――― ラウラ・ボーデヴィッヒ ―――
「クラリッサさんからのメール? どうだったの、ラウラ?」
「駄目みたいだ。やはり白式・ウルフヘジンの攻略方法は難しいようだな」
競技ルールを守りながら、更にAIS禁止で一夏に勝つというのはやはり難しい。
ドイツに帰国してからハインリヒ大佐やシュヴァルツェ・ハーゼの隊員と一緒に対一夏について考えてみたが、なかなか良い案を出すことが出来なかった。
そして良い案が出ないまま私が日本に戻らなければいけなくなったので、クラリッサたちの宿題として置いてきたのだが、先ほどクラリッサから
『私は愚かであなたのお役に立てなかった』
と泣き言らしきメールが来た。どうやら思いつかなかったらしい。とりあえず『お前は、屑だ』と返信しておいた。
おのれクラリッサめ。吉○家のサラダや漬物は勝手に取ってはいけないものだったろうが。危うく警察沙汰になるところだったんだぞ。
とはいえ仕方がないところもある。
実は私が帰国する前から、ドイツ軍のIS研究班でもしもの時のことを考えて対一夏についての攻略方法を研究していたらしいのだ。私としては一夏と競技で戦うならともかく、本気で殺し合いをするようなことはしたくないが、そこは軍隊だから仕方がない。
それでも結局は“圧倒的な火力で殲滅するしかない”という結論しか出なかったらしい。
しかもその圧倒的な火力云々でも、白式・ウルフヘジンの機動力相手では常識的な火力では逃げられてしまうだろうということで、それこそ非常識ともいえる火力を集めるしかない。要するに実現不可能ということだ。
このように本職の研究班が出来なかったのに、一カ月足らずでクラリッサたちが一夏の攻略方法を考えつくのは難しいだろう。
「となると、やっぱりセシリアが言っていたように土中に逃げるしかないかなぁ?」
「それも結局千日手になって終わりじゃないか?
いくらコチラがブルー・ティアーズや山嵐で土中から攻撃出来るとはいえ、それだけで一夏を落とせるとは思えん。
それに一夏は好みで雪片以外の武装を使用していないが、その気になればウルフヘジンの
「そうなんだよねぇ。私たちがAISを使わないというのは一夏に対するハンデになっているかもしれないけど、現状で既に一夏が武装を制限するというハンデをしているんだよね。
私たちがAISを使い始めたら、さすがの一夏も武装の制限を止めるだろうし」
「私たちがAISを使うメリットと、一夏が武装制限を止めるデメリット。どっちが得だか判断付かないな。
だがもし白式・ウルフヘジンに“
「それに零落白夜があるとAISでシールドエネルギー量が増えても焼け石に水っぽいところがあるからね。
やっぱり現状では打つ手無しかぁ」
教官に相談しても良い考えは浮かばなかったしな。
訓練を積んで
とはいっても
シャルロットたちも良い案が浮かばなかったようだし、現状で出来るのはそれぐらいだろう。
というか、やけに教官がノリノリで対一夏を考えてくれたのが気になる。
別に教官は一夏を贔屓しているわけではないと思っていたが、アレでは逆に私たちを贔屓にしているように感じた。何かあったんだろうか?
「ラウラちゃーん、シャルロットくーん。着替え終わったー?」
ム、少し話し込み過ぎていたか。
チーフから催促をされてしまった。
「ああ、既に完了しているぞ」
「……というかラウラ、何で私たちは喫茶店でアルバイトしなければいけないんだっけ?
しかもラウラはメイド服なのに、何で私は執事服なの? 何で私は君付け?」
「何でって……それは昼食を食べてたときにスカウトされたから、だろう。
それとシャルロットが執事服なのは似合うからじゃないのか?」
しかしこのメイド服というのは動きづらいな。特にこのロングスカート。
ロングスカートは一夏的に『それはそれで』という感じでかなり好みらしいのだが、このフリフリが付いたエプロンはどうだろう。一夏はあまり装飾品を好まないからなぁ。
ここまで本格的なコスプレはしたことないが、この姿を見たら一夏がどんな反応をするか楽しみだ。
「え、もしかして一夏を呼んだの?」
「ああ、さっきメールでな。時間があったら顔を出すと返信が来た。
どうやらこの喫茶店が入っているショッピングモールに今日も来ているらしい」
「一夏って最近ずっと外に出てるよね。私たちが日本に帰って来てからもほとんど毎日じゃない」
「そうだな。午前に訓練をして、午後になったら一人で出かける。
でも簪の話では他の女と逢い引きしているというわけではなく、ただウィンドウショッピングしているだけということだから、とりあえずは安心なのだが……」
「……簪ってたまに怖いときあるよね。
その情報の出所は一夏を護衛している更識の人からでしょ」
「いいではないか、助かっているのだし。
それに一夏は護衛されていることは承知済みなのだから問題あるまい」
問題は一夏が何の目的でウィンドウショッピングをしているということなのだがな。
一夏が覗いている店はレディースブランドのブティックばかりで、一夏本人の買い物というわけではなさそうだ。
私たちへのプレゼントは浴衣を買ってもらったばかりだから違うだろう。
もしかしたら教官へのプレゼントとかかな?
