進撃のイスカリオテ~Titan to Dust~   作:マイン

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今回もう一人のヘルシングキャラお目見えです


巨人の敗れた日、死神の足音

シガンシナ区。多くの人が生活を営んでいたその街は既に巨人の占領下に置かれていた。超大型による外へ繋がる大穴、鎧の巨人によるウォール・マリアの完全突破。もうそこは人間の居れる空間ではなかった。

 

そんな地獄に一人、敢然と巨人を殺し続ける者がいた。アレクサンド・アンデルセンである。無人のゴーストタウンと化した街の中を、立体機動顔負けの機動力と跳躍力をもって所狭しと駆け巡り、巨人を目についた端から葬っていく。稀に奇行種とも鉢合わせたが、そう何度も不覚を取るほどアンデルセンも油断せず、行動を起こされる前に銃剣の血錆と化している。

圧倒的優位に立つアンデルセンであったが、彼にも一つ心配事があった。

 

(銃剣(バイヨネット)が足りん…!)

彼は元々、自分のコートなどの下に銃剣以外にも爆薬を仕込んだ爆導鎖など多数の武器を仕込んでいた。が、彼はミレニアム、そしてアーカードとの戦いの際にその大部分を消費し、その状態でこの世界に来てしまったため手持ちの武器は僅かなものであった。加えて、この世界には祝福儀礼の技術もなく、自分も一介の神父で通してあるのでそう易々と武器の調達もできずにいた。

 

 

 

「まあこの程度の奴等ならばなんとかなるだろう……んん?」

そう切り替えたアンデルセンの眼に飛び込んできたのは一人の巨人から逃げ惑う一団であった。

(奴らは確か、ウォール教の連中だったか…)

この世界において最も勢力の大きい宗教とされるウォール教。人類を守る壁を神格化し、その保存に徹底する連中と聞いていた。敵情視察も兼ねてなにも知らぬふりをし一度訪れてみたが、一部の人間を除きその内情はあの腐れプロテスタント共にすら劣るものであった。

壁を唯一無二の存在とし、その保持のためならば民は愚か信者ですら犠牲をいとわない。あがめるべきものもその理念すらカトリックと大きく違うその教えに胸糞悪くなって飛び出し、後で悪態をついたのを覚えている。

 

(このまま死んでも別に構わんが……む?あの腐れ司教はどこ行った?)

アンデルセンがいう人物は、訪れた際に自分に偉そうに長ったらしくその教えを説いていた男で、自分のウォール教への嫌悪感の大部分は彼によるものが大きかった。

「あの男だけは惨たらしく死んでもらわなければ困るからな…特別に居場所を聞くついでに助けてやろう」

言うが早いかアンデルセンは飛び出し、一団を追いかけていた巨人をすれ違いざまに切り伏せる。

ぽかんとする人々の前にアンデルセンは降り立った。

 

「あ、あなたは」

「質問はこちらからする。貴様らは余計なことは言わず答えればいい。答えろあの腐った司教はどこへ行った?」

自分たちの言を抑えられ言葉に詰まる彼らであったが、巨人を倒すような奴に逆らえばどうなるか分かったものではないし、何より自分たちもあの司教にはうんざりしていたので素直に従う。

 

「モ、モンガ―司教は、逃げる途中で俺たちを囮にしてウォール・ローズの方に…」

そこまでいったところで、言葉が止まる。なぜなら目の前の男が手にした刃物を地面に突き刺し、俯いてなにかぶつぶつ言いだしたからである。

しばらくして、顔を上げたアンデルセンは銃剣を引き抜き、避難所の方をさして言う。

 

「ここから2、30分も歩けば避難所だ。…早く行け!俺が貴様らへの殺意を抑えられているうちにな…」

道案内をしてくれたことにお礼を言おうとした一同であったが、アンデルセンの剣幕に圧倒され、逃げるようにその場を後にする。一人残ったアンデルセンはその目に殺意を宿し、再び走り出す。

 

「無事で済むと思うなよ、化け物共にも劣る畜生が…!」

 

 

 

 

 

 

再び巨人を狩り出したアンデルセン。その数はすでに50を超えていた。が、アンデルセンにとってそんなことなど今やどうでもよかった。今や彼にとっての最優先事項はあのモンガ―とかいう男を探し出すことにあった。

そんなアンデルセンの前に、奇妙な巨人が現れた。それは奇行種、というより奇形種というほうがしっくりくるだろう、岩盤のような鎧で包まれた巨人であった。そう、それは先ほどウォール・マリアを破壊したばかりの鎧の巨人であった。

だがアンデルセンにとって見た目などどうでもよかった。巨人はすべて殺す。そう決めた以上アンデルセンにとって形や行動など些細なことであった。

 

「邪魔をぉぉぉぉぉぉぉぉぉするなぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

そういってアンデルセンは鎧の巨人に切りかかる。だが予想以上にその外殻は堅く、弱点である項を切ったにも関わらず浅く傷を付ける程度であった。

 

