進撃のイスカリオテ~Titan to Dust~   作:マイン

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なかなか描けなくって疲れた…
今回伏線ちょこっと入ってるけど、どうやろか…


開幕の時は近い

ミカサとアルミンと別れ、ヴァチカン区への道を急ぐロゴスとベレッタ。二人の顔には先ほど見られなかった焦りの色が浮かんでいた。年下である二人の前では抑えていたが、家族を心配しない人などいない。ましてや今だ到着していないアンデルセンやエドたちが帰ってくるまでに帰るべき場所が無くなっているようでは笑い話にもならない。

 

「急げよベレッタ!」

「分かってるよロゴス!」

巨人を蹴散らしながら、二人は屋根の上をひた走る。

しばらくすると、何やら銃声のような音が聞こえてくる。やがて、トロスト区と水路を挟んだ先に、ライフルや立体起動を駆使して巨人の進行を阻んでいる残留組の仲間たちの姿が見られた。

 

ガブッ!

そんな中、一人の神父が巨人に下半身を噛みつかれる。

 

「ぐあっ!…くっそお、ただでは死なんぞ!」

徐々に食われていくなか、その神父は懐から固定砲に使われる榴弾の弾頭を取り出し、

 

「エイメン!」

その先を思い切り叩いて爆発させた。神父と共に巨人の頭も項ごと吹き飛び、巨人は倒れ伏した。

イスカリオテには、ある暗黙の規定がある。

 

「死ぬのなら一匹でも多くの巨人を道づれにするべし」

 

このためにイスカリオテの神父及びシスターは闘いの際、全員が榴弾の弾頭を懐に忍ばせ、万が一のときは自爆できるようにしている。

この規定ゆえに、多くのカトリックはイスカリオテに入ることを拒んだが、それでもなお多くのものがこの規定を守り、そしてその命を散らしていった。

 

「「AMEN」」

二人ももちろんそれを了承しているので、立ち止まることなく聖句を唱えてなおも進む。

泣く暇があったら前へ進め。友が死んだならその分敵を殺せ。

それがアンデルセンより教わったことなのだから。

 

 

 

しばらく行くと、自分たちの家であるイエスズ修道会が見えてきた。

院の前では弟分であり上司であるマクスウェルが普段の司教服に剣を携えて、まだ見習いの神父達と共に立っていた。

 

「「マクスウェル司教!」」

「!シスター・ロゴス、シスター・ベレッタ!戻ってきてくれたか!」

公の場であるため上下関係を現した呼び名で三人はお互いの無事を確かめあう。周りにいた新人たちも、イスカリオテきっての実力者である二人の帰還に安堵の表情を見せる。

 

「よく戻ってきた。…してアンデルセンとエドは?」

「まだ戻っている最中です。私たちは神父様の貸してくださった聖書で一足先に戻ってきたのです。…それで司教、戻ってきて早々で悪いのですが、ここを任せてもよろしいでしょうか?我々はトロスト区の援護に向かいたいのです」

「なに?トロスト区へ?しかしトロスト区はすでに撤退が完了したと聞いているぞ?」

「なんですって!?」

ミカサからもアルミンからも聞かされなかった事実に、ロゴスとベレッタは驚愕する。

予想外の反応をする二人に首を傾げるマクスウェルに、二人は自分たちが見た、聞いたことをすべて報告する。

 

「…ということはまだ人がいるのか?」

「ええ、まだ104期の新人、ミカサやアルミン達が残っています。司教、一刻も早く援護に行かせてください!」

「お、お願いします!司教!」

懇願するロゴスとベレッタに、マクスウェルは考え込むしぐさをして、やがて口を開く。

 

「……ウォール教や我らに敵対するものがいくら死のうが知ったことではないが、トロスト区には我らカトリックの同胞も少なからず居る。それにミカサ・アッカーマンやアルミン・アルレルトは大事な情報源だ。放っておくわけにはいくまい」

本当なら家族を守りたいといいたいが、カトリックの体面を考えあえてそんな言葉で示し、マクスウェルは二人に命令する。

 

