「……」
竜星は歓迎会を早めに抜け出し、デッキとデュエルディスクだけを持って窓から飛び降りた。
ノートや教科書を敷き詰めて掛け布団で隠して「疲れた。寝る。起こしたら潰す」と書き置きを残した。
「レッドはやはり監視が甘くて良い」
ブルーは寮長が度々巡回するし、イエローもそれなりに警備はしっかりとしている。
それに比べレッドは基本落ちこぼれの集まりと思われてるのでルームメイトさえ気をつけてれば、一番見つかるリスクがない。
竜星は自分をアカデミアへと入学させるために協力してくれた人達に迷惑をかけないためにも。立ち入り禁止の場所もくまなく探すためにも。竜星は人目を忍んで行動することにした。
『服装もバッチリ普通のレッド生徒のものですし、帽子を目深に被っていれば顔、わかりませんしね!』
『変装はバッチリや。これで誰も旦那だとは気づかへん。髪は結んで帽子の中やしな』
竜星はエフェクト・ヴェーラーやジャンク・ウォリアーに頷くと他の精霊たちも見て言った。
「よし、行こう」
――デュエルフィールド・SIDE白夜――
歓迎会が終わった後、十代のPDAに万丈目からアンティデュエルの(こっちとしては迷惑千万の)お誘いがきた。
『やあ、ドロップアウトボーイズ。今夜12時、デュエルフィールドで待っている。互いのベストカードを賭けたアンティルールだ。勇気があるなら来るんだな。それと天堂白夜と不動竜星、お前達にはシンクロモンスターを賭けてもらう。それでは待ってるぜ』
いや、以外とバカだったわ万丈目。俺らの持ってるシンクロモンスターはチューナーなきゃ召喚できないし、これ海馬コーポレーションとI2の技術だぜ?
アンティルールで盗ったら新作カードの販売前の不法入手&校則違反ってレッテル貼られてアカデミア&デュエル界から追放されかねないぞ。主にブチ切れた海馬の手で。
うん。恐ろしい。けどデュエリストたるものデュエルから逃げたくはないなぁ。
というわけで俺は爆睡してる竜星を置いて十代とともにデュエルフィールドにやって来ていた。だって起こしたら潰すって言うんだもん。
「ふん、来たか」
「デュエルの申し込みときたら来ない理由はないぜ」
万丈目の言葉に十代は不敵な笑みを浮かべながら言う。
2人の間に火花が散っているように見える。
そんな2人を見ながら苦笑を浮かべて俺の前に立ったのは昼間に出会った優斗というブルー生徒だった。
「ごめん。君の相手をすることになったんだ」
「優斗だっけ?」
「うん。
ん? ジョウノウチ? それって……
「まさか……」
「アハハ、城之内克也って僕の従兄弟なんだ」
「マジで?」
あのデュエルキング、武藤遊戯の親友でバトルシティベスト4でペガサス5本の指に入るデュエリストで現在絶賛プロデュエリストとして活躍中の伝説のデュエリスト城之内克也?
その従兄弟?
俺も会ったことある(ていうかメアド交換した仲だけど)世の中って狭いな……。
「うん。でも……」
優斗は顔を伏せた。
「僕には克兄みたいな才能ないし、ブルーに上がれたのだってほとんど運みたいなものだし、万丈目君の幼馴染みっていうのも偶然みたいなものだし……それよりデュエルしよう」
うぉーい、こいつ万丈目の幼馴染みかよ!?
意外すぎるぜ。まあこれからのデュエルには関係ないけど。
「いいぜ。売られたデュエルは買うまでだ。けど一つ聞いていいか?」
「なに?」
「お前は何で万丈目の言うことを聞いてるんだ?」
俺にはこいつみたいなまとも神経を持った奴があいつみたいな猿山の大将についてるのが信じられないんだが。
「……ある日、変わっちゃったんだ」
ポツリと呟かれた言葉。
「万丈目君はさ、すごく優しい子だったんだ。けど、ある日変わっちゃって、あんな性格になっちゃって……僕はむかしの万丈目君の優しさを取り戻したいんだ。けど、その声は届かなくて……」
今にも泣きそうな顔。しかし信念の光はその瞳に宿されている。
「でも彼に接してるとさ、むかしと同じような優しさを少しだけ垣間見れることがあるんだ。だからきっと声だっていつか届く! そう信じてるから、僕は彼のそばを離れるわけにはいかない。これが理由だよ!」
「そっか。じゃあやるか」
「うん」
「「デュエル!!」」
白夜
LP4000
優斗
LP4000
――ターン・天堂白夜――
「俺のターン、ドロー! 神の居城―ヴァルハラを発動! この効果でアテナを特殊召喚!」
アテナ/ATK2600
「さらに俺は勝利の導き手フレイヤを特殊召喚!」
勝利の導き手フレイヤ/ATK100
「天使族のフレイヤが召喚されたことでアテナの効果が発動する! 場に天使族が召喚されたとき、相手に600ポイントのダメージを与える!」
「バーン効果!? うわぁぁあ!!」
アテナの放った光弾が炸裂する。容赦ねぇなー。
優斗
LP4000→3400
「フレイヤの効果だ! このカードの効果で俺の場の天使族は攻撃力、守備力ともに400ポイントアップする!」
アテナ/ATK2600→3000
処理の導き手フレイヤ/ATK100→500
「1ターン目で攻撃力3000のモンスター!? しかもバーンダメージも与えたッス!」
「おぉ! すっげぇな白夜!」
十代と翔の声に俺が振り返ると十代はフレイム・ウィングマンを奪われながらも目をキラッキラさせてこっち見てるし、翔の傍にはいつの間にか来たのか明日香がいた。
十代、お前デュエルに集中しろよ!! 明日香はいつからいた!!
