真剣で私に恋しなさいZ ~ 絶望より来た戦士   作:コエンマ

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やってまいりました、第一話の更新です。

今回は悟飯の目覚めと武士娘との邂逅編になります。

誰と出会うかは、まぁなんとなく想像が付きますよね?

それではどうぞ~。


第1話  漂流のZ戦士

 

 

 

 夢を見ていた。

 

 とても楽しくて、とても嬉しくて、そんな幸福な夢。

 

 いつも見る自分の家。そしてテーブルの上にはいつもよりもたくさんの、そしてとても豪華なご馳走が所狭しと並べられている。ボクは手をかけた扉を押して、ゆっくりと開いた。

 

 すぐにお母さんが肩を怒らせてやってくる。

 

『こら悟飯、どこ行ってただ! まったく、悟空さと一緒になってまた遊びほうけて! 勉強はしっかりやるって言ったでねぇだか!』

 

『チ、チチ、悟飯はまだちっこいんだ。そんな厳しくせんでも……』

 

 少し怒りんぼのお母さんがいて、優しいおじいちゃんがいて。

 

『まぁまぁチチさん。悟飯だって遊びたいと思うときぐらいありますって』

 

『そうそう! それに悟飯はすごい優秀だから、ちょっとくらい大丈夫ですよ』

 

『ふ。お前なら、武と勉学両方を極められるやもしれんな』

 

『応援するぞー!』

 

 クリリンさん、ヤムチャさん、天津飯さん、餃子さん、みんながいて。

 

『お前の人生だ。好きに生きるといい』

 

 大好きなピッコロさんがいて。

 

 そして、

 

『なんだ悟飯。たくさん遊んでもっと食わなきゃだめだぞ。おめぇは育ち盛りだかんな!』

 

 とっても優しくて頼もしいお父さんがいる。

 

 ただ、大切な人たちと過ごす何気ない日々。しかし、それはどんな宝物にも代えがたい輝きを放っていた。

 

 ひとしきり笑いあった後、お父さんがゆっくりと立ち上がる。

 

『っと、悪ぃな。オラ、もういかなくちゃ』

 

「? お父さん、何処へ行くの?」

 

 不思議に思ってボクは顔を上げる。だがお父さんは答えず、ただ笑うばかり。そして背を向け、一人歩き出した。

 

「待って。待ってよ、お父さん!」

 

 歩いていくお父さんを追いかける。遠くなっていく背中に必死になって叫ぶ。

 

 いつの間にか、周りにいたはずのみんなも消えている。ボクはあらん限りの大声で叫んだ。

 

 だが悟空は振り返らない。どれだけ走っても、どんなに速度を上げても、その距離はどんどん開いていった。

 

「待ってお父さん! 行かないで!」

 

 走りながら手を伸ばす。ボクの声が届いたのかお父さんはゆっくりとこちらに振り向き、いつも元気な顔をすまなそうに崩した。

 

 

 

『――――またな。母さんを頼んだぞ、悟飯』

 

 

 

「お父さぁあああああん!!!!」

 

 

 

 声はもう届かなかった。

 

 

 

‐Side change‐

 

 

 

 

「はっ…………!?」

 

 オレの目に風景が映った。暗く何も見えなかったところから白い光が満ちた世界へ引っ張り出されたためか、目が霞んでチカチカする。

 

 見慣れない白い天井。意識はぼんやりとしたままだった。いま自分がいったい何を見ているのか、それさえうまく頭に入ってこない。だが、徐々に意識がはっきりするにつれて景色が色彩を帯びていく。

 

 そのころには覚醒する前と後の世界の境界ぐらいは認識できるようになっていた。

 

「ゆ、夢…………?」

 

 呆然とした声が口から零れる。顔中にはじっとりとしたいやな感触のする汗が溢れていた。それらが荒げた息に触発され、額から一筋、また一筋と頬を流れ落ちていく。

 

「オレは……一体――うっ!? ぐっ!?」

 

 何の気なしに身を起こそうとした瞬間、凄まじい激痛が全身を襲った。息が止まるような痛みに、起こしかけた体を再び横たえる。

 

