進撃のイスカリオテ~Titan to Dust~   作:マイン

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ちょっと短いけれど投稿します
ちょっとこじつけがましいかも…あとウォルター弱く見えますが手数自体はウォルターのが上なので気迫の差とおもってください


執事vs神父、少女の想い

トロスト区奪還作戦。アルミンの提案によって決行されたその作戦は、現存戦力の中でも精鋭をかき集めて巨人を四方へ誘導し、それによって生じた空間を通ってエレンがウォール・ローゼの穴を塞ぐというものであった。しかしこの作戦は、巨人の行動やエレンの巨人化能力の不安定さも相まって多大な犠牲が出ると思われていた。

しかし現状、その被害は予想をはるかに下回っていた。その原因はヴァチカンへの支援要請に行かせていた104期訓練兵たちが、想定外の戦力を連れて帰ってきてくれたからであった。その一つは遠征先より予想以上に早く戻ってきていた調査兵団とイスカリオテ。特にリヴァイ兵士長とアンデルセンの存在は兵士たちの士気を大きく高め、彼らもまた遠征先での鬱憤を晴らすかのように巨人を殺しまわった。

もう一つは作戦中に突如現れた謎の少年、ウォルター・C・ドルネーズ。クリスタ・レンズの専属執事を名乗るこの少年は、ただ手を動かしただけだというのに周囲の巨人の項が細切れになるという不可解現象を引き起こして回り、しかも立体起動を用いないまま町中を飛び回るように移動して回ったため、彼によって多くの巨人が地に伏せることとなった。

 

そんな後押しを受け、遂にその時が訪れる。

 

「「行けえぇぇぇ!エレン!!!」」

ドズゥゥゥンンンン!!!

ミカサとアルミンの声を背に、遂にエレンは大岩を壁の穴に叩きこんだ。一瞬の静寂、そして訪れる大きな歓声。作戦終了の合図の狼煙が上がるより響き渡るその声が、作戦の成功を、人類の勝利を知らせていた。

 

「……終わったみたいだな」

「そうみたいだね」

そんな人々を、物見台の上からアンデルセンとウォルターが見下ろしていた。作戦終了直前にトロスト区内のほとんどの巨人を掃討した二人は、周囲が一望できるその場所にて巨人の生き残りを探しながらその瞬間を見届けていた。

 

 

 

「さて、んじゃあれも終わったことだし…」

「……?」

やがて役目を終えた巨人よりずり落ちたエレンをミカサ達が回収し始めたころ、ウォルターはアンデルセンの方を向いて構える。

 

「今度は僕らの闘いを始めようか」

そういってウォルターは自らの武器である鋼糸を広げる。ウォルターがここまでやってきた理由は、言わずもなが主たるクリスタのためであるが個人的にアンデルセンと闘うためでもあった。忘れもしない自分にとって最後の闘いとなったアーカードとのあの闘争。

 

 

 

『アンデルセンで勝てなかったこの私を、お前みたいな顔色の悪い糞ガキが50年や500年思い煩って勝てるわきゃあ無えだろう!!!』

追い詰めたと思いながらも実際は遊ばれていただけのあの闘いの最中に言われたその一言が、ウォルターの心に突き刺さっていた。自分のあの50年は、主君を裏切ってまで求めたあの瞬間は、本当にこの男に劣るものであったのか。この世界でアンデルセンの存在を確認したウォルターが真っ先に思ったのがそのことであった。

 

「………」

「嫌とは言わせないよ。あんたは知る由もないだろうけど、こっちはアーカードにあんたの引き合いに出されてちょいと思うところがいるんだ。あんたと僕、どっちが強いかここではっきり…」

「断る」

ウォルターの誘いに対し、アンデルセンの答えはそっけないものであった。あっけにとられるウォルターに、アンデルセンは滔々と話し出す。

 

「若返ったせいか随分やんちゃになったようだな。以前のHELLSINGにいたころの貴様ならともかく、カトリックでも、ましてやプロテスタントでもない少しばかり腕の立つガキをいちいち相手してられるほど俺は暇ではない。……それにこの闘いで死んでいった者たちも弔ってやらねばならん」

そういうアンデルセンの眼下では、部下であり大事な娘でもあるロゴスとベレッタがエドたちを招集して事後処理に回ろうとしている。

 

