魔法少女リリカルなのはStrikerS-King Seong clone of another-   作:炎狼

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覚悟

 ドゥーエと対峙しながら聖は頬を汗が伝うのを感じた。それを指の腹で拭うと、ドゥーエを見据えながら聖は問う。

 

「どうしてテメェがここにいる……」

 

「あら、テメェなんて……随分と怖い言葉を使うようになったのねエシェク。でも悲しいわ、あんなに可愛らしかった貴方がそんな目を私に向けるようになるなんて」

 

「質問に答えやがれ!!」

 

 思わず聖は声を荒げる。眉間には濃く皺がよっており、まさに鬼気迫っている。そんな聖の状態を見てもドゥーエは臆することもせず、話を続ける。

 

「懐かしいわね、貴方が出て行ってからもう十三年か。髪も染めてるみたいだから最初会った時はわからなかったわ。それに、目の色も赤だけになっているし……カラーコンタクトでも入れてるの?」

 

「最初に会った……? どういうことだ!」

 

「ホラ、覚えてる? 貴方ミッドの街中でガラの悪い連中から女性を救ったじゃない。アレは私よ」

 

 言いながらドゥーエは再度自分の顔をなでる仕草を見せる。同時に、顔だけでなく服装までも聖が助けた女性のそれに変わった。

 

 聖はそれに歯噛みしながら舌打ちをした。可笑しかったのかドゥーエは元の顔に戻しながらさらに告げる。

 

「あの時は私もまだ気付かなかったけれど……。ドクターからの連絡で知ってね、貴方だと確信した時は全身に快感が走ったわ」

 

 恍惚とした表情で言うドゥーエから聖は目を離さずに睨みつける。それでもドゥーエは笑みをなくすことはない。もはや笑みと言うよりも彼女からは狂気すら感じられた。

 

「ねぇエシェク。戻ってこない? 戻ってくればドクターや他の子たちも喜ぶわ」

 

「ふざけんな。誰があんなところに戻るかよ! 大体、俺はテメェらを捕まえるために来たんだ」

 

 安綱を振るい、ドゥーエに切先を向ける聖は強く言い放つ。それを聞いたドゥーエは肩を竦ませながら言う。

 

「そう残念ね。だったら話はこれでお終いにしましょうか。あぁ、そうそうこんなところで油を売ってる場合じゃないと思うわよ」

 

「何?」

 

「〝聖王の器(ヴィヴィオ)〟大丈夫かしらね」

 

 その名を聞いた瞬間、聖の顔が蒼白に染まる。同時にすぐさま思念通話でフェイトに連絡をとる。

 

「フェイト! 六課にはついたか!?」

 

『ごめん、今は戦闘機人の子達と戦ってる最中で……六課にはエリオとキャロが向かってる』

 

「わかった。……ヴァイス! 聞こえるか、ヴァイス!?」

 

 フェイトとの通話を切り、ヴァイスに通信を送るが聞こえてくるのはノイズだけだった。そして脳裏に浮かぶ最悪の光景。

 

「クソッ!!」

 

「どうやら、もう手遅れだったみたいね。じゃあねエシェク。今度会うときは昔みたいに〝おかあさん〟って呼んで欲しいわ」

 

 そう告げたドゥーエはそのまま闇に溶けるように消えていった。

 

 残された聖は唇をかみながら悔しげに毒づいた。

 

「……ちくしょう……!!」

 

〈聖様……〉

 

 安綱の心配そうな言葉も今の聖には届いていなかった。

 

 

 

 

 

 全てが終結したのは夜が明けてからだった。ギンガも攫われ、スバルも重傷を負い、そしてヴィヴィオが攫われた。不幸中の幸いは六課のスタッフに死亡者が出なかったことだろう。ヴァイスも負傷はしていたが命に別状はないとのことだ。

 

 しかし、六課の隊舎は焼け焦げ崩落していた。すぐの復旧は不可能だろう。そのボロボロになった六課の一角で聖は一つのぬいぐるみを見つけた。

 

 それはヴィヴィオが肌身離さず持っていたお気に入りのウサギのぬいぐるみだった。煤に汚れていたそれを聖は拾い上げると、煤を払うとそれを見ながら聖は悔しげに歯噛みをする。

 

 同時に彼の目尻からは涙が流れ始め、聖はその場に膝を付き床に拳をたたきつける。

 

「クソッタレが……っ!! 俺が……俺がもっと早くに気付いておけばっ!! ヴィヴィオもギンガも……!」

 

