進撃のイスカリオテ~Titan to Dust~   作:マイン

3 / 17
とりあえずキリいいとこまで書いときます
すいません無双回は次回です


我らは神の代理人

 

 

 

アンデルセンは、巨人のことを聞いたとき自分でも意外なほどすんなりその存在を信じることができた。元の世界でそれ以上の化け物と闘ってきたからだろうが、それ以上にこの国の人間の疲れ切った表情や、孤児、母子家庭、子を失った夫婦などが多いことへの得心がいったからである。

だが実際に見ていない以上、それに対してどうこうとまでは思わなかった。

 

だがその巨人を目の当たりにした今、アンデルセンには理解できたことがあった。

 

あれは人類の、いや、

 

 

 

俺の敵だ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

巨人の出現に人々が茫然とする中、超大型の巨人が壁を蹴り飛ばす。壁は瓦礫と化し、すさまじいスピードで人々を、民家を襲う。そしてその一つが今リバーたちに向かってきた。

 

「危ないっ!!」

 

とっさにロゴスとベレッタは覆いかぶさるようにリバーをかばう。

瓦礫のスピードと質量を考えれば、三人まとめて吹っ飛ばされてもおかしくはない。だが、咄嗟に体が動いてしまった。何かせずにはいられなかった。三人は迫りくる死の痛みに目を閉じた。

 

だがそれは何かの粉砕音のみを残し、訪れなかった。

恐る恐る目を開け、愕然とした。そこには瓦礫の弾道上であろう位置に敬愛する神父、アンデルセンが拳を突きだして立っていたのだから。そして、その拳はかつて手であったかもわからないほどにつぶれていた。

それで悟る。神父様は瓦礫を殴って(・・・・)助けてくれたのだと。

 

「しっ神父様!なんてことを!…ああっ、ひどい…」

飛び跳ねるようにロゴスがその手であったものに近寄る。ベレッタはリバーにその惨状を見せないよう、眼を塞いでいた。

そんな二人にアンデルセンはまるで痛みを感じていないかのように笑いながら応える。

 

「このくらい、あなたたちが怪我をするのに比べたらなんともありませんよ。さあ、もうここは危ない。すぐに孤児院へ戻りましょう」

ふと周りを見れば、人々がパニックを起こして逃げ惑い始めている。混乱し過ぎているのか、周囲で一番の負傷者であるアンデルセンの手に誰も気を留めない。アンデルセンの言う危ないとは巨人だけでなく、こういうことなんだろうとロゴスは理解した。

 

「急ぎますよ、人が多いですから。裏道を使います。三人ともしっかり掴まってくださいね」

そういうとアンデルセンはロゴスとベレッタを小脇に、リバーを肩車し、疾風のように駆けていった。

 

 

 

どうやら瓦礫の被害はなかったらしい孤児院にたどり着くと、既に入口には留守番中の子供たちと、一人の女性がいた。女性はアンデルセンを捉えるやいなや駆け寄ってきた。

「あっ、神父様!」

 

彼女はローズといい、調査兵団だった息子を三年前に亡くし、夫も病でそれ以前に亡くして独りだったところを、アンデルセンに頼まれ、現在この孤児院の家事を務める寮母をやっていた。

そんな彼女のただ事ならない様子に、アンデルセンは眉をひそめる。

 

「どうしました?ローズさん?」

「リ、リンクとエドが!まだ帰ってこないんです!抜け出して街に行ったみたいで、巨人が来たっていうのに…ああ!」

ローズから事情を聴いたアンデルセンは驚き、次いで神妙な面持ちで俯くと、すぐ顔をあげて言う。

 

「わかりました。二人は私が探して連れて行きます。ローズさんはみんなと早く避難してください」

「で、ですがそれでは神父様が」

「私なら大丈夫です。さあみんな、ローズさんに付いて行くんだよ。二人は私が連れてくるからね」

ローズ、次いで子供たちにそういいアンデルセンは担いでいた三人を降ろし、来た道をまた疾風のように引き返していった。

 

「…さあ、みんな行くわ」

「ま、待ってローズ先生!」

「…どうしたのロゴス?」

仕方なく皆を先導しようとしていたローズを、先ほどのスピードから解放されさっきまで眼を回していたロゴスが呼び止める。

 

「し、神父様は怪我をしているんだ。私たちをかばって、左手がめちゃめちゃになってた!」

「ええ!…でも…」

 

それを聞き、驚きながらもローズはふとさっきのアンデルセンを思い出し、不思議そうにこう答えた。

 

 

「…そんな怪我さっきはしていませんでしたよ?」

 

 

 