「……」

「分かったな。貴様にも新しい主がいるのなら、おとなしくそいつのお守をしているのだな。折角拾った命だ、精々神に感謝して…」

「…チェッ、黙っとくつもりだったのになあ」

アンデルセンの言葉を遮り、ウォルターはこうなった時の為に黙っていた事実を語りだす。聞けば間違いなく、アンデルセンの逆鱗に触れるであろうその一言を。

 

「あんたが率いていた13課、高木由美恵っていったっけ…」

「………」

「そいつ、僕が殺したっていったら…」

その瞬間、ウォルターの言葉が言い終わるよりも早く物見台の頂上が吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

「!?なんだぁ!?」

トロスト区内、エレンによって封鎖に成功したウォール・マリアの傍にて撤収作業を進めていた兵士たちの耳に、突如轟音が響き渡り、その後何かが崩れるような音と衝撃が伝わる。新たな巨人の出現かとあたりを見渡せば、その音の正体はすぐに分かった。街の中心近く、トロスト区にいくつか存在する物見台の一つの頂上が土煙で覆われている。そしてそこから飛び出してきた二人の人影に、兵士たちはさらに驚愕する。

片方はイスカリオテの最終兵器にして『巨人殺し』の異名を持つ人斬り神父、アレクサンド・アンデルセン。その表情は今までにないほど怒りに歪み、目の前の人影を親の仇と言わんばかりに睨み付けている。

もう片方は先ほど突然現れて凄まじいスピードで巨人を駆逐して回った少年、ウォルター・C・ドルネーズ。その表情には笑みが見えるが、それは嬉しさよりもむしろ悪戯が過ぎて焦る子供が見せる笑みのように見て取れる。

土煙より飛び出した二人は、手近な屋根の上に降り立つやいなや凄まじいスピードでぶつかり合う。アンデルセンは銃剣の投擲や直接切りかかるなど暴風雨のような勢いでウォルターに襲い掛かる。対するウォルターも何やら手を動かすたびにアンデルセンの体に傷がついたり投擲された銃剣がはじかれたりしている所を見るに反撃しているようであったが、戦況は誰の目から見てもアンデルセンの圧倒的優位にあった。次第にウォルターとアンデルセンの距離は詰まっていき、ウォルターの顔にも冷や汗と焦りの色が見て取れる。

 

「お、おいすげえな…。なんであいつらが争ってんのか知らねえけど、あのままじゃお前の執事危ねえんじゃねえのクリスタ………クリスタ?」

誰もがその光景に息を吞む、というか下手に仲裁に入れば巻き添えで殺されかねないので傍観する中、親友の執事を名乗る男の危機に声をかけたユミルの言葉は、しかし返事が返ってくることは無かった。何故なら先ほどまでそこにいたであろう少女、クリスタの姿はいつの間にやらなくなっていたのだから。

 

 

 

 

ガキィィィンンン!!!

一方二人の闘いにもいよいよ終わりを迎えようとしていた。防戦一方だったウォルターを、アンデルセンが遂に射程圏内に収め、脳天めがけて銃剣を振り下ろす。ウォルターも鋼糸を束ねて強度を増してそれを受け止めるが、アンデルセンの勢いを殺しきることはできず、徐々に押し込まれていく。

 

「これは…ちょっと…ミスったかな…?」

ウォルターとて勝機なしにアンデルセンに喧嘩を売ったわけではない。そもそも、闘った時代が違う以上、アンデルセンはウォルターの武器は知っていても闘い方までは詳しく知っているわけではない。だがウォルターはあの闘いの際吸血鬼化手術を受けた後、ミレニアムの連中と共にアンデルセンの戦いぶりを高みの見物していたためにその強さはよく把握していた。さらにアンデルセンがいくつなのかは知らないが、自分の方が確実に若いのは確かなので、肉体的に見ても自分が有利なのは自明の理であった。

だがアンデルセンは、ウォルターの予想の遥か上を行く存在であった。見ているときよりも数段キレを増して見える剣さばきと、再生者ゆえの怪我を恐れぬ猪突猛進な勢い。そして何より教え子を殺した相手に対する凄まじい怒りの感情。アーカードとはまた別の、相手に一種の諦めを感じさせる圧倒的な強さ。その強さの前に、さしものウォルターもいま絶体絶命の危機に追いやられていた。

 

