ。

 それなら広いお風呂ぐらいで丁度いいんじゃない?」

「あ、確かにそれぐらいがいいかもね。

 手続きとか他生徒への説明とかを私たちが引き受けて、一夏がゆっくりと広いお風呂に浸かれるようにするぐらいなら、一夏も遠慮しないで受け取ってくれそうだし」

「……やっぱり一夏がワガママ言わないのは織斑先生の影響かなぁ?」

「でも織斑先生自身は一夏にワガママを言って欲しいと思っているっぽいけどねぇ」

 

 織斑先生に迷惑をかけないように頑張っている一夏と、頑張っている一夏が可愛いからたまにはワガママを言って欲しい織斑先生。相変わらずお互いのことは不器用な姉弟。

 でも私のお姉ちゃんも私が何かお願いごとしたらむしろ喜んでくれるから、姉というのはそういうものなのかな? 私も以前はともかく、今はお姉ちゃんに迷惑をかけたくないと思っているし。

 

 ……あ、でもお姉ちゃんといえば……、

 

「当日はお姉ちゃんが大浴場に突撃しないように監視しとかないと」

「さ、流石の更識会長もそこまではしないんじゃない……かな?

 最近は露出とかの変態行為をするのは少なくなってきたし、何よりそんなことしたら織斑先生が激怒するでしょ?」

「だといいけど……」

 

 学園祭のおとうさんで遊んでいたことからすると、露出趣味は収まったようだけどお姉ちゃんは何だかんだでお祭り騒ぎが好きなんだよねぇ。

 テロリストを相手にしていたといっても、お姉ちゃん自身が楽しんでいたことは間違いなさそうだからちょっと不安。

 

「とりあえず簪の提案を他の皆にも聞いてみて、問題がないようだったら織斑先生や更識会長に話を通すね。

 私もその時に更識会長には釘を刺しておくよ」

「うん、お願い。それとラウラにも釘を刺しておいた方がいいんじゃないかな?」

「……それもそうだね。そうしておくよ。

 じゃあ私は行くから整備頑張ってね」

 

 

 誕生日、かぁ。誰かの誕生日パーティーに参加するなんて、IS学園に入学する前は考えてもいなかったなぁ。

 でも一夏の誕生日パーティーは箒や鈴たちと一緒に料理を作ることになっているんだから、一夏に喜んでもらえるように頑張らないと。

 

 何作ろうっかなぁ。

 一夏の好きな抹茶のカップケーキは確定なんだけど、クラスの皆はもちろん他のクラスの人や上級生もたくさん顔を出すだろうから、量をたくさん用意しなきゃいけない。

 会費は取るから費用は問題ないとはいえ、作業量が凄いことになりそう。カップケーキを一つ一つ作っている暇なんてないかもしれないから、お汁粉とか大量に作れるものも考えないといけないかな。

 

 あとは個人的に贈るプレゼントも皆は何をプレゼントするんだろう?

 私はこれからの秋冬に向けてマフラーを編んでいるけど、私の作った編み物なんかで一夏は喜んでくれるかな?

 

 一夏のことだからあまり高価な物は受け取ってもらえないし、アニメとかのDVDは私が持っているのを普段から貸しているから新鮮味がない。それにDVDをプレゼントするのは、一夏と一緒にアニメを見る口実がなくなるからダメ。

 それに一夏は装飾品はあまりつけないから、何をプレゼントしていいか困っちゃうんだよね。

 私みたいにハンドメイドの作品を考えている人もいるだろうから、お姉ちゃんは編み物が苦手だからともかくとして、他の皆と被らないといいんだけど……。

 

 

 

 

 

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「やだ、このおとうさんの手ってばやっぱり凄い便利」

「ゴメン。その手をドリルみたいに回転させてメレンゲを泡立てるのはやめてくれないかな?」

「というか菓子作りにIS使うな、簪」

「簪も一夏の影響を受けてきたみたいねぇ」

 

 えー、でもコレ本当に便利だよ。

 

 

 

 

 







「いあ いあ ちふゆん! ちふゆん くふあやく ぶるぐとむ ぶぐとらぐるん ぶるぐとむ! あい あい ちふゆん!」
「(色んな意味で)戻って来い! ディアボロⅡッ!!」


 ……ウチの一夏は何処まで行くんだろうか? というか我ながら何でこんなネタを思いつくんだろうか?
 おかしいな。これではまるで私が変人と思われてしまうじゃないか。私は精神汚染なんてスキルは保有していませんよ。

 でもまぁ、アレですよね。
 原作でもたっちゃんは普通にスコールとオータムのことは知っていましたので、ちょっと凝った変装していても見破ってくれますよね。
 しかも一夏がオータムが来るのは知っていたので、罠にかけることを提案するぐらいは簡単ですよね。

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