魔法少女リリカルなのはStrikerS-King Seong clone of another-   作:炎狼

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決戦 前

 聖が聖王の力を解放する少し前、なのははレイジングハートのストライクフレームを展開しながら、ゆりかごの船内を突き進んでいた。途中何体ものガジェットが道を塞ごうとなのはを妨害するが、なのははそれをお構いなしに突き進む。

 

 レイジングハートの先端部に半実体化している魔力刃は魔力密度がかなり濃いためか、なのは特有の桃色の光ではなく、紅に近い色に染まっている。

 

 ストライクフレームを発動した状態で、ガジェットの間の僅かな隙間を一直線に駆け抜けるなのはの近くにいたガジェット達は、なのはが発動している『ACSドライバー』の影響なのか、次々に破壊、粉砕されていく。

 

 なのはが発動しているこの『ACS』は『加速突撃システム』と言う意味であり、また、『ドライバー』というのは『突撃突破技術』の一般名称でもある。

 

 魔法とすれば単純であり、防御を固め突撃。敵陣を突破するというものであるが、なのはの重装甲かつ、加速度。そして、ストライクフレームによる攻性フィールド生成能力も相まってか、本来の突破だけではなく、破壊しながら突き進むという凄まじい離れ業を可能としている。

 

 そして、なのはの通り過ぎた後ろには独特の桃色の魔力光が残されていく。

 

 ……外はどうなってるのかな? 聖くんやスカリエッティのアジトへ踏み込んだフェイトちゃんや、地上で戦ってるスバル達も気になる……。

 

 心の中でそれぞれの顔を思い浮かべながら、なのはは歯噛みした。しかし、すぐに顔を横に振ると大きく息をついた。

 

「……大丈夫。みんなならきっと勝つ。私も今は自分がやるべきことをしなくちゃ」

 

 皆を信じ、自らのなすべきことをもう一度再確認するように呟いたなのはは、強い光をその双眸にともし、ヴィヴィオの元へと急いだ。

 

 

 

 

 

 なのはが突き進む道の途中には、イノーメスカノンを構えるナンバーズの十番。ディエチが待ち構えていた。

 

 まだなのはの姿は確認できていないが、既に補足はしており、展開してあるモニタはなのはの現在地を知らせていた。

 

 しかし、ディエチは撃っていいものかと顔を曇らせていた。

 

 現在、玉座の間にはクアットロとヴィヴィオがいる。クアットロの言われたとおりなのはを撃墜するべくやって来たはいいものの、どうしても玉座に座らせられているヴィヴィオの事が気になって仕方がないのだ。

 

 うわごとのように「ママ」や「パパ」といった言葉を繰り返すヴィヴィオは見るに耐えないほど痛々しかった。

 

「私が討とうとしてるのは……あの子のお母さん……なんだよね」

 

 俯きながら呟くが、そこへクアットロが見計らったかのように通信を入れてきた。

 

『はぁい、ディエチちゃーん? 準備はいいー? そろそろ、陛下を取り戻そうなんて考える馬鹿な女がそこに来るからぁ。容赦なくぶっ放してぶっ殺しちゃってね~』

 

「……了解」

 

 笑みを浮かべながら言うクアットロだが、今のディエチにはその笑みが恐ろしくて仕方がなかった。

 

 元からディエチはあまりクアットロのことを好いてはいない。任務で一緒に行動することは多かったものの、あの何を考えているのかわからない言動や態度が気味が悪くてしょうがないのだ。

 

 ディエチは通信をこちらから断ち切り、イノーメスカノンを構えなおす。既に魔力の充填は完了しており、いつでも打ち出せる状態だ。だが、ディエチはまだ迷っていた。

 

 ……私達がやっていることは本当に正しいことなのかな? たくさん人を傷つけて……あんな小さな女の子まで利用して……。

 

 苦悩するディエチの目尻には僅かに涙が溜まっていた。そして、なのはが現れた。ディエチもそれを迎撃しようと砲門を向けるが、引き鉄を引くことが出来ない。

 

 すると、ディエチは構えを崩し、イノーメスカノンに充填されていた魔力を霧散させると、それをなのはの方に放った。

 