「くっそ…せめてあと5年待ってからやるべきだったかなぁ…」

「辞世の句はそれで終わりか小僧…!」

悪態をつくウォルターに、アンデルセンは底冷えするような声で呟く。

 

「正直に話したことは誉めてやろう。ならばその正直さを土産に、地獄に落ちるがいい!!」

アンデルセンのごり押しに耐えかねたか、遂にウォルターの鋼糸が一本、また一本と切れていく。

 

(あーあ、ドジッたなあ…。ほんと強えやこのおっさん。……お嬢様、再会して早々だけどお別れみたいだわ。お達者で)

心の中で今の主に別れを告げるウォルターに、刻々と死の瞬間は近づいていく。そしてついにアンデルセンの銃剣がウォルターを鋼糸ごと切り裂く―

 

 

 

 

その瞬間

 

ドンッ!!

「ぬぐっ!?」

「うぉっ!?」

突然横合いから来た衝撃に、アンデルセンは対応できず突き飛ばされる。そして銃剣の圧迫より解放されたウォルターも、反動で尻餅をついた。

 

「何者だ!邪魔をするな!………貴様は…」

「お。おい。何で…」

すぐさま持ち直したアンデルセンと、尻餅をついたままウォルターは突然の襲撃者の方を向く。

 

 

 

 

 

「…させない」

 

そこにいたのは

 

「もう後ろで見ているだけなんてしない…!ウォルターは、私が守る!」

先ほどまで下で撤収作業の手伝いをしていたはずの、ウォルターの今の主である少女、クリスタ・レンズその人であった。

 

 

「っちょっ…何してんのクリスタ!早くどけ!殺されるぞ!」

予想外の横槍に執事の立場も忘れたウォルターがクリスタに叫ぶ。しかし振り返ったクリスタは震えてこそいるが普段の他人行儀な姿勢は無く、その眼には確固たる意志が見て取れる。

 

「嫌!もう守られてるだけの私じゃない。私は強くなった!生きるために、闘うために、あなたを守るために!あなたが私を守るなら、私はあなたを守れるようになる!もう、なにも失いたくない!だから、私も闘う!」

かつてウォルターが屋敷やってきた頃、クリスタ、当時はまだヒストリアであった彼女は跡継ぎ候補より除外されており、お世辞にも不自由ない暮らしをしていたとはいえない環境にあった。

 

そんな彼女を救ってくれたのは他ならぬウォルターであった。給金の必要ない使用人としてクリスタの世話係りに任じられたウォルターは、たちまちその有能ぶりを如何なく発揮し、クリスタに最低限の生活環境を用意させることと引き換えに、本宅での雑務、要人警護、さらに裏の仕事をさせられるようになった。

当時環境の悪さにより若干疑心暗鬼気味であったヒストリアは、ウォルターがなぜ見ず知らずの自分にここまで世話を焼いてくれるのか理解できなかった。我慢できず、なかばヒステリー気味に問い詰めたところ返ってきた返事がこうであった。

 

『勘違いしちゃいけない。僕は君を憐れんだわけでも思いやったわけでもない。ただ、僕の主にふさわしい存在であれるようになってもらいたいだけさ。』

ウォルターはヒストリアの処遇についてどうこう思ったわけではない。ただ自分が仕えるのなら、あの気に入らないレイス卿やその周りの連中に比べれば強い芯を持ったヒストリアの方がずっと良かっただけなのである。ただ自分の主であるためにはそれ相応の環境が必要。ウォルターが手を回した理由はそういうことであった。

 

事実を知ったクリスタがぽかんとし、次いで大笑いした。自分があれだけ悩んでいた行動の理由がただの自己満足であったと知り、考えていた自分が馬鹿らしくなったのである。

だからこそ彼女は思った。いつか彼の手を借りることなく、自分自身の力で彼の主たるにふさわしい女になって見せると。レイス家を追われ、半ば強制的に訓練兵団への入隊を決めてからも、その思いは変わることなく在り続けてきた。そして今、彼女は初めて彼を守る立場になった。

 

「……くっくっく」

クリスタの宣誓が響き、周りが静寂に包まれる中ウォルターが唐突に笑い始める。

 

「…素晴らしい。やはりあなたは、僕が仕えるに値する主君だよ。お嬢様、いやクリスタ・レンズ様」

己が主の仮初の名を呼び、立ち上がったウォルターは彼女の横へと並び立つ。

 

