進撃のイスカリオテ~Titan to Dust~   作:マイン

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やっと書けた…
新作思いついたりメガテンやってたりでなかなか進まんかったよ


謎の巨人

調査兵団とイスカリオテによる合同調査が決まる数日前、エレンたちはもうすぐ立ち退くことになる訓練兵団宿舎にて、残り少ない、仲間たちと一緒に摂る食事を食べていた。

そんな中、

 

「なんだとジャンてめえ!」

「やるかこの死に急ぎ野郎!!」

エレンは訓練生時代から恒例となっているジャン・キルシュタインとの何度目になるか分からない喧嘩を始めようとしていた。

周りの人間も、もはやいちいち止める気もないのか逆に囃し立てる始末である。

 

「またエレンとジャンかー?」

「おー!やれやれ!最後にどーんとやれ!」

「どーせ今回もエレンの勝ちだろ。あのアンデルセンの弟子だぞ。勝てるわけねーよ」

そう、恒例のように行われているこの喧嘩は、毎回エレンの圧勝に終わっている。それもそのはず。いくら要領がいいからといって、ずぶの素人から始まったジャンと、二年とはいえアンデルセンの課す地獄のようなトレーニングを乗り越えたエレンとでは、真っ当な勝負にならなかった。

だがそれも、

 

「エレン、喧嘩しちゃダメ」

ヒュオッ! ガッ! ズデン!

「うおっ!?…ッツ~!ミカサァ!邪魔すんじゃねーよ!」

ミカサの横やりが入らなければの話ではあるが。エレンと同じ訓練をこなし、さらにベレッタから初歩ではあるものの「島原抜刀流」を教えられたミカサにとって、純粋な運動能力のみならばもはや同年代、いや下手をすれば兵団全体において並び立つ者はほとんどいない状況であった。

 

「ミ、ミカサ!」

「エレン、ジャン。まだ続けるなら私が相手になるよ」

「「…すまんかった」」

こうして104期生たちの夜は更けていく。来たるべき闘いの日に備えて。

 

 

 

だが、彼らにその覚悟が定まるよりも早く、事態は起こった。

超大型巨人による、ウォール・ローゼの決壊。それによる巨人の侵入に備えるべく、104期の訓練生たちもまた闘いの用意をしていた。

そんな中に、エレン、ミカサ、アルミンの姿もあった。

 

「くそっ!明日から内地に行けたっつーのに!」

「!テメエ!なに諦めてんだよ!」

巨人の来襲に早くも戦意喪失しかけているジャンの胸ぐらを掴みあげ、エレンは詰め寄った。

 

「な、何すんだよ!お前だって死ぬかもしれないんだぞ!怖くねえのかよ!」

「ああ怖いさ!だけどな!最初から諦めているような奴が生き残れるわけねーだろ!それに、神父様が言っていた。『諦めが人間を殺す。諦めを拒絶した時、人間は人道を踏破する権利人になる』って!諦めなきゃ、絶対明日はあるんだよ!内地に行くんだろ?憲兵団に入るんだろ?だったらこんなことろで腐ってんじゃねえ!」

あいつならそういうだろう。最後にそう呟いたアンデルセンから教わった心構えを、今度は自分がジャンに叩きつけ、エレンはジャンとともに周りを鼓舞していた。この二年間にエレンは肉体だけでなく精神的にも強くなっており、訓練生時代も、アンデルセンから叱咤激励された言葉ややり方を借りて、折れそうになる仲間たちを励ましていた。

 

「…糞ッ!テメエに言われなくてもそのつもりだよ!当たり前だ、こんなところで死ねるか…!」

そんなエレンの言葉を受け、ジャンも悪態をつきながら目には強い意志を秘めて去っていく。周りの新人たちも、それに触発されてか先ほどまでの暗いムードもなく、生き残るという強い意志が垣間見えた。

 

「…じゃあミカサ、先に行くな。いくぞアルミン!」

「うん!」

そういってエレンとアルミンは街へと向かう。ミカサはその能力を買われベテラン揃いの後衛に回されるため、ここで別れることになる。ずいぶんごねていたが、兵士である以上私情を優先させないよう言い聞かせた。

 

「エレンッ!」

「?どうしたミカサ?」

「…死なないで…」

「ッ!当たり前だろ!」

心配そうなミカサに背を向け、エレンは街に飛び出す。そうだ。こんなところで死ぬわけにはいかない。巨人を全滅させるために。今遠くで闘っている家族に追いつくために。

 

 

 

だが、現実は決して人の思うが儘にはいかない。たとえどれほど鍛えたとしても。

 

 

 

 

 

 

ザンッ!!

