魔法少女リリカルなのはStrikerS-King Seong clone of another-   作:炎狼

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救出

 ヴィヴィオを抱え、なのはと共に陥没した床から上がると同時に、ゆりかご内部にアラームが鳴り響いた。

 

 なのはとヴィヴィオはそれに不安げな反応を取るが、聖は顔をしかめて舌打ちをした。

 

「これは魔力封鎖だ」

 

「魔力封鎖?」

 

「ああ。聖王の反応が消えたからゆりかご自体が自分を保護するためのプログラムだ。ボヤボヤしてっと区画が封鎖されちまって閉じ込められる。

 速く脱出したいところだが、クアットロを引っ張ってこねぇとな。なのは、ヴィヴィオ。お前等は少しここで待っててくれ。たぶんはやても来るはずだ」

 

 聖はそういうとヴィヴィオをなのはに抱かせてディバインバスターで造られた道を下ってクアットロを回収しに行った。

 

 それから少しすると、聖の言ったとおりはやてが壊れた扉からやってきた。

 

「なのはちゃん! 無事か? ヴィヴィオも」

 

「うん、私は大丈夫。けど聖くんが戦闘機人の子を引っ張ってくるって」

 

 なのはは聖が下っていった大穴を指差した。だが、そこで浮遊魔法を使っていたはやての魔力が霧散した。

 

 魔力封鎖が効力を発揮し始めたのだ。

 

 しかし、通信だけはまだ生きている様でなのはのところにスバルからノイズ交じりであるが連絡が入った。

 

『な……は……さん! スバル……す! 今……ティアと……ヴァイス……曹にヘリで……くってもら……ので、今か……助け……きます!』

 

 そこで通信が切れ、スバルの声は聞こえなくなってしまった。しかし、どうやらなのはとはやてはその意図が理解できたようだ。

 

「スバルとティアナがこっちむかっとるみたいやね」

 

「うん。けど、魔法が使えない状態でどうやって……」

 

「そこは多分、スバルの戦闘機人としての力を使うんだろうさ」

 

 なのはが言いかけたところで、大穴から上がってきた聖が文字通りクアットロを引きずってやってきた。

 

 手足には二重にバインドが施されているため簡単にはほどけないようになっているようだ。

 

「聖くん。お疲れさんや」

 

「あぁ、それよりも今はスバルたちが発見しやすいようにここから出よう」

 

 はやてに答えた聖は出口の方に顎をしゃくって出口を指したが、そこで出口に格子状のドロドロとした液体のようなものが這い回って、数秒も経たぬうちに出口を完全に塞いでしまった。

 

 それとほぼ同時に聖の後ろでも出口のときと同じようなものが大穴を塞いでしまった。

 

「くそ……閉じ込められたか。はやて、アルカンシェルの発射までは?」

 

「まだ少し時間はあるはずや。たぶんその間にスバルたちが助けに来てくれるはずや」

 

「そうだね。今は動かずに待っていたほうがいいかもしれない」

 

 二人の意見に聖は頷くと、外にいるであろうスバル達に心の中で告げた。

 

 ……頼んだぜ、二人とも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆりかごの外ではヴァイスが操るヘリが滞空していた。

 

 その中には、狙撃銃形態のストームレイダーを構えたヴァイスとバイクに乗ったティアナとスバルがいた。

 

「いいかお前等。ゆりかごの中はかなり高濃度のAMFが働いているらしい。中で魔法は使えねぇけど外ならギリギリでスバルのウイングロードが届く。だから、俺が道を開けてやる」

 

 ヴァイスはヘリのハッチを開けた状態で目の前でスバルたちの進行を邪魔しようとするガジェットを次々に撃墜していく。

 

 その精密さたるや、射撃を得意とするティアナが息を呑んでしまうほどだった。

 

「……ほんとはよ、いつまでもうじうじしてる自分に嫌気が差してたんだ」

 

「え?」

 

 ヴァイスの独白にティアナは思わず声を漏らしてしまったが、彼はそのまま続けた。

 

「一度の失敗でいつまでも情けなくへこたれてよ。死にたくなるほどなさけねぇ思いだってしてきた。それに俺ぁお前等の隊長たちみたいにエースでも、天才でもねぇ。けどよ、一先輩としてバカで無鉄砲なテメェらに道を開いてやる事ぐらいはできらぁな!!」

 

