バカとE組の暗殺教室   作:レール

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四月
暗殺の時間・一時間目


僕らがこの椚ヶ丘中学校に入学してから三度目の春が訪れた。校舎へと続く山道の両脇には青々と生い茂る木々が立ち並び、自然に溢れた山の中からは時折小さな動物達が顔を覗かせている。

ただ学校に通うだけだったらこのような風景を日常的に見ることはないだろう。山道を登ることで日々の運動にもなる。都会の中にあって切り離されたかのように孤立した校舎には都会の騒音も届かず、なるほど確かに集中して勉学に励むためには適した環境のように聞こえるかもしれない。

そんな山の中腹にある拓かれた場所に立つ校舎へと歩みを進める道すがら、僕の身に降りかかった不思議な出来事につい言葉を漏らしてしまう。

 

「どうして僕はE組行きになったんだろう……未だに不思議だ」

 

「そりゃあお前が馬鹿で間抜けで不細工だからだろう」

 

誰だっ⁉︎ 事実無根の悪評で罵声を浴びせる奴は‼︎

聞こえてきた声に僕が振り返ると、そこには背が高くて細身ながら筋肉質の男が立っていた。短い髪の毛をツンツンと逆立たせ、意志の強そうな目で僕を見ている。

 

「ってなんだ雄二か。というより馬鹿で間抜けで不細工で、おまけに態度も悪くて馬鹿力の脳筋だからE組行きになったのは雄二の方で頭が陥没するほどに痛いぃっ‼︎」

 

「失礼な奴だな。まぁ確かに明久の頭蓋骨くらいなら握り潰せそうだから馬鹿力って評価は甘んじて受けよう」

 

そう言いながらアイアンクローを決めているのは僕の悪友、坂本雄二だ。けど甘んじて受ける気があるならその手を離して欲しい。

山道の通学路を通っていることからも分かる通り、雄二もE組だ。あ、今パキュって音が頭の中に響いてきた。

 

「ギブギブギブッ‼︎ そろそろ離さないと僕の頭が落ちたザクロのようにぃっ‼︎」

 

ちょっと洒落にならない音が僕の頭から鳴り始めたので本気で止めに入る。

雄二も僕が本気で言っていることが分かったのか、大人しく頭から手を離してくれた。

 

「仕方ない、許してやるか。流石に明久の脳髄が撒き散らされたら汚れて面倒だ」

 

友達の脳髄が撒き散らされて心配するのはそこじゃないと思う。そんな考え方だからE組に送られたんじゃないだろうか。

 

僕の通う椚ヶ丘中学校はクラスがAからEまであるんだけど、二年生の三月……要するに三年生が卒業するまでに成績や態度の悪かった二年生は特別強化クラスである三年E組に編入させられる。

ただし特別強化クラスとは名ばかりの代物で、編入した生徒は隔離校舎に移されて本校舎への不必要な立ち入りを禁止され、E組に対する優先順位は最低底のものとなって先生や生徒を問わず学内ではクズ扱いされる。おまけに校舎は廃屋のように酷い設備でとても偏差値六十六の進学校とは思えない。その待遇の酷さから“エンドのE組”と言われているほどだ。

これは学園の理事長の理念に沿って作られた制度らしい。95%の優等生と5%の劣等生、劣等生を激しく差別することで優等生に常に向上心を意識させるのだと聞いたことがある。

だからなのかは知らないが、進学校の割に入学試験自体はそこまで難しくない。敢えて入学試験を緩くすることで多少成績が悪くても入れるようにし、それによって授業に着いていけない劣等生を意図的に生み出すことで優等生を奮起させる起爆剤にしているのだろう(by雄二)。

そもそもこの編入制度があるため基本的に成績の悪い人は入学しようとしないから、結果として()()()()()成績優秀で偏差値の高い進学校になる。まぁ僕が椚ヶ丘中学校を選んだ理由は近くて入りやすかったからだけど。

 

「話を戻すが、お前は別にA組とかE組とかクラスなんて気にしてなかっただろ。色々と面倒が増えるってだけで」

 

