魔法少女リリカルなのはStrikerS-King Seong clone of another-   作:炎狼

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告白

 アースラがミッドに運ばれてから数日、六課のスタッフはアースラへと拠点を移していた。その中の一室、トレーニングルームでは聖とエリオが互いにぶつかり合っていた。この訓練はエリオが言い出したもので、聖もそれを了承し、既に一時間以上訓練にはげんでいる。

 

「ハァッ!!」

 

 気合と共にストラーダによる光速の突きを放つエリオだが、聖はそれを安綱の刃で滑らせるとそのままエリオに肉薄し、彼の腹部に蹴りを叩き込む寸前で止めた。

 

「これで一回お前は吹っ飛ばされたな。訓練だからいいが実際の戦闘だったら大きな隙を作ることになるぜ」

 

「は、はい! わかりました」

 

 聖はエリオから足をひきながら言うと、踵を返し壁際に置いてあったスポーツドリンクをエリオに放り投げる。

 

「少し休憩にするか」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 エリオは言うと聖の隣に腰掛けた。

 

「聖さんの戦闘スタイルって剣術だけじゃなくて体術も入ってますよね」

 

「ああ。どっちか一つに偏るよりは二つできた方がいろいろと便利だしな」

 

「なるほど……。僕もそれぐらい器用だったらいいんですけどどうしてもそういうことが出来ないんですよね」

 

 エリオは少し肩を落としながら残念そうに呟くが、聖はそんあエリオの肩に手を置きながら告げた。

 

「別に一つしかできないことが悪いってわけじゃねぇ。一つしか出来ねぇならそれを極めりゃいい、そうすりゃどんな敵にだって負けることはねぇ。つーか、お前はまだ9歳だろ? だったらこれからいくらでも進化できるさ」

 

 微笑みながら言う聖にエリオは内心憧れを抱いた。聖はエリオからすれば面倒見のよい兄のような存在だった。このように訓練にも付き合ってくれているし、相談にも乗ってくれていた。

 

 ……僕も聖さんのようになれるのかな。

 

 拳を握り締め、目に強い光を宿しながらエリオは立ち上がると聖に向き直り、

 

「聖さん! もうちょっと訓練に付き合ってください! あと少しで何かつかめそうなんです!」

 

「おう、いいぜ。お前が満足するまで何時間でも付き合ってやるよ」

 

 聖も立ち上がると、再びエリオと対峙した。

 

 

 

 

 

 エリオとの訓練を終えた聖は昼食を済ませようと食堂に向かった。トレイを受け取り席に着いた聖は食堂の一角で一人ぽつんと食事をしているキャロを見つけた。彼女は若干俯いており、食事があまり手についていないように見える。フリードもそんなキャロが心配なのかテーブルの上で首をかしげている。

 

「相席いいか、キャロ」

 

「えっ! あ、はい大丈夫です!」

 

 聖が声をかけるとすぐに顔をあげ、笑顔で接してくるが、どことなくその笑顔は悲しげな色も孕んでいた。

 

「何か悩み事か?」

 

 聖が聞くと、キャロはもう一度俯き暫くとするとポツポツと話し出した。

 

「……不安なんです。六課の隊舎が燃えていて、エリオ君が傷ついて、自分の感情が制御できなくなってヴォルテールを召喚してしまって、もしかしたらまた同じことをやってしまうかもしれないことが不安でたまらないんです」

 

「そりゃそうだよな。だけどなキャロ、一回の失敗で全てがだめになることなんてないんだ。それにお前とエリオには話したい子がいるんだろ?」

 

「はい。あの子……ルーちゃんは孤独な目をしてました。だから、あの子をその孤独から助けてあげたいんです」

 

 言い切るキャロは僅かに目を潤ませていた。すると聖はキャロの手を握りながらまっすぐと彼女の瞳を見つめ、

 

「いいか、キャロ。お前はとっても優しい子だ。きっとお前の気持ちもその子に絶対届く。だから絶対諦めるな、何があってもどんなに悲しいことがあっても、どんなに苦しいことがあっても絶対に諦めるな。自分の力を信じて戦いぬけ」

 

 その言葉を聴いたキャロはハッとした風な顔をすると、目尻に溜まった涙を払い聖に向き直ると、

 

「はい! 私、絶対諦めません!!」

 

「キュクルー!」

 

