今日も鴉天狗が絡んできます【完結】   作:秋月月日

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 更新遅れました!

 で、でもこれで、完結してない作品が全部十月更新できたということに……ッ!



第六報 宴会の準備

 幻想郷の魔法の森にあるこじんまりとした小屋にて。

 アリス=マーガトロイトは鬼気迫る表情でクローゼットを漁っていた。

 

「ま、ままま魔理沙から直々に宴会のお誘いを受けちゃった! ど、どうしよう恥ずかしくない服とか選ばないと駄目だよね!?」

 

 上海人形と呼ばれる小型の人形の協力の下、アリスは家の中を全てひっくり返すような勢いで次から次へと洋服を掴んでは後ろへと放り投げていく。どれもこれもふわっとした同じような柄のドレスのような服なのだが、彼女の中ではその一つ一つに些細な違いがあるらしい。望んでいる服が見つからなくてイライラしているのが見ただけで把握できてしまう。

 アリスは頬を朱く染めていやんいやんと腰をくねくねさせながら、

 

「宴会で魔理沙に惚れ薬を飲ませてそのまま家にお持ち帰りして既成事実なんて作っちゃったり――あぁん! 妄想が止まらないわぁーっ!」

 

 今日も彼女は幸せそうで何よりだった。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 幻想郷にギリギリのラインで繋がっている異界の神霊廟にて。

 豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)は猫の耳のような形状の栗色の髪をぴょこぴょこと揺らしながら、酒蔵の整理を行っていた。

 彼女の周りでは、アホ系仙人の物部布都(もののべのふと)とチンピラ系仙人の蘇我屠自古(そがのとじこ)がやいのやいの騒ぎながら、神子の手伝いに勤しんでいる。部下としては凄く心許ないコンビだが、家族としてはこれ以上ないほどに心の優しい少女達だったりする。

 そんな仲の良い仙人トリオは酒蔵に置いてある日本酒を整理しながら、

 

「太子様ぁー。『百薬の長』と『天狗殺し』、どちらを持っていきますかー?」

 

「人数は無駄に多いみたいですから、どちらも持っていきましょう。あ、それと布都。この霊廟に保管されている食材の詳細を見てきてもらってもいいかしら? 一応はあの巫女にもお世話になっていることですし、こちらからもありったけのご馳走を持って行って差し上げましょう」

 

「了解です!」

 

「太子様、この安物の酒はどうします? あるだけ持ってって盛大にぶちまけますか?」

 

「流石にそれはダメでしょう……んー。それでは、その安物の酒は料理の調味料として使いましょう。全部使い切れるわけじゃないだろうから、余った分は宴会で配ればいいと思うしね。――それじゃあ、その料理の献立は任せましたよ、屠自古」

 

「了解しました」

 

 トタタタタッ! と子供のように飛び出していく布都とふよふよと浮遊しながら出ていく屠自古。互いに正反対なコンビだが、あれで仲良くなっているというのだから驚きである。

 一人酒倉に残された神子は「フフッ」と口に杓を当てながら優美に笑い、

 

「案山子に恋する鴉天狗主催の宴会、ですか。――心地良い欲がたくさん堪能できそうですね」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 所変わって、迷いの竹林の奥にある永遠亭にて。

 鈴仙(れいせん)優曇華院(うどんげいん)・イナバは杵を数本抱えながら、ドタドタドタと騒がしく駆け回っていた。大きなウサ耳は走りに合わせてぴょこぴょこと動き、現代の女子高生の様なブレザータイプの制服は空気の抵抗によってぱたぱたとはためいている。

 鈴仙の隣では、因幡の野兎こと因幡(いなば)てゐが大きな臼を抱えながら並走している。自分の身体より少し小さい程度の臼はなかなかに運びにくそうだった。

 鈴仙は何度も杵を落としそうになりながらも、わたわたと危なっかしいてゐに激励を送る。

 

「ほら、あと三周で終わりだから頑張って! 急がないと師匠に怒られて姫様に折檻されちゃうよ!?」

 

「そ、そんなこと言っても、この臼、重すぎるんだって……ッ! て、てーか鈴仙、これどう考えても役割逆じゃないかなぁ!?」

 