「まぁね。ただちょっと成績が悪くてちょっと生活態度が悪かっただけなのに、概ね優等生の僕がE組行きになったことが不思議でさ」

 

「お前が優等生なんだったら、この世に“優等生”という単語は必要ないだろうな」

 

「暗に僕のことを馬鹿って言ってる?」

 

「自分で考えろ、優等生(馬鹿)

 

僕らはいつもの掛け合いをしながら並んで山道を登っていく。

学校が校則として許しているからって、E組というだけで悪く言うのは個人的にはどうかと思う。成績からじゃ分からないことだって沢山あるし、世の中は学力が全てってわけじゃないんだから。

そういう風に思っているのはこの学園では少数派だけど、雄二だってその少数派の一人だ。そうじゃなかったら中一からの腐れ縁もとっくに切れていたのではないだろうか。

そうこうしている内に僕らの通っている校舎が見えてきた。春休み前の三月から今のE組に通っているのでクラスメイトの顔は分かっているが、だからと言って皆のことを深く知っているわけじゃない。今後の一年間を共に過ごす仲間がどういった人達なのか、これから知っていくことでもっと仲良くなれるのか、少し不安だが楽しみでもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなことを思っていた時期が僕にもありました。

いやまぁまだ不安には思っているんだけど、その前にまずは目の前の現実を整理しなくては。

 

「初めまして、私が月を()った犯人です。来年には地球も爆る予定です。君達の担任になったのでどうぞよろしく」

 

新学期初日の朝のHR。黄色いタコが人間になったみたいな大男が教壇に立って触手をヌルヌルさせながらそう言った。

何を言っているのか分からないかもしれないが言っている僕もよく分からない。というかいきなりこんなことを言われて分かる人がいるんだったらすぐ来て欲しい。迷わず精神科を紹介してあげるから。

どうやら僕の身に降りかかる不思議というのはこれからが本番のようだ。

 

 

 

 

 

 

ガララッ、と教室のドアを開けて担任の先生が入ってきた。いつも通り三日月型の笑みを浮かべているんだけど、なんかいつもより口角が上がっている気がする。あ、これもう今から何が起きるのか色々とバレてるっぽい。

先生はペタンペタンと裸足で廊下を歩くような足音を鳴らしながら教壇に立つ。

 

「HRを始めます。日直の人は号令を‼︎」

 

先生がそう言うとクラスに緊張が走った。今日の日直は潮田渚君だ。彼の号令で今日の一日が始まる。

水色でセミロングの髪を両サイドで結んだ小柄な身体。ぱっと見るとーーーいや、じっくり見ても女子と間違えそうな可愛らしさの男子である。実は似たようなクラスメイトがもう一人いるんだけど、二人とも女子の制服を着て言葉遣いを直したら女子生徒として扱われてしまいそうだ。

 

「……き、起立‼︎」

 

渚君の掛け声でクラスメイト全員が立ち上がる。……それぞれが銃を構えて。

うん。“起立”の掛け声に合わせて立ち上がったんだから、銃を構えていることくらい小さなことだよねっ‼︎

 

「気をつけ‼︎」

 

渚君の掛け声でクラスメイト全員が姿勢を整える。……教壇に立つ標的(ターゲット)に狙いを定めて。

うん。“気をつけ”の掛け声に合わせて身動ぎ一つしていないんだから、狙いを定めていることくらい何でもないよねっ‼︎

 

「……れーーーい!!!」

 

渚君の掛け声でクラスメイト全員が礼……をすることなく標的に向けて発砲する。

うん。“礼”の掛け声に合わせて発砲……いやこれは流石にフォロー出来ないよ。“礼”に合わせて発砲って何?確実に“礼”じゃなくて“非礼”だよね。

 

普通に考えたら中学校のHRではあり得ない光景だけど、何も僕らは授業を受けたくないから先生を撃ち殺そうとしてるんじゃない。僕らは真剣に先生を撃ち殺そうとしてるんだ。←誤解を招く言い方。

