進撃のイスカリオテ~Titan to Dust~   作:マイン

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いやーやっと書けた
なんだか感想でいろいろ意見をいただいてますが、それについてはちょくちょくフォロー入れていきます
と言ってもご都合主義なのは事実なんですが…


武器無き闘争

目の前に、おかしな光景が浮かんでいる。勇んで突っ切っていった先で、仲間であるトーマスが食われる光景、いきり立って切り込もうとした矢先に、真下に潜んでいた巨人に足を食いちぎられる光景、倒れ伏した自分の眼前で、仲間が、アルミンが食われようとする光景、そしてそのアルミンを助け、代わりに食われた自分が巨人の腹の中でもがく光景。

 

そんな光景を見ながら彼は思う。

自分たちはこんなに弱のか。

アンデルセンのあの辛く厳しい特訓は無駄だったのか。

やはり人類は…巨人には勝てないのか。

 

(違うっ!絶対に違う!)

彼はそんな迷いを強く断ち切る。あの巨人を圧倒する強さを持った神父は言った。

 

「諦めてしまえばそいつはもう人間ではない。狗だ。ただの血と糞尿の詰まった肉の袋だ。そんな奴は、巨人どころか明日を生きる資格すらない。だからお前たち、絶対に、諦めを持つな。人であることを、捨てるな」

諦めてしまえば、それこそ人類の敗北だ。諦めなければ、人類は決して負けはしない。人類の反撃はここからなのだ。

 

だから

 

「諦めて…たまるかぁ!!」

その時、意識が茫然と薄れ、虚脱感に見舞われる。薄れゆく意識の中で、自分の視界急に高くなり、向かってくる巨人を叩きのめす感覚を感じた。

 

(そうだ、もっとだ!もっと、もっと…)

 

「コロシテヤル…」

「…エレン?」

エレン・イェーガーの意識はそこで覚醒した。

 

 

 

(どうなってんだ…?)

目が覚めたエレンがまず思ったことはそれだった。自分の傍らには自分を支えるアルミン、前方には周りに向かって敵意を込めた眼差しを向け仁王立ちするミカサとロゴス、ベレッタ。そしてその視線の先にはこっちに、正確には自分に向かって殺意や恐れを込めた視線を向け、臨戦態勢をとる駐屯兵団。そして、ちぎれたはずの健全な自分の右腕と右足。

 

「エレン!?」

「おお、起きたか」

「よ、良かった…」

「気が付いた!?エレン!起きて早々悪いけど、知っていることを全部話して!そうすれば分かってもらえる!」

目を覚ました自分に気づく三人と、自分に向かって捲し立てるアルミン。だが、自分がどういう状況に置かれているのかわからないエレンにはその意図が掴めない。

 

「お前ら、何言って…」

「目が覚めたようだな!イェーガー訓練兵!」

そう遠くから叫んだのは神経質そうな顔をした髭面の男。たしか出立前に自分たちに喝を入れていたキッツというトロスト区の部隊長だったはずだ。なぜそんな男がこんなところにいるのか。エレンの思考がそこに至る前にキッツは言葉を紡ぐ。

 

「今貴様らがやっている行為は人類に対する反逆行為だ!貴様らの命の処遇を問わせてもらう!下手にごまかしたり動こうとすれば、即座に榴弾をぶち込む!躊躇うつもりはない!イスカリオテの両名も同様だ!」

「…は?」

いきなりの処刑宣告に戸惑うエレン。だがキッツはそれに構わずエレンに問いかける。

 

「率直に問う。…貴様は何者だ?人か?巨人か?」

「…!?し、質問の意味が分かりません!」

本当に意味が分からない。いきなり脅されて問い詰められたかと思えば、俺が巨人か人かだって?なんでそんなことを聞かれる?あれは夢じゃなかったってのか?じゃあこの腕はなんだ?生えてきたってか、神父様や巨人みたいに?そんな馬鹿な。

わめきたてるキッツの言葉もロクに聞かず混乱するエレン。そんな彼にベレッタが声をかける。

 

「エレン?もしかして覚えてないの?エレンが巨人になって他の巨人を倒してたんだよ?」

「…え?」

いきなりそんなことを言われても理解できない。俺が巨人に?ありえないだろ!そんなの!

