遊戯王5D's 〜彷徨う『デュエル屋』〜   作:GARUS

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『デュエル屋』と十六夜

「学年混合デュエル……?」

 

 それはサイレント・マジシャンから教えられた突然の情報だった。そもそもいつものようにただただ机の上に突っ伏して過ごしていた俺にこの学校の情報など一言も入ってくるはずも無い。

 

『はい、この休み時間が終わったらデュエル場にてくじ引きで対戦相手を決めるそうです』

 

 机の横に立っているサイレント・マジシャンはそう情報を付け足す。なるほど、俺の周りに人が居ないってのはそう言うことか。周りが静かだったんで誰にも邪魔されること無く寝てられると思ったんだが。

 

「はぁ……」

 

 小さなため息が溢れる。ため息をすると幸せが逃げるというのが本当だとしたら俺から幸せなんて文字はとうに消滅しているのだろう、と勝手なことを思いながら重たい腰を持ち上げる。

 週末にまた弄ったデッキの内容はもう確認済みだ。適当に漁ったカードの中で偶然使えそうなカードを見つけ、それが加えてある。まぁ1枚しか入れてないが上手く使えれば上々だろう。

 ゆっくりと伸びをして体をほぐし、既に人が居なくなっている教室を後にした。

 

 

 

————————

——————

————

 

 学年混合デュエル。

 これはデュエルアカデミアの授業の一環として取り組まれた文字通りの学年混合でやるデュエルである。毎日ある自由デュエルの授業とは異なるところは中等科、高等科が合同でデュエルを行う点とこのデュエルは強制的に全員参加しなければならない点だ。そのデュエルの内容を見て高等科の生徒はその中等科の生徒のデュエルのプレイングのアドバイスやデッキ構築に関する意見などを述べる。それにより中等科の生徒はプレイングやデッキ構築の改善をし、デュエルの腕を向上させ、高等科の生徒は他人に教えられるまでにデュエルの理解を深めることが目的とされている。高等科としてはこの時間のデュエルで負けるなんてことはプライドが許さないため全力で取り組むし、中等科も自分の腕にさらに磨きをかけるため全力で臨むから良い授業だとは思う。ただ、中等科に居る高等科に匹敵するような腕の持ち主はそうは居ないし、退屈が予想されるのでやる気が出ない。

 そういやデュエル場ってここには結構いっぱいあるけどどこ集合なんだろうか?

 

『集合はデュエル場Aみたいです』

 

 さすがサイレント・マジシャン。ちょうどどのデュエル場か迷ってたところにすかさず会場を知らせてくれる気の利かせ方に感動を覚えつつ、デュエル場Aへと歩を進める。

会場に着けば既に人集りが出来ていた。

 中央に出来た列の周りに人が適当なグループを作っているようだ。周りのグループからはくじ引きの番号がどうとか言った話で盛り上がっているようだが、そんなもん誰とやろうが変わらんだろうに。なんだか16番の数字にはなりたくないとか話されてるが相手がよっぽど強いのだろうか? そうなら少し気になるが。

 

「次の者」

「はい」

 

 さて、順番が回ってきたか。どうせデュエルをするのは強制なんだ。せめて退屈しないようなデュエルがしたいものだ。箱の中に手を入れ折りたたまれた紙を取り出す。

 

「じゅう……ろく番です」

「……!」

 

 番号を告げると教師は表情を僅かに歪める。そう言えば周りの連中も16番がどうのこうの言ってけど、なんなんだ?

 

「八代。このデュエルは……するのか?」

「え? 学年混合デュエルなんですからするのでしょう?」

「それは……そうだな。まぁ、相手とよく話し合ってしなさい」

「はぁ」

 

 なんともよくわからない助言だったが一体なんだったのだろうか。

 天井からぶら下げられたモニターで対戦相手を確認する。俺は高等科の16番だから対戦相手は中等科の16番だ。えぇっと、16番の人は………じゅう、ろく、よる? なんて読むんだ、この苗字?

 苗字を確認しても読み方が分からない上に、分かったとしても相手の顔と名前が一致しないことに遅れて気付く。一体どんな相手なんだろうか?

 

『……あの人が……対戦相手みたいですよ?』

「…………?」

 

 サイレント・マジシャンが見ている方向に顔を向けると、人がまるで俺の視界から避けるように引いていく。そして人が避けた中ただ一人動くことの無かった入り口の壁に佇む女の子。

 赤い髪で全体的にミディアム程度の長さに整えられているが、髪の両端の部分だけ胸元まで伸ばしている独特の髪型。年齢の割に発達した丸みを帯びた体つき(主に胸元)で顔も美人さんだ。

 だがそんな彼女のパッと見の印象は“寂しそう”だった。このアカデミアでどのような立場なのかは周りに友達らしき人が居ないことからも容易に想像つく。それに好き好んで一人で居る俺と一緒な訳じゃないらしい。

 なるほど、今日の対戦相手は彼女なのか。それにしても周りのヒソヒソ話が非常に鬱陶しい。

 デュエル場はA〜Zまでの26箇所に別れており、一つの会場で3組ずつ試合が行われる。俺の番号は16だから会場はFで順番は一番目だ。元々人集り自体嫌いな質なんで早々に会場に向かうことにした。

 入り口の壁に佇む女の子とふと目が合う。

 

「…………………………」

「…………デュエル……するの……?」

 

 短い言葉だが確かに彼女はそう呟いた。

 

「そりゃ、学年混合デュエルなんだからするだろ?」

「そう…………」

 

 僅かに驚いた表情を見せた後に能面のような無表情に戻り踵を返し会場を後にする。まったく、教師といいあいつといい何を言ってるんだ?

 首を傾げつつ俺もデュエル場Fを目指して会場を出ようとしたとき、微かに右腕に違和感を感じた。

 見ると、精霊化したサイレント・マジシャンが俺の右手首の袖を掴んでいた。

 

「?」

 

 そのサイレント・マジシャンの表情に明るさは無く、その瞳からは不安がひしひしと伝わってくる。

 

『マスター、彼女からは……何か危険な力を感じました。このデュエル……避けましょう』

 

 それはこのデュエルから引くことの提案だった。おそらく精霊だから感じられる危険の気配なんだろう。一瞬感じた右の袖を引くような感覚は一瞬だけ実体化することで俺との物理的接触を図ったのだとようやく理解する。人前でその姿を晒すことをしない約束を破ってしまうというリスクもあっただろうが、そのリスクを冒してまで俺の注意を引いたのだ。そこまでのリスクを賭ける程の相手なのだとそれは言外に俺に告げていた。ただ、精霊化した状態で袖を掴む力は余りも儚く、振り払えばすぐ振り切れてしまうものだった。おそらく、この後俺の取る選択も分かっているのだろう。だから。

 

「行くぞ」

 

 だから俺は簡潔に答える。

 一度向き合ったデュエルからは引かない。

 その意思を示すために。

 その手は振り切られた。

 

 

 

————————

——————

————

 

 最初のデュエルということでデュエル場Fに着くとすぐにデュエルの準備へと移った。対戦相手の彼女これと言った表情の変化も見せること無く俺の前に対峙する。

「おい、“いざよい”がデュエルするらしいぞ」「マジか!」「ねぇ、“いざよい”さんがデュエルするみたい」「えぇ!? 本当!」などと言いながら、なぜか周りにギャラリーが続々と集まってくるのが非常に不愉快なことこの上ない。

 

「両者、ともに準備は良いか」

「はい」

「……はい」

 

 彼女は審判の教師の問いにも無機質な返事を返すだけだった。まぁこれに関して言えば俺も人のことを言えたものではないのだが。周りにはデュエルをしていない他の生徒のほとんどが集まったのではないかと言う程の人数のギャラリーで埋め尽くされていた。

