魔法少女リリカルなのはStrikerS-King Seong clone of another-   作:炎狼

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お待たせして申し訳ありませんでした

予定していた通り襲撃回前編です。

どうぞ


襲撃

 公開意見陳述会の一週間ほど前。聖を含めた六課のフォワードメンバーはブリーフィングルームに集まり、はやてから作戦の指示を受けていた。

 

「今回は会場の警備任務が主になってくる。なのは隊長、フェイト隊長、そして聖隊長の三人は会場内の警備。スバル達は会場の外の警備をよろしく頼むな」

 

 立体型のモニターに映し出される会場の見取り図を用いてはやては指示を出していく。

 

「あと、会場内にデバイスは持ち込めへんことになっとるから、聖くんたちはデバイスをスバル達に預けといてな?」

 

 はやてが聖たちに目を向けると、三人は静かに頷いた。はやてもそれを確認すると、説明を続ける。

 

「スターズは全員前日の夜から警備任務に当たってもらう。聖隊長もな。エリオやキャロもこれに随伴していくことになってるから頼んだで。その後私とシグナム副隊長、あとフェイト隊長が行くことになっとるからな」

 

 立体モニターが切り替わり、今度は前日から警護する班と当日に入る班が分けられた図が映し出される。

 

「大体の説明はこんな感じや。なにか質問のある子はおるか?」

 

 はやてが皆に聞くが、皆特に何もなさそうだ。しかし、その中で一人、聖が口を開いた。

 

「質問というよりは素朴な疑問なんだが……。警備すんのに中にデバイスが持ち込めねぇってのは随分と用心がなさ過ぎやしねぇか?」

 

「うん、それは私も聖隊長と同意見や。せやけど……」

 

 はやては眉間に皺をよせ言葉に詰まる。

 

 するとそんなはやての意見を代弁するようにシグナムが言う。

 

「確かに、白雲の言うことももっともだ。しかし、これは上が決定してしまっていることなのだ。もし破ってしまえば、六課自体がなくなってしまう恐れもある」

 

「なるほどね……やっぱどの世界でもお上の言うことは絶対ってわけか……」

 

 シグナムの言葉に頷きつつも、聖は誰にも聞こえないような声で呟いた。

 

「まぁシグナムの言う通りや。こればっかりはどうにも覆らへん。そこは納得してくれな聖隊長」

 

「ああ。別にはやてを責めてるわけじゃねぇよ。ただ疑問に思っただけだから気にすんな」

 

 少し暗い顔をするはやてに対し、聖は微笑を浮かべながら答えた。

 

「ほんならこれでブリーフィングは終了や。各自、当日まで体調を整えておくように」

 

 はやての号令に皆が一斉に背筋を伸ばし、敬礼をする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして意見陳述会前日の夜。

 

 六課のヘリポートには聖たちの姿があった。しかし、どうにも皆困惑した表情を浮かべている。その原因は聖の足元にいた。

 

 ヴィヴィオである。

 

 彼女は聖の足にがっしりとしがみつき、目には涙も溜まっている。

 

「えっと、なぁヴィヴィオ。すぐに帰ってくるから離してくれないか?」

 

「……いやだ」

 

「おぅ……まっすぐな意見……」

 

 聖は苦笑するが、ヴィヴィオの力はましていき彼の足から離れる気配がない。すると、それを見ていたなのはがヴィヴィオの頭にやさしく手を置くと、

 

「ヴィヴィオ……なのはママと、パパはお仕事終わったらすぐに帰ってくるからいい子にして待っててくれるかな? それにほら、今日はフェイトママもいるし一人じゃないよ?」

 

 ヴィヴィオは聖の足を離し、フェイトのほうを見る。フェイトもそれに答えるように微笑みかける。

 

「すぐにかえってくる……?」

 

「ああ。絶対にな、約束だ」

 

 その問いに答えたのは聖だった。彼はヴィヴィオの目線までしゃがむと、両手を広げヴィヴィオを促す。

 

 ヴィヴィオもそれを理解したのか、聖の胸に飛び込んだ。それをしっかりと抱きとめた聖はヴィヴィオの頭を優しく撫でる。

 

 数秒間ヴィヴィオを抱きしめていた聖は、彼女を解放し、フェイトの元に向かわせる。

 