「………………さ、先行くわねー」

 

「に、逃げんなこのボケ月兎がぁああああああああああああああああああああッ!」

 

 引き攣った笑みで全力疾走の鈴仙に、ブチ切れたてゐの怒号が襲い掛かる。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 豊聡耳神子が支配している神霊廟とは切っても切れない仲である、命蓮寺にて。

 聖白蓮(ひじりびゃくれん)はうんうんと唸っていた。

 

「うーん……宴会に誘われたものの、私たちは飲酒はおろか肉を食べることすらできませんからねぇ……でもだからと言って、何も食べない何も飲まない宴会というのも楽しくないですし……うぅーん。どうすればよいのでしょうか……」

 

 紫と金色が混ざったようなウェーブのかかった長髪をガシガシと掻きながら、白蓮は座禅して思考する。

 そんな彼女の傍では毘沙門天の化身こと寅丸星(とらまるしょう)が苦笑を浮かべているのだが、ハッキリ言って星は白蓮の思考にあまり役に立っていない。ただ傍にいて白蓮を見守っているだけ。そんな熟年カップルの様な立ち位置なのだ。

 そんなどうしようもないコンビがどうしようもない状況で均衡していると、ドタタタタッ! という激しい足音を奏でながら複数の少女たちが駈け込んで来た。

 村紗水密(むらさみなみつ)雲居一輪(くもいいちりん)(ついでに雲山)。

 封獣(ほうじゅう)ぬえと幽谷響子(かそだにきょうこ)

 多々良小傘(たたらこがさ)(信者ではなく遊びに来ているだけなのだが、何故か準信者扱い)。

 そして、命蓮寺メンバーではないが何故かメンバーっぽい立ち位置にいる――二ツ岩(ふたついわ)マミゾウ。

 彼女たちはそれぞれ手に酒やら料理やらを抱えながら、白蓮にずいっと詰め寄り、

 

「今度の宴会は無礼講なんだから、思い切って楽しんじゃおうよ!」

 

「そうそう、船長の言うとおり! 宴会を楽しんでいいって許可を出してくれるならワタシ、雲山と二人で漫才やってもいいわよ!」

 

「聖ぃ! あのねあのね、私もみんなと一緒にてんやわんやで盛り上がってみたい! 酒の一気飲みとか、刺身の食べ比べとか!」

 

「それじゃあ私はバンドメンバーと一緒にゲリラライブでもやっちゃおうっかな! ぎゃーてーぎゃーてーぜーむーとーどーしゅー!」

 

「宴会ってことは、アタシが誰かを驚かせても罪にはならないってことだよね!? やったぁ! これで本格的に唐傘お化けとして活動できるぅーっ!」

 

「くっくっく。これだけ大盛り上がりなんじゃぞ、白蓮? 流石のお主でもこれは諦めるしかなかろうて」

 

「…………はぁぁぁ」

 

 やんややんやと盛り上がる命蓮寺の修行僧たちに、白蓮は顔に手を当てながら深い溜め息を吐く。

 そんなどこからどう見ても苦労人な白蓮の肩に星はぽすんと手を置き、

 

「それじゃあ、私はナズーリンに声をかけておくよ。あの子は今頃、無縁塚で宝探しでもしてるだろうから、早めに声をかけておかないと。宴会まではそんなに時間は残されてないはずだからねっ」

 

「貴女も結構乗り気なんですね、星……」

 

 尻尾をブンブンと振りながら笑顔を浮かべる星に、白蓮はちょっとだけ涙を流す。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 宴会に向けての準備の為に妖怪たちが盛り上がる中、人里にて。

 上白沢慧音(かみしらさわけいね)藤原妹紅(ふじわらのもこう)は二人仲良く買い物に勤しんでいた。

 このコンビの目的はただ一つ。

 宴会に持って行っても文句を言われなさそうな食材の調達だ。

 

「なぁ慧音。この鶏肉とかいいんじゃないか?」

 

「私としては好きな方だが、今回は主催が鴉天狗だからな……流石に鶏肉を選んでしまうと、喧嘩を打っていると勘違いされてしまうと思うのだが……どうだろう?」

 