「ちぃ、堅いか!だぁがぁ!」

しかし、そんな程度で諦めるほどアンデルセンは弱くはなかった。

 

「だったら切れるまで何度でも切ってやる!もっと奥へ!奥へ!奥へ奥へ奥へ、奥へぇぇぇぇ!!!」

アンデルセンは鎧の巨人に肩車する形になると、そのまま項に何度も切りかかる。刃が欠けようが、刀身に罅が入ろうが気にしない。それにより徐々に巨人の鎧の傷が広まっていく。流石に危機感を覚えたのか鎧の巨人も振り落とそうと暴れるが、アンデルセンは離れない。

 

「これでぇぇぇ最後だぁぁぁ!!」

バキィィィィン!!

二本の銃剣の刃と引き換えに、遂にアンデルセンは鎧を打ち砕き、項を晒させた。

 

「……んん?」

新たに銃剣を持ち、止めを刺そうとしたアンデルセンを押し留めたのはのはその巨人の鎧の下、項の部分にあるものであった。

 

「人の…腕…だと?」

その直後、突如アンデルセンを黒い影が覆う。見上げれば壁を破壊したあの超大型の巨人が自分を見下ろしていた。それにアンデルセンが反応するよりも早く、超大型から噴き出した高温の蒸気がアンデルセンを吹き飛ばした。

 

「ぬがっ!?ぶるあぁぁぁぁぁぁ!!!」

ガシャァーン!!

 

吹き飛ばされ、近くの民家に叩き付けられたアンデルセン。その体には蒸気により広範囲に亘って火傷になっていたが再生者(リジェネレーター)の回復力ですぐに治癒される。

すぐさま起き上がって辺りを見渡すアンデルセンであったが、もうそこには超大型はおろか鎧の巨人すらいなかった。

 

「ちぃ、逃したか!…しかしあの巨体をどうやって消したのだ?あの吸血鬼のように体を変化させられるのならまだしも……ぬ」

そんなアンデルセンの眼に入ったのは、先ほどまで自分が血眼になって探していたモンガーその人であった。

 

 

 

 

 

ウォール・ローズへと続く一本道。その道をモンガ―は走っていた。途中で信徒たちが巨人に追われていたが知ったことではない。あんな奴等よりも私が生き残ることの方が大切なのだ。幸い壁の向こうには知り合いもいる。彼らに頼れば再び司教としてまた甘い生活を送れるだろう。

そんな期待をして走っていたモンガ―の前に突如巨大な影が現れる。

 

「なんだ…ひっ!」

それは言うまでもなく巨人のものであった。15メートルはあるであろう大型のものだ

「た、頼む!金ならいくらでもやる!後で信徒共でもたっぷり食わせてやるから、食わないでくれ!」

そんな風に巨人に頼み込むモンガ―。無論巨人に言葉など通ずる筈もなく、巨人はへたり込むモンガ―に大口を開けて近づく。

 

「ひぃぃぃぃぃ!!」

迫り来る死の恐怖に悲鳴を上げるモンガ―。だがその時、

 

「キィィィィエェェェェイ!!」

ズバッ!!ドズウゥゥゥン!!!

奇声と切断音、そして振動を感じ顔を上げると、自分を食おうとしていた巨人が倒れ伏し、その躯の上にかつて自分が説法したアンデルセンとかいう男が立っていた。

 

「おお、あなたは確かアンデルセン!よく助けてくれたな!褒めて遣わすぞ!さあ近こう寄れ!」

先ほどまでの失態はどこへやら、尊大な態度を隠そうともせずモンガ―はアンデルセンに近寄る。アンデルセンも表面上は笑みを浮かべ、巨人から降りてモンガーに近寄る。そして、その笑みの下に殺意を忍ばせていることに気づきもしないモンガ―に恭しく話しかける。

 

「司教殿もご無事で何よりです」

「ああ、それよりよくやったぞ!それにしても貴様こんなに強かったとは知らなかったぞ!おおそうだ、特別に褒美をとらせよう。なにがいい?」

その言葉を聞き、アンデルセンは笑みを深め、手にした銃剣を握ぎり閉めて言う。

 

「ではひとつだけ、いただいてもよろしいでしょうか?」

「おおなんだ?金か、宝石か?それとも貴様の孤児院を新しくしようか?」

「いえいえ、そんなものなど要りません。私めが欲しいのは……」

アンデルセンはそこで俯き、すぐ顔を上げて言う。

 

「…貴様の命だ」

「えっ……!!?グフゥ!!」

次の瞬間、モンガーが何か言う前にアンデルセンの銃剣がその心臓を串刺しにしていた。アンデルセンは歪んだ笑みを浮かべ、十分に出血したのち銃剣を引き抜く。

 

「何故だ…貴様…私は……司教だぞ…こんなことして…ただでは……」

虫の息で尚も悪態をつくモンガ―に、アンデルセンは怒りと嘲笑を半分半分にした顔で言い放つ。

 