 

「それではこれより、高等科1年八代と中等科2年十六夜の学年混合デュエルを始める!」

「デュエル」

「……デュエル」

 

 あれで“いざよい”って読むのか、などと関係のないことを思っていたらコールが遅れてしまった。ほう、このデュエルの先攻は俺のようだ。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 新たに加えた手札を確認する。今回の手札は普通に良好なようだ。さて、サイレント・マジシャン曰く、危険な力を感じるとのことだが、何をしてくるのか。

 とりあえず様子を見るか。

 

「俺は『デュアル・サモナー』を召喚」

 

 魔方陣から出てきたのは深緑色をベースに金縁の魔導師の装束に身を包んだ魔法使い。鼻から上は仮面で見えず、仮面の赤く染まった瞳が怪しく光っている。遊戯王の魔法使いのイラストの中では珍しい二つに分かれた尖り帽を被っているのが特徴的だ。

 

 

デュアル・サモナー

ATK1500  DEF0

 

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

「私のターン、ドロー」

 

 彼女の手に新たな手札が加わる。どんなデッキなのか気になるところだ。

 

「私は『ローンファイア・ブロッサム』を召喚」

 

 突然、地面から黄土色のツタが伸びてくる。そしてその先端に現れたツタよりも色の薄い実は丸く膨らみ、その頂点からは火花が迸っている。それはまさしく爆弾の様な実であった。

 

 

ローンファイア・ブロッサム

ATK500  DEF1400

 

 

 なるほど、彼女のデッキは植物族デッキか。『ローンファイア・ブロッサム』が出てくる辺り強力な相手だと思われる。

 

「『ローンファイア・ブロッサム』の効果発動。自身をリリースしてデッキから植物族モンスターを1体特殊召喚する。私はこの効果で『ギガプラント』を特殊召喚」

 

 『ローンファイア・ブロッサム』の実が弾け爆発し灰が地面に飛び散る。すると、地面から新たな巨大な植物が生えてきた。木の幹のように太い茎、その後背部を覆う苦瓜のような襞付きの体表、顔面部分は真っ赤なカスタネットのようになっており左右3つずつある瞳に開いた口に並ぶ何重もの歯の列からは凶悪さが滲み出ていた。胴や背中からいくつも生えている先端が白色の鎌のようなツタからもその攻撃性が表れている。

 

 

ギガプラント

ATK2400  DEF1200

 

 

「バトル、『ギガプラント』で『デュアル・サモナー』を攻撃」

 

轟っ!!

 

 まさにそんな音を響かせながら振るわれる先端が鎌のようなツタ。

 普段なら何ともないはずのソリッドビジョンによるモンスターの攻撃。

 だが、そのとき全身が粟立つのを覚えた。

 体の本能がこの攻撃は危険だと警鐘を鳴らしたのだ。

 そのことを理解した直後、その攻撃が『デュアル・サモナー』に直撃した。そしてその余波の衝撃が俺の体を貫いた。

 

「くっ……」

 

 吹き荒れる風は俺の体を揺るがすだけでなく、俺の後ろに居た生徒達まで襲う。

 悲鳴が響くデュエル場。

 なんとかその衝撃を堪えたもののその衝撃波によって床や壁には罅が入っていた。

 デュエルの攻撃が実体化した……だと?

 

「先輩……」

「………………?」

 

 それは対戦相手の彼女からの呼びかけだった。

 まさかデュエル中に彼女から話しかけられるとは思ってもいなかったので、内心驚く。

 

「…………デュエル……するの……?」

 

 それは先ほどの問いかけと同じものだった。

 そしてそこでようやくすべてを把握する。

 初めからこうなることが分かっていたから彼女は俺にそう問いかけたのだと。

 初めからこうなることが分かっていたから教師は俺にそう問いかけたのだと。

 

「………………」

 

 審判の教師はこちらを見ながらどうするのかと無言でそう問いかけている。

 

『……………………』

 

 うっすら涙を浮かべながらこちらを見るサイレント・マジシャンは首を横に振りもうデュエルを続けないで欲しいと言外にそう訴えていた。

 ここで俺がデュエルの放棄をしても誰も咎めるものはいないだろう。教師だって話し合ってデュエルをするのかを決めろと言うくらいだ。彼女も俺がやめるとただ一言告げるだけであっさり身を引く心算だと思われる。何も怪我をしてまでデュエルをする必要は無いのだ。だから……

 

 

 

 

 

 

「デュエルは……………………………………続行だ」

 

 

 

 

 

 

「「『!?』」」

 

 一度向き合ったデュエルからは引かない。

 

 その信条をこの程度のことで曲げるなんてことはあり得ない。確かに何時ぞやの依頼での地下デュエルで悪趣味な首輪を嵌めてやったときのダメージごとに流れてくる電流何かよりは数倍危険だろう。

 だが、だからどうしたと言うのだ。

 久々に対峙する手応えのありそうなデュエリストとのデュエル。

 それから引く理由にはまったくなり得ない。

 

「……そう」

 

 俺の反応が予想外だったのか動揺した様子が残りつつもデュエルディスクを構える。

 

「『デュアル・サモナー』は1ターンに1度だけ戦闘では破壊されない。さぁ、どうする?」

 

 

八代LP4000→3100

 

 

 もっとも戦闘ダメージは適用されるため俺のライフは減少するのは免れないのだが。

 

「私はカードを1枚伏せて、ターン終了」

「このエンドフェイズ時、『デュアル・サモナー』のもう一つの効果発動。500ポイントライフを払うことで手札、または場のデュアルモンスターを通常召喚する。俺は手札の『クルセイダー・オブ・エンディミオン』を通常召喚する」

 

 

八代LP3100→2600

 

 

 『デュアル・サモナー』の杖が輝き描かれた魔方陣から新たに西欧の鎧を纏った倔強な男が飛び出してくる。銀縁の群青色をベースにした鎧は体全身を覆う程巨大だ。特に腕を覆う手甲部分が一際目立って大きいが腕を囲むように描かれた魔方陣の力で浮遊している。

 

 

クルセイダー・オブ・エンディミオン

ATK1900  DEF1200

 

 

「そして俺のターン。ドロー」

 

 あの伏せカード、恐らく『ギガプラント』を次のターンまで残すための布石のはず。『ギガプラント』はこの『クルセイダー・オブ・エンディミオン』と同じくデュアルモンスター。デュアル状態になれば1ターンに1度、手札または墓地から植物族か昆虫族モンスターを特殊召喚できる能力を得る。そうなれば十中八九また『ローンファイア・ブロッサム』を墓地から呼び戻してまた大型の植物族モンスターが場に出てくるのは想像に難くない。なんとかこのターン中にあの『ギガプラント』を処理しなければ……

 

「俺は『クルセイダー・オブ・エンディミオン』を再度召喚する。そして永続魔法『魔法族の結界』を発動」

 

 『魔法族の結界』により形成された巨大な魔方陣が上空に浮かび上がる。

 

「そして『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の効果発動。1ターンに1度、魔力カウンターを乗せることの出来るカードに魔力カウンターを1つ乗せ、自身の攻撃力をエンドフェイズまで600ポイント上昇させる。この効果で俺は『魔法族の結界』に魔力カウンターを乗せる」

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 0→1

 

 

クルセイダー・オブ・エンディミオン

ATK1900→2500

 

 

 あのセットカードが仮に攻撃反応型の攻撃モンスターを除去するタイプの罠でも対応は出来る。攻撃無効型でないことを祈るだけだ。

 

「バトルフェイズ、『クルセイダー・オブ・エンディミオン』で『ギガプラント』に攻撃。」

「トラップカード発動『棘の壁』。植物族モンスターが攻撃の対象に選択された時、相手の攻撃表示のモンスターすべてを破壊する」

 