 ヴァイスはそういうとストームレイダーの銃口に魔力を溜めて、更にそれを魔力で包み込んだ弾丸を打ち出した。

 

 弾丸は一直線にゆりかごへの進入を阻んでいるガジェットに直撃し、ガジェットは弾丸に貫かれて爆散した。

 

「行け! 行って隊長たちを助けて来い!!」

 

「「はい!」」

 

 二人は同時に返事をすると、スバルがウイングロードを発動して道を作る。

 

 ティアナもそれを確認するとバイクを走らせる。

 

 彼女等の後姿を見送りながら、ヴァイスは告げた。

 

「頼んだぜ。お前等」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆりかごから少し下の空域では、小型の飛行型ガジェットが地上へと降下を開始していた。

 

 ゆうに四十は超えるガジェットをどう止めるべきか、空戦魔導師たちの無線が飛び交っていた。

 

 アースラ艦内でオペレーティングをしていたルキノもまたどうするべきか焦りを見せていたが、そこで聞きなれた凛とした声音の女性の声が聞こえた。

 

『ルキノ、聞こえるか?』

 

「は、はい! シグナム副隊長!」

 

『今、私の方でガジェットの機影を確認した。これより迎撃に入るが、構わないな?』

 

「はい! お願いします!」

 

 ルキノはシグナムに回線を開くと同時に受け答えたが、モニタの中に現れた彼女の姿に小首をかしげた。

 

「あれ、シグナム副隊長? そのお姿は……」

 

『心強い増援が来てくれてな』

 

 彼女は静かに笑みを浮かべると、モニタを一旦切って音声だけをルキノに聞こえるように操作した。

 

 

 

 

 飛来するガジェットを見据えながら、シグナムはユニゾンしているアギトに問うた。

 

「機影凡そ四十……いいや、更に増えているな。行けるか、アギト?」

 

『ああ、やれるさ』

 

 アギトは答えると、両手を広げ手のひらから火焔を発生させる。

 

『猛れ、炎熱! 烈火刃!!』

 

 アギトが言うや否や、レヴァンティンが火焔を纏った。ガジェットも敵勢存在だと理解したのか、レーザーやミサイルを放ってくるが、シグナムはレヴァンティンの名を呼ぶ。

 

「レヴァンティン!」

 

〈Schlangeform!!〉

 

 炎を纏ったレヴァンティンがカートリッジを吐き出すと、更に火焔が燃え上がり、先ほどまで普通の剣だったレヴァンティンの刀身が別れ始め、蛇腹剣へと変化する。

 

 シグナムとアギトは同じ動きでレヴァンティンを振るう。

 

 蛇腹剣となったレヴァンティンのリーチは各段に伸び、第一陣のガジェットを粉砕した。

 

 そして続けざまにシグナムとアギトは同時に言い放つ。

 

「剣閃烈火!!」

 

『火龍!!』

 

「『一閃!!!!』」

 

 声と共に放たれた横なぎの剣閃は、中距離にまで達し、迫るガジェットを一瞬にして粉砕して見せた。

 

『機影五十、い、一瞬で消滅!?』

 

 回線からルキノの驚愕の声が聞こえた。

 

 シグナムはレヴァンティンを剣の状態に戻すと、アギトに無理がないか確認するため彼女に声をかける。

 

「アギト、大丈夫……」

 

 そこまでシグナムが言った所で、彼女はアギトが泣いているのを理解した。

 

「……どうした、アギト」

 

『な、なんでもねぇ! なんでもねぇよ!』

 

 恐らく彼女自身、ここまでシグナムとのユニゾンが自分と相性がいいとは思っていなかったのだろう。

 

 自分としっくり来るロードとの出会いと、自分をシグナムに託したゼストのことを思い出し、アギトの目尻からは止め処なく涙が溢れていた。

 

 シグナムもそれを理解しているのか、顔を曇らせるが、間髪いれずに第二陣のガジェットがやってきた。

 

「……アギト、続けてで悪いが、行けるか?」

 

『おう! シグナム!!』

 

 涙を拭いきって力強く答えたアギトにシグナムも小さく笑みを浮かべると、ガジェットを倒すために空を翔けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 玉座の間にて、聖は僅かに視界が霞み始めたのを感じていた。同時に、体の節々に走る鋭い痛みと、激しい頭痛も現れ始めていた。

 

〈……聖様、もう限界では……〉

 