「やかましいぞこの雄豚が!我らの神は只一つ、主のみである!それ以外の存在など、神を語るもおこがましい!もし貴様を殺したことで天罰が下るとするなら、その時は貴様らの神ごと切り捨ててくれるわ!!」

その後、モンガ―は「この…罰当たりめが…」という言葉を最後に息を引き取った。アンデルセンはそれをロクに見届けもせず再び巨人に向かって歩き出す。

 

「ウォール教など、必ず潰してくれよう。だがまずは貴様らからだ化け物共。もはや一匹たりとも逃しはせぬぞ!!」

アンデルセンはそういって再び巨人に飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数十分後、破られたウォール・マリアの穴から、憲兵団や帰還していた調査兵団がシガンシナ区へと侵入した。目的は生存者の有無の確認とある人物の保護である。彼らは立体機動を駆使し、街中へと飛んでいく。

 

「しっかしほんとにいるのかねえ」

そう軽口を叩くのは最近団長たるエルヴィン・スミスによってスカウトされた新入りの調査兵団員、リヴァイであった。そんな彼の言葉に、近くにいた同期の団員が話しかける。

 

「いるって、生存者?」

「ちげーよ、あのチビ共が言ってた神父サマって奴」

彼らは出立前、避難直前であった孤児院の子供と保護者らしい女、そして三人の子供からあるお願いをされていた。「今闘っている神父様を助けて」と。

 

「さあ?もう食われちまったんじゃね―の?巨人を殺しまくったっていうのも眉唾モンだし」

「…だよなあ」

不謹慎なようだが、短いとはいえ外で巨人と闘ってきた経験から予想できた常識論であった。まあ、遺品でも見つけたら持って帰ってやろう。そんな風に考えていたその時だった。

 

げぇははははははははは!!!!

「「!?」」

突然聞こえてきた馬鹿笑いに、思わす彼らの動きが止まる。

 

「な、なんだ!?今の声!?」

「あっちの方からだ!」

「よし!」

彼らは向きを変え、声のする方向へ向かう。その道中、とある団員が口に出す。

「なあ、気になってたんだけど……壁が破られた割には巨人がまったく居ないんだけど」

その言葉に、他のメンバーも疑問を抱く。だがその疑問は、声の主を発見することで払拭される。

 

「いたぞ!!人だ…!!?」

声の主を見つけた彼らが感じたのは安堵、ついで驚愕であった。

「おいおい、なにが優しい神父様だよ…」

事前に子供たちから聞いていた印象とのあまりのギャップに、リヴァイは思わずそう呟く。

 

 

 

 

なぜならそこにいたのは

 

 

 

 

 

 

 

消滅しつつある、数えるのも馬鹿らしい数の巨人の死体の山の上に銃剣を突き刺し、天に向かって馬鹿笑いをしているアンデルセンがいたのだから

 

 

 

 

 

845年、壁は破られた。この時侵入した巨人の数は超大型、鎧を含めおよそ百体近く。だが、そのほとんどが生きて壁の外に出ることはかなわなかった。たった一人の神父によって―

 

 

 

 

 

 

それから数日後、この国の最奥、ウォール・シナの奥にあるレイス家、その離れにある一際ボロい小屋に、二人の男女がいた。

 

「あーっはっはっは!やっぱりあいつは強いなあ!あのアーカードが惚れるだけのことはあるや!」

そのうちの一人、執事服を着た黒髪の少年が新聞を見て大笑いをしていた。それを見たもう一人、金髪の少女が彼に尋ねる。

 

「ねえ、何がそんなに面白いの?」

「くっくっく、これが笑わずにいられるか。見てみなよ『ヒストリア』お嬢様」

少年は少女、ヒストリアに自分が見ていた記事を見せる。

 

「なになに……狂人神父、シガンシナ区を救う。たった一人で半日にして百の巨人を葬った人切り神父、アンデルセン。……なにこれ、嘘くさい」

「ところがこいつに限っちゃあり得るんだよねえ。ふふふ、面白くなってきた」

記事のあまりの突拍子のなさに眉をひそめるヒストリアと対照的に、少年はクスクスと笑う。

 

「まあなんでもいいけど…!いけない!そろそろお父様との約束の時間だわ」

「おや、もうそんな時間か。この部屋時計が小さいから不便だな」

そんな言葉を口にしながら、少年は彼女の身支度を手伝った。

 

「…うん、こんなもんでいいか。じゃあ行ってくるね!」

「道中気をつけてな」

身支度を済ませ、ヒストリアは玄関を開け、振り返って己が「世話係」の少年に挨拶をする。

 

 

 

 

「いってきます『ウォルター』!」

「いってらっしゃいませお嬢様」

そんな彼女を世話係兼執事である少年、「ウォルター・C・ドルネーズ」は見送った。

 

 

 




導入編しゅーりょー
というわけで新キャラはショルターでした!爺ルターとどっちがいいか迷いに迷ったよ
あー疲れた

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