 『クルセイダー・オブ・エンディミオン』が『ギガプラント』に突っ込んでいくと突然『ギガプラント』の前にその姿を覆い尽くす程の巨大なツタの壁が地面から生えてくる。そのツタにはビッシリと棘が生えており、その様はまさに名前の通りの棘の壁だった。そして。

 

 噴射。

 

 その言葉がふさわしいだろう。棘の壁から大量の棘の生えたツタが飛び出してくる。それは向かってくる『クルセイダー・オブ・エンディミオン』、そして背後に控える『デュアル・サモナー』に襲いかかってきた。

 

「トラップカード『ガガガシールド』発動。このカードは発動後、魔法使い族モンスターの装備カードとなり装備モンスターは1ターンに2度まで戦闘破壊及びカード効果による破壊を無効にできる。俺は『クルセイダー・オブ・エンディミオン』に装備する」

「っ! だけど、『デュアル・サモナー』は破壊される」

 

 『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の前に現れた赤字で“我”という文字が中心に刻まれた巨大な盾がそのツタの攻撃を押しとどめる。だが、『デュアル・サモナー』を守るものは何も無くそのままツタに貫かれ破壊されてしまう。

 

「フィールド上の魔法使い族モンスターが破壊されたことで『魔法族の結界』に魔力カウンターが乗る」

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 1→2

 

 

「そして『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の『ギガプラント』への攻撃は続行される」

 

 『ギガプラント』を破壊せんと再度突撃を仕掛ける『クルセイダー・オブ・エンディミオン』。やはり、あの伏せカードは攻撃反応型の罠だったか。『ガガガシールド』が無かったら次のターン生き残った『ギガプラント』をデュアルされて総攻撃で負けてた可能性があった。まぁ、だがこれで……

 

「ダメージ計算時、手札の『ガード・ヘッジ』を墓地に送って効果発動。自分フィールド上のそのモンスターはその戦闘では破壊されず、攻撃力はこのターンのエンドフェイズ時まで半分になる」

「何っ!?」

 

 『ギガプラント』の大きさが半分になり『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の至近距離で放った魔力弾が直撃し『ギガプラント』を吹き飛ばした。だが、『ギガプラント』が破壊される代わりに何本もの竹の束が不気味に蠢いているモンスターの『ガード・ヘッジ』が現れ砕け散る。

 

 

ギガプラント

ATK2400→1200

 

 

十六夜LP4000→2700

 

 

 まさか『ギガプラント』が処理できないとは……こいつは予想外なのと同時にあまり状況的に良くないな。

 

「これで俺はターンエンドだ。そしてエンドフェイズ時、『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の攻撃力は元に戻る」

 

 

クルセイダー・オブ・エンディミオン

ATK2500→1900

 

 

「この時『ガード・ヘッジ』の効果で攻撃力が半分になっていた『ギガプラント』の攻撃力も元に戻る」

 

 

ギガプラント

ATK1200→2400

 

 

「私のターン、ドロー。私は『ギガプラント』を再度召喚する。そして『ギガプラント』の効果発動。蘇れ、『ローンファイア・ブロッサム』」

 

 『ギガプラント』のツタが地中に突き刺さりツタが脈動を始める。恐らくエネルギーを送っているのだろう。そして地中から再び『ローンファイア・ブロッサム』がその姿を現す。

 

 

ローンファイア・ブロッサム

ATK500  DEF1400

 

 

「そして『ローンファイア・ブロッサム』の効果発動。自身をリリースしてデッキから『椿姫ティタニアル』を特殊召喚」

 

 地面から生えてくる巨大な椿の花。その蕾が花開き中から出てきたのは美しい女性だった。椿の花の冠を被った姿はまさしく姫。肩から手先まで椿の葉で覆い胸元に椿の赤をモチーフにしたアクセサリーを身につけるなど至る所を豪華に着飾っていて煌びやかな姿だ。

 

 

椿姫ティタニアル

ATK2800  DEF2600

 

 

 『椿姫ティタニアル』とはまた強力なカードを……予想してた最悪の展開だ。

 

「バトル、『ギガプラント』で『クルセイダー・オブ・エンディミオン』を攻撃」

 

 再び振るわれる鎌形のツタ。それは『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の体を容赦なく打ちつけてその余波が俺を襲う。

 

「ぐぅ……」

 

 足腰に力を込め吹き飛ばされまいと踏ん張りを利かせどうにかその衝撃波をやり過ごす。俺の背後は危険だと分かったらしく、ギャラリーの生徒達は俺の背後には誰もいなくなっていた。だが、床や壁に刻まれた罅割れは一層深刻なものになっていた。

 

 

八代LP2600→2100

 

 

「さらに『椿姫ティタニアル』で『クルセイダー・オブ・エンディミオン』を攻撃」

 

 『椿姫ティタニアル』が放った攻撃は椿の花弁が舞い散る烈風。

 『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の後ろにいる俺までその烈風は勢いを殺すこと無く易々届く。花弁は烈風に乗り形を赤く光る刃へ変化させ烈風の力を受けて飛来し体を斬りつけていく。

 

「ぐぁっ!」

『マスターっ!!』

 

 最早、声を押し殺すことなど不可能。

 身を切り刻まれる痛みに堪えながらその場に必死に立ち留まる。

 サイレント・マジシャンが悲鳴にもにた叫びをあげて精霊化した状態で俺を支える。実体化している訳ではないのでその行為には意味は無いのだが、最早半泣きの状態のサイレント・マジシャンの顔を見ればその気持ちは伝わってくる。

 そして、ようやく烈風は止んだ。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 別に体を激しく動かした訳ではない。

 そうだと言うのに体からは力が抜けそうになり息も切れてきている。それほどまでのダメージだったと言うことか。体の状態は制服の至る所が切り裂かれ、赤い血が所々滲み出ており、頬は浅く切れたらしく血が滴っていた。

 

 

八代LP2100→1200

 

 

「カードを一枚伏せて、ターンエンド」

 

 彼女の抑揚の無い声でエンド宣言が行われる。

 だが、その前の一瞬確かに見た。

 その表情が微かに歪むのを。

 

『まだ……続けるんですね……』

 

 俺を支えていたサイレント・マジシャンは俺の横顔を見てそう呟く。

 流石にこの世界で俺と一番長く一緒にいただけある、俺のことをよくわかっている。

 

「俺の……ターン」

 

 体に思うように力が入らず指先が震える。

 この手札じゃこの形勢を覆すことは不可能か。だけどまだ可能性はある。

 

「『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の効果で……『魔法族の結界』に魔力カウンターを乗せる」

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 2→3

 

 

クルセイダー・オブ・エンディミオン

ATK1900→2500

 

 

「そして……はぁ……『召喚師セームベル』を召喚」

 

 ポンッ! 