教官の誕生日はまだ遠いが、何しろIS学園に通っているとなかなか外に出てこれない。
以前に聞いた話では教官の誕生日には毎年プレゼントを贈っているようなのだが、最近はプレゼントのネタが尽きてきたとも言っていた。
今まで贈ったのはネクタイや腕時計などだが、教官はいわゆるブランド物というものに興味はないらしく、普通の女性に贈るような香水やバッグなどは贈れないので次はどうしようか困っているらしい。
だから時間のある夏休みの今のうちに、ブティックを巡ってプレゼントの目星をつけておくというところだろうか?
前準備をしっかりする一夏らしいと言えば一夏らしいな。
私も一夏を見習って、今のうちに教官への誕生日プレゼントを考えておくとするか。
何なら今日のバイト代をそれに使ってもいい。
こうやって学生らしくアルバイトをするのは初めてだし、代表候補生として貰っている手当に比べたら安い時給になるが、軍人以外の職業を体験するのは悪いことではない。とりあえずクラリッサに騙されない程度に一般常識を身につけなければ。
それに教官の性格からして、ドイツ軍から貰った給料でプレゼントを贈られたら断られる可能性があるが、私が一般人に混ざって働いて稼いだお金が買ったプレゼントなら断られたりはしないだろう。
そしてついでに一夏にこのメイド服姿を見てもらえたら嬉しい。
一夏は可愛いって言ってくれるかな?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「いらっしゃませ! お姉ちゃん!」
「きゃああぁぁーー! 可愛いーーー!」
ヤバい。客のほとんどがクラリッサたちの同類だ。チーフのアドバイス通りにお姉ちゃんと呼んで接客したら奇声を上げる。
執事服着て接客しているシャルロットのことも熱い目で見ているし、頭腐っているんだよ、コイツラは。
それにしてもやはりこういうことは受けがいいのだな。クラリッサやシャルロットたちが推すのもわかる気がする。
しかし、なら何故同じことをしても教官は受け入れてくれなかったのだろうか?
あの気難しい一夏でさえ“お兄ちゃん”と呼んだら嬉しがるのに…………やはり“お姉ちゃん”ではなくて“お姉さま”の方なのか!
よし、次からはソッチ方面で攻めてみよう。
それにしても一夏は遅いな。いったい何時になったら来るのだ?
まあ、一夏の性格なら忙しい時間帯を避けているかもしれないから、もう少し気長に待とう。どうせ今の忙しさでは一夏の相手もしていられんしな。
それと心なしか外が五月蠅いような…………ム、この音は日本のパトカーのサイレン音? 何の騒ぎだ?
そう思った瞬間、店の入口のドアが乱暴に開けられ、三人の覆面をした男たちが店に入ってきた。しかも全員手には銃を持っている。
そのまま男の一人が持っていた拳銃を天井に向けて発砲した。
「全員動くんじゃねぇ!」
店内に悲鳴が響き渡る。
サブマシンガンを持っている男が肩からかけているバッグからは紙幣が飛び出しているの見えた。
コイツラ、逃走中の銀行強盗か何かか!?