 ガランと音を立てて床に転がるそれをディエチは見つめた後、なのはに両腕を差し出した。なのははその意図を理解したのか、彼女の手とカノンにバインドを施した。

 

 ディエチはその場に膝をつくと、俯いたままなのはに対し、ポツリと呟くように告げた。

 

「……あの子ならここを真っ直ぐ行った玉座の間にいるよ。私が言えたことじゃないと思うけど……あの子を助けてあげて」

 

 ディエチの言葉になのは頷くと彼女の肩に手を置き、

 

「ありがとう」

 

 と告げ、その場から去って行った。

 

 なのはが消え、ディエチは壁際に膝を抱えるようにして座った。

 

「ゴメン……みんな。だけどさ、私に撃てないよ……」

 

 他の姉妹達へ謝罪しながらディエチは俯むいた。

 

 

 

 

 

「あ~らら。まったくディエチちゃんもお嬢様も使えないんだから。まぁいいわ……陛下ぁ? 聞こえてますぅ? 貴女はあの子たちみたいにならないでくださいねぇ」

 

 ディエチの姿を確認したクアットロは呆れた表情をしつつも、隣に座るヴィヴィオに甘ったるい声で告げる。

 

 しかし、ヴィヴィオはそれに頷くことはせず、ただ小さく「ママ……パパ……」とだけ呟いた。

 

 

 

 

 

 

 時を同じくして、ヴィータは駆動炉への道を進んでいた。何度かガジェットが出てきたが、ヴィータはそれらを全て軽々と撃墜していく。

 

 しかし、なにぶん数が多く、さらには高密度のAMFが影響してか、彼女は少しばかり息が上がっていた。

 

「あぁくそ! どんだけいんだよ!!」

 

 愚痴をこぼしながらも近寄るガジェットをなぎ倒すヴィータは、前方に広がる長い通路を見据える。

 

 通路の先はぼんやりと赤い光を帯びており、その先に何かがあることは明白であった。

 

 ……多分あの先にあるのが駆動炉であると考えて間違いないよな。駆動炉をぶっ潰しゃゆりかごは止まるだろ。

 

 あらかたのガジェットを叩き潰したヴィータはそのまま歩を進める。

 

 しかし、途中妙なことに気付いた。

 

 先ほどまでアレだけ大挙として押し寄せていたガジェットの猛攻が止んでいるのだ。その妙な空気に違和感を覚え、辺りを見回してみるが、特に変ったことは見られない。

 

 首を傾げながらもヴィータは再び歩み始めようと、第一歩を踏み出した。

 

 その瞬間、凄まじい殺気が自身のすぐ後ろに現れたのをヴィータは感じた。すぐさま回避行動をとり、その場から飛び退くが、敵の刃は彼女の腕を掠め、刃がかすったところからは出血が見られた。

 

 ヴィータは敵の姿を確認しようと後ろを見た。

 

 瞬間、彼女の顔が怒りのそれに変わった。

 

 彼女が目にしたのは、四足で一つ目のガジェットに似た機械だった。しかし、そんなことよりも彼女は十年前のことを思い出していた。

 

 なのは達が本局に着任してから間もない頃、なのはが正体不明の敵に撃墜され、大怪我を負った事件のことだ。

 

 目の前の敵はあの時にヴィータが叩き潰した敵と同じ形をしていたのだ。

 

 すると、ヴィータはギリッと歯をかみ締めると、怒りを露にしながら叫んだ。

 

「テメェはああああああああぁぁぁ!!!!」

 

 その凄まじい速度の攻撃にガジェットのような機械は反応することが出来なかったのか、あっという間に潰されてしまった。

 

 ボロボロの状態の敵を睨みつけながら興奮した様子でいるヴィータだが、彼女の視界にまたしても嫌な影が移りこんだ。

 

 先ほどまでガランとしていた通路の先に今ヴィータが破壊したものと同じ形状の機械が大量に展開し、こちらに押し寄せていたのだ。

 

 ヴィータはそちらを睨みつけると、グラーフアイゼンからカートリッジを吐き出させた。

 

「……いくらでもかかって来いよ……。駆動炉ぶっ壊す前に、まずテメェらから叩き潰してやる!!!! 行くぞアイゼン!!!!」

 