 という小気味良い音を立てながら登場したのはツインテールの少女。被っている赤い頭巾には目が描かれており正面から見ると少女の頭を赤い悪魔が咥えているように見える。水色のミニスカートに長靴を履いたその姿は童話に出てくる登場人物のようだ。

 

 

召喚師セームベル

ATK600  DEF400

 

 

「『召喚師セームベル』の効果発動。メインフェイズに……このカードと同じレベルのモンスターを手札から特殊召喚できる。この効果で……俺は手札からレベル2の『見習い魔術師』を守備表示で特殊召喚。そして……はぁ……特殊召喚された『見習い魔術師』の効果で……『魔法族の結果』に魔力カウンターを乗せる」

 

 

見習い魔術師

ATK400  DEF800

 

 

魔法族の結界

魔力カウンター 3→4

 

 

 上空の魔方陣に光が満ちる。

 このカードの優しい光を浴びるとなんだか少し癒される気がする。

 

 

「『魔法族の結界』の効果発動。魔力カウンターが乗ったこのカードとフィールドの魔法使い族モンスターを1体墓地に送ることで、このカードに乗っている魔力カウンターの数だけドローする。俺は『召喚師セームベル』とこのカードを墓地に送り4枚ドローする」

 

 新たに加わったカードを確認する。くっ……これでひとまず耐え凌ぐしか無いか。

 

「バトルフェイズ、『クルセイダー・オブ・エンディミオン』で『ギガプラント』を攻撃」

 

 『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の至近距離で放った魔力弾が今度こそ『ギガプラント』を捉えた。直後、爆散する『ギガプラント』の姿体。

 これで『ギガプラント』を破壊したから大型植物族の展開の足止めは出来たか。

 

 

十六夜LP2700→2600

 

 

「俺は永続魔法『魔法吸収』を発動。このカードが存在する限りマジックカードが発動される度に俺はライフを500ポイント回復する。そして手札からマジックカード『闇の誘惑』を発動。デッキからカードを2枚ドローし、その後手札から闇属性モンスターを除外する。俺は手札から『見習い魔術師』を除外」

 

 

八代LP1200→1700

 

 

「さらにカードを2枚伏せて……ターンエンドだ。」

 

 頬から伝う血を拭いながらターンエンド宣言をする。

 ふらつく自分の足に気付き先の攻撃だけでここまで体力を持ってかれるのかとここまで来ると笑えてくる。

 たまにぼやける視界の中相手は次の行動に移り始めた。

 

「私のターン、ドロー。私は永続魔法『増草剤』を発動。効果でこのターンの通常召喚を放棄することで墓地の植物族を復活させる。私は『ギガプラント』を特殊召喚する」

「くっ、だが永続魔法『魔法吸収』の効果で魔法カードが発動する度にライフを500回復する」

 

 せっかく前のターン倒した『ギガプラント』がこうもあっさり復活するとは……

 デュアル植物を相手にしている以上、想定されていたことだがやはり手強い。

 

 

ギガプラント

ATK2400  DEF1200

 

 

八代LP1700→2200

 

 

「そして『ギガプラント』を墓地から特殊召喚した時、トラップカード『オーバー・デッド・ライン』を発動する。このカードがフィールド上に存在する限り墓地から特殊召喚した植物族モンスターの攻撃力は1000ポイントアップする」

 

 攻撃力が強化されたことで『ギガプラント』の姿は巨大化し俺の前に立ちはだかる。

 

 

ギガプラント

ATK2400→3400

 

 

「さらに装備魔法『スーペルヴィス』を『ギガプラント』に装備。装備したモンスターはデュアル状態になる」

「魔法カードの発動によりライフを500回復する」

 

 

八代LP2200→2700

 

 

 これは……マズいな……

 

「『ギガプラント』の効果発動。墓地から『ローンファイア・ブロッサム』を蘇生。そして『ローンファイア・ブロッサム』の効果発動。自身をリリースしてデッキから『姫葵マリーナ』を特殊召喚」

 

 巨大な向日葵が花開き姿を現したのは褐色に日焼けした女性の上半身。細身のスレンダーな体格に、こんがりと日焼けした様子はとても健康そうだ。向日葵の花弁で彩られた冠を揺らしながらこちらに活発そうな笑みを向ける。

 

 

姫葵マリーナ

ATK2800  DEF1600

 

 

「バトル、『椿姫ティタニアル』で『クルセイダー・オブ・エンディミオン』を攻撃」

 

 先程の烈風攻撃が再び『クルセイダー・オブ・エンディミオン』に襲いかかる。だが、今回は対抗する策がある。

 デュエルディスクの1枚のセットカードのスイッチを起動する。

 

「攻撃宣言時、トラップカード『奇策』を発動。手札のモンスターカードを墓地に捨てそのモンスターの攻撃力分だけ対象モンスターの攻撃力を下げる。俺は手札の『サイレント・マジシャンLV4』を捨てて『椿姫ティタニアル』の攻撃力を『サイレント・マジシャンLV4』の攻撃力、つまり1000ポイントダウンさせる」

 

 半透明な『サイレント・マジシャンLV4』が攻撃の間に割って入り迫り来る烈風の勢いを殺していく。これが決まれば『椿姫ティタニアル』の攻撃力は1800となり『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の攻撃力1900を下回る。

 

「『椿姫ティタニアル』の効果発動。自分の場の植物族モンスターをリリースすることでフィールド上のカードを対象にするカードの発動を無効にし破壊する。私は場の『ギガプラント』をリリースすることで『奇策』の発動を無効にする。そして『増草剤』によって特殊召喚されたモンスターがフィールドを離れたため、『増草剤』は破壊される」

 

 『椿姫ティタニアル』にエネルギーを吸い取られたように萎んでいき破壊される『ギガプラント』。そしてそのエネルギーが雷のように奔り場にオープンした『奇策』のカードを破壊していく。

 だが、その反撃は想定済みだ。

 

「さらにトラップカード発動、『スーパージュニア対決!』。こいつは相手の攻撃宣言時発動できるカード。その戦闘を無効にし、その後相手の攻撃力の一番低い表側攻撃表示モンスターと自分の一番守備力の低い表側守備表示のモンスターで戦闘を行い、そのバトルフェイズを終了させる。この効果も無効にするか?」

 

 さぁ、どう出る?

 これでもう一度『椿姫ティタニアル』の効果を使い『姫葵マリーナ』をリリースすれば、その後『スーペルヴィス』の効果で蘇生する『ギガプラント』との連撃でダメージは通せる。だが『ガガガシールド』で守られている『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の破壊は出来ない上に、このデュエルを決めきることは出来ない。ダメージを取るかモンスターを残す方を取るか……

 

「私は……無効にしない……」

「ならば『スーパージュニア対決!』の効果でこの戦闘は無効になる。そして相手の場の一番攻撃力の低い表側攻撃表示モンスターと俺の場で一番守備力の低い表側守備表示のモンスター、つまり守備表示の『見習い魔術師』で強制的に戦闘を行わせる」

「『椿姫ティタニアル』で攻撃」

 

 烈風とともに放たれた花弁が鋭く『見習い魔術師』を貫き破壊する。

 『スーパージュニア対決!』。

 このカードが週末にカードプールを漁っていたら見つけたものだ。

 表側守備表示で召喚できるこの環境なら『見習い魔術師』などのリクルーターと強制的に戦闘を行わせることが出来ると踏んで入れてみたが、なかなか今回はうまくいったものだ。

 

「『見習い魔術師』の効果発動。このカードが戦闘によって破壊された時、デッキからレベル2以下の魔法使い族をセットする。この効果で俺がセットするのは『マジカル・アンダーテイカー』。そしてバトルフェイズは終了となる」

「『スーペルヴィス』の効果発動。このカードがフィールドから墓地に送られたとき墓地の通常モンスターを特殊召喚する。これにより『ギガプラント』を復活させる」

 

 

ギガプラント

ATK2400  DEF1200

 

 

「さらに『オーバー・デッド・ライン』の効果で1000ポイント攻撃力がアップする」

 

 

ギガプラント

ATK2400→3400

 

 

「ターン終了」

 

 このターンダメージを受けなかったおかげで息は大分整ってきた。

 ダメージは最小限に抑えないとマズいみたいだ。

 

「俺のターン、ドロー」

『………………』

 

 俺の視線に答えるようにサイレント・マジシャンが頷く。

 

「俺は『マジカル・アンダーテイカー』を反転召喚。このカードのリバース効果発動。墓地からレベル4以下の魔法使い族モンスターを特殊召喚する。俺は墓地の『サイレント・マジシャンLV4』を守備表示で特殊召喚」