「うし、じゃあ行くか! ヴァイス! 頼んだ!!」

 

「おうよ!」

 

 ヴァイスに言うと、ヘリのハッチが閉められ、ヘリは飛び立った。

 

 それを見送りながらフェイトは自らに手を握っているヴィヴィオを促す。

 

「さ、私達もお部屋に戻ろうヴィヴィオ」

 

「……うん」

 

 ヴィヴィオは頷くと、フェイトと共にヘリポートを後にした。

 

「さて、ほんなら私等も残ってる仕事終わらせて早めに休もかシグナム」

 

「はい、白雲たちには後で交代時間を送っておきます」

 

「うん、ありがとな」

 

 二人はそのままヘリポートから立ち去った。

 

 

 

 

 

 ヘリの中ではスバルたちがニヤニヤとした表情で聖を見ていた。

 

「なに見てんだよ」

 

「えー。だってもう、聖さんパパしてるなーって思って」

 

「凄い懐かれ様でしたし」

 

「まぁ……そうだな」

 

 若干気恥ずかしいのか、聖は視線をそらしながら頬を掻く。するとキャロがなのはに問うた。

 

「でも、ヴィヴィオは今預かってる段階なんですよね?」

 

「そうだね。優しい里親になってくれる人を見つけられたらヴィヴィオに説明してわかってもらおうかと思ってるんだけど」

 

「理解してくれなさそうな気がしますが……」

 

 なのはの意見にエリオが難しそうな表情をする。それはエリオだけでなく、ヘリの中にいる全員がそんな表情だ。

 

 そんな微妙な空気を破るように、ヴィータが軽く咳払いをし聖となのはに言い放った。

 

「つーかもうお前ら結婚すりゃいいじゃん」

 

「はぁっ!?」

 

「ふぇっ!?」

 

 二人は先ほどまでの難しい表情が何処へやら、一気に顔を赤くする。

 

「な、ななななな何言ってんだヴィータ! そんな、お前……なぁ!」

 

「いや、何がなぁなんだよ。とちりすぎだろ」

 

 ヴィータの突拍子もない発言に聖はうまくろれつが回っていない。しかし、それはなのはも同じなようで、

 

「そ、そそそそそそうだよヴィータちゃん!! 私と聖くんがそんな……キャーッ!!」

 

「だからキャーッてなんだよ。うん? でも待てよ、そうなるとフェイトも入るな。大変だなー聖ー」

 

 なのははもはや後半は何もしゃべれなくなっていて、顔を真っ赤にしたまま俯いていた。だが、ヴィータはというと、悪戯っぽい笑みを浮かべながら聖を見る。

 

 その後は特に暗い話もなく、一同は会場に向かった。

 

 しかし、その中でもなのはと聖は時折視線が会うと、すぐに俯かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 会場に着くと、ヘリの中での暖かい空気とは打って変り、皆に緊張が走る。

 

「じゃあ、これから明日の陳述会が終わるまで警備任務に当たります。各自、交代時間をしっかりと把握して置くように。明朝には私と聖隊長は会場内に入るので。外の警備はヴィータ副隊長にお願いします」

 

「「「「はい!」」」」

 

「「了解」」

 

 なのはが告げると皆それぞれの持ち場へ向かっていく。聖もまた単独で自分の持ち場へと歩き出した。

 

 持ち場に着くと、聖は思念通話で安綱に呼びかける。

 

『なぁ安綱』

 

『なんですか? さっきの結婚のことなら自分で解決してくださいね。私は知りません』

 

『そうじゃねぇよ。この意見陳述会、やっぱり変じゃねぇか?』

 

『変とは?』

 

『なんつーか、こうやって一箇所に人を集めて身動きが取れなくさせてるようにも思えるんだよ』

 

 聖は壁に背をもたれ掛けさせながら安綱に聞く。

 

『確かに不自然ではあります。しかし、この意見陳述会は地上本部の運用方針を決めるものです。その場でクーデターがおきるともわかりません。もし、それが会場の中でおきてしまった場合のことを考えると会場内へのデバイス持込は禁止されるのも頷けます』

 

『けどよ……』

 

『はぁ……いいですか? 良く来てください聖様。今の貴方の仕事はこの場の警備です。それをおごそかにしてしまえば、ヴィヴィオ様との約束など到底果たせませんよ?』

 