 そこでオレは、初めて自分がベッドに寝ていたことを知った。少し離れた窓からは少し傾いた日が差し込み、風がカーテンを(さざなみ)のように揺らしている。

 

「こ、ここは……病院、か?」

 

 僅かに動かしただけでも痛む体を気遣いつつ、目だけで周囲を確認する。自分は相当な怪我をしているらしく、いろいろな計器や大げさに見えるほどの処置が施されているのが、感触から伝わってきていた。

 

 頭がだんだんとクリアになってくる。皮肉なことに、時折体に走る激痛が自分がまだ生きていること、そして今いる現状を認識させるの手伝いをしていた。

 

「そ、そうだ……オレは西の都を襲った人造人間と戦って……本気を出した奴らに追い詰められて……」

 

 ■んだはずだ。

 

 そこまで考えて、強く歯を食いしばった。いまさらに死の恐怖が寒気となって全身を震わせる。そして同じくしてこの状況に疑問を感じた。

 

(だが、どうしてだ?)

 

 あの状況から、自分はどうやって生き延びたのだ?

 

 西の都にはもうほとんど人は残っていない。当然開いている病院などないし、あったとしても人造人間が気づかないはずがない。

 

 自分が記憶しているのは人造人間達に追い詰められたところまでだが、覚えている限りでもあれだけの攻撃をまともに受けていたのだ。ほかの街に運ばれたとしてもおそらく手遅れになっているはず。

 

 助かるはずがない。己の冷静な部分が告げていた。しかし、

 

「考えたところで分かるはずもない、か…………とにかく、今がどういう状況かぐらい把握しておかなきゃ……」

 

 痛む体をおして起き上がろうとする。だが、思うようにはいかなかった。

 

 元より左腕がないためバランスがとりにくく、そうでなくとも満身創痍の状態だったのだ。いくら普通の人間を大きく超えた肉体を持つサイヤ人とはいえ無理からぬことだろう。

 

「くっ……く、く……くぅううう…………!!」

 

 それでも体に力を入れる。

 

 まだ、まだ生きているなら、やることはオレのやるべきことはひとつだけだ。オレはこんなことをしている場合じゃない。こんなところにいる場合じゃない。

 

 オレはまだ生きているんだ。まだ、戦うことができるんだから…………!

 

 全力で体に力を入れる。必死すぎて、息をするのも忘れてしまいそうだ。

 

 だから、気づかなかった。

 

「え……?」

 

「あ……」

 

 控えめに聞こえたノック音に。

 

 

 

-Side change Kazuko Kawakami-

 

 

 

「起立、礼。先生さようなら~」

 

「はい。また明日」

 

 なんとも子供らしい号令に返す凛々しい返答の後に、声の主が退室する。それに呼応して、教室の空気が一気に弛緩したのがわかった。

 

 遅い帰り支度を始める者。この後の予定を話し合う者。まだ友達と話そうと机の上に行儀悪く座る者。おおよそのクラスメイトは各々に動き出している。

 

 それは私も一緒だ。ただし、放課後を満喫しようとするみんなとは少し違った目的があるためだが。

 

「犬。今日も行くのか?」

 

 立ち上がった私にクリが声をかけてくる。

 

 クリスティアーネ・フリードリヒ。ドイツから日本に来た留学生で、最近風間ファミリー入りしたメンバーだ。反りが合わないからかケンカも多いけど、こういうタイプは近くにいなかったから新鮮でいいと思ってもいる。

 

「まだ行くの? 責任とか感じる必要はないと思うよ? 最初に見つけたのがワン子だったってだけで、それ以上のモノは何もないんだし」

 

「ボクも京と同意見。でも世話焼きとはいえ、ワン子がそんなに入れ込むなんて珍しいね」

 

 その後ろから付き合いの長い椎名京、師岡卓也も声を掛けてくる。私は心配げな二人に頭を掻いた。

 

「入れ込むっていうか……まぁ、いちおう第一発見者だしね。ちゃんと目が覚めるトコまでは見届けたいのよ」

 

「ワン子ちゃん、もう帰るんですか。最近早いですねぇ」

 

 甘粕真与。2‐Fの良心とも言われる優しい委員長だ。気を遣ってくれた彼女に軽く返すと、横にいたクラスメイトの二人、小笠原千花と羽黒黒子が反応する。

 