街への道を走るアンデルセン、「アレ」を使えばわざわざ走る必要などないのだが、もしすれ違いにでもなれば元も子もない。故にアンデルセンは走っていた。眼前の街には、既に多くの巨人が闊歩している。それを走りながら憎々しげに見て、慣れた手つきで両袖から何か棒状の物を取り出し、右手、そして先ほどまでぐしゃぐしゃであったはずの左手に握る。

「調子に乗るなよ化け物共(フリークス)っ…!」

長年使い慣れた銃剣(バイヨネット)を握りしめ、アンデルセンはそう呟いた。

 

 

 

 

 

 

エレン・イェーガーは憎んだ。母を食らった巨人どもを、こんな惨状になった運命を、そして立ち向かえなかった自分の弱さを。そのために誓った。

 

「駆逐してやる…この世から…一匹残らずっ!」

だが、今の自分にはその力がない。幼馴染の少女から身をもってそのことを教えられ、今は避難船の到着を待っていた。だが思ったより来るのが遅い。大人たちの話を立ち聞きしていると、どうやら船が足りず、大急ぎで調達しているとのことらしい。

 

「船…早く来るといいね」

「…うん」

少女、ミカサとそんなやりとりをしていると、暗い雰囲気を払拭しようとしてかもう一人の少年、アルミンが明るい声で話す。

 

「だ、大丈夫だよ!みんな乗れるって言ってるしさ!ほら、もっと元気だそうよ!」」

「…ああ」

意図は分かるが、目の前で母親を食われた以上、早々立ち直れもしない。エレンはそう返すのが精いっぱいであった。

 

「ほら、あそこに孤児院の皆がいるよ!神父様…はいないみたいだけど、行ってみようよ!」

見ると、確かにアンデルセンはいないが見慣れた子供たちと寮母であるローズがいる。が、一様に不安そうに街の方を見ている。中には泣いている子供もいる。

不審に思い、そちらに向かおうとした、

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

ドガラァァァァッンンンン!!!

 

 

なにかが壊れる音がし、視線を向けるとそこには多くの巨人が避難所の壁があったところに多い被さっていた。どうやら造りがその箇所だけ老朽化していたらしく、巨人の重さに耐えきることができなたっかのだろう。

しかし、もはや重要なのは壁が云々ではなく、巨人が入ってきたという事実である。

 

一瞬の沈黙、そして我に帰るやいなや堰を切ったように人々が悲鳴を上げ、逃げ惑う。避難所が壊された以上、どこにも安全な場所などありはしないのに。

そんな中でエレンは、二人の友人のことを探していた。

 

「ア、 アルミンッ!アルミンは」

「ここにいるよ!」

「…いたか。ミカサは、ミカサはどこに」

「ああっ!あそこ!」

「ミカサ!?」

アルミンの指さす方向を見ると、ミカサは人の波に飲まれ動けないでいて、やがて孤立した孤児院の面々の元へ走っていた。助けようというつもりなのだろうが、人がいなくなり、周りに何もない状況にある女子供の集まりに、同世代の中で飛びぬけて強くとも武器の一つもない少女が一人加わった所で、巨人の餌が増えるだけである。そして見渡しのよくなった広場に取り残された彼女らに、巨人が向かっていくのは自明の理であった。

 

「ミカッ…!」

 

エレンが何か言う前に、恐れていた事態が起こった。一人の巨人に摘みあげられそうになった少女を、ミカサが突き飛ばしたのである。

自分が代わりに捕まってしまうことなど、分かり切っていたにも係わらず。

 

「ミカサァ!!」

巨人の手の中でミカサはもがくが、10メートルはあろうかという巨人の力を少女一人でどうこうできるはずもない。ミカサはそんな中エレンの方を向いて言う。

 

「エレン!私に構わず行って!」

「なっ!?できるわけね」

「巨人を倒すんでしょ!」

「っ!?」

 

反論しようとしたエレンを言い伏せ、微笑みながらミカサは諭すように言う。

 

「こっちに来たら、エレンも食べられちゃう。そしたら、できなくなるよ。だから、ね?」

 

確かに、奴の後ろにも数体の巨人がいる。あれがこっちを標的とするやもわからない。

ふと、腕を引っ張られる感覚を感じ、見てみるとアルミンが半泣きになりながら引っ張っている。

 

ミカサの思いを無駄にしちゃいけない。だから、

 

そう目で訴えながら。

 

「だからって…!」

だからと言ってはい、わかりました。と従えるほど、エレンは理知的ではない。加えてさっき母親を失っているので、これ以上家族を見捨てることはエレンにはできなかった。

 

そんな中ミカサを捕まえた巨人が、もがくミカサを疎ましく感じたのか手に力を籠め始めた。どうやら絞め殺してから食うつもりらしい。ミカサも必死に抵抗するが、徐々に顔から血の気が失せ、力が抜けていく。

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

エレンは叫んだ。無駄だと分かっていても叫ばずにはいられなかった。そして、無意識に目を伏せ、祈った。

 

 

誰かっ…ミカサを助けてくれっ…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ババサァァァ!!