 

 表になったカードから黒いハットに紺のスーツ、赤紫のマントを羽織ったメガネの男性が飛び出す。そしてその手に持った鞄を開くとその中から『サイレント・マジシャンLV4』が飛び出してくる。

 

 

マジカル・アンダーテイカー

ATK400  DEF400

 

 

サイレント・マジシャンLV4

ATK1000  DEF1000

 

 

「マジックカード『アームズ・ホール』発動。このターンの通常召喚を放棄するかわりにデッキの一番上のカードを墓地へ送りデッキまたは墓地から装備魔法カードを1枚手札に加える。俺はデッキから『ワンダー・ワンド』を手札に加える。さらにマジックの発動により『魔法吸収』の効果でライフを回復」

 

 

八代LP2700→3200

 

 

「そして装備魔法『ワンダー・ワンド』を『マジカル・アンダーテイカー』に装備。このカードは魔法使い族モンスターにのみ装備が可能。装備モンスターの攻撃力を500ポイントアップさせる」

 

 『マジカル・アンダーテイカー』の手に緑の宝玉が先端についた杖が出現する。宝玉を留めている銀の部分には老人の顔のようなものが描かれており、怪しく笑っていた。

 

 

マジカル・アンダーテイカー

ATK400→900

 

 

八代LP3200→3700

 

 

「そして『ワンダー・ワンド』のもう一つの効果発動。装備したモンスターとこのカードを墓地に送ることでカードを2枚ドローする」

 

 銀で出来た老人の顔の目の部分に埋め込まれた赤く輝く宝石が輝く。そして その輝きとともに『マジカル・アンダーテイカー』の足下に黒い穴が出現しそのままその闇に引きずり込まれていく。

 手札に来たカードは……この場をひっくり返すものではないか…

 

「『クルセイダー・オブ・エンディミオン』を守備表示に変更し、効果を発動。『サイレント・マジシャンLV4』に魔力カウンターを1つ乗せる。そして『サイレント・マジシャンLV4』は魔力カウンター乗ったことで攻撃力が500ポイントアップする」

 

 

クルセイダー・オブ・エンディミオン

ATK1900→2500

 

 

サイレント・マジシャンLV4

魔力カウンター 0→1

ATK1000→1500

 

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

 

クルセイダー・オブ・エンディミオン

ATK2500→1900

 

 

 攻勢に出れないのは辛いが今はこうやって場を保たせて凌ぐよりほか無い。

 

「私のターン、ドロー」

「相手がドローしたことにより『サイレント・マジシャンLV4』に魔力カウンターが1つ乗る」

 

 

サイレント・マジシャンLV4

魔力カウンター 1→2

ATK1500→2000

 

 

「私は手札から『マジック・プランター』を発動。フィールド上の永続トラップカードを1枚墓地に送り2枚ドローする。これでフィールドの『オーバー・デッド・ライン』を墓地に送る」

「相手がドローしたことで『サイレント・マジシャンLV4』に魔力カウンターが乗り、さらに『魔法吸収』の効果でライフが500回復する」

 

 

サイレント・マジシャンLV4

魔力カウンター2→3

ATK2000→2500

 

 

八代LP3700→4200

 

 

「そして『オーバー・デッド・ライン』が消えたため『ギガプラント』の攻撃力は元に戻る」

 

 『オーバー・デッド・ライン』が場から消えたため巨大化した『ギガプラント』の姿は元に戻っていった。

 

 

ギガプラント

ATK3400→2400

 

 

 確かに『オーバー・デッド・ライン』はこのターンのエンドフェイズに自身の効果で破壊される。だがなぜこのタイミングで『マジック・プランター』を? 残しておけば少なくともこのバトルフェイズの間は攻撃力を上昇させられるはずなのに……

 

「そしてマジックカード『大嵐』を発動。フィールド上のマジック、トラップカードをすべて破壊する」

 

 なるほど、そう言うことか……

 流石にその程度のことは考えているわな。

 

「このときトラップカード『和睦の使者』を発動。このターンの戦闘ダメージを0にし俺の場のモンスターの戦闘での破壊を無効にする」

 

 巨大な竜巻が俺の魔法・トラップゾーンを蹂躙しカードを破壊していく。

 『魔法吸収』に『ガガガシールド』が墓地にいったが……これでこのターンは凌げる。

 

「……『ギガプラント』を再度召喚する。そして『ギガプラント』の効果発動。『ローンファイア・ブロッサム』を場に復活させる。そして『ローンファイア・ブロッサム』の効果でデッキから『桜姫タレイア』を特殊召喚する」

 

 ひらり。

 どこからともなく桜の花びらが降り注ぐ。

 そして積もり積もった桜の花びらから巨大な桜の蕾が誕生した。

 花弁が開くと中からは着物を羽織った女性が現れる。右手に桜を象った扇子を持ち、髪留めに桜の木の枝を刺した和風美人が妖しく微笑みかけてくる。

 

 

桜姫タレイア

ATK2800  DEF1200

 

 

「『桜姫タレイヤ』の攻撃力は自分の場の植物族モンスター1体につき100ポイントアップする。場にいる植物族モンスターは4体のため400ポイントアップする」

 

 

桜姫タレイア

ATK2800→3200

 

 

「カードを1枚伏せてターンエンド」

 

 なんとか凌げたか……

 体の傷は痛むがダメージを負わなかったおかげで体力は少しだけ戻ってきた。このままダメージを負わずに戦えれば良いんだろうが現実はそう上手くはいかないっていうのが目に見えている。

 

「俺のターン、ドロー」

 

 フィールド的にはかなり劣勢。

 この場を一発でひっくり返せるような札など当然存在しない。

 『椿姫ティタニアル』の効果でフィールド上のカードを対象に取る効果は場の植物をリリースすることで無効にされ、『桜姫タレイア』の効果でフィールドの植物族モンスターは効果破壊されなくなっている。だからと言って戦闘破壊しようものなら『姫葵マリーナ』の効果で俺の場のカードも1枚破壊されてしまう。攻撃力も2800が2体に3200と2400が1体ずつと1体を倒すのにも一苦労だ。そしてセットされているカードが一枚。警戒しなければならないのは間違いないだろう。

 だが、このまま防戦に回っていても勝利のときは訪れない、ならば!

 

『………………………………』

 

 俺に背中を預けるサイレント・マジシャンを見据える。

 振り返ること無くただ相手を見続けるその様子は頼もしく感じられる。

 ここで攻めるしか無い!

 

「俺は『魔導騎士ディフェンダー』を守備表示で召喚。このカードの召喚に成功した時、このカードに魔力カウンターを1つ乗せる」

 

 青い魔導甲冑の騎士は俺の覚悟に応えるように短く声を発し現れる。守備を堅めるように屈み守りの体勢となった彼の様子は心強さを感じさせる。

 

 

魔導騎士ディフェンダー

魔力カウンター 0→1

ATK1600  DEF2000

 

 

「そして『クルセイダー・オブ・エンディミオン』の効果で『サイレント・マジシャンLV4』に魔力カウンターを1つ乗せる」

 

 

サイレント・マジシャンLV4

魔力カウンター 3→4

ATK2500→3000

 

 

 これでサイレント・マジシャンの攻撃力が2800を超えた。

 普段傍らにいる姿よりも少し背丈が伸び大人の女性に一歩近づいたと言ったところだろうか。うちから溢れ出る魔力の力で棚引く艶のある髪も背丈の伸びとともに伸びた気がする。

 

「『サイレント・マジシャンLV4』を攻撃表示に変更しバトル。『サイレント・マジシャンLV4』で『椿姫ティタニアル』に攻撃」

『はぁ!!』

 