 するとそこへ、フェイトとなのはがやって来た。二人は慟哭する聖の姿を見て彼に寄り添い、彼を後ろから抱いた。

 

「聖くん……一人で苦しまないで。私たちもいるから」

 

「うん。ヴィヴィオは必ず助け出そう。私たちで」

 

 二人の励ましの言葉に聖は小さく頷いた。聖は流れ出ていた涙を拭うと、二人の顔を見やる。二人は泣いていた。大粒の涙をこぼし、目を真っ赤にし声を殺して泣いていた。それを見た聖は、

 

 ……俺はなんて情けねぇ野郎だ。男の俺が涙こぼしてどうするよ。しっかりしやがれ!

 

 心の中で自らを奮い立たせながら、聖は二人に向き直り、二人の頭を胸に抱きこんだ。

 

「ごめんな、情けねぇところ見せちまった。……ヴィヴィオを助けよう。皆で」

 

 聖の言葉に、二人はそれぞれ答えると、ついに胸に溜め込んでいたものが声とともに吐き出された。

 

 二人が声を出して泣くのを聖は優しく受け止めた。

 

 

 

 

 

 その日の深夜。聖はスバルたちが入院している病院の屋上に立っていた。

 

「なぁ安綱よ、もう言うしかねぇよな」

 

〈そうですね。……今回の損害は私たちにも非があります。黙っていたのが裏目に出てしまいましたね〉

 

「あぁ。……本当に最低のバカヤローだな俺は」

 

 夜天に浮かぶ月を眺めながら聖は自嘲するように呟いた。

 

〈それを言うなら私もですよ〉

 

「……別にお前は悪かねーよ。俺が未熟すぎたんだ」

 

〈まぁ過ぎたことを気にしても何も変える事は出来ません。あと、もし皆に聖様のことを言うのであれば、もう少し待った方がいいでしょう。スバル様もあと少しで退院ですし、皆が一箇所に集まった時の方がよろしいかと〉

 

「ああ。そうだな」

 

 聖はそれだけ言うと、屋上から消えていった。

 

 

 

 

 

 翌日、聖ははやての元へと訪れた。

 

「はやて、いるか?」

 

「ん、おるよー」

 

 部屋の中からはやての声が聞こえ、聖は部屋の扉を開けた。中にははやてのほかに、シグナムやヴィータ、なのはにフェイトが集まっていた。

 

「ちょうどよかった、聖くんも呼ぶところだったんよ」

 

「何か進展でもあったのか?」

 

 聖の問いにはやてが頷くと、部屋のカーテンが閉められ照明が落とされた。同時に立体もモニターが投影され、そこには一隻の戦艦が映し出された。

 

「管理局保有のL級艦船アースラや。聖くんも見たことぐらいはあるか?」

 

「ああ、クロノ提督に見せてもらったよ。確かなのは達にゆかりのある船だったか」

 

「せや、私やなのはちゃん、フェイトちゃんが本局に入りたての頃ずっとこのアースラで仕事をしとったからな。かなり思い出深い船や」

 

「でも確かアースラはもうなくなるはずじゃ?」

 

 聖の問いにはやては頷きさらに話を続ける。

 

「確かに、アースラはもうなくなるはずやったんやけどな。今回六課があんな風になってしもて復旧は難しいやろ? せやからクロノくんに頼んで貸してもらうことができたんよ。アースラには休んでるとこ悪いけど……最後にもうひと踏ん張りがんばってもらいたいんや」

 

 はやての説明に聖が頷くと、フェイトが口を開く。

 

「スカリエッティの行動も段々過激になってきてるからね。動きながらスカリエッティの動向を探った方がより早く対応できるしね」

 

 確かに意見陳述会以降、スカリエッティは表立って行動するようになった。既に多数の負傷者も出ている。

 

「アースラがミッドにくるのは一週間後や。それまでに各自しっかりと体調を整えてな。これ以上スカリエッティの好き勝手させへんように、皆気合入れていくで」

 

 はやての言葉に、その場にいた全員が頷き解散となった。

 

 

 

 

 皆と別れた聖はスバルが入院している病室へと向かった。

 

 数回ノックした後中に入ると、新人達が全員顔をそろえていた。

 

「スバル、けがは大丈夫か?」

 

「あ、はい! 大丈夫です!! もう殆ど治りましたから!!」

 

 腕を掲げ、元気であることをアピールするがまだギンガを攫われたという心の傷は直っていないようで、時折悲しげな表情をしていた。

 