「……黙ってろ。この状況であいつ等に心配はかけらんねぇ。何も無い風を装え……」

 

 クラウンがささやいてくるが、聖はそれを一蹴して返す。クラウンはそれきり黙ってしまったが、聖は内心で謝罪した。

 

 ……わりぃなクラウン。俺の体のことを心配してくれてんのはわかる。だけど、これ以上なのは達に心配はかけられねぇんだ。

 

 聖は一度深く深呼吸をして体を落ち着かせる。

 

 元々、聖の体と聖王の魔力は適合できていない。ゆえに、長時間の持続は体を破壊し、最悪の場合死に至るのだ。

 

 また、聖王として未完成な聖ではゆりかご自体に聖王として認知されておらず、魔力閉鎖を解くこともできない。

 

 その不甲斐無さに聖は拳を握り締めようとしたが、もう硬く握り締めることも出来なくなっていた。

 

 すると、そんな彼の異変を感じ取ったのかヴィヴィオが声をかけた。

 

「パパ、だいじょうぶ?」

 

「あぁ、ちょっと疲れただけだ。気にするな、ヴィヴィオ」

 

 聖は優しく笑みを作りながらヴィヴィオの頭を撫でてやる。

 

 けれど、ヴィヴィオはまだ聖のことが心配なのか彼の手を小さな手でギュッと握った。

 

 それをみていたなのはとはやても小さく笑みを作るが、ちょうどその時、玉座の間の出口よりも少し上の壁が何者かによって破壊された。

 

「お待たせしました!」

 

 もうもうと立ち込める砂煙の中から姿を現したのは、スバルとバイクに跨ったティアナだった。

 

 二人の登場に玉座の間にいた全員が安堵の表情を見せる。

 

 スバルはそのまま、穴から降りるとはやてが声をかけた。

 

「スバル、早速でわるいんやけど……」

 

「はい! 任せてください! 元災害救助隊の威信にかけて隊長たちを救出しますから!」

 

 彼女は皆を安心させるような笑みを浮かべると、まず、ヴィヴィオから運び、そのあとなのは、はやて、クアットロ、聖の順番で救助を開始した。

 

 だが、聖を運ぼうと、スバルが彼の体に触れた瞬間聖の顔が苦悶に歪んだ。

 

「あ、痛かったですか!?」

 

「いいや、大丈夫だ。ちょっとさっきの戦いの傷が疼いてな。お前のせいじゃねぇよ」

 

 本当は戦闘の傷ではなく、聖王の魔力による副作用なのだが、聖はスバルに心配をかけないために笑みを作った。

 

 スバルはそれにやや心配げな表情をしたものの、今は皆を救助することが先決と判断し、ティアナの元まで戻った。

 

 ティアナの元に戻ると、彼女はゆりかごが軌道上に乗るまでの時間を確認していた。

 

「軌道上に上がるまであと五分弱……。ここから出口までは飛ばせば三分以内につけるはず」

 

 彼女はスバルと視線を交わすと、互いに頷きあい皆に言った。

 

「それじゃあ、なのはさんとヴィヴィオはスバルにおぶられてください。八神部隊長とそこの戦闘機人の子と聖さんはバイクに乗ってください」

 

「それはかまわねぇがティアナ、バイクにそんなに乗れるか?」

 

「少しぐらい定員オーバーでも大丈夫ですよ。それに、ヴァイス陸曹からはどんな風に扱ってもいいって言われてますから」

 

 聖の心配をよそに、ティアナはそういいきると「さぁ早く!」と急かした。

 

 はやてと聖はそれに頷くと、バイクへと乗り込んだ。

 

「それじゃあしっかり掴まってて下さいね。行きますよ!」

 

 ティアナはそういうとスバルと共に出口に向かって走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衛星軌道上に浮かんでいるクラウディアのブリッジでクロノは難しい表情をしていた。

 

「……ゆりかごが上がるまであと三分か」

 

 そう言う彼の手にはアルカンシェルのキーが握られており、目の前には発射用の鍵穴型のモニタが浮かんでいた。

 

「帰って来い。なのは、はやて、聖……!!」

 

 友人達の名を呼ぶと、それに答えるように女性オペレーターが声を発した。

 

「提督! ゆりかご内の最深部にいた高町なのは一等空尉、ならびに八神部隊長、白雲聖執務官がスバル・ナカジマ二等陸士、同じくティアナ・ランスター二等陸士によって救助されたとの連絡が入りました!」