「よし!これで二体目!!」

 

立体機動と鍛え抜かれた俊敏性を生かし、巨人を攪乱していたエレンの刃が、巨人の息の根を止める。街に繰り出してからおよそ30分。エレンは本日二体目の巨人を蹴散らし、次なる標的へと飛び去っていく。

 

(いける、いけるぞ!俺は巨人に勝てる!人類は負けていない!!)

初先頭にて二体の巨人を屠ったエレンは、その事実に充実感と自信を持っていた。そこに少し離れたところで戦況を確認していたアルミンが近づいてくる。

 

「エレン!アレ見て!」

アルミンが指さす方向を見ると、その方向から巨人が迫ってきていた。しかし、どうも他の巨人に比べ様子がおかしい。奇行種のようなのだが、全体的に丸みのある体躯をしており、長い髪や膨らんだ胸部を見る限り、女性のような印象を受ける。

 

「なんだありゃ?…巨人にも女がいるのか?」

「いや、聞いたことない。もしかしたら鎧や超大型みたいな変異種かもしれない。ここは一旦下がって指示を…」

「へっ!大丈夫だよ、俺たちなら倒せるって!まあ見てな!」

エレンとアルミンの会話に割って入ったのはトーマスという少年。彼は先ほどアルミンのサポートの元巨人を一体倒しており、若干高揚しているようであった。

制止する二人を置いて、女型の巨人に突っ込むトーマス。彼は突っ込んでくる女型の側面に回り込み、首の正面に立体機動のワイヤーを張り、突っ込んできた巨人を支点に項に回ろうとする。

 

だが、彼の目論見どおりになることは無かった。

 

女型はワイヤーに視線を向けると、急ブレーキをかけ、そのワイヤーを掴んでトーマスごと空高く頬り投げた。

 

「…は?」

茫然となるトーマスの視界が最後に捉えたもの。

 

それはあまりにもベストタイミングで飛び上がった奇行種の口であった。

 

 

 

「「…え?」」

その一部始終を見ていた二人はその光景を理解できなかった。だが、降りてきた巨人が恍惚の表情でトーマスを咀嚼しているのを見て、エレンの脳が瞬時に沸騰する。

 

「テメェェェェェェェェ!!!」

突っ込むエレン。狙うはトーマスを喰らう奇行種。しかし、女型も逃すつもりはない。一気に纏めてぶっ殺す。無鉄砲で、聞く人が聞けば傲慢とも取れる思考。

 

それが命取りとなった。

 

「!?」

突然横目で視界に入れていた女型が消えた。その事実に一瞬エレンの脳内がフリーズし、次いで先ほど見たあの超大型のことが浮かぶ。その思考よりエレンが覚醒するよりも早く、

 

伏せた姿勢から忍び寄った女型の蹴りが、寸でで身をよじったエレンの左足を削ぎ落とした。

 

「エレン!!」

悲鳴を上げるアルミンの眼前で、左足を失い、屋根に叩き付けられたエレンがうめき声を上げる。すぐに駆け寄ろうとするアルミンは、同時にあの女型について思考を巡らせていた。

 

(なんなんだあの巨人は!あんな動きふつうあり得ない!まるで人間みたいな…)

「!アルミン!!右だぁ!」

エレンの叫びにハッとして右を見るがもう遅い。いつの間にか接近していた女型の掌底が、アルミンを壁に叩き付ける。それを確認すると、女型の巨人は背を向けて立ち去っていく。

だが、危機はすぐそこに来ていた。立ち上がろうとするアルミンを、女型と入れ替わりで寄ってきた巨人が摘みあげ、もがくアルミンを意に介さず、口の中に放り込む。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

「アル…ミン……」

アルミンが、目の前で食われようとしている。朦朧とする意識の中で、エレンにはその叫びがひどく遠くに感じた。しかし、彼は必死で立ち上がろうとするが、彼もまた、左足を女型に潰されていた。本来の彼であれば感づくことができたろうが、友を食われて逆上したエレンに巨人の不意打ちを躱しきる余裕などなかった。

だが、そんな体であってもエレンにはこのまま黙ってアルミンが食われるのを待っていることはできなかった。残った右足に力を込めて膝立ちになり、立体起動を巨人の顎に打ち込む。突っ込んだエレンはそのままアルミンを飲み込もうとする巨人の口に飛び込み、最後の力を振り絞ってアルミンを引きずり出した。