 俺の命令とともに既に貯めてあった杖に込められた魔力弾、いや最早魔力による砲撃と言っても良い規模の大魔力弾が椿へと放たれる。心無しかその威力はいつもよりも強い気がする。

 そして椿の姿は白で埋め尽くされる。

 リバースカードがオープンした様子は無かったが……

 

 

十六夜LP2600→2400

 

 

 光が収まると椿の姿は無く焼け焦げた花弁が燃え尽きた。

 どうやらあの伏せカードは発動しなかったらしい。

 だが、油断は出来ない。

 

「場の植物族モンスターが戦闘で破壊されたことにより『姫葵マリーナ』の効果発動。相手の場のカードを1枚破壊する。この効果で私は『サイレント・マジシャンLV4』を破壊する」

 

 『姫葵マリーナ』から放たれる炎が入り混ざった竜巻がサイレント・マジシャンに迫る。だが、この効果は想定済みだ。

 

「『魔導騎士ディフェンダー』の効果発動。自身に乗っている魔力カウンターを取り除き『サイレント・マジシャンLV4』の破壊を無効にする」

 

 『魔導騎士ディフェンダー』が盾を向けるとサイレント・マジシャンの周りに青い透明の球状の膜が張られる。炎の竜巻が直後サイレント・マジシャンの姿を覆い隠すも竜巻の効果が消えるとそこからは無傷のサイレント・マジシャンが姿を見せる。

 

 

魔導騎士ディフェンダー

魔力カウンター 1→0

 

 

 なんとか厄介な椿を処理できた……

 だが、まだまだ劣勢には変わりはない。

 手札のカードも守りを固めるカードばかり。

 俺に残された勝機はサイレント・マジシャンを守りきって次のターンに繋げることのみ。元々このデッキはサイレント・マジシャンを守りながら魔力カウンターを貯めていくデッキなのだ。後にも先にもサイレント・マジシャンしかない。

 

「手札から装備魔法『ワンダー・ワンド』を『クルセイダー・オブ・エンディミオン』に装備し、このカードと『クルセイダー・オブ・エンディミオン』を墓地に送りカードを2枚ドローする」

 

 新たに手に現れたロッドとともに闇に消えていく『クルセイダー・オブ・エンディミオン』。思えばこのデュエルで長いこと俺の場を繋げてくれたカードだ。感謝の気持ちを込めながら新たにカードを2枚引く。

 

「俺はカードを4枚伏せて……ターン終了」

 

 手札のすべてのカードを伏せた。

 『大嵐』を相手が使った今、複数の魔法・罠の除去を警戒する必要性は下がっている。このカードでサイレント・マジシャンを次のターンまで繋げてみせる。

 

「私のターン、ドロー」

「『サイレント・マジシャンLV4』に5つ目の魔力カウンターが乗る」

 

 

サイレント・マジシャンLV4

魔力カウンター 4→5

ATK3000→3500

 

 

 これで『桜姫タレイア』の攻撃力を上回った。あの手札の枚数的にこの攻撃力が3500になった程度で止まるとは思えない。そして何よりこの中等部の彼女は強い。恐らくこのターン、仕掛けてくる。

 

「『ギガプラント』の効果は発動。『ローンファイア・ブロッサム』を蘇生し、『ローンファイア・ブロッサム』の効果で自身をリリース。デッキからチューナーモンスター『コピー・プラント』を特殊召喚」

 

 ここに来てチューナー? 植物族デッキでシンクロモンスターと言えば……おい、この世界に来て全然見てなかったから俺としたことがすっかり失念してたが……まさか、来るのか!

 

「レベル6『ギガプラント』にレベル1『コピー・プラント』をチューニング。冷たい炎が世界のすべてを包み込む。漆黒の華よ、開け! シンクロ召喚! 現れよ、『ブラック・ローズ・ドラゴン』!」

 

 光の柱。

 それは目映い閃光を放ちながら彼女の後ろで立ち上る。

 爆発的な輝きとともに中から姿を現したのは薔薇。

 真紅の花弁を纏いし竜が顕現した。

 

 

ブラック・ローズ・ドラゴン

ATK2400  DEF1800

 

 

 黒薔薇ぶっぱしてくるならセットカードの2枚はフリーチェーンで発動は出来るが残りのセットカードは破壊されてしまう。だがこの優勢な展開で大量に強力なモンスター抱えている状況でその効果は使うのか……?

 

「墓地の『ガード・ヘッジ』を除外し『ブラック・ローズ・ドラゴン』の効果発動。相手の守備表示モンスターを攻撃表示に変更しその攻撃力を0にする。これにより『魔導騎士ディフェンダー』を攻撃表示に変更しその攻撃力を0にする。ローズ・リストレクション!!」

 

 なるほど、狙いはそっちか!

 『ブラック・ローズ・ドラゴン』から伸びる青く発光するツタが『魔導騎士ディフェンダー』の四肢を締め上げる。ツタから生えた鋭い棘が食い込み苦痛の声を上げる『魔導騎士ディフェンダー』からその力が奪われていく。

 

 

魔導騎士ディフェンダー

ATK1600→0

 

 

「さらにマジックカード『死者蘇生』を発動。墓地から『ローンファイア・ブロッサム』を蘇らせ自身をリリースしデッキから『ギガプラント』を特殊召喚。そして『ギガプラント』を再度召喚し効果で再び『ローンファイア・ブロッサム』を蘇らせ『ローンファイア・ブロッサム』の効果を発動。デッキから2体目の『桜姫タレイア』を特殊召喚する」

 

 目紛るしく展開される彼女のフィールド。

 『ギガプラント』が再び場に戻ってきた上にさらに新たな植物族モンスターが出てくるとは……

2体目の『桜姫タレイア』のせいで完全な効果耐性の布陣が出来上がってしまったわけだ。

 

桜姫タレイア

ATK2800→3200  DEF1200

 

 

「そして装備魔法『憎悪の棘』を『ブラック・ローズ・ドラゴン』に装備。装備モンスターの攻撃力を600ポイントアップさせる」

 

 装備魔法の力でツタの棘が伸び鋭さが増す。

 『憎悪の棘』の厄介なところは攻撃力を上げることではない。その真価は相手モンスターを攻撃したときにその相手モンスターを破壊せずに攻撃力・守備力を600ポイントダウンさせる効果があること。

 

 

ブラック・ローズ・ドラゴン

ATK2400→3000

 

 

 このまま何も出来ずに『魔導騎士ディフェンダー』を攻撃されれば3000ポイントのダメージを受けるうえに攻撃力が0のままの『魔導騎士ディフェンダー』を晒すことになるわけだ。

 嫌な汗が流れるのを感じる。

 

「バトル、『ブラック・ローズ・ドラゴン』で『魔導騎士ディフェンダー』を攻撃! ブラック・ローズ・フレア!」

 

 『ブラック・ローズ・ドラゴン』の口に溜められた紫のブレスが放たれる。目の前に迫り来るブレスの熱だけでその威力の高さが伝わってくる。

 だが!

 もちろんただで攻撃を受ける気なんてさらさらない。

 

「トラップカード『聖なるバリア-ミラーフォース-』発動! 相手の攻撃表示モンスターをすべて破壊する」

『魔導騎士ディフェンダー』を焼き尽そうと迫るブレスを前に、それを阻む半透明の膜が出現し受け止める。

『桜姫タレイア』がいる限り植物族モンスターを効果で破壊することは出来ない。でも、ドラゴン族である『ブラック・ローズ・ドラゴン』は別。

これで……

 

「させない! カウンタートラップ『ポリノシス』を発動! 場の『ギガプラント』をリリースし『聖なるバリア-ミラーフォース-』の発動と効果を無効にし破壊する」

 

 カウンタートラップでチェーン!?