〈了解!〉

 

 命じられたグラーフアイゼンも声高々にそれに答えた。

 

 ヴィータはグラーフアイゼンを担ぎ、敵の群れの中に突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 旧市街、一つの廃ビルではティアナが三人のナンバーズ、ウェンデ、ノーヴェ、ディードとの戦闘を繰り広げていた。

 

 しかし、優勢とは言えずかなりの劣勢の追い込まれていた。脱出しようにもビル全体を敵の能力である結界が邪魔をして、脱出することはかなわない。現在は瓦礫の影に隠れシューティングシルエットで凌いでいるが見つかるのも時間の問題だろう。

 

 右足からは血が流れており、現状の苦しさを物語っているようだった。

 

 すると、クロスミラージュが警告を発した。

 

〈発見されました。真っ直ぐとこちらへ向かってきます〉

 

「シューターとシルエットは制御。現状維持……!」

 

 多くの幻影を出しているためか、体力の消費がかなりのものであるのか、ティアナは息も絶え絶えだ。彼女は立ち上がると魔法陣を解いた。

 

 ……カートリッジも魔力もあと少し。右足も潰されている……。

 

「……ホント、最悪な状況……」

 

 悔しげに呟いたティアナはクロスミラージュを自身の顔の横に持ってくると、

 

「……実を言えばさ、結構前から気付いてたんだ。私は隊長達みたいに何でもできる万能型じゃないってことは……。だけどさ……絶対に諦めるわけにはいかないよね」

 

 ティアナがそこまで言った所で天井を貫き、砂煙の中からディードとノーヴェが現れた。

 

 最初に攻撃を仕掛けてきたのはディードだ。彼女はツインブレードを振りかぶり、ティアナに斬りかかる。

 

 だが、ティアナも負けておらずクロスミラージュをダガーモードにした状態でそれを受け止めていた。しかし、ティアナはディードの後ろからノーヴェが来るのを見た。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 雄たけびを上げ、回転しながらティアナに蹴りが放たれた。

 

 その場にまたしても砂煙が舞い上がり、皆の視界を奪う。

 

 視界が晴れると、段々とそれぞれの顔が露になってきた。ウェンディはティアナが離脱したときを見計らいシューターを展開させていた。ディードは落ち着いた様子でブレードを構えなおし、ノーヴェは一人、苦い表情を浮かべていた。

 

 その理由は彼女の足に装備されている、ジェットエッジがティアナによって損傷させられたのだ。

 

 一方ティアナはと言うと、クロスミラージュを両方ともダガーモードにし二つのシューターを展開させている。

 

 その様子に三人はじりじりとゆっくり距離を詰め始める。三人は互いに距離を詰めながら思念通話を送る。

 

(偽者じゃなさそうッスね)

 

(ああ。本物だよ)

 

(慎重に行きましょう。一気に三人で畳み掛ければいけます)

 

 通話を送りあいながら、三人は目配せをする。

 

 ティアナはダガーモード状態のクロスミラージュを構えながら三人のポジション取りを確認していた。

 

 ……やっぱり、最初と同じ陣形。この三人の連携は確かに厄介だけれど、鉄壁じゃない。一つだけ穴がある。

 

 呼吸を落ち着けながらティアナは確信した。

 

 ……この連携の初撃を防ぐことが出来れば、勝機はある。

 

 にじり寄る三人を睨みながら、ティアナは三人の初動に目を凝らした。

 

 

 

 

 

 

 地上本部周辺の空域ではシグナムとゼストがぶつかり合っていた。

 

 二人は互いにユニゾンをしており、シグナムはピンク色の髪から薄い紫色の髪に変化していた。ゼストもまたアギトとユニゾンした影響か髪の色が金色になっていた。

 

 数回ぶつかり合った後、二人は対峙した。そしてシグナムがゼストに問う。

 

「ゼスト殿。貴方に聞きたい事があります」

 

「なんだ?」

 

「地上本部を目指すのは、レジアス中将に会うためですか?」

 

「……どうだろうな。場合によっては殺してしまうかもしれん」

 

