進撃のイスカリオテ~Titan to Dust~   作:マイン

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今回は第104期訓練期編です。
だいぶご都合主義が入りますがどうかご理解を


新設ヴァチカン区所属、特務機関イスカリオテ

847年、ウォール・マリア崩壊から二年が経ち、人々はウォール・マリア内地を放棄しウォール・ローゼ内地に生活の場を移していた。

追い詰められた人々であったが、彼らには二つの希望ともいえる存在があった。一つは、歴代最強、いや人類最強ともいわれる兵士、リヴァイを内包した調査兵団部隊、そしてもう一つは、かつてシガンシナ区に侵入した巨人の群れをたった一人で全滅させた狂神父、アンデルセン。未だ建物及び壁の復旧のメドが立たないとの理由でシガンシナ自体は封鎖されたままだが、その武勇伝は瞬く間に国中に知られることになり、彼の信仰するカトリックへの入信者は増加した。

(無論、純粋な信徒は少なく、ほとんどがアンデルセンの保護を受けるためではあるが)

それに対し、すっかり民意を失ったのはウォール教である。シガンシナ区の信徒の生き残りにより、モンガ―司教の汚職や暴挙が明るみになり、噂の域は出なかったものの、人々のウォール教に対する信用は確実に低下した。

 

ウォール・ローゼ南部トロスト区、その外れに新たに新設された指定特区「ヴァチカン区」。その住民のおよそ九割がカトリック信徒で構成されているその中にある「イエスズ修道会」。教会だけでなく、ミサの会場、孤児院、会合の場にも使用されるヴァチカン区で最も大きな施設。その中の一室、「司教室」と呼ばれる部屋にて数人の男女が座って話し合いをしていた。向かい合う片方は壮年の男性、ドット・ピクシス。駐屯兵団司令にしてヴァチカン区のある南部地域の最高責任者でもある。傍らには側近らしい女性士官を二人伴なっている。

相対するのは青年、いやまだ少年の域を出ないであろうあどけなさを残した男、リバー・マクスウェル。彼はアンデルセンの課す厳しい訓練に励む中で、ずば抜けて高いコミュニケーション能力とカリスマ性を見出され、若干十二歳にしてカトリック教の司教兼最高責任者に任命されていた。(マクスウェルの姓は司教になる際、名前だけでは恰好がつかないという理由でアンデルセンから与えられたものだが、その時アンデルセンは小声で「もう間違えるなよマクスウェル」と言っていた)

 

「では、今回のウォールマリア内地調査、この一帯の調査は君たちイスカリオテに依頼するということでよろしいかな?」

「はい、構いませんよ。…で報酬の件ですが」

「分かっておる。孤児院の維持費のみ、ということでいいんじゃな」

「ええ、それが使命ですので、それ以上は求めませんよ。ではそういうことで」

話し合いを終え、部屋を出るピクシス司令。後ろから自分を見送るリバーをちらりとみて、ピクシスは側近に愚痴をもらす。

 

「またこうだ。奴らはどんな依頼をしてもそれが使命、といって報酬を最低限しか要求せん。これじゃあ貸しを作ってばかりな気分でスッとせんわい」

ため息を漏らす上官に、女性士官が口を開く。

 

「まったくあのボウヤ、まだ小さいくせに末恐ろしいですわ。いっそ無理難題を突き付けてくれた方がまだ気が楽ですのに」

「期を待っておるのだろう。最高のタイミングで、自分たちが一番得をする状況になるまであの姿勢は崩れんよ」

女性士官の年相応な意見に、年長者としての意見を述べながらピクシスは今一度リバーを見て呟く。

 

「ヴァチカン区特務、いや対巨人殲滅機関イスカリオテ……恐ろしい奴らだ」

 

 

 

 

 

 

(やった、やったぞ!見たかミカサ!これで俺も戦える!)

立体機動訓練所、新しく兵士となるものならだれもが通過するその場所を、エレン・イェーガーは他の訓練生より一足遅れてクリアしていた。アンデルセン神父の訓練により、身体能力や判断能力においては他よりも優れていたのだが、この立体機動訓練だけは初めてだったため今まで手間取っていた。だが、同じ条件下であるミカサやアルミンがすんなりできたところから見るに、エレンの不器用ぶりが伺えた。

 

パチパチパチ!

不意に横から拍手が聞こえてくる。

 

「誰だっ!?」

いきり立つ教官につられ、エレン、他の訓練生も拍手がする方向を見ると、そこには二人の修道服を着た人物が立っていた。一人は茶髪をオールバックにし、薄ら笑いを浮かべながら拍手をする、一見男のような見た目の男物の修道服を着た麗人。腰には銃身の下に刃が取り付けられた銃が二丁掛けられている。その陰に隠れるもう一人は、長い黒髪を麻紐で縛り、シスター服を着て、腰に一振りの刀のような剣を携えた女性であった。

 

「なんだ貴様らは!ここは訓練生以外立ち入り禁止だぞ!」

あまりにも不審な二人組に、教官から叱咤の声が飛ぶ。その声にまるで悪びれてないかのように茶髪の人物は手を振って謝る。

 

「失礼、我々はヴァチカン区のイスカリオテに所属するものでして」

イスカリオテ、その名前に訓練生にどよめきが起きる。かつてシガンシナに侵入した巨人を全滅させたといわれる伝説の神父アンデルセン。彼が設立し、部隊長を務めるその機関は、巨人におびえる人々にとってあまりにも有名であった。