「騒ぐなぁっ!」
悲鳴を上げる客にイラついたのか、男が怒鳴りながら更に銃を発砲。
幸いまだ威嚇射撃する頭は残っていたようで天井や壁に穴が開いただけだったが、こうまで店内に一般人がいるとマズいな。
外の音からするとパトカーが続々と集まってきているようだが、人質がいるとなると警察の動きも慎重にならざるを得まい。
今も警察が店の外から投降を呼びかけているが、強盗犯たちが投降するような素振りは見せない。
むしろ窓ガラスを割って、窓の下に見えるパトカーに向けて銃撃。逃走手段を要求するなど、まだまだやる気満々のようだ。
「………………」
「………………」
シャルロットの方を見ると、シャルロットも私を見ていたらしく目が合う。
そうだな。やはりここは私たちが動かなければならないか。
この狭い店内ではISを使うのは難しいが、代表候補生と軍人として訓練を受けている私たちなら、あの程度の輩など店内の客に被害を出さずに取り押さえることが出来る。
共に軍での訓練を受けた一夏がここにいればよかったのだが、間に合わなかったものは仕方ない。私たち二人だけで、強盗犯の隙をついて……、
「おい、そこのお前。メニューを持って来い」
……何か強盗犯に呼びかけられた。喉が渇いたって、コイツラは警察に囲まれているということを理解していないのか?
というより犯罪を犯してハイになっている状態か。冷静な判断も出来ていないようだな。
しかしそれなら都合がいい。
銃を持っている相手には近づくまでが危険なのだが、近寄ってこいと言われたので遠慮なく近寄らせてもらお「うわああぁぁーーーっ!?」ん、何だ? 外を見張っていた男が声を上げた。
もしかして一夏がISを使って空から来たのか?
一夏ならこういう場合は力の出し惜しみはしないだろうからな。
それなら尚更都合がいい。
一夏に銃撃が集中するだろうが、拳銃やサブマシンガン程度の銃撃などシールドバリアーを持っている一夏には無意味だ。
一夏に気を取られている間に私たちもISを纏ってもいいし、隙をついて犯人たちを取り押さえるのもいい。
横目に見えているシャルロットも動く準備をした。奴らが気を逸らした瞬間に二人で同時に『待てぇぇぇーーーいっ!』…………ん? この随分と渋い声は一夏じゃないぞ?
『やぁ!』
空を飛んで、割れた窓から飛び込んできたのは…………え、本当に形容し難い。
何というか……少し縦長の平べったい楕円体を下膨れに膨らまして、胴体に細くて長い手と太くて短い足を生やし、頭頂部?からは長いウサギの耳が生えている。そしてその顔にはまるで絵本の登場するような猫のような目と口をついているが、髭は生えていないし鼻もついていない。
というかデカッ! ウサ耳を入れなくても2m以上。ウサ耳を入れたらきっと2.5mはあるぞ。
見た目はまるでオレンジ色の大きなヌイグルミ。だが何の動物を模しているかはわからない。もしかしてウサギの耳がついているからウサギなのか?
でもアレは明らかに違うナニカだぞ! しかも姿に対して声がやけに渋くてねちっこい!
「な、何だテメェは!?」
その姿に呆気にとられていた強盗犯だが、気を取り直してそのナニカに銃を向ける。
私もそれを聞きたい。何なのアレ!? というより空飛んでるぞ、オイ!?
「お、“おとうさん”っ!?」
「「「「「えええぇぇっ!?!?」」」」」
シャルロットの叫び声に強盗犯と店内の客の全員の視線が集中する。
って、シャルロットのお父さん!? 先日の臨海学校で見たのと違うぞ! 臨海学校で見たときは少なくとも人間だった!
……ず、随分と斬新なイメージチェンジをしたん「う、うるせぇっ!」パァーーーンッ!
シャルロットのお父さん、危ない! 強盗犯が銃を!
カキィーーーンッ!
あ、大丈夫だ。跳ね返した。しかもシールドバリアーで。
……シャ、シャルロットのお父さんは何だか凄くなったな!? 人間離れした変わりようだ!
「ち、違うよ! アレは私のお父さんじゃなくて一夏だよ!」
な、何ぃっ!? 一夏のお父さんだと!?
一夏が幼少の頃に蒸発して以降は行方不明だと聞いていたのに、アレが一夏のお父さんだというのか!?
ISを使わずに銃弾を跳ね返して空を飛ぶ。いったい一夏のお父さんは何者なんだ!? というか本当に人間なのか!?
『銃なんぞ使ってんじゃねぇっ!!』
一夏のお父さんがその細い手を鞭のように振るい、強盗犯の手から銃を叩き落とした。そして地面を滑らして私たちの方へと寄越す。
さすがは教官と一夏のお父さん。只者ではないということか。
いきなり現れたお父さんに機先を制され、銃を奪われたことによって後ずさる強盗犯。強盗犯たちは覆面を被っているが、その覆面越しでも顔に困惑と脅えの感情が浮かんでいるのがわかる。
そしてその強盗犯にジリジリと近寄って距離を詰めるお父さん。
ウン、あのお父さんに近寄ってこられたら、例え私やクラリッサだって後ずさりたくなるだろう。
しかし強盗犯の一人は脅えながらも、まだ抵抗するために隠し持っていたナイフを取り出す。
『さぁ! 見せてもらおうか! 貴様らのもがきとやらを!
