進撃のイスカリオテ~Titan to Dust~   作:マイン

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さあ皆さん巨人の皆さんに黙とうをwww


狂信者

「イエェェェェイメェェェェェェン!!!!!!」

堂々たる名乗りが終わるや否や奇声を上げて巨人に切りかかるアンデルセン。

まず手近に纏まっていた5メートル級三体に飛び掛かると、その間を跳ね回りながらあっという間にその項を切り落とす。続けて三体目の巨人を足場に高く跳躍すると、今まさに立ち上がろうとした巨人の上に落下し、再び跳び上がると同時にその項を切り抉る。そしてまた別の巨人に飛び降り、項を切ると同時にまた別の巨人に飛び移る。

その有様は、まるでかの源義経の八艘飛びのようであった。その様を見ていた人々にはそんなことは知りようもないのだが、それでも人間離れしたすさまじいものであるということは理解できた。

 

「すげえ……」

「巨人を…あんな簡単に…」

「立体機動も無しにどうしてあんな動きができる…?」

 

アンデルセンの戦いぶりを見ていた群衆の中からそんな声が漏れる。その声には感心、驚き、歓喜、憧れ、そして

 

「あいつ、ほんとに人間なのか?」

少なからずの恐怖が混じっていた。巨人は人間が刃を持ったからといって簡単に殺せるような存在ではない。それはこれまでの調査兵団の犠牲が立証していた常識であった。

だが目の前の男は、まるで子供が虫を殺すかのようにあっさりと巨人を屠っている。そんな存在を人間と認めていいのか?それがこの場にいる大多数の人間の共通認識であった。

そんな中でエレンたち三人が感じていた感情は三者三様であった。

 

「俺も、あんな風に巨人を…」エレンのまるで英雄を見るかのような憧れ。

 

「なんで、なんであんな風に戦えるの!?」アルミンの狂人を見るかのような理解しがたい困惑。

 

「神父様…、どうして…?」目が覚めたミカサの予想外の光景に対する混乱。

 

そんな三人に共通しているのは、普段のあの優しい物腰からは想像もつかないアンデルセンの変わりように対する驚愕であった。

 

 

そんな中、最後の一匹らしい個体を葬ったアンデルセンに物陰から飛び掛かるものがあった。

 

バクゥッ!!

「グムッ!?」

 

アンデルセンの足に食いついたのは3メートルほどの子供型の巨人であった。

 

「き、奇行種だ!」

群衆の中から声が飛ぶ。巨人の中には通常の巨人と比べて様々な行動をとる種類がいた。それぞれパターンに違いはあれど、総じて奇行種と呼ばれていた。こいつは隠れて獲物を狙うタイプだったのだろう。

 

「し、神父様!」

孤児院の子供たちから悲鳴が飛ぶ。巨人は恍惚とした表情でさらにアンデルセンを食らおうとする。誰もがそこで終わった、と感じた。

しかし、次の瞬間アンデルセンがとった行動は、周りの人間にとっても、巨人にとっても理解しがたい行為であった。

 

「ふんっ!」

『!!!??』

なんとあろうことかアンデルセンは自らの足を腿半ばから切り落としたのである。そしてそのまま体を捻ると、巨人の後方に回って項を切り落とす。

そして足を失ったアンデルセンは、倒れ伏す巨人とともに地面に落ちる。無論、受け身をとってだが。

 

 

「アンデルセン神父ぅ!」

倒れ伏したアンデルセンに孤児院の面子やエレン達が近寄る。一様に泣きそうな表情であったが、心配するのは当然のことであった。アンデルセンのもと居た世界ならまだしも、医療技術も義足技術も未発達なこの世界では、足を失うのはそのまま再起不能を意味する。

そんな彼らに、アンデルセンはさっきまでの殺気立った表情ではなく彼らのよく知る優しげな顔で語りかける。

 

「大丈夫ですよ皆さん。このくらいなんともないですから」

「ッ!そんな訳ないでしょう!自分から足を切るだなんて!そりゃあ巨人に食われるよりはマシでしょうけどそんな足じゃっ…!!?」

そこまで言ったローズはふと切られた足の断面を見て息を呑む。それは他の全員も同じであったが、それも当然であろう。なぜなら切られたはずのアンデルセンの足の付け根から、骨が生成されてきている。それが元あった形を成し、続いて筋肉、神経、皮膚と生成され、遂には元あった状態そのままの足が再生された。

 

誰もが驚き、次いで恐怖する。その治りゆく様はまるで自分たちが恐れる巨人のようであったから。

 

「し、神父様、それは…一体…?」

「自己再生能力(リジェネレーション)に回復法術(ヒーリング)、我々ヴァチカンが、イスカリオテが化け物どもを駆逐するために生み出した技術だ」

かろうじて声を絞り出したアルミンにアンデルセンが答えた返事がそれであった。

答えてはもらえたもののリジェなんとかだのイスカリオテだの聞き覚えのない単語に、パニック状態のアルミンの頭はさらに混乱する。

そんな様子を見かねてか、アンデルセンはアルミンの頭を優しく撫でて言う。

 

「安心しなさい。私は人間で、お前たちの味方だ」

 

そういうとアンデルセンは立ち上がり、先ほどの巨人の残骸から食われた靴を拾い上げて履き直し、街に向かって歩き出す。

 

「!神父様どこへ!?」

「どこへ?決まっているだろう。我らが神の子であるリンクを食らった巨人どもを殲滅するのだ」

そう答えたアンデルセンに、一人の男が近寄る。どうやらウォール教の聖職者らしいその男はアンデルセンに近寄りながら言う。

 

「お、お待ちを!でしたら私どもの教会から聖書を持って………っ!!」

そこまで行ったところで男はつんのめるように立ち止まり、尻餅をつく。その原因はアンデルセンが彼の足元に銃剣を投擲したからであった。

 

「な、なにを」

「黙っていろ!異教徒共が!!」

そういって彼を言い伏せるアンデルセンの眼と声は、巨人たちと相対するときのように殺気だっていた。

 

「俺がいつ、貴様らの味方になったなどと言った?俺が信ずるのはカトリックただ一つ!俺が守るのはカトリックとそれを信じる者たちのみ!貴様らウォール教だとかいう連中がいくら死のうが知ったことではない。この場で巨人どもと一緒に殺されないだけありがたいと思え!」

そう言い残し、アンデルセンは街へと駆けて行った。

 

後に残った人々はアンデルセンに対する見方を改めることとなった。

 

あれは英雄でも巨人でもなんでもない。あれは唯の―狂信者だ。と―




今回ここまでで。
次回、例の三人中一人がぼこぼこにされますwww


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