もはや欠片もないけどorz
「準君、準君! これこれ! コアキメイルっていうカードなんだー!」
「へぇー、すごいじゃないか! 新作カードだろ?」
「うん! ボクね、このカードを少しずつあつめてって、コアキメイルデッキをつくるんだー!」
「できたら、いちばんさいしょにオレとデュエルしような!」
「うん!!」
わかっていたんだ。なんとなくだけど。
認めたくなかっただけで、目を背けたかっただけで、
あの頃の優しくて、柔らかい笑みで笑いかけてくれた君は――
――きっと、もういないんだね。
優斗
LP3900
手札2枚
モンスター:コアキメイル・ウルナイト(ATK2000)
魔法・罠:リバース×2
竜星
LP2000
手札3枚
モンスター:無し
魔法・罠:無し
――ターン・不動竜星――
「マズイ、な。ドロー!」
目の前の優斗という人物から微かに漏れる瘴気に気分が悪くなる。
おそらく、遊星を攫った奴らの差し向けた刺客だろう。しかも雰囲気からして操られている。
「とにかく勝たなくてはな。俺は調和の宝札を発動! デブリ・ドラゴンを墓地へ送ってカードを2枚ドロー!」
ドローしたのは、シールド・ウィングとくず鉄のかかし――見事に防御カードだ。
精霊達が話しかけてくる。
『相手は確かに特殊召喚メタ型デッキですから、むやみやたらにシンクロするのは得策ではなさそうですね』
『せやな。ならここは防御に徹して機会を伺うべきかもしれへんなぁ』
「そうだな。俺はシールド・ウィングを守備表示で召喚!」
シールド・ウィング/DFE900
「さらにカードを2枚伏せ、ターンを終了する」
竜星
LP2000
手札1枚
モンスター:シールド・ウィング(DFE900)
魔法・罠:リバース×2
――ターン・城之内優斗――
「僕のターン、ドロー……墓地のコアキメイルの鋼核の効果を発動……自分のドローフェイズ、手札からコアキメイルモンスターを墓地へ送る事で、墓地のこのカードを手札に加える」
優斗がカードを墓地に送ると同時に、観客席から声が上がった。
「優斗ッッ!!!!」
優斗は普段の彼を知る者ならあり得ないような、煩わしそうな表情を声のした方へと向けた。
それに優斗を知る者達は息を呑む。
声をあげた人間―万丈目は叫んだ。
「何をうじうじしているんだ!! いつもの調子でデュエルをすればいい!! そんな様子のお前を見るのは、気分が悪くなる!!」
その言葉に観客席の人間は、万丈目を知る人間は目を丸くした。
彼が、優斗を応援している。
しかし、さらに衝撃的な一言が優斗から放たれた。
「――うるさいよ」
「な、優斗……?」
「もう、遅いんだよ、何もかも……あれだけ突き放しといて、今更応援? 笑わせないで。僕は、もう君を
瞬間、肉眼でもハッキリとわかる膨大な瘴気が放たれる。
それに会場はパニックに陥った。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」「な、なんだよあれ!?」「き、気持ち悪い……」
「死んじゃえ、死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ死んじゃえ…………みんなみんなみんなみんなみんな、死んじゃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえッッッッッ!!!!!!」
その言葉に呼応するように瘴気がぶわっと広がり、会場は逃げ惑う人々で大パニックに陥った。
本能で瘴気に死を感じた者達が我先にと逃げ出そうとする。
その中、万丈目はたった一人その言葉に思考を飛ばしていた。
――何故、何故何故何故何故何故?