 キャロの発言に呼応するようにフリードも大きく鳴いた。聖はキャロとフリードの頭を撫で、その後は二人で談笑しながらの食事となった。

 

 

 

 

 

 キャロとの食事を終え、聖は安綱の調整のためデバイスルームへと向かった。中に入ると、そこにはマリエルと、スバルにティアナがいた。

 

「あ、聖さん。どうしたんですか?」

 

「ちょっと安綱の調子見てもらおうと思ってな。マリーさんお願いできますか?」

 

「うん、いいよ。スバルのマッハキャリバーも安定してきたしね」

 

 安綱を受け取りながらマリエルは答え、皆はマッハキャリバーに目を向ける。確かに、ボロボロだったコアも既に修復が済んでいるのか綺麗になっていた。

 

 スバルはそんなマッハキャリバーを見つめながら、

 

「ごめんね、マッハキャリバー、無茶させちゃって。今度は絶対に傷つかせないから」

 

 悲しげな面持ちのまま自らの愛機を見つめるスバルに聖は後ろから声をかけた。

 

「スバル……お前とギンガの出生ははやてから聞いた。今から言うのは俺の直感だけど聞いてくれるか? ティアナもいいか?」

 

「はい」

 

「大丈夫です」

 

 二人が頷いたのを確認した聖は真剣な面持ちで切り出した。

 

「おそらく、ギンガは敵になる」

 

「っ!?」

 

「そんなっ!?」

 

「ありえない話じゃない。スカリエッティはあの戦闘機人たちを作ったんだ。てことは、それを自分の思うように動かすことも可能だろ」

 

 驚愕に顔をゆがめる二人に聖は冷静に言い放つ。それを見ていたマリエルが、聖に言った。

 

「聖くん……流石にそれは言いすぎだと思うよ」

 

「はい、自分でもそう思います。だけど、二人にはわかってもらいたいんです。……で、どうだ? もしギンガが敵になったときお前たちは戦えるか?」

 

 聖の問いに二人は顔を見合わせると、聖をまっすぐと見据え、力強く答えた。

 

「戦えます。戦って勝って、そしてギン姉を取り戻します!」

 

「私も、諦めずに戦い抜きます。どんな危機的な状況になっても諦めません」

 

 二人の決意を聞いた聖はニヤリと満足そうな笑みを浮かべ、二人の頭をガシガシと乱雑になでた。

 

「それだけ覚悟できてりゃ大丈夫だな。だけど忘れんなよ。お前らは一人で戦ってるんじゃない。俺達全員で戦ってるってことを」

 

「「はい!」」

 

 力強い返事を聞いた聖はデバイスルームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 夜になり、聖たち隊長陣はブリーフィングルームに集まっていた。

 

「スカリエッティ達は地上本部の各拠点を潰して回っているようです。既に多くの被害が出ていますが地上本部はまだスカリエッティ達の拠点はハッキリしていないようです」

 

 シグナムが投影モニタを使いながらはやてに報告すると、はやてもそれに頷きながら皆に告げた。

 

「奴等の拠点探しは今、ロッサとシスターシャッハが組んで探ってくれとる。ロッサの報告からすると、もう少しで割り出せそうなんやけどまだ確証にはいたってないみたいや。他に何かあるか?」

 

 はやての聞き返しに皆が首を振るが、一人、聖だけが手を上げた。彼は立ち上がると、皆のほうを見据えながらいつもより思いトーンで語りだした。

 

「スカリエッティ達の報告じゃないんだが……。皆に話すことがある。明日、またここに集まってくれないか? こんな状況で勝手だとは思うが頼む」

 

「今じゃだめなんか? 聖くん」

 

「出来れば新人達や他の皆が聞いてくれる状況がいい。本当に勝手だが頼む」

 

 はやての切り返しに聖は頭を下げた。はやてもそれに頷くと、

 

「……わかった。ほんなら明日の十時頃新人達も合わせて皆ここに集合や。持ち場から動けない他のスタッフにはモニターを通じて配信するけどええか?」

 

「ああ。ありがとう、はやて」

 

「ええよ。仲間なんやからあたりまえやろ?」

 

「そう……だな……」

 

 聖の胸に仲間という言葉が重く突き刺さった。

 

 ……俺はこんな風に俺のことを仲間と思ってくれる奴等に隠し事をしてきた……。それ相応の報いは受けるんだろうな。

 