そんなエレンの心境など知ったことではないとばかりにキッツは急かしたてる。

 

「どうした!応えんか!これ以上貴様らに裂く時間も人もないのだ!何も答えんならこっちは躊躇いなく榴弾を…」

「私の特技は…」

わめくキッツの言葉を、ミカサの怒りがこもった静かな声が遮る。

 

「私の特技は、肉を…削ぎ落とすことです。必要に迫られればいつでも披露します…。私の特技を体験したい方がいれば…どうぞ近づいてきてください」

ミカサの脅迫じみた物言いに、囲んでいる兵士たちが慄く。事を穏便に済ませようとしたアルミンがミカサを制止しようとするが、ロゴスがそれを止め、自身も口を開く。

 

「キッツ部隊長。今の発言、場合によっては我々ヴァチカンへの宣戦布告と受け取りますよ」

「あんたらちょっと調子乗りすぎじゃないの?」

いつのまにか刀を抜いたベレッタがそれに追従する。三人の覇気に後ずさるキッツだったが、副官の女性に咎められてそれを押しのけるように言葉を発する。

 

「だっ、黙れ黙れ!貴様らは黙っていろカトリックの狗どもが!アッカーマン新兵!貴様もだ!私はあの化け物モドキに命令しているのだ!さあエレン・イェーガー!答えろ!貴様は人か?巨人か?」

その問いに、蔑ろにされてカチンときたミカサやロゴス達が何かいうよりも早く、後ろで思考の渦に囚われていたエレンが本能的に答える。

 

「じ…自分は、人間です!!」

エレンのその言葉に、周りが静まり返る。そんな中、キッツがゆっくりと口を開く。

 

 

 

 

 

「そうか…。……悪く思うな。誰も自分が悪魔でないことを、証明できないのだから」

エレンはそこで確信し、己の失態を悔やんだ。この男は自分が敵でないことを証明してほしかったのではない。答えはどうあれ、さっさと自分の前の脅威を取り除きたかっただけなのだと。ロゴスやアルミンが言論で何とかおさめようとしていたのも、彼の早計な行動を控えさえるためだったのだと。

砲撃の合図をするキッツを見て、ロゴスとベレッタがキッツに詰め寄り、ミカサが自分とアルミンを抱えて上に逃げようとする。そんな中、エレンの目に首にかかっていた鍵が映る。その時、エレンに激しい頭痛とともに言葉の濁流が押し寄せる。

 

それは、ウォール・マリア放棄後、突如現れて消えた父の言葉。

 

 

 

 

『エレン、この鍵をずっと持っているんだ。そして、それを見るたびに思い出せ。お前が地下室に行かねばならんことを』

 

 

 

 

 

『この注射のせいで今からお前に記憶障害が起きる…だから今説明してもダメなんだ。だがいつか地下室に行けばすべてが分かる。』

 

 

 

 

 

『辛く険しい道のりだが、幸いあのアンデルセンはお前の味方だ。きっとお前の力になってくれる。彼とともにウォール・マリアを超え、真実と向き合え』

 

 

 

 

 

 

『ミカサやアルミン、みんなを救いたいなら、たとえ彼のいう神の敵になったとしても、お前はこの力を支配しなくてはならない!!』

 

 

 

 

胸ぐらを掴みあげようとするロゴスの制止を振り切り、キッツが手を振り下ろす。轟音とともに榴弾が三人を襲う。榴弾が迫る中、エレンは二人を抱え込むと、自らの手を、噛み切った。そして、なにか黒い影が出現したかと思うと、榴弾が爆発し、爆炎が三人を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴォン!!