「まあね。ちょっと寄るところがあるから」

 

「あの修行一直線のワン子が寄り道……まさか、オトコでも出来たー?」

 

「何ィ!? あたしらを差し置いて、抜け駆けとか信じられねー! いったいどんなイケメンを釣ったんだよ!?」

 

 桃色な方向に捉えた二人が顔を近づけてくる。私はその異様な迫力に気おされてしまい、「ち、違うわよ」と少々どもりながら返した。と、我が風間ファミリーの軍師こと直江大和が近づいてくる。

 

「今日も行くみたいだな。もし、あの人が目を覚ましたら知らせてくれ。身元不明ってことだから一応会ってもおきたいし、お見舞いには行くつもりだったからな」

 

「相変わらずまめよね大和は。でもありがと。目を覚ましたら必ず知らせるわ。じゃあねみんな、また明日」

 

 気遣い上手な仲間に笑顔を返し、私はクラスメイト達に別れを告げて歩き出した。

 

 目指すは葵紋病院。彼が入院している病院であり、この川神市において最も規模の大きな医療施設でもある。

 

 天気は快晴。季節はずれの嵐が過ぎ去ってから、早いものでもう五日になる。その間、私は毎日あの人の病室を訪れていた。もう病室すら覚えてしまっているほどだ。

 

 彼はいまだ眠ったままだが、それは体が修復能力をフル稼働させているかららしい。眠っているだけで目立った問題はないし、体も回復に向かっているから十分な機能が戻れば遠からず目を覚ますだろうとのことである。

 

 あの日、雨のなかに倒れていた青年は救急隊によって搬送された。すぐに治療が開始され、私は祈るような気持ちで彼が手術室に消えていくのを見送った。そして後から駆けつけてきたお姉さまたちと一緒に、帰ったほうがいいというお医者さんの言葉を押し切って病院のソファで一夜を明かしたのだった。

 

 手術は数時間に及んだ。一分一秒が本当に長く感じたのを覚えている。そしてまもなく夜明けになろうというとき、やっと手術室のランプが消え、先生たちが出てきた。すぐさま駆け寄った私たちに対し、先生は複雑そうに、でもうれしそうに微笑んだ。

 

「あと少しでも発見が遅ければ、もう駄目でした。いえ、常人ならばとうに手遅れなほどの怪我なのですが……彼の身体が常軌を逸して頑強なのか、それとも単純に運が良かったのか……いずれにしろ、私もこれほどまでの奇跡に立ち会ったのは初めてですよ」

 

 いろいろと思うところもあるのだろうが、やはり患者を救えたのが単純に嬉しかったのだろう。そう口にして、先生は去っていった。それを皮切りにメンバーにも笑みが灯る。

 

 

 

『よかったぁ』

 

 

 

 全員が口々に息を吐き出しながらそう言った。私は安堵のあまり腰から力が抜けて座り込んでしまい、ガクトや京たちに散々からかわれてしまったが。

 

「――――っと、これでよし」

 

 五日前のことを思い出しながら受付で名前を書き、病室へと向かう。階段を二段飛ばしで上り、あっという間に五階にたどり着く。そこから少し歩いて、私は目当ての病室へとたどり着いた。番号は512号室である。

 

 そこにネームプレートはない。理由は単純、彼がいったい何処の誰なのかわからなかったからだ。

 

 まだ目覚めていない彼には聞きようもないし、その所持品にも身分などを証明するものは見受けられなかった。それどころか、お金なども一切持っていないとのことで、正直お手上げだったのだ。

 

 つまるところ、そう遠くない時に目覚めるであろう彼に直接聞くしか方法がない。

 

(近いうちに聞けるかな?)