「シスター・ロゴス、シスター・ベレッタ。命令だ。今すぐトロスト区へ戻り、ミカサ・アッカーマン、アルミン・アルレルト両名及びトロスト区内のカトリック教徒を守り、事態を収拾せよ。その過程でたまたまほかの者が助かっても、いちいち気にするな」

「「AMEN!!」」

言葉の端に甘さをにじませるそんな命令を受け、二人は飛び去っていく。

そんな二人を見送ったマクスウェルは、折角戻ってきた実力者がまた行ってしまって消沈している新人たちに喝を入れる。

 

「いつまでボケッとしている!さっさと周りを見張れ!何としてもここは死守するのだ!アンデルセンらが戻ってくるまで!」

 

 

 

 

一方、そのトロスト区では事態に変化が訪れていた。

 

『やった…、やったぞ!これで脱出できる!』

駐屯兵団本部にて、取り残された新兵たちの歓喜の声が木霊する。その中でジャンは、隣ではしゃぐ同期のマルコを見やりながら、奥で、作戦の成功に安堵するアルミンを見る。

 

(大した奴だあいつは。いつもエレンにべたべたしててなよっちい奴かと思ったが、さすがはアンデルセンの弟子なだけはある)

最初後衛に居たはずのミカサとアルミンからあの巨人に時間を稼がせて本部へ戻ろう、なんて聞かされた時は正気を疑ったが、実際示したあの奇行種は巨人ばっかり殺していたし、他に方法もなかったのでその賭けに乗ることにした。

結果うまく本部に戻れたが、既に本部は巨人の巣窟と化していた。半ば絶望し、隠れていた補給班の連中に思わず殴り掛かろうとしてしまったが、それをミカサの鉄拳とアルミンの制止によって止められた。

それから再びアルミンの策に乗っかり、本部内に入った巨人の駆逐作戦、ゴンドラに乗った連中が巨人の注意を引き付け、銃で目つぶしした隙に別働隊がしとめるというかなり危険な賭けだったが、多少のミス(サシャとコニーがミスるもミカサとアニがカバーした)があったものの全員無事に生還し、現在ガスの補給も済んで撤退の用意ができたところである。

 

(ほんとにすげーよ、アルミンの奴。それにミカサも、……そしてエレンも)

もうここには居ないかつての喧嘩仲間。しょっちゅうぶつかってばかりで気に入らない奴だったが、正直あいつがいなければ今俺はここに立ってなかっただろう。思えばあいつは訓練生時代から周りを引っ張ってきた。それはミカサも、そしてアルミンも同じだった。

マルコは俺が指揮官に向いているというが、俺からすればあいつらに比べれば俺なんぞちっぽけなもんだと思う。

けどだからと言って、負けっぱなしでいられるほど俺も弱虫ではない。今は及ばなくとも、いつか絶対憲兵団長になって、あの世にいるほんとに死んじまった死に急ぎ野郎の鼻を明かしてやる。

そう決意し、ジャンがウォール・ローゼに向かって飛び立とうとしていた時、

 

「ち、ちょっとミカサ!…ロゴス姉さん?ベレッタ姉さん?」

突如聞こえたアルミンの声のする方向を見ると、屋根の上にミカサと、調査兵団と一緒に出立したはずのイスカリオテのシスターが二人立って一点を凝視していた。

 

「おい、あんたら。いったい何見て…」

不審に思って向かってみて、俺も愕然とした。

そこには、あの奇行種がほかの巨人に共食いされている光景があったのだから。

 

 

 

 

「なんだよ、ありゃあ…」

マクスウェル司教より命令を受けトロスト区へと引き返し、例の巨人がやったらしい巨人の死体であふれる街中を突っ切って目の当たりにした光景が、あの巨人が共食いされている光景だった。

巨人が巨人を食うなど見たことも聞いたこともない。まれにじゃれついて他の巨人を攻撃する奴はいたが、それでもあの巨人のように殺すまでには至ってないし、ましてや共食いなんぞ前代未聞である。

ロゴスがそんな風に考えながら見ていると、そばで見ていたミカサが口を開く。

 