 低い声音のままシグナムの問いに答えるゼストの瞳は悲しげだった。

 

「嘘はやめてください。貴方はレジアス中将を殺すつもりなどないでしょう」

 

「フッ……。お見通しと言うわけか。しかし、だからと言って道を開けてくれるわけでもないのだろう?」

 

 小さく笑うゼストに対し、シグナムは無言のまま頷いた。するとゼストは、自身のデバイスを構えなおしシグナムに言い放った。

 

「では、力で押し通らせてもらうとしよう! すまんがアギト、もう少しだけお前の力を貸してもらうぞ」

 

(ア、アタシはいいけどよ、旦那の身体は平気なのかよ!?)

 

「心配はいらん。その様な柔な鍛え方はしていない」

 

 アギトの心配を何処吹く風と言ったようにゼストは冷静に答えた。

 

 その様子を確認したシグナムもユニゾンしているリインに話しかける。

 

「あちらも本気で来るな。覚悟はいいか? リイン」

 

(ハイです! なんとしてもあの人たちを止めないといけませんから、がんばります!)

 

「その意気だ。行くぞ!」

 

 シグナムはレヴァンティンを構え、ゼストへと斬りかかる。ゼストもまたそれに反応し、デバイスを構えた。

 

 

 

 

 

 皆が戦闘を行っている中、ヴァイスは一人病室で戦闘が繰り広げられている空を見上げた。

 

 傷は完治しているというわけではないが、歩くことは出来る。先ほど、妹のラグナがヴァイスの元を訪れていた。

 

 ラグナの左目の視力は数年前、ヴァイスがその手によって奪ってしまったのだ。ヴァイスが故意にラグナの目を狙ったわけではなく、彼の失敗が結果としてそれを生んでしまったのだ。

 

 ヴァイスが起こした失敗とは、単純に言ってしまえば狙撃ミスだ。ラグナを人質に取った立て篭もり犯の腕を狙ったものがほんの少しずれてしまい、ラグナの左目に直撃してしまったのだ。

 

 通常、狙撃手や射撃手をはじめとする魔力弾の使い手たちは、状況に合わせ魔力弾の設定をする。もっとも単純な物理攻撃での設定や、物理破壊を伴わず、生体のみにショックを与える非殺傷などのスタン設定など、種類は様々であるが、その時ヴァイスが狙撃したのはスタン弾だった。

 

 しかし、たとえスタン弾と言っても、高速狙撃であるためその弾は硬く鋭いものである。それがまだ幼いラグナの瞳の眼球内部の組織を破壊してしまい、ラグナは視力を失ったのだ。

 

 以来、ヴァイスは己の失敗を責めるようになった。当たったのが目でさえなければ、自分の非殺傷設定の魔力弾の生成能力がもっと高ければ、ごく軽い怪我で済んだかもしれない。他にも、狙ったのが腕ではなく他の部位だったならば、タイミングを少しだけずらしていれば。など、いくつもの要因が彼を自責の念に追い込んでいった。

 

 人前では明るく振舞っていた彼も、心の奥では、かなりの精神的ダメージを負っていたのだ。

 

 それがあの燃え盛る機動六課の隊舎で出会った少女、ルーテシアを撃てなかった理由でもあるのだ。

 

 ……情けねぇ話だまったくよぉ。

 

 悔しげに歯噛みをするヴァイスはザフィーラが出て行った扉を見つめた。

 

 ……旦那はあんな体でもやるべきことがあるって出て行った。じゃあ、俺のやるべきことはなんだ? ここでうじうじ縮こまってることか? ……いや、違う!

 

 ついに決心がついたのかヴァイスはテーブルの上に置いてある愛機、ストームレイダーを掴むと病室を後にした。




聖くんが活躍すると言ったな……アレは嘘だ。 ←言ってない

今回は残念なことに聖くん出番なし!!
まぁ前話で覚醒したからいいよね!!

ディエチはなんとなく好きなキャラだったので打たせることはしませんでしたw
とりあえずはこれで全員の前半戦終了。
あとは後半戦でございます。

少々原作と同じですが、それぞれの倒し方が少々違ったりするのでまるっきり同じと言うわけでもありません。

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