「知らない天井だ」
真っ暗な部屋で突っ立っている俺は天井を見上げてそう呟いた……一回言ってみたかったんだよねこれ。
それはさておきどうしてこうなったんだ?俺は徹夜で麻雀やって、酒飲んでその後でニ○ニ○動画を見てる途中で爆睡した筈なんだが。
成る程なぁ、これは夢だ。明晰夢ってやつは始めてだな。うおー、スッゲェリアル。それに匂いまで再現する仕様だ。だけど正直この匂いは好きになれそうにない、吐きそうだ。うぇえ……。
そう思って俺は前を向くと、そこには一人の青年が口をポカーンと開けて此方を見ていた。
青年は髪を茶に染めて、紫を基調とした服を着ている。そしてなによりも顔がイケメンだった。……イケメン爆発しろ。
というかなにその目?なんで幽霊でも見ているような顔をしてる?実に失礼な奴だ。だが俺は大人、冷静な対応を心がけるべきだ。とりあえず名前を聞いてみることにしよう。勿論口調は丁寧に。
「あなたは誰ですか?」
あれ?俺の声こんなんだったっけ?声を枯らすような事はやってないつもりなんだが。
「え?え……えーっと、雨生龍之介ッス。職業フリーター、趣味は人殺し全般。子供とか若い女とか好きです」
……は?ちょっと待て、コイツは何て言った?
「す、すみませんがもう一度言ってもらえませんか?」
「え?あ、はい。雨生龍之介ッス。職業は……」
GYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!夢の中でとはいえFate/Zeroでも人気キャラの快楽殺人者、龍ちゃんとエンカウントするだと?!神は我を見放したか!くっ、殺らなきゃ殺られる!そういえば夢の中では考えた事がそのまま反映されるとか友達が言っていた筈。意識するのは常に最強の自分!いきなり逃げても絶対に殺られる!とりあえず全力で殴る!話はそれからだ!
この思考時間僅か1秒。
「うるァァァァァァア!」
「趣味は、ゲフゥッ?!」
俺の放った右拳は龍之介の腹を捉え、殴り飛ばした。龍之介は壁に叩きつけられピクリとも動かなくなった。俺TUEEEEEEEEE!
俺は俗にいう憑依というものをしているようだ。この体の持ち主は分からないが、間違いなくサーヴァントなのだろう。身長が高くて男だからイスカンダルとかディルムッドとかギルガメッシュだろうか。やはりギルガメッシュがいいな。王の財宝ぷっぱなしてれば勝てるもん。
そんなことを考えている俺の頭にあり得ない量の情報が詰め込まれていく。その反動なのか、物凄く頭がクラクラする。コーヒーカップを全力で回転させた後みたいだ。え?例えが変?細けぇこたぁいいんだよ!
聖杯戦争
まあ、わかっていたことだけど、こう突きつけられると夢とはいえ……いや、夢だからこそ悲しいものがある。夢見るならラブコメの主人公がよかったとか考えているうちにどんどん情報が流れ込んでくる。
サーヴァント
七騎による殺し合い
クラス・キャスター
「……ゑ?」
ちょっと待て、今聞き捨てならない言葉が頭に浮かんだのだが。
クラス・キャスター
いやいや、ちょっと待ってよ。
クラス・キャスター
嘘だ……。
クラス・キャスター
ウソダドンドコドーン!
俺は慌てて近くにあった鏡を見て、そしてその容姿に唖然としてしまった。
オールバックの髪、飛び出している焦点があっていない瞳、毒々しい色のローブ。どう見ても半魚系男子、キャスター、ジル・ド・レェです本当にありがとうございました。
龍之介が目の前に居たのになぜ気付かなかった俺……。なんでよりにもよって旦那なんだ……ステータスとか酷いもんだぞこいつ。はっきり言うと、アサシンより弱い。耐久と幸運がEで、筋力と敏捷がD、魔力がCというお粗末過ぎるものなんだ。雨生に適当な召喚で呼び出された上に、魔術のド素人のため魔力は無いに等しく、宝具以外が全滅なんだよなぁ……
ちょっと待て、俺がキャスターだってことはマスターは雨生龍之介……だよな。
何というかよくわからないが、今まで繋がっている物が切れた感覚がして、俺の身体から急激に力が抜けていくのが分かった。
れれれ冷静になれ。まだ慌てるような時間じゃない。状況を確認するんだ。
俺、キャスターに憑依
↓
目の前に龍ちゃん
↓
脳内混乱して殴殺
↓
自分がキャスターと気付く
↓
マスターいないと消えちゃう
↓
龍ちゃんがマスター
↓
キャスター自身は魔術を行使できない
↓
今ここ
あれ?俺詰んだんじゃね?\(^o^)/