「!?なんだ!?」

突然の轟音に、ウォール・ローゼ内地で待機を命じられていたジャン達104期生達は驚きの声を上げる。音の発信源を辿ると、壁の近くで煙が上がっている。先ほどの音からして固定砲が発射されたのだろうが、それにしてはその煙の量は異常であった。

安全地帯にいたおかげでいくらか冷静になっていたジャンの脳裏にその光景に対するある推察が浮かぶ。

 

「…まさか巨人の蒸気…!?」

その言葉を言い終える前に、隣にいたライナー、それに続いてベルトルトとアニが煙の方角へ飛び出す。

 

「!おい、待てよ!」

「ち、ちょっと、私も!」

「おい、クリスタ!?」

つられてジャンも後を追い、彼らや爆心地の人々を心配に思ったクリスタと彼女を追うユミルも飛び出した。

市街地の屋根の上を飛び越え、爆心地の近くに着地する。周囲には多くの駐屯兵団がおり、煙の中心に恐怖と期待が織り交じった視線を向けている。その近くには、何やら指揮官らしい男に向かって殺意の籠った視線を向ける二人のシスターがいた。やがて煙が晴れてくると、何やら大きな人の形をした影が見えてくる。やがてその全貌が明らかになると、駐屯兵団からは悲鳴が飛び、二人のシスター、そして屋根の上にいた顔ぶれのは驚愕の表情が浮かぶ。

何故ならそこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

肋骨の内側にミカサとアルミンを庇うようにして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

巨人の上半身のみが立ち尽くしていたのだから。

 

 

 

 

 

 

そんな悲鳴の飛び交う現場では、慌てふためく調査兵団に交じり、先ほどまでキッツに詰め寄っていたロゴスとベレッタが愕然と目の前の巨人を見ていた。

 

「きょ…巨人…!巨人の胴体が…」

「あれはエレンなのか…?エレン、お前はいったいなにになってしまったのだ…」

そんな二人の眼前で、巨人の項から蒸気が噴き出したかと思うと、そこからエレンが飛び出した。

ハッとなって周りを見るが、周りの連中は巨人に対する恐怖で冷静さと注意力を失っており、誰一人としてエレンに気づいていない。それを確認すると、二人は悟られないようこっそりとエレンたちに近寄って行った。

 

 

 

 

「なんだ…なんだよ、これ!!」

巨人の項にてエレンは自分の目の前、自分が出てきたモノを見て混乱していた。榴弾が発射され、ミカサとアルミンを守ろうとして、無意識のうちに手を噛み切って。そこまでは覚えている。気づいた時には、分厚い筋肉の内側に自分がいて、そこから這い出てみれば巨人の項に自分がいた。

そんな状況にあって、エレンには自分になにが起きたのかがますます分からなくなった。

 

(もし、さっきの親父の言葉が本当で、実際にあったことだとしたら、俺がこうなった原因はあの注射だ。そんで、食われたときに何らかのショックで巨人になって…じゃあなんで俺は巨人になる方法を知っていた?なんでいま巨人になったことは覚えている?さっきは覚えてなかったのに)

ますます分からなくなる自分の体。だがその思考は、崩れ始めた巨人の体と、自分の下から聞こえてくるアルミンとミカサの声によって遮られた。思考を一時中断し、友人たちの安否を確かめるため、エレンは項から抜け出すと声の方へと降りて行った。

 

一方ミカサとアルミンは突然の事態に混乱しながらも、エレンが自分たちを守ってくれたという事実を認識することはできていた。そこに、戻ってきたロゴスとベレッタが声をかける。

 

「良かった。無事だったか!」

「ロゴス姉さん…エレンは?エレンはどこに」

「良かった!ここにいたのかお前ら!」

無事を確認し合っている四人のところに、上から降りてきたエレンが声をかける。

 

「エレン…こりゃどういうことだ?いつの間にお前巨人に…ってお前がここにいるんならこのデカブツはどうなってんだ?」

「説明は後だ!なんでかわからないけど分かるんだ。こいつは巨人の死体と一緒、すぐに消滅する!早くここを離れないと!……こんなもの見せた後できちんと説明できるほ自身は、俺にはない。ただ…」

説明を求めるロゴスに、早回しに答えながらエレンは四人を急かす。周りを見渡せば、未だショックから立ち直れていないのか駐屯兵団に動く様子は見られない。だが、いつ次の榴弾が飛んできてもおかしくないような状況でもある。そんな彼らの様子を伺いながらエレンは話を続ける。

 

「一つだけ思い出した。地下室だ!俺んちの地下室、そこに行けば全てが分かるって親父は言ってた。…俺がこうなったのも多分親父のせいだ。なんでこんなことをしたか、どうして秘密をだまってたのか、いいてぇことは山ほどあるけど、まずはこのことを明らかにしなきゃならねえ」