……でも殺せないんだよねぇ。クラスメイト二十九人での一斉射撃も先生は余裕で躱しながら出欠を取っている。動きながら何かを書くのってすごく難しいのによくやるなぁ。

けどそれも当然のことなのかもしれない。

何故なら先生は人間ではなく超生物なのだから。

 

 

 

 

 

地球の周りには衛星として月が回っている。地球と同じ丸い形をしていて、太陽の光がなんやかんやあって半月や三日月に姿を変えて見えるようになる。常識だねっ‼︎

……ただ、もう常識じゃないんだよね。

 

今年の三月、月の七割が蒸発して丸い形が三日月になったのだ。原因は不明、テレビや新聞で取り上げられていない日はないほど今世界中で話題になっている大事件である。

 

「初めまして、私が月を()った犯人です。来年には地球も爆る予定です。君達の担任になったのでどうぞよろしく」

 

それが顔面満月みたいな触手をヌルヌルさせた黄色い大男の仕業だと言うらしい。後ろには黒服の人達がいて、その内の一人は黄色い大男に向けて銃を構えている。あれって本物?

クラスメイト達のツッコミを入れたいという空気がヒシヒシと伝わってくる。けど突然の出来事にどう反応したらいいのか分からないようだ。

仕方ないな。僕が皆を代表してツッコミを入れてみることにしよう。

 

「えーと、貴方が月を破壊した犯人……?じゃあ月見うどんのような料理は今後どのように呼べばいいかとか考えてるんですか?」

 

「「「いや、そんなことどうでもいいから‼︎」」」

 

え、皆は気にならないの?だって黄身を満月に見立てたのが“月見”って名前の料理なんだよ?お月見だって満月を眺めて楽しむ行事だし……三日月になった月だと意味が分からないじゃないか。

 

「にゅやッ‼︎ 気になるのはそこなんですか⁉︎ 他にも先生の正体とか地球を破壊する理由とか三年E組の担任になったわけとか聞きたいことはいっぱいあるでしょう⁉︎」

 

(((よく分からない生き物がよく分かる主張を言っている……)))

 

「いや、僕としてはそっちの方がずっと気になってたっていうか……というより今の質問は訊いたら答えてくれるんですか?」

 

「答えませんよ?」

 

(((答えないのかよ‼︎ )))

 

何だろう。僕以外のクラスメイトの心が一つになっている気がする。

 

「あー、すまない。話を進めさせてもらってもいいだろうか?」

 

そんな緊張感のないやり取りをしていたところに、黄色いタコの後ろに並んだ黒服の人の一人が割って入ってきた。防衛省の烏間さんと言うらしい。

烏間さんの話は黄色いタコの話が本当だということと、それが現実となる前に黄色いタコを殺したいということだった。

だったら自分達で殺せばいいじゃんとも思ったのだが、この黄色いタコは最高速度マッハ二十で動けるらしく国の方でも殺せないらしい。……僕らにどうしろと?

確かにこの黄色いタコが三年E組の担任になるんだったら僕ら全員に至近距離から殺せるチャンスがあるってことだけど、だからってどうして僕らが暗殺なんかーーー

 

「成功報酬は百億円‼︎」

 

「先手必勝っ‼︎」

 

武器となるものは筆記用具……だけど取り出している暇はないか。ならば上着の内ポケットに入れておいたカッターを投げてその隙にもっと殺傷力の高い武器をーーー

 

「ヌルフフフフ。話は最後まで聞きましょう。殺る気なのは結構ですが、そんなことでは先生は殺れませんよ?」

 

は、速い……‼︎ 僕が内ポケットからカッターを取り出そうとした次の瞬間には触手で腕を抑えられてしまっていた……‼︎ マッハ二十は伊達じゃないってことか……‼︎

だったらこの触手を掴まえてーーー

 

「落ち着け明久。真正面から殺って殺せるなら政府がとっくに殺してるだろ。まずはこのタコの言う通り、話を聞いてからだ」

 