「僕は君を守る。君は僕を守る。…とても主と執事の関係とはいえないが、たまにはそれもいいか」

「ウォルター…!」

「いくぜ、お嬢様。怖いオッサンにぶっ殺されないよう、精々気をつけなよ!」

お互い武器を構え、眼前でこちらの様子を伺うアンデルセンと向かい合う。両者の間に再び張りつめた雰囲気が漂い、今まさに刃を交えようとする―と思いきや

 

「……くっくっく」

今度はアンデルセンが急に笑い始める。しかしそれは先ほどのウォルターのような人を小ばかにしたようなものではなく、狂喜じみたものであった。そしてその笑い声は次第に大きくなっていく。

 

「げはははははは!小鹿のように震えながらこの俺を前に刃を向け!そいつを守る?闘う?はははははははは!」

ひとしきり大声で笑いきると、アンデルセンは刃を収め先ほどの憎しみに溢れた表情から一変し再び狂人のような笑みを浮かべて叫んだ。

 

「いいだろう。ならば二人まとめて地獄に送ってやろう!精々あの世で仲良くやるがいい!」

そういってアンデルセンは銃剣を振りかざし突撃する―その時

 

「やめんかぁぁぁぁ!!!」

銅鑼のような大声が響き渡り、それが両者の足を止める。そしてその声の主、壁の上でこちらを睨むピクシスはなおも叫ぶ。

 

「そなたらにどんな因縁があるかは知らんが、今は人類同士で争っている暇などないのだ!それが分からぬようならとっとと壁の外へ消え失せろ!」

ピクシスの怒りの声に、興が削がれたのかアンデルセンは銃剣を収めて背を向ける。

 

「…チッ。執事、今はその命、預けておくぞ。だが貴様が再び俺の前に立ち塞がるなら、その時は容赦せん!」

そういってアンデルセンは下にいる部下たちの元へと去って行った。

 

 

 

 

「っ~はぁ~」

眼前の脅威が去ったことで気が抜けたのかクリスタはその場にへたり込んだ。

 

「助かった…のかな?ピクシス司令に後でお礼言って謝っておかなきゃ…」

「………そうだね…」

安心するクリスタに対し苦い顔でアンデルセンを見送るウォルターが呟く。

 

「やっぱもっと強くならなきゃねえ…。このままじゃお嬢様にまでおいて行かれちまう。」

 

 

 

 

 

「よろしいのですか?」

ひとしきり暴れた後自分たちの元へ戻ってきたアンデルセンに対し、ロゴスはこっそりと問いかける。その問いに対しアンデルセンは普段道理の顔をして答える。

 

「何がだ?」

「あのウォルターとかいう奴の事です。話を聞く限り、なにやら因縁があるように思えましたが、無理にでも始末しなくてよろしいのですか?」

「構わん。奴はああ見えてお前たちよりずっと賢い。今殺すより生かしておいた方があとあとうまく利用できるだろう。……それにいい加減あの馬鹿面共を相手するのも飽きてきたところだ。我らの宿敵はああでなくてはいかん」

アンデルセンは口角を上げて笑みを浮かべる。

 

「では…」

「ああ、敵を倒すときは最高のタイミングで。最も強い時の奴らを打ち倒してこそ、我らの正しさが証明される。その方が、由美恵にとって供養になるだろう」

先ほど咎められたにも関わらずあまりにも不遜な物言いをするアンデルセンであったが、実際彼にとっていまのウォルターはまだ強敵ではなかった。確かにアーカードを除けば今まで戦った中で一番強い相手ではあるが、肉体的に成熟しきっていない今のウォルターではアンデルセンの動きにまだついていけないのである。

 

(執事…いやウォルター・C・ドルネーズよ。あの小娘が貴様にとっての第二のヘルシング卿となりゆるのなら、強くなって再び来るがいい。その時こそ、我らイスカリオテとヘルシングの因縁に決着がつく時だ!)

そう思いながらアンデルセンは事後処理にいそしむ仲間たちの元へ歩いていく。いずれ立ちはだかるであろう、まだ見ぬ強敵の存在を想いながら。

 




今回ここまで
ちなみにマルコは生きてるよ!なぜなら今回104期生はロクに戦闘をしておらず、周りに調査兵団がいたため例の人たちも動けなかったからです

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