それだけが脳裏を駆け巡る。そして「あぁ……」と納得したように呟き、やっと気づいたのだった。
「……俺がお前を壊したんだな」
迫る瘴気から逃げようとはしない。これは罰だと思ったから。
幼馴染の優しさに知らず知らずのうちに甘えて、彼を壊したその罰だと――。
「万丈目、何やってんだ!!」
光を纏った腕が伸ばされ、瘴気が弾かれた。
それにハッと目を見張る。そのまま自分を囲んだ薄い光の膜に驚いた。
「これは!?」
「無事か、万丈目」
かけられた声に振り返る。
すぐ傍にラーイエローの生徒が立っていた。それが三沢大地だとわかり、眉を寄せる。
「……お前が、助けたのか?」
「いや、正直俺も何が何だかわからない。わかっているのは俺達を助けのは、白夜だということだ」
「白夜、だと?」
目の前に赤い、しかし普通のオシリスレッドのものではない制服が立っている。
それを着た黒髪の少年―白夜は振り返ると万丈目の肩を掴んでこれでもかというくらい怒鳴った。
「なんで逃げなかった!! あのままだったら死んでたんだぞ!? わかってんのか!!」
「見ていただろう! 俺があいつに辛く当たっているのを! この学園で何度も何度も何度も!! あいつを……優斗を、壊したのは俺だ! そんな俺が逃げる資格なんて、ない!」
「あのなぁ!」
叫ぶ万丈目にそんな言葉にさらに青筋を浮かべる白夜。
それを三沢は宥めながら、
「白夜、俺も混乱している。お前はこの靄のようなものについて知っているのか? それにこの靄を弾くなんて、お前は何者だ?」
「…………この靄は瘴気だよ。生身の人間が喰らえば一発で逝っちまう代物。俺はデュエルモンスターズの精霊を従えていて、そいつの力を借りて結界を張っている」
「何故、そんなものが優斗から?」
「知らない。けど、俺が
白夜の「追っている」という言葉に三沢は首を傾げる。白夜はそんな彼をスルーし、フィールドに視線を向けた。
三沢は「あ!」と声をあげて、至近距離にいたであろう人物の名を叫んだ。
「不動!!」
「心配ねぇよ」
「え?」
「見てみろ」
濃かった靄が揺れて、その場所が少しだけ晴れる。
万丈目と三沢は息を呑んだ。
――そこでは、白銀の翼を生やした竜星が白銀の光の膜を張っていた。
若干ダメージを受けているのか息が荒い。
「ビクティム・サンクチュアリ、か……。力をまともに取り戻せていないのによくやる……」
瘴気が一番濃い場所からノイズの混じった声が響く。万丈目は声のした場所へと叫んだ。
「優斗!!」
ゆらりと瘴気が揺れ、万丈目の方を向いた気がした。否、実際に向いているのだろう。
「万丈目君……まだ生きてたんだ。ねぇ、そこの君。邪魔しないでよ」
呟かれた言葉は悪意が籠っている。
白夜はそれに舌を出して、
「やーだね! いくら猿山の大将でも死んでいいわけない」
「そう……なら、目の前の邪魔な竜を倒してから殺してあげる」
「させるわけ、ないだろう!」
竜星が叫んだ。優斗はクスリと笑ってから、墓地から先程の効果で手札に加えるコアキメイルの鋼核を手札に加えた。
「僕はウルナイトの効果を発動! コアキメイルの鋼核を見せてデッキからコアキメイル・スピードを特殊召喚!」
コアキメイル・スピード/ATK1200
「コアキメイル・スピードをリリース! コアキメイル・ヴァラファールを生贄召喚!」
コアキメイル・ヴァラファール/ATK3000
「マズイぞ!不動、ヴァラファールは貫通効果持ちだ!!」
三沢の言葉に竜星は目を見開きディスクを操作する。
「トラップ発動! くず鉄のかかし!! このターン、その攻撃を無効にする!」
現れたかかしがヴァラファールの攻撃を止めた。
その間一髪な様子にホッと誰かが安堵の息を漏らした。
「あぁ、殺せなかった。鋼核を墓地に送ってヴァラファールを残す。ウルナイトはいらない。ターンエンド」
優斗
LP3900
手札1枚
モンスター:コアキメイル・ヴァラファール(ATK3000)
魔法・罠:リバース×2
「いらない……」
万丈目はその言葉にいつも優斗が言っていた言葉を思い出す。
『ふん、そんな雑魚カード、いつまで持ってるつもりだ?』
『雑魚じゃないよ。僕にとってはずっと一緒に戦ってきた仲間なんだ。僕のせいでいつも彼らは負けちゃうけど……それでも大事!』
雑魚と言えば怒る。昔からそう言う奴だった。
なのに先程の優斗は何と言った?
「いらない」
そんなこと死んでも言わない人間だったのに。
「なあ、万丈目」
白夜が口を開いた。
「あいつはいたって普通の人間だ。なのに瘴気を放出してるってことは、何か外部の力が影響してるってことだ。お前らの関係が幼馴染って以外、俺は知らないし優斗も少しだけしか話したことない。
でも、あいつってさ、あんなこと言う奴じゃないだろ。お前が信じなくてどーすんだよ」
ハッと顔を上げる。
白夜は笑みを浮かべながら、竜星を見据えていた。
「あいつの心が完全にどっかイッちまわないように呼びかけ続けろ。届く手は伸ばさなきゃ。
完全に失ってしまえば、もう戻ってこない――」
三沢はいつもの傲慢さの陰もなく頷く万丈目と、白銀の翼を広げて優斗と対峙する竜星、そして顔を俯かせ、辛そうに言葉を紡いだ白夜を見据えた。
(白夜、お前……過去に何があったんだ?)
――ターン・不動竜星――
「俺のターン、っと。もうどちらにしろ正体はバレているも同然なのだし、いいか。私のターンだ!」
((私?))
カードを引き抜いた竜星は口元に笑みを浮かべてからドローカードを見つめ、その鋭い目を優斗に向ける。
――何者かの呪縛に囚われた名の通り心優しき少年に。
「リバースマジック、生還の宝札を発動! そして私は死者蘇生を発動し墓地からジャンク。シンクロンを特殊召喚!」
ジャンク・シンクロン/ATK1300
「ジャンク・シンクロン……わざわざボルト・ヘッジホッグじゃなかったとか、この展開を読んででもいたの?」
「仲間達がどこにいるのかは精霊繋がりか何となくわかるからな。あくまで精霊のカードの場所しかわからないが――生還の宝札の効果で1枚ドロー!