 安綱の指摘に聖は一瞬苦い表情をする。しかし聖もそれを理解したのか、

 

『わかったよ、もう気にしねぇ。ヴィヴィオにも約束しちまったしな』

 

『子との約束を守るのは父親の役目ですよ』

 

『それもそうだ』

 

 最後にそういうと、聖は安綱との話を断つ。

 

 もたれかかっていた壁から背を離すと、聖は夜空を見上げながら小さく呟く。

 

「……出来れば俺の思い違いであって欲しいけどな……」

 

 

 

 

 

 夜も耽り、六課にいるであろうフェイト達ももう寝静まった頃、交代の時間となった聖は、夜食をとりに向かう。

 

 すると途中で同じく交代の時間だったヴィータと鉢合わせる。

 

「ヴィータ。お前も交代か?」

 

「ああ。今からメシだ。お前もなんだろ聖?」

 

「おう。せっかくだし一緒に行こうぜ」

 

「だな、それに私もお前に話があったしな」

 

 二人は並んで歩くと、夜食が用意されているところに向かう。夜食が入ったトレイと、飲み物をもらうと、二人は適当な場所を見つけ並んで食事を始める。

 

 ある程度食べると、聖がヴィータに問うた。

 

「そんで? 話ってなんだよ」

 

「ああ。お前、一週間前この意見陳述会が無用心すぎるって言ってたよな?」

 

「そうだな。そんで、それがどうかしたのか?」

 

「あれには私も同意見だ。聖、お前カリムの予言って聞いてるか?」

 

「ああ。確か預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)って言ったか?」

 

 聖の言葉にヴィータは飲み物の入ったボトルを傾け、中身を口に含む。

 

「カリムは占い程度なんて謙遜してるけど、あれは大規模な災害やでかい事件とかは的確にあててんだよ」

 

「クロノ提督に聞いた話じゃ、今回は管理局機能の崩壊ってのが予言されてたんだっけか?」

 

「そうだ。ロッサの調査じゃクーデターってせんはないらしい。となるとだ、残されたのは……」

 

「外部からのテロ……か」

 

 ヴィータの意見に続くように聖が言うと、ヴィータもそれに頷く。数瞬の沈黙が流れるが、ヴィータは話を続ける。

 

「けどよ、考えてもみろよ。外部からの犯行からにしたってなんだって管理局を狙う? 管理局を狙うにしたって一体そいつ等に何の特があるってんだ?」

 

「まだ誰が襲撃してくるか、そもそも襲撃してくるのかもわからねぇが。もし、襲撃があるとすりゃあソイツはたぶんスカリエッティだろ」

 

「どうしてそう言える?」

 

「スカリエッティは兵器開発者としても有名だ。だったらその力の証明とかじゃねぇのか?」

 

 聖がヴィータを見ながら言うものの、彼女はまだ納得が言っていない様子だ。その証拠に口元に手を当て深く考え込んでいる。

 

「力の証明って言ってももっとほかでやりゃあいいだろうに。リスクがでかすぎるだろ。いくらスカリエッティと言ったってそれぐらいはわかりそうなもんだけどな」

 

「まぁな。けどよ、今はんなこと気にしてもしゃーねーだろ。襲撃してきたら迎撃ってだけ考えてりゃ大丈夫だ。幸い、こっちにゃ優秀な部隊長がついてるんだしよ」

 

「……それもそうだな。変なこと話して悪かった」

 

「気にすんなよ。けど、始まったら俺達は外に出られねぇ。外はよろしく頼んだぜヴィータ」

 

「おう、まかせとけ!」

 

 二人は互いの拳を合わせながら笑いあった。

 

 

 

 

 

 

 そして明朝。

 

 朝日が昇り、地上本部を照らしていく。

 

「さて、あと少しか……」

 

「今のところは何もなさそうですけど」

 

「まぁ本当はこのまま何もないほうがいいんだけどな」

 

 聖は一緒に外の巡回をしていたティアナに答えつつ、安綱を外す。

 

「そんじゃ、ティアナ。安綱のこと頼んだ」

 

「わかりました。聖さんも気をつけてください」

 

「ああ。何かあったら即連絡よろしくな。あと、無理はすんなよ」

 