後ろの席に座っていた雄二にもう一方の肩を抑えられる。

ーーーあれ?僕はいったい何をして…………

 

「ーーーハッ‼︎ ごめん雄二、百億円という大金に理性と知性が飛んでたよ」

 

「おう、知性の方は元々ないから気にするな」

 

失敬な。あのタコを殺せば大金が手に入るってことが分かるくらいには知性があるよ。

理性と知性を取り戻した僕は烏間さんの話の続きを聞くことにしたのだが、どうやら通常兵器の類いは効かなかったらしく人間には無害で黄色いタコには有害な特殊素材で作られた武器を支給してくれるそうだ。

なんだ、じゃああのまま続けて仮に武器を当てられたとしてもこのタコは殺せなかったってことか。まぁあの触手の速さを実感した今では続けてたとしても当てられたとは思えないけど……百億円は遠いなぁ。

こうして僕らの暗殺教室は始まったのだった。




次話
〜暗殺の時間・二時間目〜
https://novel.syosetu.org/112657/2.html



明久「これで“暗殺の時間・一時間目”は終わり‼︎ 皆、楽しんでくれたかな?」

雄二「後書きは俺達の会話やこの小説の設定で埋めていこうと思う」

渚「基本的にはクロスオーバーしたことによる変化だけどね」

明久・雄二「「雄二/明久が頭悪いのに椚ヶ丘中学校に入れた理由とかね/な」」

明久・雄二「「……‼︎(メンチの切り合い)」」

渚「ふ、二人とも喧嘩は抑えて‼︎ そ、それにその理由は作中に書いてるから此処で説明しなくても分かってくれてるよ‼︎」

明久「……命拾いしたね」

雄二「……それはこっちの台詞だ」

渚「(今の内に話題を変えよう‼︎)そ、そういえば二人以外にもE組に来てる人っているよね?」

明久「あ、うん。クラスメイトが原作よりも四人増えてるからね」

雄二「まぁ俺達以外の二人って言えば誰かは予想できるだろ」

渚「E組に来てる四人以外のキャラクターは今後出てくる予定あるの?」

明久「さぁ?大まかには決まってるけど実際に話が進んでみないことには何とも……」

雄二「ただ、確定情報として島田の出番はないってことは言っておく」

渚「あ、そういえば島田さんって中学の時はドイツにいたんだっけ?クロスオーバーした影響がこんなところにも出てるなぁ」

明久「原作で一緒だった仲間が減るのは寂しいけど、そこはしょうがないね」

雄二「二次創作ならではの“ご都合主義”って手もあるが、限りなく原作設定には手を加えたくないという拘りがあるらしい」

渚「まぁクロスしたキャラクター同士だと椚ヶ丘中学校で過ごしてきたっていう過去があるから、どうしても人間関係は少し変化しちゃうんだけどね」

明久「も、もしかしてその影響で僕を好きになってる人とかもいるのかな⁉︎」

雄二「久保とかな」

明久「……はぁ、雄二は何を言ってるのさ。僕が言ってるのは恋愛の“好き”のことだよ?たとえクロスオーバーの影響があっても久保君は男なんだから、そんなことあるわけないじゃないか」

雄二・渚「「…………」」

明久「……え、なにこの沈黙。二人ともどうかした?」

渚「え?えぇっと……あ、そ、そろそろ時間じゃないかな⁉︎」

雄二「お、おぉそうだな‼︎ 初めてだからつい長話しちまったぜ‼︎」

明久「え、そうかな?まだまだ大丈夫だと……」

渚「それじゃあ今日はここまで‼︎」

雄二「皆、また見てくれよな‼︎」

明久「あ、うん。次の話も楽しみに待っててね‼︎……ねぇ二人とも、さっきの沈黙は何ーーー」





黄色いタコ「にゅやッ‼︎ どうして後書きに先生の出番がないので……あ‼︎ そういえばまだ名前も出てませんよ⁉︎ 茅野さん、早く私に名前を付けて下さい‼︎」

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