「わるかったスバル。俺がもっと早く気付いていれば……ギンガも攫われずにすんだのに」

 

「聖さんが謝ることじゃないですよ! 私が……もっと速く行っていれば」

 

 顔を俯かせながらスバルは首を振った。しかし、聖はもう一度頭を下げる。

 

「マッハキャリバーの様子はどうだ?」

 

「ダメージは大きかったみたいですけど修復できるみたいです。……私が無理させちゃったから」

 

「いや、あの時はしょうがない。お前も気が動転してた見たいだしな。だけど、後で謝ってやれよ」

 

 スバルの肩を軽く叩き、励ますとティアナに軽く耳打ちをした。

 

「ティアナ、スバルのことしっかり支えてやんな」

 

「わかりました」

 

 ティアナが頷いたのを確認すると、聖はエリオとキャロの元に行き二人の肩に手を置きながら、

 

「エリオ、キャロ。ありがとな、六課のスタッフにあれ以上負傷者が出なかったのはお前達のおかげだ」

 

「ありがとうございます! だけど……」

 

「ヴィヴィオを……連れて行かれてしまって。すいませんでした」

 

 申し訳なさそうに目を伏せる二人の顔を無理やりに上げさせ、聖はニカッと笑いながら二人の頭をガシガシと乱雑になでる。

 

「いいんだよ。過ぎたことは変えられねぇ。それに、お前らに無理させちまった俺の責任でもある。お前らが気にすることじゃねぇさ」

 

 聖はそういうとスバルたちの病室を後にした。

 

 次に聖が向かったのはヴァイスがいる病室だ。

 

 ヴァイスは命こそ落とさなかったものの、かなり負傷したようで、体のあちこちに包帯が巻かれている。

 

「ヴァイス……大丈夫か?」

 

「あぁ……なんとかな。それより悪かった……嬢ちゃんを守ってやれなくて」

 

「気にすんな。ヴィヴィオは俺が必ず救い出す。お前はゆっくり休んでろ」

 

 ベッドに横たわるヴァイスに拳を差し出すと、ヴァイスもそれに呼応するように腕を出し、拳をあわせた。

 

「じゃあなヴァイス。ちゃんとおとなしくしてろよ」

 

 それだけ言うと、聖は病室から出て行った。

 

 

 

 

 

 夕暮れになると、聖は病院の屋上にシグナムとともに佇んでいた。二人の手には木刀がもたれており、互いに見合っている。

 

「珍しいな、お前から鍛錬を申し込んでくるとは」

 

「偶には俺から誘ってみようかと思いまして。ちょっとした気まぐれっすよ」

 

 木刀を向け合っているものの、二人はいたって冷静で、時折笑みもこぼしている。

 

「ではそろそろはじめるか……。勝負はこの前と同じでいいな?」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 聖は真剣な面持ちでシグナムを見据える。シグナムもまた、一切の隙を感じさせずに聖を真っ向から見据える。

 

 二人の間に一迅の風が吹き、互いの髪を揺らす。そして、風がやんだ瞬間、二人は息をあわせた様に駆け出した。

 

「ハァッ!!」

 

「フッ!!」

 

 木刀と木刀がぶつかり合う小気味よい音が響き、二人は互いの刀身を滑らせるようにして競り合うが、すぐに距離をとると、もう一度ぶつかり合った。

 

 二人とも一進一退の攻防を続け、どちらも一歩を譲らなかった。数回の打ち合いの後、シグナムは聖の太刀筋に何かを見出した。

 

 ……剣から迷いが消えた。

 

 シグナムは打ち合いながら以前聖と戦ったときに感じた聖の迷いが消えたことを感じていた。今の聖は迷いを断ち、まっすぐな剣をシグナムへ放っていた。

 

 ……覚悟が、ついたようだな。

 

 小さく笑ったシグナムは再度強く剣戟を放った聖の木刀を絡めとり、放り投げる。同時に聖の喉元に切先を突きつけた。

 

「参りました……」

 

 聖が両手を挙げて降参を表すと、シグナムは頷きながら木刀を納めた。

 

 木刀を回収した聖はシグナムに買っておいたスポーツドリンクを渡した。

 

「ありがとうございましたシグナムさん。鍛錬に付き合ってもらって」

 

「なに、私もお前の太刀筋が変わったのが見れてよかったよ」

 

 ドリンクの封を開けながらシグナムは笑みをこぼした。一口ドリンクを飲むと、シグナムと聖は近くのベンチに腰をかけた。

 