先ほどまで威圧的であった教官にも、僅かながら動揺が見て取れる。

 

「…で、そのイスカリオテが何の用だ?」

「別に、ただ私たちの家族が訓練で手間取っていると聞いてね。ちょいと陣中見舞いにきたのさ……けどいらぬ心配だったようだね」

そういって、二人は訓練装置の前で宙吊りになっているエレンに近寄る。

 

「お久しぶり…でもないかエレン。苦労してるって聞いたけどなかなかうまいものじゃないか」

「わ、私よりずっと上手……」

「ち、ちょっと!ロゴス姉さん、ベレッタ姉さん!いくらなんでも訓練中に来るのはまずいって!」

そう、この二人はあのロゴスとベレッタなのである。成長し、ますますハインケルや由美子に似てきた二人は、今やイスカリオテの期待のルーキーなのである。そんな二人に、周りの空気にいたたまれなくなったエレンが思わず注意する。

その様子に見かねたミカサとアルミンが訓練生の中から飛び出してくる。

 

「姉さんたち、いま来られたら怒られるよ」

「そうだよ!ていうか、こないだ今日は調査に行く日だって言ってなかった?大丈夫なの?」

「あー、だーいじょぶダイジョブ。ちょっとだけだしすぐに戻れば」

「コラァァァァ!!!!」

突然の怒声にその場にいた全員が驚き肩を竦ませる。その声にあまりにも聞き覚えのあるロゴスやエレン達がゆっくりと声の方向を見ると、そこには肩を怒らせこちらに歩いてくる壮年の男性がいた。噂の恰好と寸分違わぬその人物に訓練生の中から呟きが漏れる。

 

「殺し屋」、「銃剣(バイヨネット)」、「再生者(リジェネレーター)」、「狂人神父」、「巨人殺し(タイタンキラー)」、「カトリック絶対主義者」

そう、そんな数々の異名をもつその男こそ。

 

『アレクサンド・アンデルセン!!』

呼ばれた当の本人、アンデルセンは自分を指さす訓練生に目もくれず、震えている部下であり娘でもあるロゴスとベレッタに近寄り―

 

ゴンッ!

思い切り拳骨を振り下した。そのあまりの威力に二人の視界は一瞬白み、次いで激しい痛みが襲ってくる。

 

「「っ痛ーい!!」」

「この馬鹿者共が!勝手に書置きだけ残してこんなところに来やがって。拳骨で済んだだけ良しと思え!」

痛みに蹲る二人に叱責を飛ばしたアンデルセンは、次いで教官の方を向き頭を下げる。

 

「キース教官、私の部下が邪魔したようで申し訳ない。あとでしっかり言って聞かせますので」

「あ、ああ…」

あまりの状況の変化に茫然と返事するキースを確認し、アンデルセンはエレン達に視線を向ける。

 

「エレン、ミカサ、アルミン、頑張っているようだな。お前たちはそのまま強くなれ!強くなってあの化け物共を早く殺しに来い!」

「「「ッ!はい、神父様!」」」

返事する三人に笑って頷き、アンデルセンは未だダメージの残るロゴスとベレッタをひったたせ、訓練所を後にする。そんなアンデルセンを見送りながら、訓練生たちは口々に言い合う。

 

「思ったよりいい人そうだよね」

「あれなら家の母ちゃんの方が怖いぜ」

 

「お前ら何も分かってないよ…」

そんな彼らに装置から離れたエレンが声をかける。「え?」とこちらを見る彼らに、エレンはかつての訓練の日々を思い出しながら呟く。

 

「神父様は敵がいなかったり闘っていなければ優しいんだ。でももし敵がいれば…」

 

 

 

 

 

 

 

 

ウォール・マリア内地、通称「霧の森」と呼ばれる昼間でも深い霧の影響で視界の悪いその森の前に、アンデルセン率いるイスカリオテの面々が到着した。彼らは元兵団の人間だったり、ずぶの素人だったりと、境遇はばらばらではあったが、みなアンデルセンの訓練を乗り越えた少数精鋭であった。

そんな彼らに、森の中から巨人が飛び出しそのうちの一体、奇行種と思われる巨人が奇声を上げて襲いかかる。馬から降りたアンデルセンは道中に既に何体もの巨人を切り裂いた銃剣を手に叫ぶ。

 

「五月蠅しい(やかましい)!巨人が喚くな!」

その言葉と同時に飛び出し、先頭の一体を斬って落とす。それを皮切りに、ロゴスは愛用の刃付き拳銃を構え、ベレッタも普段見せない妖艶な笑みを浮かべて刀を抜く。他の面々も、各々剣を抜いて戦闘の用意をする。

そんな彼女らの視線の先では、アンデルセンが切り殺した巨人の躯の上で刃を十字に交差させ、こちらに歩み寄る巨人に叫ぶ。

 

「この私の眼前で、巨人が歩き、巨人が群れ、人間を喰らおうとする。我らを虫けらのように踏み潰し、パンのように喰らおうとするものを、ヴァチカンが、イスカリオテが、この私が許しておけるものか!貴様らは震えながらではなく、藁のように死ぬのだ!AMEN!!!!]

 

そして、闘いと呼ぶにはあまりにも一方的な暴力が始まった。

 

 

 

 

 




今回ここまで。
次回いよいよトロスト区防衛線からです。

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