「どうにかしてあの巨人の謎を解明できれば…この状況の、エレンのことがわかるかもしれない」

「同感だ。あのまま食われたんじゃどうしようもない。とりあえず周りの奴ら引っぺがして延命させよう」

同意したのはジャンと一緒に登ってきたライナー・ブラウン。104期の次席でもあり、仲間からも信頼が厚いが、なぜかアンデルセンに対して異常なまでの反応を見せるので実はウォール教なのではないかとの疑いがある人物だ。

その言葉に、隣にいたベルトルト・フーバーとアニ・レオンハートも同意の意思を示す。

 

「…化け物どもが殴りあっていたら好きにやらせて最高のタイミングで横合いから殴りつけろ、がアンデルセンの教えだったけど、今はそんな気分じゃないな」

「ここまで世話んなっといてシカトすんのも気分悪いしね」

賛成の意を示すロゴスとベレッタ。とそこでジャンが口を開く。

 

「ま、待てよお前ら!正気か!?あんなやつ助けてどうなるんだよ!巨人だぞ!?話なんか通じるわけが…」

 

その時、食われていた巨人が咆哮を上げ、一体の巨人に襲い掛かった。目標となった巨人をみたアルミンが呟く。

 

「あいつは…っ!トーマスを食った奇行種…!」

その巨人は先程自分たちの部隊の隊員だったトーマスを喰らった巨人であった。

まるでその光景を見ていたといわんばかりに巨人は四肢を食いちぎられながら飛び掛かり、項に噛みつくと食いついたままそいつを振りまわり、他の巨人に叩きつけてその項を食いちぎった。

 

「オイ…、何を助けるって…?」

そのあまりのすさまじさに、ジャンからそんな皮肉が漏れる。その眼前で、巨人はまるで勝利の雄叫びを上げたかと思うと、力尽きたのかそのまま崩れ落ちる。

 

「…さすがにくたばったか。もういいだろ、やっぱりあいつは巨人なんだよ。さっさと行こうぜ。………おい、どうしたんだよ?」

巨人に見切りをつけ飛び去ろうとするジャンだったが、一向に他の面々が飛び立とうとしないことに疑問の声を上げる。

 

「なにやってんだよ…………!?」

一同が凝視する先、倒れ伏した巨人を見てみると、巨人の項付近に異変が起こっていた。蒸気を噴き上げる体の上で、何かが蠢いている。やがてそれが人の形を成していることがわかると、蒸気が徐々に晴れ、その人影の顔が明らかになる。

 

『あ…』

「!」バシュ!

彼らが声を上げるより早く、その顔を確認したミカサが飛び出す。下に降りてその人影に近寄ると、崩れ落ちるその体を抱きとめる。そして胸に耳を当て、心音が聞こえるのを確認し、生きていることがわかると、普段の彼女からは考えられない大声で泣きじゃくった。

やがて残りの面々も降りてきて、その人物の顔をはっきり確認すると、アルミンがか細い声でその人物の名を呟く。

 

 

「エレンだ…」

その人物は自分と最も付き合いが長く、かけがえのない友人であり、自分がその死を確認した少年、エレンであった。いくらエレンと同じ動きをしているからといって、まさか一番あり得ないであろう、本人であるという結果に、アルミンのみならず言い出しっぺのロゴスやベレッタ、そしてジャンたちも驚きを隠せない。

 

襲われる危険があるため、エレンを連れて建物の上に登った一同はいまだ泣きじゃくるミカサの腕の中で眠るエレンをまじまじと見る。その中でアルミンは特に右半身を凝視し、更なる驚愕の中にいた。何故なら、失ったはずの右腕と右足が元の通りに存在していたのだから。

 

(エレンはあの時巨人に…、でも何故切断された腕と足が…まるでアンデルセン神父みたいに……でもアンデルセン神父のは技術で…ああ、もうわからないことばかりだ!)