「白雲……どうやら覚悟が決まったようだな」

 

「え?」

 

「以前お前とこのように打ち合った時、私はお前の太刀筋に迷いがあるといったな。しかし、今日やってみてその迷いが消えていた」

 

 聖の方を見ないが、シグナムは聖に向かってしっかりと告げる。

 

「隠し事を話す覚悟が出来たか」

 

「っ!? ど、どうしてそれを?」

 

「やはりな。いいか白雲、これは私やお前のように剣を使うものにしかわからないことかもしれないがな。剣というのはその人物の色々なことを教えてくれる。それは恐怖であったり、悲しみであったり様々だ。勿論お前が抱いていた迷いもそうだ」

 

 シグナムの言葉に聖は声が出せずにいた。しかし、シグナムはさらに言葉をつむいでいく。

 

「初めてお前と模擬戦をしたときお前の剣から感じられたのは、何かを隠しているということだ。しかし、それは私や主はやてを傷つけるものではなかったのでないままで黙っていた。そして段々とお前の隠すという感情は迷いに変わっていったのだ。それが以前私が指摘したことだ。だが、先ほども行ったようにその迷いが今日は見られなかったのでな。何か覚悟を決めたのかと思ったのだ」

 

「最初っからお見通しだったってわけですか……流石ですねシグナムさんは」

 

「褒めるようなことではないさ。私のように長く生きているとなわかってしまうんだよ。古代の時代もそうだった。戦争ばかりで戦う相手の感情をいつの間にか剣を通してわかってしまうようになってしまったんだ」

 

 遠い過去を思い返すように呟くシグナムの瞳は夕日の反射もあってかいつも以上に光って見えた。すると彼女は立ち上がり、

 

「いいか白雲、私はお前が何者だろうと気にはしない。それは高町やテスタロッサだけでなく、主はやては勿論、六課全員が同じだ。だから気にするな、言いたい時に言ってくれてかまわない。ではな」

 

 シグナムはそれ告げると、木刀を聖に返し屋上を去って行った。

 

 その後姿を見送りながら聖は立ち上がり頭を下げた。

 

 

 

 

 

 その日の夜、六課の皆はそれぞれの覚悟を決めていた。

 

「私とティアはギン姉を」

 

「絶対に救い出す!」

 

 スバルとティアナは互いに拳をあわせながら、

 

「僕とキャロはあの子を」

 

「ルーちゃんと真正面からお話をする!」

 

 エリオとキャロも手を握りながら誓い合っていた。

 

 

 

 

 ヴォルケンリッターの面々とはやてもそうであるようで。

 

「皆、始まる戦いは今まで以上に過酷なものになるかもしれへんけど。ついてきてくれるか?」

 

「はい」

 

「「「「我ら守護騎士は貴方と共に」」」」

 

 シグナムの返事を皮切りに、四人ははやてに頭を下げる。しかしはやては皆を一瞥すると、

 

「せやけど皆、無茶はせんようにな」

 

「「「「はい」」」」

 

 声をそろえながら言う四人の瞳には強い光が灯っていた。

 

 

 

 

 なのはとフェイトも互いに手を取り合いながら、

 

「私とフェイトちゃん、聖くんで絶対にヴィヴィオを」

 

「うん、取り戻そう。私たちのヴィヴィオを」

 

 互いに頷き合い、二人は目を閉じた。

 

 

 

 

 

 そして屋上では聖が夜天に浮かぶ大きな月を眺めながら、

 

「待ってろよ……ヴィヴィオ。絶対に助け出してやるからな」

 

 拳を握り締め、決意をあらわにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 聖たちが決意をあらわにしている時、スカリエッティの本拠地の一室では椅子に縛り付けられ眠っているヴィヴィオと、それを囲むようにスカリエッティ、ウーノ、クアットロが立っていた。

 

「ようやく揃った。聖王の器とレリックがこの二つが揃うことにより、いよいよ『ゆりかご』の鍵が生まれる」

 

「ドクターの夢の達成も間近ですねぇ」

 

「ドクターだけではなく。私たちのものでもあるわね」

 

 スカリエッティの発言に二人は互いに呟く。

 

「さぁ……宴はこれからだ! 君はどう出るエシェク……ククク、フハハハハ、ハーッハッハッハッハ!!!!」




以上ですー

シグナムさんやっぱイケメンですねw

次は聖のアースラにのってから聖の過去話といったところでしょうか

感想お待ちしております

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