 聖はそれだけ言うと、なのは達と共に会場内へと消えていった。

 

 会場内に入った聖ははやてたちと合流した。

 

「ほんなら、もう一度だけ確認な。私とシグナムはこの後カリムたちと合流して本会場に行くことになってる。フェイトちゃんになのはちゃん、聖くんはそれぞれ巡回をよろしく頼むな?」

 

 三人は頷くと、共に自分達の持ち場へと向かっていく。同じフロアであるものの、中は一人出回るには広すぎるので、三人はそれぞれ別方向に散った。

 

 持ち場に着いた三人は思念通話を始める。

 

『開始まであと少しだけど……そっちはなにかある?』

 

『こっちはないね、聖の方は?』

 

『こっちも特に問題はなさそうだな』

 

 なのはの問いに、二人は落ち着いた様子で答える。しかし、その中で特に話すことがないのか、皆言葉に詰まってしまう。

 

 しかし、その沈黙を破るように、聖が話題を持ちかける。

 

『そういやフェイト。ヴィヴィオは昨日平気だったか?』

 

『うん、特に泣くこともなかったし。朝も元気だったよ』

 

『そっか、ならよかった。さっさとこの任務終わらせて帰ってやらねぇとな』

 

『だね。帰ったらいっぱい遊んであげなきゃ』

 

『二人とも、いつもの倍以上に甘えられちゃうかもね』

 

 他人が聞けばなんと緊張感のない会話だろうかと野次を飛ばしたくなるような話題だが、三人はとても満足げだ。

 

 そんなことをしていると近くの中継モニターに本会場の中が映し出された。

 

『っと、始まるみてぇだな。にしてもこのおっさん……』

 

『おっさんって……レジアス中将のこと?』

 

『ああ。シグナムさんから聞いたんだけどよ、このおっさん武闘派で有名なんだろ? ……体系的に武闘派にはみえねぇよな?』

 

 聖が言った瞬間、二人は苦笑いを浮かべた。

 

『まぁ若い頃はそうだったのかもしれないからあながち間違ってないのかもしれないけどね……』

 

『でも確かに今の状態で武闘派を名乗るのはきついかもね……』

 

『だろ? そんなヤツが上に立ってるとか腹立つよなぁ……今度喧嘩売ってぶちのめしてくるか』

 

『『それはダメ』』

 

 聖の発言を二人は声をそろえて制した。その後も他愛ない雑談や、昨日、ヴィータと話したときのようなことを話しながら、三人は警備を続けた。

 

 

 

 

 

 

「ふあ~……ねみぃ……」

 

「こら聖。警備中なんだから欠伸なんかダメだよ?」

 

「んなこといったってもう何時間やってんだよ……よくあきねぇなぁ。さっきから同じような話題ばっかじゃんか。はやてもよくあきねぇもんだ」

 

「にゃはは……まぁ確かにちょっと長いなって感じちゃうね」

 

 既に空は茜色に染まっており、開始から四時間以上が経過している。三人は既に合流しており、未だ終わる様子のないモニターでの会議に目を向けている。

 

 いまだにモニターの中では、管理局の上層部の者達がそれぞれの意見を述べている。

 

「つーか中には寝てる奴とかいんじゃね?」

 

「さすがにそれは……」

 

「ないんじゃないかな……」

 

「でもよぉ、日本の国会だってよく寝てる奴いるし。ひでー時はゲームしてる奴だっているぜ? だから多分こっちにもいるって」

 

 からからと笑いながら言う聖になのはたちはそれぞれ苦笑する。

 

 しかし、彼等がいる地上本部から離れた洞窟では、魔の手が着々とその手を伸ばしていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ナンバーズ、全員ポジションに着きました」

 

 薄紫色の髪と黄色の瞳の見た目からすると秘書を髣髴とさせるイメージの女性。ナンバーズ、ウーノが背後にいるスカリエッティに言う。

 

『ルーテシアお嬢様とゼスト殿も準備は整っています。命令が下り次第いつでも作戦開始可能です』

 

 複数開かれているモニタの中の一つの中に映し出されているのは、藍色に近い髪色にウーノと同じように黄色い瞳をした女性。トーレが堂々と言い放つ。

 

『ディエチちゃんのバレルも特に問題ないようですしぃ、すぐにでも撃てますよドクター』

 