「十代は集中しろよ……まあ、今からもう1体モンスターを出させていただくけどな! 手札からコート・オブ・ジャスティス発動! レベル1モンスターがいるとき、俺は手札から天使族モンスターを特殊召喚できる!」
(大型が来る……!)
「The splendid VENUSを特殊召喚!!」
現れたのは金色の光を纏った女神の女王――。
別世界でプラネットシリーズと呼ばれるカード。
The splendid VENUS/ATK2800→3200
「アテナの効果! バーンダメージを受けてもらう!」
優斗
LP3400→2800
「金星の名を冠する女王の前では何人たりとも頭を上げることはできないぜ? ターンエンドだ」
白夜
LP4000
手札1枚
モンスター:The splendid VENUS(ATK3200)
アテナ(ATK3000)
勝利の導き手フレイヤ(ATK500)
魔法・罠:神の居城―ヴァルハラ
コート・オブ・ジャスティス
さて、このモンスター群をどう突破してくれるかな?
――ターン・城之内優斗――
「僕のターン、ドロー」
『ん? おい、ブルーの奴らが騒いでるぜ』
相棒の言葉に視線をそちらのほうに向けると優斗のドローと共に後ろにいる取り巻きが騒ぎ始めていた。
「いっつも万丈目さんに口答えして迷惑かけてんだ、ここらで少しは挽回してみろよ!」
「まあ、運良くブルーに入れたブルーの落ちこぼれには無理だろうけどな!」
ギャハハハと笑う取り巻き達。
優斗は「っ~!」と悲痛そうな顔をしそして宣言した。
「僕はコアキメイル・トルネードを召喚!」
コアキメイルかよ!?
コアキメイル・トルネード/ATK1500→1000
現れたのは大きな袋を持った緑色の肌を持った風神だろうかあれは?
「コアキメイル・トルネードのって、あれ!?」
VENUSの体が黄金に輝いたと思ったらトルネードの攻撃力が下がっており、呆然とする優斗。
「VENUSは天使以外のモンスターの攻撃力と守備力を500ダウンさせる効果を持ってるんだ」
「あぁ、さっきの頭を上げられないってそういうことか」
「おいおい、カードの効果もわかんなかったのかよ?」
「やっぱ落ちこぼれだな! どうしてお前みたいな奴がブルーなのかわかんねぇぜ!」
うるっせぇな……
腹が立った俺はブルーの取り巻きに言ってやる。
「これ、新作カードだぜ?」
「「え?」」
「だからこいつが知らないのも無理ないんだ。それともお前らは効果わかったの?」
「「ぐっ……」」
「あーでもトルネードの効果発動には問題ないね。うん」
俺達の言い合いをスルーした! さっきは悲痛な顔したのに自分のターンになるとぜんっぜん気にしない!
『生粋のデュエリストって奴か?』
「それって十代と違う意味でデュエル馬鹿ってか?」
『あぁー多分それだ』
おいおい。
でも今はこっちが大事だな。
…………うん、トルネードの効果ってあれだよな。たしか特殊召喚されたモンスターを……
「でもトルネードには効かないよ! 手札のコアキメイルの鋼核をデッキトップに戻して相手のフィールドの特殊召喚されたモンスターをすべて破壊!!」
竜巻がフレイヤ以外の天使をすべて吹き飛ばす。あー、こんな簡単にやられるとは思わんだな。
コアキメイル・トルネード/ATK1000→1500
「フレイヤに攻撃!」
「ぐっ!」
白夜
LP4000→3000
「カードを伏せてターンエンドだね」
優斗
LP2800
手札2枚
モンスター:コアキメイル・トルネード(ATK1500)
魔法・罠:リバース×2
――ターン・天堂白夜――
「ドロー!」
さて、ドローしたのは強欲な壺なんだけど、これでこのターンを凌げるカードが来るかな?