 

 その報告を聞き入れた瞬間、クロノは肩の荷が下りるような感覚に襲われたが、気を緩める事はなく、冷静に言い放った。

 

「まだ気を抜くなよ。ゆりかごが軌道上に上がり次第、アルカンシェルの正射を始める。他の艦にも連絡を」

 

「はい!」

 

「……ここからは、こちらの仕事だ」

 

 クロノは真剣な眼差しでゆっくりと衛星軌道上に上がってくるゆりかごを見据えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆりかごから脱出を遂げたスバルたちはヴァイスが操縦するヘリに戻った。

 

 ヘリにはヴィータやシャマルの姿もあり、帰ってきたなのはやヴィヴィオ、はやてを出迎えた。

 

 ヴィータは血まみれで大丈夫か疑いそうになったが、割と元気そうであった。

 

 聖もクラウンを待機状態に戻し、皆の下に行こうと一歩足を踏み出した。

 

 が、その瞬間、彼の視界がぐにゃりと歪み腹の底から何かがせり上がってくるのを感じた聖は、口元を押さえる。

 

「聖くん?」

 

 なのはが聖の異変に気がついたのか、声をかけるが、聖はそのまま覚束無い足取りで開きっぱなしだったハッチの方まで行ってしまった。

 

「聖くん!? そっちはあぶな……」

 

 なのはがそこまで言ったところで、聖は口から大量の血を喀血した。

 

 その光景に皆が驚愕の声を上げる。

 

 しかし、聖は皆を安心させようと笑みを見せながら皆に言う。

 

「だい……じょうぶ、だ。……俺なら……へい……き」

 

 瞬間、聖はヘリのハッチから落ちた。

 

 一瞬の静寂がなのは達の間に流れたが、次の瞬間、なのはが聖を追うようにヘリから飛び出した。

 

「なのはちゃん!?」

 

「ママ!?」

 

 はやてとヴィヴィオの声が後ろから聞こえた。しかし、「ごめん」と心の中で彼女達に謝ると、なのはは重力に引かれるまま落下していく聖を掴もうと手を伸ばした。

 

「聖くん!! 手を伸ばして!!」

 

 なのはの声が聞こえたのか、聖はゆっくりと手を伸ばした。なのはと聖の手は何度かかすったが、やがてなのはが聖の手首をがっちりと掴んで自分の方に引き寄せた。

 

 ……魔力は少ないけど、地表ギリギリで放出できればクッションが出来るはず!!

 

 決死の覚悟で迫る地表を見つめるなのはは、聖のダメージが少ないように彼を胸に抱きこむ。

 

 しかし、地表まであと五十メートルほどまで迫った瞬間、彼女の視界の端に金色の閃光が光った。

 

 それを見た瞬間、なのははかけがえのない親友の名を呼んでいた。

 

「フェイトちゃん!!」

 

 瞬間、なのはと聖は地にぶつかるギリギリでフェイトに抱きとめられた。

 

「間に合った……!!」

 

「うん! ありがとう」

 

 なのははフェイトに礼を言い、フェイトもそれに頷くと、ゆっくりと二人を降ろした。

 

「二人とも大丈夫?」

 

「うん、私は大丈夫なんだけど、聖くんが……」

 

 なのはが言うとフェイトも聖の方に視線を向ける。彼の口の周りには真っ赤な血がこびり付いており、胸を苦しそうに押さえては口から大量の血を吐いていた。

 

「ゲホッ! う……ぐぅ……!!」

 

「聖!! しっかりして聖!!」

 

「聖くん!!」

 

 二人が呼びかけると、待機状態でいたクラウンが二人に声をかけた。

 

〈お二人とも、まずは冷静にシャマル様を呼んでください。あと、病院の確保を〉

 

「う、うん! わかった」

 

 フェイトは言うと通信回線を開いてシャマルと他の医療スタッフに連絡を取った。

 

 遥か軌道上ではアルカンシェルによって撃たれたゆりかごが大きな爆発を起こしていたが、なのは達は聖を助けるのに必死だった。




OH……前回の更新から三ヶ月近くたってしまったYO……
申し訳ない。

結構駆け足でしたが、これで戦争終了です。

ではそのあとの話はどうなりかと申しますと、次回で聖がどうなるかをやって、その次で後日談って感じですかね。

では、感想などありましたらよろしくお願いいたします。

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