そして、墓地からレベル2のボルト・ヘッジホッグを特殊召喚! 生還の宝札の効果で1枚ドロー!
レベル2のシールド・ウィング、ボルト・ヘッジホッグにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!!」
「レベル7のシンクロモンスターか。何が来る……」
「集いし怒りが忘我の戦士に鬼神を宿す。光さす道となれ!」
「この口上……あいつか!」
白夜の声と同時にその場に赤い鎧の
レベル3+レベル2+レベル2=レベル7
「シンクロ召喚! 吠えろ、ジャンク・バーサーカー!」
「やっぱバーサーカーか」
ジャンク・バーサーカー/ATK2700
「ジャンク・バーサーカ―の効果発動! 墓地のジャンク・シンクロンを除外してコアキメイル・ヴァラファールの攻撃力をダウンさせる!」
「……そう」
コアキメイル・ヴァラファール/ATK3000→1700
「おぉ、一気に削ったぞ!」
「バーサーカ―でヴァラファールを攻撃! 鬼神の憤激!」
「簡単に破壊できるわけないでしょ。トラップ発動――」
その言葉とともにゾクッという悪寒が全員の背筋を駆け巡った。
「『大罪ノ現界』」
「っ!? クリスッ!!」
『わかってる!!』
ぶわっと瘴気が濃くなり、白夜は2人を背後に隠し精霊を呼び出す。
突然現れた天使に2人は驚いていた。
クリスは光の膜を透明な壁にして瘴気から全員を守り抜く。
「サンキュー」
「竜星は!?」
「大丈夫……一応はな」
見ると精霊達が必死に結界を張って竜星を守っていた。
だんだん瘴気は収まっていき、しかし次第に渦を巻いて何かの姿を形作っていった。
クスクスと響く笑い声に全員が優斗を見る。
「さあ、始めようか!」
その右腕にボォッと竜の尾のような痣が浮かび上がる。
「な!?」
「赤き竜様の、いや、どこか似ているけど、本質は違う。この邪悪な力は――なるほど、青き星の民とはその名の通り青色の竜の痣を持つ者達か!」
「うん、そうだよ。この力をくれた人は言ったんだ。僕の願いを叶えてくれる力だって! 万丈目君や僕を苦しめてくれた奴らを皆殺しにするためのものだって!」
「違うな!」
白夜の叫びに優斗は煩わしそうに目を向ける。
「何が違うの?」
「お前、そんなに瘴気出せるんだったら俺が結界強化しないうちに万丈目を殺せたはずだ。けど殺さなかった。それはお前が万丈目を殺したくないと、未だ大切だと思っているからだ!」
「それこそ違う。僕は彼が大っ嫌いだ。準君なんて、大っ嫌いだ」
「その呼び方! 何で今更変えた! 闇に呑まれたお前の本心が俺の言葉に揺らいだからじゃないのか?」
ギラリと目を光らせた白夜が優斗に言い放つ。
優斗は動揺したように肩を震わせ、動揺を隠すように叫んだ。
「うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!!! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね、皆纏めて死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!
大罪ノ現界によって、ライフを1000支払ってエクストラデッキからETと名のつくモンスターを特殊召喚する!!」
優斗
LP3900→2900
ETというカテゴリに竜星が目を見開いた。
「ETと来たか……!」
「次元を違えし2つの力を繋げし闇の架け橋がここに現れる! ET―怠惰の化身ローシア!!」
闇より現れた黒い熊のモンスターがニタリトと赤い口を吊り上げる。
それを見る前にクリスが前に立ち塞がり、白夜を含めた結界内にいる3人の視界を遮る。
ET―怠惰の化身ローシア/ATK0
『ただの人間が見たらSAN値直葬どころか消し飛びかねないぞ、あの禍々しい気は……』
「バーサーカ―の攻撃はローシアの効果で無効になる!」
「何!?」
「ローシアは効果を使用したモンスターを攻撃できないようにする効果を持つんだ。バーサーカ―はもう効果を使っちゃってるからダウトだよ」
楽しそうに、優斗が口元を歪める。
そして竜星に聞いた。
「ターンエンド?」
「っ……カードを1枚伏せてターンエンドだ」
竜星
LP2000
手札2枚
モンスター:ジャンク・バーサーカー(ATK2700)
魔法・罠:リバース×2
エンド宣言した竜星を見て優斗は笑みを浮かべた。そしてゆっくりとデッキトップに指を添えた。
「……さあ、絶望ショータイムの始まりだよ?」
次回で終わりの予定。めっさ短い。第2章じゃなくて第一章のままでも良かったか?
それではー。