「じ、じゃあどうするんだよ、エレン」

エレンの説明を聞いていたアルミンが、彼に方針について尋ねる。

 

「…俺は、ここを離れる。もう一度巨人になって、強行突破してウォール・マリアを越える。神父様がいればよかったんだけど、無いもんねだりはできねぇ。もう一つの策がだめなら、こうするしか…」

そこまで言った所で、巨人の残骸から頭蓋が落ちてきた。

 

「うぉっ!?」

その衝撃で、駐屯兵団の動揺もますます高まるが、同時にエレンもその余波で地面に倒れ伏した。慌ててミカサとベレッタが起き上がらせるが、起き上がったエレンは鼻血を流しており、表情もよく見ればどこか憔悴しきっていた。

 

「「エレン!?」」

「…どうやらその巨人化って奴はかなり負担がでかいみたいだな。んな状態で巨人になっても、ウォール・マリアどころかウォール・ローゼ越える前にくたばっちまうぞ」

心配するミカサとアルミンのすぐ後ろで、ロゴスがエレンの体調を見て先ほどの言葉について釘を刺す。その言葉を受け、エレンは顔を上げて反論する。

 

「いまは体調の事なんか…」

「だったらさっさともう一つの策とやらを説明しろ。納得いかないまま強行されたんじゃ手伝えねーだろーが」

ニヒルな笑みを浮かべてエレンを急かすロゴス。ぽかんとなったエレンがベレッタの方を見ると、彼女も同意のようで自分に優しげな笑みを浮かべている。それを見て、エレンも顔を引き締めると自分の策を語りだす。

 

「…策っていうかほとんど丸投げに近いんだけど、もしアルミンがあの連中を説得してくれるんなら、俺はお前にすべてを任せる」

「えっ!?」

いきなり話を振られたアルミンは思わずエレンを二度見する。あまりにも突拍子のない策に、さすがにそれは、と思いながらみんなの反応を見てみると、エレンやミカサはおろかロゴスやベレッタでさえ納得したかのように頷いている。

 

「成程な…確かに、特攻するよりは可能性はあるな」

「ち、ちょっとロゴス姉さん!?」

「わ、私もいいと思う。アルミンならきっとできるよ!」

「ベレッタ姉さんまで…何言ってんだよ!そんなこと、できるわけ…」

この状況の収集などという大役にいきなり持ち上げられて、あげく乗り気の面々に、アルミンは思わず腰が引けるが、そんなアルミンにミカサが語りかける。

 

「ううん、アルミンならきっとできる。アルミンは今まで、私たちに最善の判断と行動を教えてくれた。5年前のあの時も、訓練期だった時も、そしてさっきのトロスト区の時も。あなたには、物事の本質を見て判断する力がある。」

「そうだぜアルミン。神父様が言ってただろ。『敵と向きあうのみが闘争に非ず。時には弁舌を用いて味方と向き合わねばならん時もある』って。実際、リバー…マクスウェル司教がそれを証明してるじゃないか。お前も神父様に認められたんだ。きっとできる。だから俺は、お前を信じて全てを任すよ」

ミカサ、次いでエレン。幼いころより追いかけ続け、同じ立場にあって尚遠く感じた二人が、いま自分を頼ってきている。そんな事態に思わず感慨にふけるアルミンの脳裏に、特訓を終え、訓練兵団へと赴く際にアンデルセンよりかけられた言葉がよぎる。

 

『俺たちはただの暴力装置だ。俺はただの人斬り包丁だ。神に仕え、巨人を、化け物を滅ぼすただの力だ。だが、お前たちは違う。お前たちには、お前たちにしか切り開けん未来がある。俺のように神に縋らねば存在できん弱い存在ではない。だから諦めるな。希望を捨てるな。生きている限り闘え。自分にしかできん闘いを、生き残るのだ』

 

自分にしかできない闘い―

 

今僕にできること―

 

顔を上げ、表情を改めたアルミンは立ち上がり、駐屯兵団の方へ向かって走り出す。

 

「分かったよエレン!今僕にできることを、精一杯やってみる!」

混乱がいい加減収束し、次の攻撃に移ろうとしていた駐屯兵団の眼前に躍り出るアルミン。警戒の目を向ける彼らに向かって、アルミンは精一杯胸を張って敬礼し大声を張り上げる。