「それもそうだな。んじゃ、こっちの兎肉の方にしとく?」

 

「ああ、そうしよう」

 

 そんな何気ない会話をしながら兎肉を置いてあるだけ購入する妹紅と慧音。その様子はまるでラブラブカップルのようだが、この二人はただの親友同士なのであってそんな生々しい関係ではない。ちょっと一線を踏み越える直前の、ただの仲の良い少女たちだ。

 兎肉を手に入れたところで、妹紅と慧音は次なる目的地――八百屋の方向へと足を踏み出す。

 と。

 

「けーねせんせーい! ちゃんと言われた通り、お皿とお箸を買ってきたよー!」

 

「私も私も! 私も頑張ったよ、けーね先生!」

 

「ちょ、二人とも急ぐのは良いけど少しは荷物持ってよ! あ、ダメ、転んじゃうぅぅぅ!」

 

 満面の笑みで飛んでくる氷妖精・チルノと闇妖怪・ルーミアに、慧音は思わず表情を和らげる。彼女達二人の後ろからは、大きな袋を抱えた大妖精(通称:大ちゃん)がえっちらおっちらと危なっかしい足取りでこちらに向かって歩いてきていた。

 苦笑を浮かべながら大妖精の援護に入る妹紅を慧音は何気なく視界に収め、

 

「今回ぐらいは私も羽目を外しても、文句は言われないのだろうか?」

 

 そう言いながらも期待に満ちた笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 魔理沙と霖之助という二人の客が帰った後の、地霊殿にて。

 地霊殿の主である古明地(こめいじ)さとりは、ペットである火焔猫燐(かえんびょうりん)霊烏路空(れいうじうつほ)に詰め寄られていた。

 実は、さとりの傍には彼女の妹である古明地(こめいじ)こいしがペットに詰め寄られているさとりを見て「あははは……」と乾いた笑いを浮かべているのだが、興奮している且つこいしの特性により、燐と空は彼女の存在に気づいていない。もちろん、さとりはバッチリ気づいている。だって可愛い妹なのだから。

 燐は二股の尻尾をブンブンと振りながら、空は右手の制御棒をブンブンと振りながら、

 

「今回ぐらいはあたいたちも参加しましょうよ、さとり様! 勇儀さんとかパルスィさんとかも呼んで、みんなで仲良く宴会に参加しましょうよ!」

 

「お燐の言うとーりだよ、さとり様! 私も霊夢たちと一緒に宴会で盛り上がりたい!」

 

「私もそれには賛成だなぁ。幻想郷中の妖怪たちが揃う宴会なんて、そうそう経験できないと思うよぉ?」

 

「うーん、それはそうだけど……私が地上に出ても、大丈夫なのかしら……?」

 

 どこまでいってもネガティブ思考なさとりに、こいしはぷくーっと頬を膨らませ、

 

「お姉ちゃんが思ってるほど、今の幻想郷じゃ私たちサトリ妖怪はそこまで嫌われてないよぉ! 心を読んじゃってもそのことを相手に言わなきゃ大丈夫だってぇ!」

 

「……それも、そうよね。私から行動しないと、何も変わらないものね」

 

 そう言いながら、さとりはゆっくりと椅子から重い腰を上げる。

 そしてさとりは桃色の髪を手で勢いよく掻き上げ、

 

「それじゃあ、準備をしましょう。――楽しい楽しい宴の準備を!」

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 人数集めの為に咲夜が不在の紅魔館にて。

 図書館の管理人ことパチュリー=ノーレッジは黙々と本を読み耽っていた。

 今は現在進行形で幻想郷中が盛り上がっているというのに、相も変わらずパチュリーは相も変わらず本の虫だった。一応は紅魔館の主であるレミリア=スカーレットとその妹であるフランドール=スカーレットも宴会の準備に勤しんでいるわけなのだが、本を読むことさえできれば満足であるパチュリーにそんなことは関係ない。

 ただ、彼女の小間使いである小悪魔はどうやら彼女の本心を悟っているようで、

 

「本を読み耽る振りをしながらも実は外出の準備が万全なパチュリー様って、実は相当のツンデレですよね」

 