 甘ったるい声で言うのは眼鏡をかけ、髪を三つ編みにしているナンバーズ、クアットロだ。すると、それを聞いていたスカリエッティが肩を震わせながら狂ったように笑い出す。

 

「楽しそうですねドクター」

 

「ああ。楽しいとも、何せこの手で世界の歴史を変える瞬間を作り出すことが出来るのだからね。研究者として心が沸き立つじゃあないか。そうだろう、ウーノ。我等のスポンサー諸君にも我等の研究成果を特とごらんいただけることだろう。それだけじゃあない、エシェクにも会えるかもしれないのだからね。楽しくてしょうがないよ。……ククク」

 

 またしても笑うスカリエッティはすぐにウーノたちに向き直ると、腕を振り下ろしながら命じた。

 

「さぁ!! はじめよう!!」

 

 彼の顔は狂気に満ち満ちていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのとき、聖は窓の外を振り返る。外にはなにも異常がないように見えるものの、聖は確かに何かを感じ取った。

 

 ……なんだ、今のピリッとした感じ。

 

「どうしたの?」

 

 フェイトの問いに聖は答えることはなく、通信でティアナを呼び出す。しかし、つながったかと思った瞬間、通信にノイズが走った。

 

「通信妨害!? まさかっ!!?」

 

 聖が言ったのもつかの間、次に地上本部を襲ったのは衝撃だった。

 

「なに、この揺れ!?」

 

「一つは中からだ、もう一つは外か!!」

 

 二人がいるところはさほど揺れてはいなかったが、確かに揺れは確認された。同時に全てのモニタにノイズが走り一気に現状が把握できなくなる。

 

「通信はダメだ。フェイト、一旦なのはと合流する!」

 

「うん!」

 

 二人はなのはのいるほうに向けて駆け出した。

 

 少し走ると、エレベーターが動かなくなっていたり、隔壁がしまっていることに四苦八苦している局員の姿が見えた。

 

「制御室がクラッキングされてるみたいだね。電力も落とされてる」

 

「……クアットロか……」

 

「え? 何?」

 

「なんでもねぇ、急ぐぞ!」

 

 聖からもらされた呟きを、フェイトはうまく聞き取れなかったのか聞き返してみるが、聖は首を横に振って否定した。

 

 数分後、二人はなのはと合流した。

 

「あちこちで隔壁がしまってるから、多分本会場の方ははやてちゃんたちが閉じ込められてると思う。通信も使えないからスバル達にも連絡は取れない……でも」

 

「うん、緊急時に集まるところは支持してある。行くのは地下ロータリーホールだね」

 

「でも問題はそこまでどうやって行くかだな……」

 

 聖は考え込むが、すぐには思いつかないようだ。するとなのはが思い至ったようにエレベーターに向かう。

 

「ちょっと危ないけど……。多分いけるよ。平気? 二人とも」

 

「うん!」

 

「上等!!」

 

 三人はエレベーターに向かう。

 

 案の定エレベーターも電力がダウンしているためか、動いていない。扉も硬く閉ざされたままだ。なのはとフェイトはそれを開けようと扉に近づくが、聖がそれを止めた。

 

「こういうのは男の仕事だ」

 

 そういうと、聖は扉の前に立ち扉と扉の僅かな隙間に指をいれ、腕に力をこめる。

 

「ふんっ!!」

 

 気合の一声と共に、エレベーターの扉が開いた。フロアから歓声が上がるものの、三人はそれを気にしない。

 

 なのはとフェイトはエレベーターの中を覗き込むと。

 

「うん、これなら大丈夫」

 

「行くよ聖くん!!」

 

「は? ってうおおおい!!?」

 

 なのはの声と共に、二人はエレベーターを吊っているケーブルにつかまり、一気にそこから下にすべり下りた。二人の掌は魔力でコーティングされており、傷がつかないようになっている。

 

「かー……。うちの女性陣はなんとも行動的だな。けど、俺も負けてらんねぇなっと!!」

 

 聖は微笑を浮かべると、二人と同じように手に魔力を集中させてコーティングを施し、滑り降りていく。

 

 ある程度滑り降りると二人の姿が見えた。

 

「まったく、ずいぶんとまぁ大胆なことするなお二人さん」

 