 

「エレンッ!?」

「こんなところで…死ねるか…なぁ…アルミン、お前が…お前が教えてくれたから…オレは外の…世界に…」

引っ張り出されたアルミンはすぐにエレンの名を呼び振り返る。一方のエレンも食われまいと踏ん張って手を伸ばすが、徐々にその力は弱まっていき、

 

「エレン!!早く!!」

伸ばした手を掴もうとするアルミンの眼前で

 

バクッ! ブチッ ゴクン…

「う…うわあああああああ!!」

エレンは左腕のみを残し、食われていった。

 

 

 

「チクショウッ…チクショウッ…!こんなところで…」

巨人の体内にて、エレンはもがいていた。だが胃壁を殴りつけても、いくら叫んでもどうにもならない。それでもエレンは諦めなかった。

生きるために、巨人を殺すために。

 

「あ…諦めて…たまるか…。駆逐してやる…一匹残らず…この手で」

その言葉を最後に、彼は胃液の中に沈んでいく。

 

 

 

……諦めて、たまるかぁ!!

 

 

 

 

 

 

「…ックソ!エレンの仇っ!」

アルミンはエレンが食われたことに強いショックを受けながらも、なお立ち上がって巨人に刃を向ける。アルミンも伊達にアンデルセンの訓練を乗り越えてきてはいない。血反吐を吐きながら訓練の中で鍛え上げた彼の強い信念と戦術眼、それが彼に告げていた。今が千載一遇のチャンスだと。泣く暇があったら友の仇を討て、と。

 

「ああああああああっ!!!!!」

だがそんなアルミンの眼前で唐突に事態は変化する。

 

ズボッ!!

「!!??」

今飛び掛かろうとした巨人の中から、太い腕が飛び出し、巨人が倒れ伏した。思わずたたらを踏むアルミンの前で、巨人を突き破って腕だけでなく頭、胴体、足と飛び出し、遂には15メートルはあろうかという新手の巨人がその姿を現した。

 

「なんで…巨人から、巨人が…?」

新手の奇行種かと思考を巡らせるアルミンに目もくれず、その巨人は行動を起こす

 

「~~~~~~~~~~ッ!!!」

「うわっ!」

天も裂けんばかりの雄叫びを上げ、巨人はアルミンに向かって拳を振りかぶる。雄叫びに思わず耳を塞いでいたアルミンは対応できない。

そしてその拳は、

 

 

 

アルミンのすぐ後ろにいた巨人の顔面を捉えていた。

 

「えっ!?」

てっきり自分に向けられたものと思って死を覚悟していたアルミンは、その事態を理解できなかった。ただ分かっていたのは眼前の巨人が後ろの巨人を殴り飛ばしたという事実のみ。

 

「~~~~~~~~!!!!!」

混乱するアルミンを放っておいて、その巨人はほかの巨人に向かって走り出す。そして目についた端から巨人に襲い掛かり、その生命活動を停止させていく。

 

「なんなんだ…あの巨人…、まるで…

その光景に呆然としながら、アルミンは呟く。

 

 

…まるでエレンみたいだ」

その巨人と、あまりにも似通った動きをする、友の名を。

 

 

 

 

 

アルミンは数秒の後正気に戻ると、事態を報告すべく本部へと戻る。だがその道中、思わぬ人物たちと合流する。

 

「アルミンッ!」

「!?ミカサ!?ロゴス姉さん、ベレッタ姉さん!?」

自分を呼ぶ声に反応して横を見やれば、そこには後衛にいるはずのミカサ、そして調査兵団とともに壁外調査に出向いたはずのロゴスとベレッタがいる。

あわてて方向を変えて三人のいる場所へと降り立つ。

 

「三人とも、なんでここにいるの!?」

「巨人が街を目指してるって聞いて、神父様が聖書で先に帰してくれたの。ミカサはさっきそこで会ったんだ」

「私は後衛の避難が終わったからこっちの支援に来たんだけど…それよりアルミン、エレンは?一緒じゃないの?」

ミカサの唐突な、しかし当然ともいえる質問にアルミンは口ごもるが、やがて絞り出すように声を出す。

 

「エレンは…巨人に、食われて」

「…!!!」

アルミンの言葉も言い終わらないうちにミカサは駆け出すが、

 

「おっと!」

「グッ!?」

ロゴスによって羽交い絞めされる。

 