頭の中で地団太を踏むアルミン。しかし悩みながらも、その眼には友が帰ってきたことへの喜びの涙が浮かんでいた。

その隣では、涙ぐみながらも軽口を叩くロゴスと、ミカサ並みに泣きじゃくるベレッタもいる。

 

「ったく、自分で言っといてなんだけど、どうなってんだよ…」

「ぐすっ、えぐっ。よかったぁ、エレン…」

 

かくしてエレン・イェーガーは再び演壇上へと舞い戻った。自分の存在が、新たな問題の火種になるとも知らず。

 

 

 

その頃、ウォール・マリア内地をひた走る馬の集団がいた。時折巨人が襲い掛かってくるが、馬上より放たれた銃剣によって目をつぶされ、動きを止められる。

 

「本来なら殺してやりたいところだが、今は急いでいる。あとでしっかり殺してやろう」

投げた本人、アンデルセンは馬上でそう呟いた。彼らは遠征先より急ぎ帰還する最中だったが、途中で行きの時には見られなかった巨人の襲撃を何度も受けていたため、思ったように進めずにいた。それでも、アンデルセンやエドによる投擲や、比較的人的被害の少ないイスカリオテの神父隊が囮になることで着実に距離を進めていた。

そんな中、隊長であるエルヴィンが言葉を発する。

 

「しかし、ここまで巨人が侵攻してきている所をみると、少なくとも外側の壁は破られたと考えるべきだな。トロスト区の被害は如何程か…」

その声は隊長としての冷静さを保ちつつも、内地に残る仲間たちに対する思いが込められていた。

そんな中、アンデルセンの頭にはヴァチカンに残った仲間と信徒たち、そして先に行った娘二人やエレンたちへの心配のほかに、もう一つの事が浮かんでいた。

 

(グリシャ殿、あなたが言っていたのはこのことなのか?とすればエレンは…考えても始まらん。とにかく急ぐのだ!)

そんなことを考える彼ら前に、なおも巨人が立ちふさがる。

が、彼らがそれに反応して馬に指示を出すより早く、馬上から飛び上がったアンデルセンが懐から銃剣を目に向かって投げる。

 

「邪魔をするなぁぁぁ!!化け物共がぁぁぁぁぁ!!!!!」

怒りの投擲によって視界を奪われた巨人が立ち直るよりも早く、彼らの馬がその中を突っ切る。

彼らは急ぐ。間に合うために。仲間たちを守るために。

 

 

 

 

 

同時刻、ウォール・シーナ内地にあるレイス家では、トロスト区の混乱など知ったことではないとばかりないつも通りの日常が繰り広げられていた。そんな中、レイス家当主たるレイス卿は数年前に追い出した娘から取り上げて、今は自分の専属執事としている少年を呼ぶ。

 

「ウォルター!紅茶を用意してくれ。……ウォルター?ウォルター!何処にいる!?」

しかしいくら呼んでも、その少年が姿を見せることはなかった。そんな少年の待機場所である部屋には、こんな置手紙のみが残されていた。

 

「本来の主のもとへ戻ります。Good Bey(お元気で)レイス卿」

 

 

 

 

 

「…これで義理は果たしましたよレイス卿。三年も尽くしたんだ、いい加減僕も限界だよ」

ウォール・シーナ上にて、少年、ウォルター・C・ドルネーズはくすねてきた葉巻をふかしながらそう呟いた。レイス卿には拾ってもらった恩があったが、もう三年もあのわがまま一族に付き合ったんだ。いい加減十分だろう。それに、自分の主はあのオッサンじゃない。自分の主は勇猛にして凛々しいあのお嬢様と、穢れを知らない白百合のようなあのお嬢様だけだ。

そう、決めたのだ。もう二度と、裏切るものか。

 

「そんじゃあ行きますか!お嬢様、無事でいてくださいよ!」

そういってウォルターは壁から飛び降り、執事業務用の手袋から久々に指を通す愛用の黒い手袋に嵌めなおし、途中で不自然なまでに急激に減速すると、下にいた憲兵団の伝達兵が乗ってきた馬にそのまま乗っかると、後ろから声を上げる憲兵団を尻目にウォール・ローゼめがけてひた走る。

壁の向こうで闘っている、我が主の元に戻るために。

 

 

 

 

 

 

かくして役者は全員演壇へと登りつつある

 

 

 

 

 

紅蓮の惨劇(ワルプルギス)の開幕の時は近い

 




今回ここまで
なんか最近フォローばっかで文章くどくなってるような…

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