進撃のイスカリオテ~Titan to Dust~ 作:マイン
だって神父残ったら意味ないんだもの…
850年、エレンたちは訓練兵団を卒業し、新人としての第一歩を踏み出そうとしていた。そんなある日、
「調査兵団との合同調査?」
「それはまた…ずいぶんと大がかりですね」
イエスズ修道会の司教室にて、調査兵団長のエルヴィンよりそんな話を聞かされたリバーともう一人、成長し今やアンデルセン二世とも言われるほどの銃剣使いとなった少年、エドは疑問の声を上げる。
そんな二人の反応を見て、エルヴィンは説明を続ける。
「お二人も知ってのとおり、我々調査兵団は今深刻な人手不足に陥っている。加えて毎回の想定より振るわない成果と甚大な死亡者の数に、民衆や商会からの不満の声も大きくなる一方だ」
「…だから今回は我々と手を組み、より犠牲を減らして大きな成果を。というわけですか」
「……そうだ。口惜しいが、君たちのほうが生還率も練度も高い。それが上の判断でね」
そう呻くエルヴィンの言葉には、不甲斐ない自分たちへの怒りと、兵を駒としか思っていない上層部への苛立ちが込められていた。
「分かりました。随員に関してはこちらから追って連絡させていただきますので」
「助かります。…それでは私はこれで」
そう言って席を立ち、部屋を後にするエルヴィン。そんな彼の寂しげな後ろ姿を見送りながら、エドとリバーは互いに呟くように話し合う。
「…世知辛いですよね。エルヴィン団長も」
「ああ…」
「随員の件なんですけど、俺も行っていいですか?リバー兄さん」
「ああ、構わんよ。それとエド、公の場ではマクスウェル司教と呼べ。どこでだれが聞いているか分からん」
「!すいません、マクスウェル司教!」
そんな風に一日は過ぎていく。いずれ訪れる、動乱の前触れも無しに。
そして時がたち、出立当日。街頭には多くの人がごった返していた。みな、これから命がけの壁外調査に出向く調査兵団、そしてイスカリオテの見送りに来たのである。その中には、エレンをはじめとした104期卒業生らの姿もあった。
そんな中、ついに兵団の面々が姿を見せる。人々は彼らが前を横切る度に噂し合う。
「来たぞ、調査兵団の主力部隊だ!」
「エルヴィン団長!巨人共を蹴散らしてやってください!」
「オイ、見ろ!人類最強の兵士リヴァイ兵士長だ!一人で一個旅団並の戦力があるってよ!」
口々に調査兵団の面々を褒め称える群衆。だが、遂にイスカリオテの武装神父隊が現れると、その歓声はざわめきへと変わる。
「あれが、『男装麗人』シスター・ロゴスか。あんな銃で巨人を殺せるのか?」
「馬鹿、先っぽに刃が付いてるだろ。銃は目つぶしで、あっちで殺すんだと。」
「横にいるのは『拷問処刑人』のシスター・ベレッタか?巨人を逆にいたぶって殺すっていう…」
「ひええ、あんな顔しておっかねえ」
「あのちっこいのは誰だ?」
「最近入ったっていうエドっていうやつだ。なんでもアンデルセンと同じ銃剣を使うらしい」
そしてついに、あの男が民衆の前に姿を現す。
「で、出た!『銃剣(バイヨネット)』アレクサンド・アンデルセンだ!!」
「今まで400体以上巨人殺したんだろ!もうあいつ人間じゃねえよ」
「リヴァイ兵長が人類最強なら奴は世界最強だな…」
「カトリックじゃないと殺されるって、ほ、本当かな?」
「馬鹿野郎殺すのはウォール教の連中だけだよ!神父様―!巨人なんか皆殺しにしてくれー!」
期待、歓喜、恐怖、様々な感情をその背に受け、気を引き締める調査兵団。薄ら笑いを浮かべて受け流すイスカリオテ。
彼らは行く、巨人との闘争に。彼らは往く、人類の地を取り戻しに。
ウォール・マリア内地のとある街、いやもはや廃墟となりつつあるその地にて、彼らと巨人との闘いが行われていた。
ゴリッ…!ガリッ…!
「く、糞が…テメエらなんかに…負けて……」
ドキュン!ドキュン!
「ふんっ!!」
ザンッ!!
今まさに調査兵団の男を食っていた巨人に、ロゴスは二発の銃弾と一撃の斬撃を持ってその生命活動を停止させる。振り返って男の方を見やると、思ったより軽傷らしくすぐに立ち上がってこちらに叫んでくる。
「あ、ありがとう!」
「礼なんざいいからとっとと巨人倒せ!」
そう言ってロゴスはさらなる巨人たちに突っ込んでいく。
一方のベレッタは、
ズバァ!!
「あはは、お前よわっちいなあ!ほらもっと抵抗しなよ。じゃないと…」
そういって四肢を切り落とした巨人の項に立ち、刀を構え、
「とっとと殺しちゃうよ?」
それを振り下ろした。
「どりゃあぁぁぁ!」
新入りであるエドは師であるアンデルセンのように勇ましく巨人に切りかかるが、
ガスッ!