ウフフハハハッ、フハハハハッ!』
だがいきなり伸びたウサ耳がナイフを持った腕に突き刺さった! ……自分の口で言っていながら表現がおかしいぞ。でもそれしか形容のしようがないから仕方がない。
痛みに耐えかねてナイフを取り落す強盗犯。突き刺すといっても実際に肉体へ突き刺さったわけではないが、それでも強盗犯はかなり痛そうだ。あのウサ耳はいったい何で出来ているんだ?
そしてビュンビュンと細い手が振るわれ、強盗犯が持っていた紙幣がたくさん詰め込まれていたバッグの肩紐を斬り払い、覆面も弾き飛ばされて強盗犯の素顔が露わにされる!
『さあ、足掻いて見せろ! 逃げ出して見せるとなぁ!
貴様ら全員、死に場所はここだぁっーーー!! ぶるぁぁぁぁぁーーーっ!!』
そして再びウサ耳と手が伸びて強盗犯の身体に巻きついていく。
もう何でもアリですね、お父さん。
……とりあえずこれで一安心か。
アレが何なのかがわからないのが不安だが、それでも一夏のお父さんということなら敵ではあるまい。
しかし、何故シャルロットはお父さんのことを知っていたのだ? そんなこと教官からも一夏からも聞いたことはないぞ。
いったいデュノア社とお父さんはどういう関係なんだ?
――― シャルロット・デュノア ―――
『マッハ100で飛べるし』
「すごいすごーい!」
ちょっとやめてよ、一夏。ラウラが信じてるじゃないか。だいたいウルフヘジンでもマッハ100は無理でしょ。
しかも警察の人も縋るような目で私を見てくるし…………警察もアレには近寄りがたいよねぇ。
一夏が身に纏っている…………というか着ているのは、近いうちに発表されるデュノア社の新マスコットの“おとうさん”。ちなみにデザインは一夏。
今までは少数のサンプルが世に出回っていただけで認知度はほとんどないけど、話題の一夏がデザインしたということで、もしかしたら人気が出るかもしれない……かな?
一夏からサンプルの人形を貰ったのほほんさんは気に入ってくれたみたいだったけど、アレは本当に世に受け入れられるモノなのかな? というかそれ以前に世に出しても良いモノなのかどうかすらわからないよ。
それにしても発表に合わせて、宣伝のために一夏にASを利用した着ぐるみ(技術協力:篠ノ之束博士)を贈ったんだけど、まさかこんな風に使うなんて……。
確かにある意味話題になりそうだけど! 確かに法律違反になるからISを使っちゃいけなかったのはわかるけど! それでも私が聞いていた“おとうさん”とは全然違うんだけどっ!?
というかあの渋くて下腹部に響く声は何なのさ!? 全然姿に合ってないよ!
あれから一夏が強盗犯から銃を奪い去り、ウサ耳で動きを封じ込めた直後に警官隊が突入してきた。
突入してきたはいいんだけど、伸びたウサ耳で縛られていた強盗犯とその実行者を見て警官隊は硬直。一瞬の沈黙が生まれたよ。
それでも一夏に向けて発砲されなかっただけ幸運だったと思う。強盗犯をウサ耳で拘束していたあの状況は、何というか見た目がクトゥルフ的なナニカだったし。
『それじゃあ、お別れだ』
「え!? ……ま、待ってください!
もうすぐ一夏もここにやってきます、お父さん!」
そしてその沈黙を打ち破ったのがラウラだった…………というか打ち破っちゃったのがラウラだった。
何で私が“おとうさん”のことを知っていることを言っちゃうんだよぉ。
おかげで私とラウラはIS学園の生徒で、それぞれフランスとドイツのIS代表候補生であるということを言わなきゃいけなくなっちゃった。
まあ、身元がバレたといっても私たちは別に何もしていなかったので、他の店内にいた客や店員と同じ扱いになったから余計な騒ぎにならなかったからいいけどさ。
そして強盗犯が警察に捕まって、その強盗犯たちを取り押さえた一夏が警察に事情聴取のために同行することになったんだけど、警察の人に私もついてきてとお願いされたのは何でなんだろう?