 光となって消えていく『ギガプラント』。

 マズいな、やりたくないけどやるしかないか!

 

「カウンタートラップ『魔宮の賄賂』発動! 『ポリノシス』の発動を無効にし破壊する。そしてその後相手はカードを1枚ドローする」

「くっ……」

「これにより『聖なるバリア-ミラーフォース-』の効果は適用される」

「だけど『桜姫タレイア』が存在する限り場の植物族モンスターはカード効果で破壊されない。よって破壊されるのは『ブラック・ローズ・ドラゴン』のみ」

 

 バリアによって跳ね返された紫のブレスは相手フィールドに四散し破壊の嵐を巻き起こす。向こう側でこのデュエルを見ていた生徒達は悲鳴を上げながら散って行く。最早このデュエルを安全に見物出来る場所など無い。そのことに気付いたようで見物していた生徒達や審判までもが安全な場所を目指して避難していく。

 爆発によって巻き起こされた粉塵が視界を覆っていくが『ブラック・ローズ・ドラゴン』は断末魔の叫びを上げるとともに破壊され消えていくのが確認できた。

 粉塵が収まりフィールドを見渡せば以前無傷の植物族モンスター達。

この光景は分かっていたが、いざ目にすると気が遠くなってくる。

 

「『姫葵マリーナ』で『魔導騎士ディフェンダー』を攻撃。このとき手札から速攻魔法『旗鼓堂々』を発動。墓地の装備魔法を正しい装備対象に装備することが出来る。私は墓地の『憎悪の棘』を『姫葵マリーナ』に装備。これにより『姫葵マリーナ』の攻撃力は600ポイントアップする」

 

 向日葵の花弁が燃え、炎の渦を形成し『魔導騎士ディフェンダー』に迫る。

 その渦の中を棘の生えたツルが勢い良く突き進む。

 

姫葵マリーナ

ATK2800→3400

 

 

 冗談じゃねぇぞ……

 ここにきて『憎悪の棘』が来るのは予想外だ。

 『旗鼓堂々』を使用するターン特殊召喚は出来なくなるが、使用する前に特殊召喚することは確かに可能。本当に中学生の腕とは思えないな。

 保険が無かったら本当にヤバかったとこだ。

 

「速攻魔法『神秘の中華なべ』を発動。『魔導騎士ディフェンダー』をリリースし、リリースしたモンスターの攻撃力、または守備力分ライフポイントを回復する。俺は『魔導騎士ディフェンダー』の守備力2000ポイント分ライフを回復する」

 

 『魔導騎士ディフェンダー』に迫った攻撃は目の前で対象を失ったことで外れ背後の壁を容赦なく抉っていく。

 壁には穴ができ回りは焼け焦げていた。

 

 

八代LP4200→6200

 

 

「ならば『姫葵マリーナ』で『サイレント・マジシャンLV4』を攻撃」

 

 再び迫る炎の渦と辺りに破壊をまき散らす棘のツタ。

 だが攻撃力はサイレント・マジシャンの方が上のはず……

 ダメステ時に攻撃力上昇カードを使う気か!?

 一応『憎悪の棘』を装備したモンスターの攻撃では対象モンスターは戦闘破壊されない。よってこの戦闘でサイレント・マジシャンは破壊されないが……

 

「手札から速攻魔法『狂植物の氾濫』を発動。このターン自分の場の植物族モンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで自分の墓地の植物族モンスターの数×300ポイントアップする。私の墓地の植物族モンスターは『ローンファイア・ブロッサム』、『椿姫ティタニアル』、『コピー・プラント』『ギガプラント』2体の合計5体。よって攻撃力は1500ポイントアップする」

「くっ、やっぱりか!」

 

 

姫葵マリーナ

ATK3400→4900

 

 

桜姫タレイア1

ATK3100→4600

 

 

桜姫タレイア2

ATK3100→4600

 

 

 その瞬間のことはあまり良く覚えていない。

 ただ、目の前が真っ赤に染まって、直後体が浮く浮遊感と全身が燃え上がったような熱さに襲われた。

 

『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 俺の口からちゃんと声が出てるのか、俺が聞いているのはそもそも俺の声なのか、そんなことも分からず俺は地面に叩き付けられた。

 

 

八代LP6200→4800

 

 

サイレント・マジシャンLV4

ATK3500→2900

 

 

「うっ……」

 

 なんとか瞼を開ける。

 目の前はぼやけ意識が飛びそうだ。

 感じられるのは全身を襲う体全体が焼け焦げるような痛みだけ。

 特に痛みが酷い胸元を見れば棘のツタで打たれたのか制服が破けシャツが真っ赤に染まっていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 俺のすぐ横ではサイレント・マジシャンが倒れていた。

 『憎悪の棘』の効果でその体は傷だらけで純白の肌には無数の赤い切り傷が出来ていた。

 

『ます……たー……』

 

 俺が体をゆっくり起こしているとサイレント・マジシャンも意識を取り戻したようだ。その瞳は真っすぐ俺を見つめていた。すると軽く息を吐き俺と同じように体を起こす。そして俺の前に背を向け立ち言葉を零す。

 

『もう……何を言っても止まらないのは…知っています……』

「はぁ……はぁ…………」

『それなら……私もついて行きます……あなたと共に……』

「はぁ……好きにしろ……」

『はい……』

 

 本当によくわからないヤツだ。こんな危険な目にあってるのにどうして俺の側にそこまで固執するのか……

 まぁ今は余計なことに思考を回してる場合じゃないか……

 気合いで立ち上がってみたもののその足はいつ崩れてもおかしくない。

 次の一撃を喰らって俺の意識が保つかどうか……

 

 

「……『桜姫タレイア』2体で攻撃」

「はぁ……トラップカード『攻撃の無敵化』……発動。このターンの『サイレント・マジシャンLV4』は戦闘及び……はぁ…………カード効果で破壊されない」

「だけど……ダメージは通る」

 

 そのときの十六夜はどこか苦しそうな表情を浮かべていたような気がした。

 水流に流れる桜の花びらが刃となり圧倒的な質量の水と共に迫り来る。

 目の前まで押し寄せた水流を前になす術などあるはずも無く俺は目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一体どれくらいの時間が経ったのだろう。

 もしかしたら死んでしまって感覚がすべて無くなってしまったのかもしれない。

 そんなことを思う程、周りは静かで何も感じなかった。

 

 

ピチャ。

 

 

 雫の落ちる音がする。

 どうやら音が聞こえたと言うことは俺はまだ死んでないらしい。

 瞼を開ける。

 ぼやける視界の中、最初に目に入ってきたのは赤と白のツートンカラーの十字架。その配色はサンタクロースを彷彿させる。

 徐々にそれは輪郭を取り戻していく。

 そして、気付いた。

 それがいつも自分の側にいる者であることに。

 それが赤く見えるのは滴る血がその服を染めているからだと言うことに。

 それが俺の前に十字架のように盾になり俺を庇ったと言うことに。

 

「なんで……だよ……」

 

 理解が追いつかない。

 なぜ、こんなことが起きているのか。

 なぜ、コイツが俺を庇ったのか。

 疑問が渦巻く俺を前に傷だらけのサイレント・マジシャンはフラフラになりながらも言葉を紡ぎ始める。

 

『もう…………これ以上…………マスターは……傷つけさせません……』

 

 思考が止まった。

 今にも倒れそうなボロボロの体。それにもかかわらずその声は芯が通った揺らぎ無いものだった。

 

 

八代LP4800→1400

 

 

「あなたも……? いや……これは……違う……」

『うぅ……』

「おい!」

 

 理由なんて分からない。

 ただ、目の前で苦しそうに膝をつくサイレント・マジシャンを見て駆け寄らずにはいられなかった。

 