「訓練学校でいろんな訓練したからね。これもその一貫だったんだ」

 

「でも、こんなところで役に立つなんて思わなかったね」

 

 二人はこんな状況でも焦らずに、昔のことを思い出しているようだった。それに聖は小さく笑う。

 

「じゃあ、このまま一気に下まで行こう!!」

 

「うん!」

 

「おう!」

 

 三人はそのまま下に滑り降り続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 その頃、地下ではスバル達がナンバーズたちと相対していた。実力はほぼ五分といった感じだが、今のところスバルたちが善戦しているようだ。

 

「ちっ! ちょこまかと!!」

 

 憎々しげにエリオを睨むのは赤紫色の髪と、同じ色の瞳をした少女ウェンディだ。彼女の操るふローターマインは、服にかすっただけでも爆裂する恐ろしい殺傷能力を持っているが、残念なことにそれらは一つもエリオに当たっていない。

 

「ウェンディ! そんな奴一人さっさとしとめろよこのグズ!!」

 

 苛立ちの声を漏らすのは赤い髪の短髪に黄色の瞳の少女ノーヴェだ。彼女は自らのインヒューレントスキル、ブレイクライナーを用いて高速で移動している。その移動方や、ブレイクライナーの形状はまるで、スバルやギンガのウイングロードを思わせる。

 

「もらったぁ!!」

 

 声と共に、ノーヴェが飛び掛ったのはティアナだ。ティアナの反応は少し遅れ、その強力な蹴りがティアナに直撃した。

 

 が、

 

 彼女の姿は攻撃が当たると同時に露と消えた。

 

「なっ!?」

 

「幻影!?」

 

 二人が周りを見ると、既に周りを大量の幻影に包囲されていた。

 

 そこから少しはなれたところに、ティアナとキャロの姿が見られた。彼女達はその顔を苦悶に矢がませている。何せ、幻術は普通の魔法よりも魔力消費が激しいため、長く維持することは出来ないのだ。

 

「あたし等のことを騙すほど高度な幻術なんて、この幻術使い。戦闘機人の扱い方を知ってる!?」

 

「ハン!! 幻術だろうがなんだろうが、ようは全部ぶっ潰しゃいいだけの話だろうが!!」

 

 驚愕の声を漏らすウェンディに対し、ノーヴェはイライラとした様子で腕を構える。しかし、そのとき、ジャリッという音が彼女の耳に入り、ノーヴェはそちらを振り向くが、既に遅かった。

 

「うおおおおおお!!」

 

「ぐあっ!!??」

 

 スバルがマッハキャリバーを駆り、高速の拳をノーヴェに打ち込み、彼女は大きく後ろに吹き飛ばされる。

 

「ノーヴェ!? っ!?」

 

 吹き飛ばされたノーヴェの実を案じウェンディが声を上げるが、彼女にもまたエリオがストラーダに雷撃を纏わせていたのだ。

 

「はああああああ!!」

 

「ちっ!!」

 

 ウェンディも負けじと応戦するが、弾丸を生成する暇がなく、ライジングボードを構えるだけに終わってしまう。しかし、間一髪で構えることが出来たためか、直撃は免れた。

 

「サンダー……レイジ!!」

 

 だが、それでも彼女の周りを取り巻いていたガジェットはエリオの技の余波で生み出された雷で無残に破壊された。

 

 その爆風が彼女に及び、ウェンディもまたノーヴェと同じように吹き飛ばされてしまった。

 

「撤退!!」

 

 その気に乗じて幻術を維持していたティアナが号令をかけ、四人と四人の幻術を含めみな方々に散った。

 

 後に残ったのは恨めしそうな表情のノーヴェと、吹き飛ばされたとき痛めたのか、左腕を押さえているウェンデイの姿だった。

 

 すると、二人に通信が入る。

 

「ノーヴェ、ウェンディ、チンクだ。ちょっとこっちを手伝え。今、もう一機の確保対象、タイプ0ファーストの方と戦闘中だ」

 

 そういう少女は長い銀髪に、黒の眼帯、そして黄色い瞳の少女。チンクだ。

 

 また、彼女のモニタには、スバルの姉であるギンガの姿が映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 エレベーターのケーブルを伝って降りてきた聖たちは通路を走っていた。すると、

 

「高町一尉!」

 