「あ、トラップカード発動! レクリスパワー! 手札にあるコアキメイルの鋼核を相手に見せて、相手フィールド上にセットされたマジック、トラップカードを全て破壊!!」
爆発が起き、ヴァルハラとコート・オブ・ジャスティスが破壊される。
「あぁ! 破壊されちゃった」
「これで彼は上級モンスターが手札にあっても特殊召喚できないわね」
まあ、確かにそうなんだけどね。
「俺は強欲の壺を発動! デッキからカードを2枚ドロー!」
天使の施し、ね……。
『そいつを使えば、俺を引き当てれるぜ白夜』
相棒の言葉に頷いて――
「やってやるぜ! 天使の施しを発動! 3枚ドローする!」
死者蘇生に堕天使スペルビア、それと……
「来てくれたか相棒――。俺は手札を2枚捨てる」
捨てたのは俺の相棒のカードとスペルビア――。
「俺は死者蘇生を発動!!」
「死者蘇生!?」
「墓地の堕天使スペルビアを特殊召喚!!」
現れたのは黒い体を持つ堕ちた天使。でも俺にとっちゃこいつは頼もしい仲間だ!
堕天使スペルビア/ATK2900
「スペルビアの効果! このカードは墓地から蘇ったとき、自分の仲間である天使を共に連れ帰る! 来い、俺の相棒!!」
現れたのは白い鎧を纏った赤い翼の天使、俺の相棒――クリス。
「大天使クリスティア!!」
大天使クリスティア/ATK2800
「スペルビアでトルネードを攻撃!」
スペルビアが黒い波〇弾を放った。うん、お前ポケ〇ンの見すぎじゃね?
「聖なるバリア-ミラーフォース-を発動!」
お、破壊されることに定評のあるミラフォじゃん。
でも、
「悪いな、神の御使いの天使を破壊することは神々が許さない! 手札から速攻魔法、神々の加護を発動! 天使族がフィールドにいるとき、ライフを1000払ってモンスターを破壊する効果を無効にする!」
ミラーフォースによって跳ね返された攻撃が、辺りを包み込んだ光によって消え去った。
「な!? うわぁぁあ!!」
優斗
LP2800→1400
「クリスティアでダイレクトアタック!」
『フォース・ライト!』
クリスティアの剣によって優斗のライフが抉り削られた。
優斗
LP1400→0
「はは、強いね」
優斗が笑ってそう言う。
取り巻き達が騒いでるが無視だ。しかし、何かおかしいんだよな。
「お前、わざと負けた?」
「あ、バレた?」
優斗は悪戯がバレた子供のような顔をする。
「何で……」
「万が一勝ってカードを取るなんて嫌だったからね。大事なカードを取られる辛さは僕も経験してるから」
「そう、か」
俺達はその後、警備員が来たので嫌がる十代を引きずって退散した。
優斗も取り巻きに暴言を投げかけられながら万丈目とともに帰っていった。
さて、取り巻き達の嫌がらせを受けなければいいんだけどな。
SIDE白夜 OUT
――アカデミア森――
「くそ、この障気はいったいどこから出てくるんだ?」
竜星が探しているのは島中に立ち込める障気の出所。
相当強い精霊でなければ感知できないほど薄い濃度を保ちながら辺りに立ち込める障気は濃度が濃くなれば人間や精霊に悪影響を与えるものだった。
一定の濃度を保って立ち込める薄い障気――まるで計算されたかのように不自然だ。
歴史ではこのように障気がアカデミアに立ち込めることはなかった。となると……
「マスターを拐った連中かもしれない」
その仲間であるイエローの像一は寮にいなかった。
だから竜星は障気の出所を確かめることを優先した。そこには像一やもしかしたら他の仲間もいるはずだから。
「しかし、先ほどからずっと森を歩いているがなかなか障気の濃い場所に当たらないな……」
『森のどこかを中心に広がってるのは確かなんか旦那?』
「あぁ」
『……』
『ん? エフェちゃんどうかしたん?』
ジャンク・ウォリアーと話しているとエフェクト・ヴェーラーがキョロキョロと辺りを見渡している。
それに気づいたジャンク・ウォリアーは声をかけた。
『あの、この道って、さっき通りませんでした、っけ……?』
「『は?』」
2人はその言葉に辺りを見渡した。竜星は「あ……」と小さく呟きをもらす。
その視線はある一本の木に彫られた「卒業オメ!」という言葉だった。
「確かに……あの文字の付いた木は先ほど見かけたものだ」