『私は…………平気です……』

「何言って……」

『次のターン……』

「……!」

 

 サイレント・マジシャンに向けられた真っすぐな瞳。

 その真意を汲み取ると彼女の後ろに立つ。

 そして今向き合うべき相手を真っすぐに見据える。

 

 

「……ターン終了。エンドフェイズ時『狂植物の氾濫』の効果で自分フィールド上の植物族モンスターはすべて破壊される。しかし『桜姫タレイア』が存在するため植物族モンスターはカード効果で破壊されないため、その効果は受けず攻撃力は元に戻る」

 

 

姫葵マリーナ

ATK4900→3400

 

 

桜姫タレイア1

ATK4600→3100

 

 

桜姫タレイア2

ATK4600→3100

 

 

 攻撃力の減少に伴い植物族モンスター達の狂気に満ちた紅い光を放っていた瞳の色が元に戻っていく。

 『狂植物の氾濫』の破壊のデメリットを計算した上でのこのターンの動き。

 それは実に見事なものだった。

 

「また『旗鼓堂々』で装備した『憎悪の棘』もエンドフェイズ時に破壊される」

 

 

姫葵マリーナ

ATK3400→2800

 

 

 鋭い棘が生えたツタも『憎悪の棘』が無くなったことで消えていく。

 

「……ッ!」

 

 サイレント・マジシャンが『桜姫タレイア』の攻撃のダメージは防いでくれたもののその前からダメージが蓄積した体はもう限界が近づいていた。

 少し意識を逸らしただけで体が傾いてしまう。

 

「まだ……続けるんですか?」

 

 俺のそんな様子を見かねてか、対戦相手の十六夜にそんなことを言われる始末だった。

 

「手札は0、場にあるのは傷ついた『サイレント・マジシャンLV4』だけ。次のターン『サイレント・マジシャンLV8』になったとしても残り手札1枚で何が出来るんですか?」

 

“サレンダーして下さい”

 

 言外に彼女はそう告げていた。

 なるほど、確かに状況は良くない。

 次のターン『サイレント・マジシャンLV8』にしたとしても、相手の場には『桜姫タレイア』が2体、そして『姫葵マリーナ』が居る。

 いずれのモンスターにも攻撃力は勝っているものの、『桜姫タレイア』を戦闘で破壊すれば『姫葵マリーナ』の効果でサイレント・マジシャンは破壊されてしまう。仮に『姫葵マリーナ』だけこのターン倒したとしても彼女の手札は2枚残っている。

 恐らく次のターンで俺のライフを削りきる算段がもう出来ているのだろう。

 まさに八方塞がりとはこのことか。

 

ドクンッ!

 

 心臓が激しく高鳴る。

 天井は砕け見上げれば空が見える。

 あたりには瓦礫が散らばり焼け焦げた跡も残っている。

 そんな惨状となった場所には気が付けば見物していた生徒達はいなく審判の教師も避難してしまったようだ。

 

「そういや…………これ授業だったな……」

「…………?」

「だったら……一つ……授業らしく……指導してやるよ、後輩……」

「何を……」

 

 俺は訝しげな目を向ける十六夜に向かってはっきりとこう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いか……相手のライフを0にするなんざ……俺のライフが1でもありゃ十分ってことだ!」

「っ!?」

 

 ここで引くべきカードは分かってる。

 そして手をデッキの一番上に添える。

 

「――――っ!」

 

 来た!

 直感が俺にそう告げていた。

 

「俺のターン……ドロー!!」

 

 手札に来たカードは確認せずとも分かっている。

 デュエルで極限状態になると陥るこの感覚。

 これに気付いたのはいつ頃からだろうか。

 

「俺は『サイレント・マジシャンLV4』の効果を発動。魔力カウンターが5つ乗ったこのカードを墓地に送りデッキから『サイレント・マジシャンLV8』を特殊召喚する」

 

 俺を庇い傷ついた姿から一転、完全な大人の女性の姿となったサイレント・マジシャンには傷一つついていなかった。

 さっき次のターンと告げた理由はこれだろう。レベルアップしてしまえば傷も回復するとは便利なものだ。

 

 

サイレント・マジシャンLV8

ATK3500  DEF1000

 

 

「そして墓地からトラップカード発動……」

「墓地からトラップ!?」

「墓地の『スキル・サクセサー』は除外することで自分の場のモンスター1体の攻撃力をエンドフェイズ時まで800ポイントアップさせる」

「そんなカード、いつの間に……」

 

 

 

————————

——————

————

 

『マジックカード『アームズ・ホール』発動。このターンの通常召喚を放棄するかわりにデッキの一番上のカードを墓地へ送りデッキまたは墓地から装備魔法カードを1枚手札に加える。…………』

 

 

 

————————

——————

————

 

「あのとき……」

「そう言うことだ……これにより『サイレント・マジシャンLV8』の攻撃力は800ポイントアップする」

 

 彼女から発せられる魔力のオーラがより濃密なものになるのが目で確認できる。

 

 

サイレント・マジシャンLV8

ATK3500→4300

 

 

 そしてこれがこのデュエルに終止符を打つ最後のカード。

 そのカードをデュエルディスクに差し込む。

 

「そしてマジックカード『拡散する波動』を発動。1000ポイントライフを払い、自分の場のレベル7以上の魔法使い族モンスター1体を選択する。このターン、選択したモンスターのみが攻撃可能になり、相手モンスターすべてに1回ずつ攻撃する。これで『サイレント・マジシャンLV8』は相手モンスターすべてに攻撃が可能となった!」

 

 

八代LP1400→400

 

 

「そんな……!!」

 

 この土壇場でこのカードを引き当てたことへの驚きなのか、彼女の表情は初めて大きな驚愕へと変化する。

 

「バトル、『サイレント・マジシャンLV8』で『姫葵マリーナ』に攻撃!」

『はぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 巨大な白い魔力光が『姫葵マリーナ』の姿を飲み込んでいく。

 

 

十六夜LP2400→900

 

 

「場の植物モンスターが減ったことで『桜姫タレイア』の攻撃力はダウンする」

 

 『姫葵マリーナ』が消えたことで『桜姫タレイア』は少しその姿から力が無くなっているようだ。

 

 

桜姫タレイア1

ATK3100→3000

 

 

桜姫タレイア2

ATK3100→3000

 

 

「ッ!!」

 

 一瞬視界が激しく揺らぎ地面が迫ってくる。

 前のめりになって倒れそうになったようだ。

 寸前で踏みとどまったものの体は既に限界……

 もう……もうこのデュエルは……終わる……

 それまで保ってくれ。

 

「続いて……『桜姫タレイア』を攻撃!」

『はぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 続く二撃目の魔力光が瞬く間に1体の『桜姫タレイア』の姿を消滅させる。

 

 

十六夜LP900→400

 

 

「『桜姫タレイア』が破壊されたことで……場の植物族モンスターが減って……『桜姫タレイア』の攻撃力はダウンする……」

 

 場の植物族モンスターがすべて居なくなり『桜姫タレイア』の姿はもはや一回り程縮んで見えた。

 

 

桜姫タレイア

ATK3000→2900

 

 あと一回……

 これで……

 

「これで……最後だ……『サイレント・マジシャンLV8』で『桜姫タレイア』を攻撃!!」

『はぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!』

 

 先程までの攻撃よりも格段に巨大な魔力光が『桜姫タレイア』、そして十六夜の姿もろともを包み込み爆散した。

 

 

十六夜LP400→0

 

 

「なぁ……言っただろ? ……十分だって……」

 

 煙が晴れるのも確認せずそれだけ最後に残して俺は意識を手放した。

 それから十六夜が学校を休学したということを知るのは意識を取り戻してからだった。


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