「離して姉さん!私が、私がエレンの仇を!」

「落ち着けって。アルミンだってもうビビりじゃない。エレンが目の前で食われたって、仇討つぐらいやってのけるさ。……それより聞きたいことがあるんだが」

ミカサを羽交い絞めする腕の先の拳がギリギリいっているところから、ロゴス、そして刀の柄を折れよといわんばかりに握りしめているベレッタも怒り心頭なのが見て取れるが、年長者らしくそれを抑え込んでロゴスは数メートル先で暴れまわる先の巨人を指してアルミンに問いかける。

 

「あそこで巨人ぶっ殺しまくっているあの巨人はなんだ?新手の奇行種か?…ちょ、おいミカサいい加減止まれ!ベレッタ!お前も手伝え!」

「…それなんだけど、僕にもよく分からないんだ」

いまだ暴れるミカサを二人がかりで抑えるロゴスとベレッタに、アルミンは自分が見たすべてを話す

 

「あの巨人は、エレンを食った巨人から出てきたんだ!?」

エレン、という言葉にミカサの動きが止まる。

 

「ハァ!?出てきたって、どうやって!?」

「体を突き破って。それから殴りかかってきたんだけど、あいつ僕の後ろにいた巨人だけを殴ったんだ。それに、目の前に僕がいたのに、まるで無視して巨人だけを襲うんだ。それに…これは僕の主観でしかないんだけど」

そこで一旦息を切り、アルミンは言葉を続ける。

 

「…あの巨人の動きは、エレンと同じなんだ」

『!?』

あまりにも理解できないその言葉に、三人は表現しがたい表情になる。

 

「おいおいおいおいおい、お前何か?あれがエレンだっつーのか!?」

「そこまでは言わないけど…。あの巨人が、エレンに何か関係しているのは確かだよ」

「で、でも、なんでそんなことが…」

困惑する三人。そんな中、動きを止めてから黙ったままだったミカサが口を開く。

 

「…分からないなら、あとであの巨人を調べればいい。とにかく今は、生き残ることが先決。私たちも、あの巨人も」

そう強く言い放つミカサ。アンデルセンによって鍛えられたミカサは、何よりこの切り替わりの早さがずば抜けていた。あらゆる状況において、一旦思考をリセットして最善の選択をする。エレンが絡むと途端におろそかになるのがタマに傷ではあったが、一度冷静になってしまえばそれは十全に行われる。

その言葉を受け、白熱したロゴス、ベレッタ、アルミンも一旦気を取り直す。

 

「…そうだね、今はとにかく生き残ろう。それでさっき思いついたんだけど」

そういってアルミンは、今や巨人の巣と化している本部を指差して言う。

 

「あの巨人を引き付けて、本部までの道を作るのはどうかな?その方がこっちの危険は少ないし、あの巨人は並の巨人より強いから、早々負けはしないだろうし」

かなり無茶苦茶な作戦ではあったが、あの巨人が本当に巨人にしか興味がないのなら、可能性はある。

 

「な、成程。良し!ミカサとアルミンは残りの奴らに声をかけて本部へ急げ。私たちは一旦ヴァチカンへ戻ってから、あの巨人と少しでも数を減らしておく!」

「ふ、二人とも、気を付けてね……シャア!いくぞ巨人共ォ!」

そういって二人は屋根伝いにヴァチカン区へと急ぐ。

 

「いこう、アルミン」

「うん」

そんな二人を見送って、二人も立体起動を飛ばす。ヴァチカンも心配だが、あの二人やマクスウェルがいればどうにかなるだろう。そう己に言い聞かせ、暴れる巨人の眼前に躍り出る。巨人が反応したのを確認すると、すぐさま本部の方向へと飛んでいく。

本部に張り付く、そしてそこまでにいる巨人を視界に入れると、猛然と走り出す。

 

(やった!第一段階成功!あとは本部まで突っ込ませるだけだ)

仲間に声をかけるため、速度を落とした二人を抜き去り、巨人へと走っていくそいつを見やって、アルミンは作戦の成功を予感する。

すぐさま二人は屋根の向こうで集まっている仲間たちの方向へ飛んでいった。

 

 

生き残るために、あの巨人の謎を知るために、二人は駆ける。

 

 

先ほどありえないと切り捨てた、その先にある衝撃の真実を知る由もなく。

 

 

 

 

 

 




今回ここまで
もうちょい書きたかったなー…じゃないとウォルターの出番がどんどん遅くなるwww

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