「やべっ!浅い!」
やはり師のようにはいかず、殺しきれない。とそこに
ザンッ!ドズウゥン!!
「殺(や)るんならもっときっちり殺りやがれ!!」
「う、うっす!サンキューですリヴァイさん!」
通りがかったリヴァイが止めを刺していく。
「チッ!イライラさせやがる…」
そんなリヴァイはある民家の屋根の上に登り、普段より人数の多い、しかし確実に被害の少なくなった戦場を見渡していた。
「何々、イスカリオテのみんなに嫉妬してる?」
とそこに分隊長でもあり兵団きっての変人でもある女性士官、ハンジ・ゾエがやってくる。その無邪気な言葉に、眉間に皺を寄せながらリヴァイは言う。
「ちげーよバカ、…連中には感謝してる。おかげで部下が死なずに済んだしな。気に入らねえのは連中がいなけりゃ部下が死んでたってことだ」
「まあねー。あの人たち強いしね。特に、ハァ、ハァ、あ、あの人がね」
「気持ち悪りいぞテメエ。…で、当のそいつはどこに」
「キィィィィィエェェェェェェイ!!!!」
ドガガガァァァァ!!!!
「……いたな」
「いましたね」
二人の視線の先にはその本人、今まさに十数対の巨人を打ち倒し民家に叩き伏せた男、アンデルセンがいた。しかしアンデルセンは自分の戦果を誇る暇もなく、次の巨人へと切りかかる。
「ハハハ!踊れ踊れ化け物共(フリークス)!この私に地獄を見せてみろぉぉ!!」
「…あの野郎ほんとに50間近のおっさんかよ。マジモンのバケモンじゃねえか」
「ほんとですねえ…どうしてあんな動きができるのか…~~!あーっ!ちょっとでいいから解剖したーい!!」
「黙ってろ変態女。…ん?エルヴィンの野郎、どうしたんだ?」
リヴァイの視線の先には、離れたところの仮本部にいるはずのエルヴィンがいた。
そして彼から、予想外の命令を下される。
「退却!?」
「そうだ。これより急ぎ退却し、南部のトロスト区に戻る」
突然の決定に誰もが難色を示す。
「おいおいエルヴィン、俺たちはまだ限界まで進んでねえぜ」
「言いたいことは分かるリヴァイ。だがこれは火急の事態で」
「退く!?退くだと!?」
「!」
突っかかるリヴァイをなだめようとするエルヴィンに詰め寄ったのはアンデルセン。
「我々神罰の地上代行イスカリオテが、巨人相手に退くだと!エルヴィン貴様、それにはよほどの理由があるんだろうな」
「巨人が街を目指して北上し始めた。主軸上にはトロスト区がある。」
『!!』
その言葉に、彼ら、特にイスカリオテの面々に動揺が走る。トロスト区には彼らの家が、彼らの同志がいる。
「5年前と同じだ。街に何かが起きている。壁が…破壊されたかもしれない」
「…」
「とにかく一旦退却して状況を」
「ロゴス!ベレッタ!」ポイッ
「「!っとと!」」
部隊を先導しようとするエルヴィンの言葉の途中で、アンデルセンはロゴスとベレッタに何かを放り投げる。あわててキャッチした二人の手には、普段アンデルセンが使っている転移用の聖書が合計二冊あった。
「それを使って先に戻れ。壁を守れ、ヴァチカンを守れ、カトリックを、お前たちの家族を守れ!俺はエドやほかの奴らとともに急いで戻る」
「しかし神父様!」
「早く行けい!間に合わなくなっても知らんぞ!」
「行ってくれ!姉さんたち!」
『行ってください!シスター・ロゴス!シスター・ベレッタ!』
仲間たちからの後押しを受け、二人は目配せをした後頷く。
「…分かりました。先に行って待ってます!」
「みんなも早く来てくださいね!」
光と清風を巻き上げ、飛び散った聖書が二人を隠す。やがてページが消えると、二人の姿はもうどこにもなかった。それを確認し、アンデルセンたちは馬に跨る。
「さあエルヴィン、急ぐぞ。グズグズしてはいられん」
「…ああ、そうだな」
そうして彼らは走り出す。自分たちの守るべきものに戻るため。戻った先で、さらに予想もつかない光景を目の当たりにすることを知らず。
バサバサバサァ!
聖書によって無事トロスト区まで転移してきたロゴスとベレッタ。彼女らはまず状況の確認にかかった。
「着いたか!ヴァチカンは?壁は?巨人はどうなった?」
「……ねえロゴス、あれ見て」
「なんだベレッタ…!!?」
ベレッタが指差す方向。そこを見たロゴスはその光景を理解できず思考が止まる。
何しろ、
「…なんで巨人が巨人を殺してるの?」
目の前では15メートルはあるであろう大型の巨人が、他の巨人を皆殺しにしていたのだから。
今回ここまで
名もなき負傷兵(仮)死亡フラグ回避