 奥歯をかみ締めながら自分のしてきた行動を呪った。

 

「じゃあ、今日はこれでお終いや。皆明日に備えてゆっくり休んでな?」

 

 はやての号令に皆従い、それぞれ自分達の部屋に戻っていった。

 

 聖もまた同じように部屋に戻る中、なのはとフェイトに呼び止められた。

 

「聖くん!」

 

「どした? 二人とも」

 

 聖はいつものように返してみるが、フェイトとなのはは顔を見合わせると、

 

「聖、何か無理してない?」

 

 フェイトの問いに聖は笑顔を崩し、俯きながら悲しげな表情になった。

 

「……どうして、そう思う?」

 

「何か今日の聖くんは笑っててもとっても悲しそうだったから……もしかしてヴィヴィオのことが?」

 

 二人の問いかけに聖は小さく溜息をつくと、壁に背を預けながら言い出した。

 

「確かに、ヴィヴィオのことは心配だ。今にでも助けに言ってやりたいぐらいにな。だけどそれ以上に、俺のことを仲間だって信頼してるお前らに隠し事をしてきた俺のことがどうしようもなく情けなくて、悔しいんだ……!!」

 

 壁を拳でたたきながら言う聖は唇をかみ締め、目を手で覆っていた。その様子を見た二人は聖に駆け寄り、

 

「一体どうしたの? 隠し事って?」

 

「もしかしてさっき言ってたこと?」

 

「あぁ……。俺はお前らに隠し事をして、それのせいでヴィヴィオも……ギンガも……!!」

 

 聖の目からは一筋の涙がこぼれ、それは彼の頬を伝った。涙がこぼれたのを見たなのはとフェイトは互いに頷き合うと、聖の腕をロックし二人の部屋に連れて行った。

 

「お、おい! お前ら何を!」

 

「いいから! 聖くんは黙って付いてきて」

 

 なのはに一蹴され、聖は黙った。

 

 部屋に辿り着くと聖はソファに座り、なのはとフェイトはベッドに座った。ちょうど向かい合うような感じだ。

 

「聖くん、はやてちゃん達にはちょっと申し訳ないけど……。私達に話してくれないかな、聖くんが隠してたことを」

 

「うん。少しでも心を軽くしないと、このままじゃ聖が壊れちゃうよ」

 

 二人の心配そうなまなざしに、聖は首をゆっくりとたてに振った。そして彼はポツリポツリと語りだした。

 

「……俺がお前らに隠し事をしていたのは最初からだ。地球出身の魔導師といったが本当はぜんぜん違う」

 

「それって、ミッド出身って事?」

 

「ミッド出身といえばミッド出身なんだろうが……俺には母親と父親がいない。地球にいるのは義理の父親と母親だ。簡単に言っちまうと、俺は人工的に生み出された人間だ」

 

「それって……私と同じ……クローンってこと?」

 

 フェイトの問いに聖は静かに頷いた。それに驚きを隠せないのか二人は口元を手で覆ってしまった。三人の間に沈黙がはびこるが、なのはが意を決したように聖に問うた。

 

「でも聖くんはその……一体誰のクローンなの?」

 

「……ヴィヴィオと同じだ。俺は古代ベルカの聖王オリヴィエのクローンだ」

 

「聖王オリヴィエの!? でも史実だとオリヴィエは女性だって……」

 

「ああ。だから俺はアイツ……スカリエッティからこう呼ばれていたよ『失敗作(エシェク)』ってな。本来クローンであるはずなら、俺も女として生まれてきたんだろうがどこかで乱れが生じて俺は男として生まれてきたってわけだ」

 

 自嘲気味に言う聖だが、二人は未だに聖の言っていることがうまく飲み込めていなかった。しかし、自分達には知っておく義務があると感じたフェイトは、さらに聖に問う。

 

「聖はスカリエッティに育てられたの?」

 

「いや、正確にはナンバーズの二番、ドゥーエってやつだ。生まれた頃から常にドゥーエがいたことを覚えてる。そして、俺は六歳まであらゆる戦闘訓練、実験を受けさせられた」

 

「実験って?」

 

「聞くと相当エグイがいいのか?」

 

 聖の切り返しに二人は緊張しながら頷いた。聖もそれに頷いて返すと口を開いた。

 

「自分を殺させるんだ」

 

「自分を……殺す?」

 

「それってまさか!?」

 