『ハハッ……冗談やめてぇな星屑の旦那もエフェちゃんも』
ジャンク・ウォリアーが何故か顔を青ざめさせて冷や汗を流しながら言う。
するとクイック・シンクロンも出てきて舌打ちをした。
『チッ、さっきから全然進まず時間がたってると思ったぜ』
『クイックはんも何言うとるん?』
『臨時マスターは風を読めるんだぞ。だからこそ、この森から俺ら一端の精霊にわかんねぇほどの障気が出てるってわかったんだろうが。あとちょっと薄きゃわかんなかったほど薄い障気のだいたいの出所特定できたのは風に流れてくる障気を感じ取ったからだろう? そんな臨時マスターが道を間違えるはずがねぇ。風を読みながら走ってるんだからな』
一息に言ったクイック・シンクロンの言葉にジャンク・ウォリアーは『ま、まさかそんな、あ、ありえへんやろ……』と呟き、そして……
『ギャァァァァァァァ――――――!!!!』
悲鳴をあげて走りだした。
「お、おいジャンク・ウォリアー!?」
『彼、ひょっとして怪談系苦手なのでしょうか……?』
『そーいや地縛神のことは怖がってなかったが死者が復活したっていうダークシグナーや、負けたらこの世に亡者があふれでるとかいう話しを聞いたときは顔を真っ青にして『絶対かつんやぁぁぁぁぁあ!!』って一人叫んでたな』
いきなり走りだしたジャンク・ウォリアーを見て何事かと困惑した竜星とそんなジャンク・ウォリアーの様子を見て「怪談苦手なんじゃね?」と当たりをつけるエフェクト・ヴェーラー、2人はクイック・シンクロンの目撃談で「あぁ、なるほど」と納得した。
『追いかけます?』
「いや、カードの精霊は私のように人間に化けてるか実体化するかしてなければそんな遠くに行けないだろう? それに――」
竜星は背後からの『ギャァァァァァァァ――――――!!!!』という悲鳴に目を細める。
「ここが隔絶された空間ならば、あいつは戻ってくる」
その言葉通り、ジャンク・ウォリアーは顔を真っ青にして彼らのもとに戻ってきたのだった。
『で、どうやって出ますか?』
「すまない。私がもう少し力を取り戻していれば何とかこの空間を切り裂いて外に出れるが……」
『大丈夫ですよ。私がスターダストならきっと同じように力の回復を待たずの飛び出していっただろうし……』
「ありがとう、エフェクト・ヴェーラー。赤き竜様ならすぐに状況を見極めて対処してくださるだろう」
『だが、このままここにいても時間が過ぎてくだけだ。外にいる赤き竜様が動く前に俺達でもできるだけ動こう。きっと中にも結界を制御してる奴がいるはずだ』
クイック・シンクロンはそう言うと未だに『いややぁぁぁぁぁ!!』と叫んでいるジャンク・ウォリアーを『いつまでメソメソしてんだエセ関西弁!』と蹴り飛ばす。
その様子を見ながら竜星とエフェクト・ヴェーラーは呆れていたが……
「やぁ、スターダスト・ドラゴン」
それは一人の少女の声によって止められた。
「っ!?」
『アナタはまさか!』
竜星の本名であるスターダスト・ドラゴンの名を知るのはごくわずか。
自分に協力してくれているこの時代のある人物達。
自分の時間移動に同行してくれた戦友とも言える精霊達。
そして……
「キサマもガイや像一という奴の仲間か……!」
「ご名答~!」
フードでその顔は見えないがはしゃぐような声が聞こえる。
スターダストはその謎の少女を睨みつけた。
「そんな怖い顔しないでよ、僕は君とデュエルしに来ただけなんだからさ~」
「デュエル……?」
「そう。僕に勝てば大事なマスターに会わせてあげるよ。負けたら君はマスターには会えないけど。まあどっちに転んでも僕とデュエルしてくれたら元の世界に返してあげる」
その言葉に竜星は訝しむ。
話がうますぎるのだ。いったい何を望んでいるのだろう……?
「で、やるのやらないのどっち?」
「受けてたとう」
「んじゃあいくよー!」
少女はデュエルディスクを構える。
竜星も構えた。モーメントが回り出す。
「「デュエル!」」
というわけで謎の少女と竜星のデュエル。
謎の少女のデッキのヒント。
5D'sキャラの使うあるカテゴリを中心としたデッキです。
上手く回せばBFを超える展開力を見せ付けてくれるあのカテゴリ。
エクシーズ召喚も出る予定ですのでお楽しみに。