ホラ、一夏も早くパトカー乗ってよ。事情聴取に行くんでしょ。ホラ早く!
『実はこう見えても俺はウサギじゃない』
「う、うん……それは知ってます」
『デュノア(社新マスコット)の“おとうさん”です。
(社長の)娘がいつもお世話になっております』
「えっ!?
……は、話が違うぞシャルロット!? やっぱりお前のお父さんじゃないか!」
変な省略の仕方をしないでよ! 明らかに誤解されるじゃないか!
警察の人たちも何だか私から距離を取り始めたし!
ええいっ、こうなったら無理やりにでもパトカーの中に押し込んでやるっ!
「フンヌヌヌゥゥーーー……って、相変わらず大きすぎるって!
パトカーに入らないじゃない!」
『俺に言われてもなぁ』
「いい加減にしないとIS使ってパトカーの中に叩き込むよ!」
「シャ、シャルロット。お前の家庭の事情は聞いているが、そうまでお父さんのことを邪険にしなくても……。
せっかく危ないところを助けてもらったというのに…………」
あーもう! 子供の夢を壊してはいけないってことで、中の人のことについて不特定多数に聞こえる場所で口に出しちゃいけないっていう契約さえなければ、ラウラに本当のことを言えるのにぃっ!
むしろこの“おとうさん”に夢を抱く子供なんているの!? 強盗犯を取り押さえるときのことを思い出したら、別の意味で夢に見そうなんだけど!
『ラウラ、君は本当のウサギを探すんだ。
今の君には無理だがなぁ』
「ええぇっ!? 待って!」
「だから空飛ぶなぁーーーっ!」
何処行くのさ! 警察の事情聴取に……って強盗犯が乗せられた護送車に!?
確かにそのワンボックスカーである護送車になら今の一夏も乗れるかもしれないけど!
『失礼』
「「「「「うおぉうっ!?」」」」」
悲鳴が! 護送車の中から、強盗犯三名と監視役の警察官らしき人たち二名の悲鳴が!
そりゃ“おとうさん”がいきなり車の中に入ってきたらビックリするよ!
そもそも何で“おとうさん”の胴体に一夏が立ったまま入り込んでいるんだよ!
しゃがみ込むとかしないからお父さんの身長が2m越え、ウサ耳を入れたら2.5m越えになるんじゃないか!
護送車の扉が閉められても、相も変わらず中から響いてくる悲鳴。むしろさっきより大きく聞こえる。
もしかして強盗犯にまたウサ耳絡み付けているんじゃないだろうね? いい加減にしないと警察の人にも迷惑だし、そのまま護送車に乗せて警察署の方へ連行してもらお『ただいまぁ』縮んでるぅーーー!?
今まで2.5m以上の体長だった“お父さん”が1.5mぐらいに!?
心なしか太ったから、着ぐるみの中で一夏がしゃがみ込んだんだね! というかその“おとうさん”の体長を変化させるのを護送車の中でやったの!?
そりゃその光景を目撃しちゃった強盗犯も警察の人も悲鳴を上げるよ!
「……やっぱり私はラウラと一緒に帰るね」
もう一緒に居たくない。
きっと警察署の方に行ったら“おとうさん”を解除するんだろうけど、何だか今すぐ帰ってシャワー浴びてベッドに入りたい。
『そぉかい? それではシャルロット。帰りは遅くなるからねぇ』
織斑先生に事情を話しておけってこと?
はいはい、わかったよ。ついでにIS委員会にも連絡しておくよ。ISは使ってないから問題視されないと思うけどね。
それとデュノア本社にも伝えておくよ。一夏がこんなこと仕出かしたってね!
……ああ、もう。どうして一夏はこんなどうしようもないことに力を注ぐのかなぁ?
一夏的には面白いのかもしれないけど私は面白くないよ。
篠ノ之博士も言っていたけど、一夏は何で真面目に物事をこなしたら笑える結果になって、お遊びを混ぜたような不真面目にやったら笑えない結果を引き起こすんだろうね?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「シャルロット、ラウラが口を聞いてくれないどころか話しかけてもそっぽ向かれるんだけど、どうしたらいいと思う?」
「うっさい、このバカァ!」
ラウラには全部説明しちゃったもんねーだ!
一夏が寮に帰ってきたのは次の日の昼になってからだった。
そして次の日のニュースは“おとうさん”一色。おかげでラウラ経由で学園の皆に私のお父さん云々が広まっちゃって、誤解解くのに大変だったんだから!