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえた。三人が振り向くと、シャッハが息を切らしながら三人を追っていた。

 

「シスターシャッハ?」

 

「はやてちゃんたちと一緒じゃ?」

 

「なんとか会場の扉は皆の力で開けることができました。お二人はまだ中で状況の説明を行っています」

 

「となると……ひとまずはやてたちの心配はなくなったな」

 

 シャッハのいったことを聞き答えた聖に三人は頷いた。するとまたしても後ろから、足音が聞こえた。今度は一人ではない。

 

「お、グッドタイミングだな」

 

 聖の視線の先には、スバルたちがこちらに向かっている姿が映った。

 

「遅くなりました、お届け物です!」

 

「いんや、ちょうどいいタイミングだ。サンキューな」

 

 聖たちはそれぞれ礼を言うと、自らのデバイスを受け取る。シャッハもまたシグナムとはやてのデバイスを受け取った。

 

「よし、じゃあ次は……」

 

 聖がそこまで行ったところで、スバルが焦りをはらんだ声を漏らす。

 

「ギン姉? ギン姉!?」

 

「どうした!?」

 

「ギン姉と通信がつながらないんです!」

 

 場の全員の表情が一気に曇る。

 

「ティアナ、ここに来る前交戦したか?」

 

「はい、戦闘機人二名と交戦しました」

 

「どんな奴だった?」

 

 聖は眉間に皺を寄せ、ティアナに問う。ティアナは一度頷くと、

 

「えっと、一人はスバルくらいの短髪で赤髪。もう一人は赤紫色の髪に、ボードのようなものを持っていました」

 

 ……短髪赤髪にボードを持った奴? あのヤローが新しく作ったヤツらか!

 

「わかった、サンキューな。なのは、お前はスバルたちとギンガの援護に向かってくれ。フェイトはエリオたちと一緒に六課に向かえ。最悪の場合も想定してな」

 

「聖くんは?」

 

「俺は制御室に行ってくる。もしかしたら他の戦闘機人がいるかもしれねぇからな。シスターシャッハははやてたちのデバイスをお願いします」

 

「わかりました」

 

 聖の指示に皆が頷いた。

 

「じゃあ各自散開!!」

 

 聖の声と共に皆一斉に駆け出した。なのはとスバル達はギンガの援護に、フェイトとエリオたちは六課に向けて駆け出した。

 

 聖もまた、皆とは別方向にかけてゆく。走っている最中、聖はバリアジャケットを展開すると、空中を飛ぶ。

 

〈聖様〉

 

「わかってる! ああクソ!! スバルたちのことをもっと早く知ってればギンガを一人にさせることにはならなかったてぇのに!!」

 

〈仕方ありません。流石に個人情報まではわかりません〉

 

「けどよ――!!」

 

〈止まってください聖様!!〉

 

 聖の言葉を遮るように安綱が声を発した。それは安綱にしては珍しく大きな声だった。

 

〈前方に反応があります。しかもこの反応は〉

 

「ナンバーズか……」

 

〈はい〉

 

 聖の問いに安綱は答える。聖もまた空中から降り、地に足を着けると、安綱を構える。彼の全身からあふれ出る殺気もかなりのもので、ピリピリとした空気がその場に張り詰める。

 

 すると、彼等の斜め前の柱の影から一人の女性が現れた。その女性は管理局の服に身を包んではいるが、その手には鍵爪のようなものが装着されていた。

 

 ……まさかっ!?

 

 聖の顔が一瞬にして強張った。すると女性はその反応が嬉しいとでも言わんばかりに、甘く、そして妖艶に微笑んだ。

 

 そして、彼女が自らの顔を撫でるような素振りを見せた瞬間、彼女の顔が別人に代わった。しかし、彼女の妖しい笑みだけは変わっていない。

 

 彼女は聖に右の掌を見せながら甘く、纏わりつく様でありながら、まるで愛するわが子を愛でる母親のような声音で彼を呼んだ。

 

「……久しぶりね。私の可愛い可愛いエシェク……」

 

「……ドゥーエ……!」




以上です。

最後変な終わりかたしてますがスイマセン……

いよいよ物語りも折り返しになってまいりました。
後もう半分がんばって書いていこうと思うのでお付き合いくださると嬉しいです

感想お待ちしております

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