 

 

 

突如感じた光と風切音に眼を開けると、眼前で本のページのようなものが光を巻き上げながら渦を巻いていた。不自然すぎるその光景に、エレンやミカサ、アルミンだけでなく逃げ惑う人々や巨人ですら動きを止め、それを見る。

そしてその中から、黒い人影のようなものが飛び出し、ミカサを掴んでいた巨人に向かいその首と両腕を切り飛ばした。

 

「「ッミカサッ!」」

首を失った巨人とともに腕ごと地面に落ちたミカサに、エレンとアルミンは駆け寄り、手の中からミカサを解放する。失神しているようだが、ちゃんと呼吸はしている。死んでない。

 

「良かった…!」

エレンはほっとしてミカサを抱きしめると、次々と振動と落下音を耳にした。視線をあげるとさっきミカサを救った黒い人影が、次々と巨人の首を刎ねまわっている。首を失った巨人は、次々と倒れ伏していく。

 

「エ、エレン!後ろ!」

それを茫然として眺めていると、突如アルミンが悲鳴を上げる。ハッとして振り返ると、首を失ったはずの巨人の肉体が動きだした。切られたはずの両腕も、既に再生を始めつつある。

「こいつ…、こんなになってもまだ生きてるのか!?」

驚いて、急ぎミカサを抱いてその場を離れようとすると、

 

ドズッッ!!

 

上空から降りてきた黒い人影が、巨人の首筋に落下した。巨人は再び倒れ伏すし、土煙が舞う。

 

「い、一体何が」

「まったくぅ、なんというしつこい奴らだ。喰屍鬼(グール)共より弱いくせに、なかなか死にやしない」

「えっ!?」

 

状況を理解できないアルミンに、土煙の中から”声”が届く。それは、アルミン、ひいてはエレンたち三人にとって聞きなれた声であった。ふとエレンを見ると、エレンも驚いた表情で土煙の先を見る。孤児院の面々を見ると、皆信じられないような、それでもどこかに嬉しさを滲ませていた。

 

そんな中、土煙の中の巨人が再び動き出す。

 

「ちぃ、まだ死なんか」

「うっ、項だ!」

「ああん?」

悪態をつく”声”に、群衆の中から声が飛ぶ。皆がその方向を見ると、駐屯兵団らしい男が息を切らせて叫んでいた。

 

「巨人の弱点は項だ!項をそぎ落とせ!」

そのすがるような叫びに”声”は静かに答える。

 

「なるほど、こうか」

次の瞬間何かを抉るような音がし、土煙の中から何かが転がり落ちる。それは、巨人の首筋の肉片、すなわち項であった。すると巨人は動きを止め、もうピクリともしなかった。

 

 

 

 

晴れ行く土煙の中から”声”がする。

 

「ローズ、皆、無事だったか…すまんエドとリンクはまだ」

「神父様!」

「…うん、なんだエド、いたのか。リンクはどうした?」

孤児院の皆の無事を確認する”声”に、泣きじゃくっていたエドが叫ぶ。

 

「リンクっ…リンクがっ…俺をかばって…巨人にっ!」

そこまで聞くと、”声”の主の雰囲気が変わった。さっきまででも恐ろしい殺気を発していたのにさらに殺気が増し、見えないにも拘らず激しい憎悪すら感じる。

 

「…よく生きてくれた、エド。あとは『俺』に任せておけ。仇は必ずとってやる」

そういいながら”声”の主は巨人から降りてくる。やがてその全貌が露わになる。

 

「手始めにここの殺し損ねた奴等からだ。化け物は一匹たりとも生かしておかん」

奇しくも自分の誓いと同じ言葉を発した彼の正体に、エレンは分かっていたにも関わらず驚愕せざるを得なかった。

 

 

服装こそいつも道理であるが、その両手には変わった形の刃が握られ、普段穏やかな眼鏡の奥の眼差しは、視線だけで恐怖するに値するものであった。

そして彼は口元を憎悪に歪め、両手に持った刃をまるで礼拝堂にあった十字架のように交差させながら、眼前の再生しつつある巨人の群れに向かって告げる。

 

 

 

 

 

 

我らは神の代理人

 

 

 

 

神罰の地上代行者

 

 

 

 

我らが使命は我が神に逆らう愚者を

 

 

 

 

その肉の最後の一片までも絶滅すること

 

 

 

 

 

AMEN(エイメン)

 

 

 

 

 

 

 

今ここに銃剣(バイヨネット)は蘇った

 

 

 

 

 

アレクサンド・アンデルセンという銃剣が。

 

 

 

 

 

 




とりあえずここまで。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。