「ああ、そうだフェイト。実験では俺のクローンを何体も作り出してそして俺自身と戦わせ、殺し合いをさせるものだった。これが開始されたのは俺が四歳のころだ。それから毎日毎日一人ずつ俺は俺を殺し続けた」

 

 あまりに残酷な実験に二人は声が出なかった。しかし、なのはは何とか口の中に溜まった唾を嚥下する。

 

「でも、どうしてそんな残酷なことを……」

 

「さぁな、狂ったあいつの考えることなんざわかんねぇよ。けど、俺はその日々に段々と恐怖を抱くようになって、六歳の頃研究所から持ち去った時空間転移装置をもって飛び出し、何とか地球に辿り着いたってわけだ。そして気を失っている俺を助けてくれたのが白雲夫妻だった。二人は俺が何者であるかなんて事は聞かずにただ俺を、育ててくれた。とても優しい人達だったよ。白雲の家で半年を過ごした俺は安綱と一緒に二人に俺のことを話した。最初は二人とも驚いてたけど、すぐに理解してくれたよ。だけど、俺が十八歳になるまでは地球にいろって言われてさ、俺は十八になるまで地球で過ごし、十八になると同時にわざと大規模な魔力を使って管理局に見つけてもらおうと思ったんだ。そして、ちょうど地球に来てたクロノ提督に拾われてそのままあの人の隊にはいったんだ」

 

 長い説明を終えた聖は話す前と比べると若干、憑き物が取れたようにすっきりとした表情をしていた。するとフェイトは疑問に思ったのか聖に聞いた。

 

「もしかしてなんだけど、ヴィヴィオも聖と同じ実験を?」

 

「いや、その可能性はない。ヴィヴィオが見つかった状態からして、あの子はまだ生み出されたばかりだ。だけど、あの子は俺と違い本物のクローンであり、しかも成功体だ。おそらく『ゆりかご』を動かす鍵にされちまうだろう」

 

「ゆりかごって?」

 

「古代ベルカの聖王家が持っていた戦艦だ。聖王家はその船の中で暮らし、子孫を反映させていったことからその名がついたらしい」

 

「だけどゆりかごは存在しないって……」

 

「いや、絶対に存在する。そうじゃなきゃスカリエッティが俺達を作ることなんてしないからな」

 

 真剣な面持ちで言う聖に二人も静かに頷く。

 

「このことクロノは?」

 

「知ってる。本局で俺のことを秘密を知ってるのはあの人だけだからな。……お前らには黙ってて本当にすまなかった。俺が自分のことを偽っていたばっかりに皆を危険な目に合わせて」

 

 聖はソファから降りると、二人に対して土下座をして謝った。聖のその行動に二人もしゃがみこみ、彼の肩に手を置きやさしく告げた。

 

「ううん、そんなことないよ。だって聖くんは私達にはなしてくれたじゃない。思い返すのだって辛いことを包み隠さず全部。それに、一緒に働いてるときの聖くんには偽りの感情なんてなかった。私達と真正面から向き合ってくれた」

 

「うん。聖は私達を騙そうなんて微塵も思ってなかったよ。もしそんなことをたくらんでる人なら、こんな話してくれないもん。それに聖だっていつも言ってるじゃない、『過ぎたことは変えられない』って。それって過去に縛られるんじゃなくて、未来を自分で切り開けって意味も入ってるんでしょ?」

 

 二人は聖の肩を持つと、彼の上体を起こさせた。そして彼の背中に両側から手を回すと、優しく抱きしめた。

 

「ありがとう話してくれて。そして言わせて、大好きだよ聖」

 

「私からも言わせて。私も大好きだよ聖くん」

 

 二人の告白に聖はその双眸から涙をこぼし、二人をきつく抱きしめ言った。

 

「ああ……! 俺も大好きだ、なのは、フェイト……!!」

 

 三人はそのまましばらくの間抱き合っていた。

 

 

 

 

 

 翌日、宣言どおり、聖ははやてたちを含んだ六課の全員に自分のことを話した。

 

 最初は皆驚いていたが、皆なのは達と同じようにすぐに理解してくれて、大きな問題になることはなかった。

 

 そして、それから数時間後、アースラにアラートが鳴り響いた。スカリエッティ達が動き出したのだ。




今回は後半は聖の秘密暴露となりましたー

これでなのは達とはゴールインまで一直線ですw

感想などあればおまちしております。

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