「ぶっ! げ、げほごほげほほっ! あ、ああああ貴女はいきなり何を言ってるのかしら!? こ、ここここの私がつつつつツンデレ!? た、戯言も大概にしなさい!」

 

「もうっ、照れても無駄ですよ、パチュリー様☆」

 

「その悟りきった笑顔は何だどういう意味だぁあああああああああああああああああッ!」

 

 紅魔館の図書館に、今日も魔法使いの少女の絶叫が響き渡る。

 

 

 

 

 

  ☆☆☆

 

 

 

 

 

 ――そして、妖怪の山の麓にある八目鰻の屋台にて。

 鴉天狗・姫海棠(ひめかいどう)はたてと白狼天狗・犬走椛(いぬばしりもみじ)、そして河童の河城(かわしろ)にとりは、雁首揃えて酒盛りを開いていた。

 

「うぅ……あのクソ案山子のせいで文さまは意気消沈だし、そのせいで私も意気消沈なんですよぉぉぉぉ!」

 

「ちょ、飲みすぎだよ椛! 少しは自重とかした方がイイって!」

 

「うわーん、にとりー! 私を慰めてー!」

 

「のわぁああああああああっ! ちょ、重い、重いよ椛! ちょ、ちょっと助けてよはたてぇ!」

 

「んー? アタシはこっちでミスティアと喋ってるからむりー」

 

「せめて助ける素振り見せてから言えやコラァアアアアアアアアアアアアッ!」

 

 酒のアルコールのせいで顔を紅潮させて襲い掛かってくる椛を必死に押さえつけながら、にとりははたてに渾身の叫びをぶつける。

 どったんばったんと暴れまわっている白狼天狗と河童をあえて視界から外しつつ、はたては目の前で八目鰻を捌いている夜雀――ミスティア=ローレライに声をかける。

 

「あれからもう二十年経ってるけど、文も文で行動起こすの遅すぎるわよねー。どんだけ奥手なんだーって感じよねー」

 

「でもまぁ、それだけ長い時間想っていられる存在がいるだけ、射命丸さんは幸せだよねぇ。……私たち非リア充と違って」

 

「やめてミスティア。凄く悲しくなっちゃうから」

 

 目を逸らして顔に影を落としながら呟くミスティアに、はたては頬をヒクヒクと引き攣らせる。基本的に女体の妖怪が多いこの幻想郷において、先ほどのミスティアのようなセリフは禁句とされていたりする。いやまぁ、人里で暮らしている人間たちにはあまり関係のないことなのだけれど。

 はたては焼酎をくいっと飲み、

 

「そういえば、今回の宴会って過去最大規模らしいわよ?」

 

「あ、それ私も聞いたよ。確か、華扇さんとか秦さんとかにも声かけてるんだってね。いやぁ、これは商売のし甲斐があるってもんだよ」

 

「アンタまた出張八目鰻屋やる気なんかい」

 

「当然だよ!」

 

 今度こそ全部売り切ってみせるよー! と勝手に盛り上がるミスティアに、はたては思わず苦笑を浮かべる。今回の宴会の主催者である射命丸文の親友であるはたては、彼女主催の宴会の為にこれだけの人数が集まったことが凄く嬉しかったりするのだが、それをあえて口にするのは恥ずかしいのでこうして一歩引いた捻くれ者キャラで居続けるのだ。

 悲しみに暮れる案山子の為に、幻想郷の住人達がどんちゃん騒ぎをしながらも協力する。

 それはとても難しいことのように思えるが、実はすごく簡単なコト。――だって、幻想郷の住人にとって、宴会は何よりもの娯楽なのだから。

 はたては八目鰻を「はむっ」と咥え、もぎゅもぎゅと咀嚼して胃の中に流し込む。

 そして無数の星が浮かぶ夜空を見上げ、

 

「アタシたちがこんなに協力してやってんだから、アンタも頑張んなさいよ――文」

 

 幻想郷の住人達による、大規模な宴会が始まる。

 ――そして。

 清く正しい新聞記者である鴉天狗の少女が、不幸な案山子の為に――最高の舞台を整えるべく立ち上がる。

 

 全てを元気にさせる宴会が、始まろうとしていた――――。

 




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 次回もお楽しみに!

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