「? 何のことかわからないな、シャルロット?」
「アハハ、そういうこと言うんだ?
なら私も秘書の業務として、“おとうさん”のTV出演依頼や取材依頼を片っ端からOKしちゃおーかなー?」
「……わかったわかった。俺が悪かったよ。
“おとうさん”を使ったのはともかく、最後の方はちょっと調子に乗り過ぎた。ゴメン」
反省しているならよろしい。
でも次やったら本当に“おとうさん”のTV出演依頼や取材依頼を片っ端からOKするからね。
そりゃ一夏の立場上、迂闊にIS学園の外で白式を使うわけにいかないのはわかるけどさ。
それでスタンガンとかの護身具は持ち歩いているわけだから、“おとうさん”で形容し難い行為をするんじゃなくて護身具で何とかしてよ。どうせシールドバリアーで強盗犯の銃なんか問題なかったわけだし。
「でもなぁ、見た目生身で銃撃晒される方がマズくないか?
店内にいた客の精神衛生上にも、警察の面子的にも」
「ム……そう言われたら確かにそうかもしれないね。
そういえば警察の方はどうだったのさ? それに今日になって帰ってくるなんて遅かったじゃない」
「IS委員会やIS学園からの横やりが入ったせいか、事情聴取が始まるまでに時間がかかってな。どうやら事情聴取なんかしたら俺の機嫌を損ねるかも、と過剰反応をした人が日本政府や警察の上の方にいたらしい。
俺としては普通に事情聴取を受けてもいいと思ってたんだがなぁ。むしろさっさと終わらせて、さっさと帰らして欲しかった。
で、事情聴取が終わったのが夜中で、しかもその頃には警察署の前がマスコミで一杯でな。
再び“おとうさん”を使って空を飛んで帰ろうとも思ったけど、さすがにアレ以上の騒ぎを起こすのはマズいと思って、署内の保護室の余ってた部屋を借りて一晩過ごした」
「保護室?」
「酔っ払いとかが保護される部屋だよ。
で、今日になったら警察署前に陣取っていたマスコミも少なくなっていたから、パトカーで駅まで送ってもらった。
その代わりデュノア日本支社の方は大変だったみたいだな」
そうなんだよ。“おとうさん”はデュノア社の新マスコットだって言っても『あんなマスコットがいるかぁっ!?』で返されたし。
ネットではデュノア社が開発したISに変わる新兵器だとか、デュノア社が悪魔と契約して現世に呼び出したとか好き勝手言われているよ。
店内の防犯カメラがどこからか流出したみたいで、ウサ耳と腕で強盗犯を絡めとる映像を見たら仕方がないけどさ。
「一夏、早めに何とかしてよ」
「わかったわかった。俺がデザインしたデュノア社の新マスコットだって呟いとくよ。
それとは別にコレ、ラウラと一緒に食べてくれ」
ん、何コレ? ……ケーキ?
駅前の有名店のだね。一夏の家に皆で行ったときに買ったところの。
「昨日、せっかく呼んでくれたのに間に合わなかったからさ。その詫びだ。
それとラウラのメイド服姿も可愛かったけど、シャルロットの執事服姿も可愛かったぞ」
「う、嘘でしょ、それ!」
「個人的にはシャルロットの細い腰がツボだった。後ろから抱きしめたくなるぐらいに。
というかあんなにボディラインがはっきり見えるのは、正直言って目のやり場に困る」
そ、そんなおだてるようなこと言っても騙されないんだからね!
一夏ったら相変わらず口が上手いんだから。でも露出度ゼロなのに目のやり場に困るってのは一夏らしいかな。ムッツリだしさ。
……せ、せっかくだからケーキはラウラと食べさせてもらうけど、もし時間があったら一夏も一緒にどう……かな?
…………触手ならぬ触耳プr(以下略)
あ、声はボイスチェンジャー使ってます。ぶるぁぁぁぁぁーーーっ!!
そして着ぐるみをそのまま量子変換解除して着込んでいますので、おとうさんにはファスナーというものは存在しません。
マスコットとしては完璧ですな。
決してどこぞの梨の妖精みたく、ファスナーが見えたり中の人の足gぶるぁぁぁぁぁーーーっ!! …………ナカニヒトナドイマセン。
ちなみにのほほんさんが一夏から“おとうさん”人形を貰った云々は第13話で言及してます。誰もこんなウサギだとは思っていなかったでしょうが。
というより私は何を書いているんだろうか?