 

「私は104期訓練兵団卒業生アルミン・アルレルトです!私は、彼が人類の敵でないと断言します!そして、彼の存在が人類にとって不可欠であると確信しています!」

いきなりの発言に、戸惑いを見せる駐屯兵団。そんな彼らの中から、先ほどまで小鹿のように震えていたキッツが大声で批判する。

 

「だっ、黙れ!何故そんなことが分かる!貴様も見ただろう、奴は巨人になって我々の制裁を妨げたのだぞ!その行為そのものが人類への反逆だ!奴は敵なのだ!」

「はい!確かに見ました!しかし、それ故に彼が必要であると確信したのです!彼は自らの意志で巨人になれる、おそらく唯一の存在です。それはつまり、彼は巨人たちと同等、いやそれ以上の力をもって奴らと同じ目線で闘えるということなのです。これは我々にとって最大の好機であります!彼がより多くの巨人を倒すことで、我々はより先に進むことができます!彼は人類にとっての、反撃の狼煙ともいえる存在なのです!」

キッツの感情任せな反論を、客観的な視点からとらえたアルミンの弁論がねじ伏せる。アンデルセンの訓練をこなしたことで、アルミンは状況や他者の心理を読み取ることに人一倍長けている。トロスト区においては初めて身近な人間が食われる様を見てしまったため隙が生じてしまったが、本来の彼は冷静に物事を捉えることができる人物なのだ。

そんな堂々とした言葉に、動揺していたキッツの心は揺らぐが、すぐに先ほどの恐怖がぶり返してまたも吐き捨てるように言葉を発する。

 

「な、ならば貴様!もし奴が暴れだしたらどうする。他の巨人と同じように人を襲うことがないと、どうして言い切れる!もしそうなったら貴様は」

「その時は、我々がこいつを殺します」

アルミンの背後より聞こえてきた声の方向を見ると、ロゴスとベレッタがエレンとミカサを押さえつけ、首筋に刃を当てている。ロゴスとベレッタはそのまま体勢で底冷えするかのような声で続ける。

 

「ご覧のとおり、我々にかかればこいつら如きどうとでもなります。例え巨人になろうとも、少しばかり格闘術のできる程度ならイスカリオテにとっては大した脅威ではありません」

「私らがこいつら見張ってりゃ問題ないでしょ?だったら黙って賭けなよ、おっさん」

四人の意図を察したアルミンは、ほとんど動揺を見せないまま最後の押しにかかる。

 

「そうです!我々とイスカリオテが協力すれば、彼を制御することも可能です!うまくいけば、トロスト区はおろか、ウォール・ローゼ、ウォール・マリアの奪還も可能です。すでにトロスト区奪還の計画もあります!ですから、どうか彼の戦術的価値を認めてください!もし彼によって民の命が損なわれるようなことがあれば、私はいつでもこの心臓を捧げる覚悟があります!!」

弁舌を言い切ったアルミン。その言葉を受け、駐屯兵団の中で言葉が飛び交う。信じてみよう、いや駄目だ。そんな言葉の飛び交う中、キッツは周りの物議など碌に聴かず、巨人による恐怖で半ば思考を放棄した状態で決断を下す。

 

「黙れ黙れ黙れ!貴様らがどんな命乞いをしようと、規則に反したものは排除する。それは誰一人として許さん!許してはならんのだぁ!!」

榴弾の発射合図をとるキッツ。相手がろくに考えてもいなかったことに内心で舌打ちしながらも、アルミン達は、それに備えて行動を始め、エレンは再び巨人になるべく手に噛みつく。

そしてキッツの振り上げた腕が振り下ろされる―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、相変わらず図体だけでかくて小鹿のように繊細な奴じゃ。あんな立派な演説や協力者を得ていてまともに考えもせんとはな」

―前に何者かによって止められる。

 

『!!?』

いきなりの聞き覚えのない声に、この場にいた全員の視線がその人物、キッツの腕を後ろから掴んでいる男に向けられる。

 

「お前には彼のあの見事な敬礼と言葉が目に入らんのか。まるでどこぞの性悪司教のようじゃわい」

「あ…あなたは」

その人物はこの場にいるものなら知らないものはいないであろう存在

 

「…ピクシス指令…!!」

「さて、わしはあの者たちの話を聞いたほうが良い気がするんじゃがの」

南側領土最高責任者にして駐屯兵団指令、ドット・ピクシスその人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、壁外調査に赴いていた調査兵団とイスカリオテの面々は、既に壁の中に入っているが、トロスト区はすでに放棄されて無人であったため、本部に戻るよりも早いので補給も兼ねて既に封鎖が完了したヴァチカン区のイエスズ修道会にて現状の把握を行っていた。そこで、機関長たるマクスウェルより、奇妙な情報を聞かされることになった。

 

「巨人が…巨人を殺した!?」

「…なに寝ぼけたこと言ってんだガキ」

予想外の情報に動揺する面々の中、冷めた顔でリヴァイが最もといえばもっともな反論をする。その言葉に額に青筋を浮かべながらも、マクスウェルは言葉を続ける。

 

「そのお言葉はもっともですが、これは先に戻ったシスターロゴス、シスター・ベレッタからの情報なので間違いないと思いますよ。なので今残留戦力のほとんどはおそらく既に壁の奥に撤退を…」

そういいながら横目である方向を伺うマクスウェル。よく見れば他の人間の視線も、ほとんどがその方向をちら見している。

 

 

 

今現在、この司教室にて異常な人物は二人。

 

 

 

 

 

一人は前例のない行動をする奇行種の出現に小躍りして喜ぶハンジ・ゾエ

 

 

 

 

 

もう一人は椅子に深く座って俯き加減で押し黙るアレクサンド・アンデルセン

 

 

 

 

前者に至ってはいつもの事なので全員がスルーしている。問題なのは後者だ。他の人なら別段変でもないが、巨人の事となると殺意むき出しで狂い笑うアンデルセンが今回に限っては不気味なほど静かなのだ。思えば移動中の時からいつもより無口で巨人に対してもどこか投げやりな対応をしていたが、その巨人の話を聞いた途端からこうなってしまった。

誰も彼に話を振ろうとしない。こんなことは初めてなので、どう声をかけたらいいか誰も分からないのだ。しかし、イスカリオテ隊長たる彼の意見もなしに事を決められないので、意を決してエドがおっかなびっくり声をかける。

 

「あの…、アンデルセン神父…?」

「………エド、動ける神父隊の連中をかき集めろ。すぐにロゴスとベレッタと合流する」

「…!?」

声をかけると、黙っていたアンデルセンが口を開き、そんな指示を出す。思わず固まってしまったエドに、アンデルセンはいきり立って詰め寄る。

 

「早くしろ!!グズグズしてんじゃねえ!」

「は、はい~!!」

アンデルセンの剣幕にビビって部屋を飛び出すエド。それを確認すると、アンデルセンは立ち上がってぽかんとするマクスウェルに話しかける。

 

「機関長、我々は急ぎ向こうの二人と合流します。彼女らの安否が気になる。…個人的に確かめたいこともある故」

「あ、ああ…」

あいまいに返事したマクスウェルの言葉を受け、アンデルセンもまた部屋を辞しようとする。

 

「待ってくれ!」

そこに突如エルヴィンが立ち上がって彼を呼び止める。声をかけられたアンデルセンは足を止める。

 

「アンデルセン、君は何を知っている?どこまで知っている?その巨人について、なにか心当たりがあるのか!?」

「…」

エルヴィンの問いにアンデルセンはしばし無言であった。部屋の人間が言葉を待つ中、アンデルセンはゆっくりと口を開く。

 

 

 

「…俺の考えが正しければ、そいつの正体はおそらく俺の友人の息子だ」

『!!??』

帰ってきた答えに、全員が理解できないでいた。そんな彼らに構わず、アンデルセンはなおも応える。

 

「あいつらの事だ。早々死ぬことはないだろうが、かなり危ない橋を渡っているだろう。…俺はもう俺の息子たちを見殺しにはせん。そう、例え―」

巨人であろうとも。そういってアンデルセンは部屋を出て行った。

 

後に残った面々に、大きな疑問を残したまま。

 




今回ここまで。次回ウォルター参上…できたらいいな
次はスピンオフやる予定です

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