 

 何しろ何一つわかっていることがないのだ。

 

 なぜあんなところで倒れていたのか。

 

 どんな人なのか。

 

 名前は何なのか。

 

 医者の話では全治七ヶ月という大怪我だそうだが、彼の回復力は常軌を逸しているらしく、このペースでは本来の半分、いやそれよりももっと短い期間で完治してしまう可能性もあるという。本当に何者なのだろう。

 

 浮かんでくる疑問は至極単純なものばかりだが、それゆえに尽きることがない。

 

 それにその経緯も気になった。医者だって驚くほど頑強な体を持つ彼があれほどの傷を負っていたのだ、よほどのことがあったのだろうというのは鈍い私にだってわかる。

 

 だが、だからこそ迷ってしまうのだ。彼にとってとても大変なことだったのではないだろうか。それは私が聞いてもよいことなのだろうか……触れないほうが、いいのではないだろうか。

 

 そんなことを考えつつ何回目かになる扉に手をかける。そして軽くノックをしたあとゆっくりと開き、

 

 

 

「えっ……?」

 

「あっ………」

 

 

 今の今まで考えていた彼と目が合った。あまりに突然なことに私も反応ができず、硬直してしまっている。驚いているのはあちらもなのか、こちらを視界に納めたまままま微動だにしない。と、起き上がり途中の不自然な体勢であったためか、青年の体がぐらりと傾いた。

 

「い゛つっ!?」

 

「あっ、危ない!」

 

 バランスを崩してベッドから落ちる直前、滑り込んだ私は彼の体を抱きとめるようにして支え上げた。痛みが同時に走ったのだろう、苦悶の表情を浮かべる青年。私は抱きとめていた肩から手を離し、

 

「まだ動いちゃだめよ! あなたひどい、怪我……」

 

 彼を叱り付けようとして、

 

「なんだ……から…………」

 

 至近距離から目が合った。

 

 

 

「「あ…………」」

 

 

 

 再び視線が交わる。彼の黒い瞳に私が映っていた。

 

 距離が、近い。お互いが映っているだろう瞳も、細やかな息づかいも、その気になれば心音すらも感じられる。それほどの至近距離だった。

 

 起きたら何て言おうかな?

 

 何が好きなのかな?

 

 優しい人だといいけど。

 

 今まで浮かんでいた考えが、いくつもいくつも浮かんでは消えていく。彼と言葉を交わすことを楽しみにして、ずっとずっと、いくつもいくつも考え続けていた。

 

 そんな、私がこの数日間考えていたことのすべては。

 

(なんて――――なんて綺麗な目をしているのかしら)

 

 彼の目を見た瞬間にすべて消えていた。

 

 日本人によく見る黒一色の虹彩。だが、彼のそれは漆黒の闇を落とし込んだように深く、それでいて不思議で静かな光に満ちている。澄んだ黒曜石のような瞳。そこへ吸い込まれそうな錯覚すら覚えていた。

 

 だが、この瞳を見ていると心がざわつくのは何故だろうか。どこか懐かしい気持ちがするのは何故だろうか。何故彼の瞳はこんなにも――――、

 

「あ、あの……?」

 

「…………はっ!?」

 

 訝しげな声で我に返る。いつの間にかずいぶんと見入ってしまっていたらしい。かなりの至近距離で見詰め合っているということを私はすっかり忘れていた。

 

 仲間内でもこんな距離で男性を捉えた事など早々ない。よく考えれば、仲間以外で男性と接する機会など幼馴染の忠勝を除いてなかったような気がする。そう意識した瞬間、恥ずかしさで顔が沸騰した。

 

「あ、あわわっ! ご、ごめんなさい!」

 

 飛びのくようにしてあわてて体を離す。一瞬彼がまたバランスを崩すかもと心配になったが、体勢を崩しているのは私だけだった。なんだかちょっと恥ずかしい。

 

「え、えっと、そ、そうだ! あたし、川神一子って言うの! あなたは?」

 

 恥ずかしさを誤魔化すために無理やり話の流れを変える。ちょっと苦しい感じではあったが、青年のほうはあまり気に留めなかったらしい。彼は素直にこちらを見据えて、

 

 

 

「オ、オレは悟飯。孫悟飯だ」

 

 

 

 その名を名乗った。

 

 

 一人の青年と、一人の少女の刹那の出会い。

 

 

 だが、のちに私に。

 

 

 私たちに。

 

 

 そしてこの世界にも大きな変化を齎すことになる、運命に導かれし存在。

 

 

 そのはじまりであることを。

 

 

 私はまだ知る由もなかった。

 

 

 

-Side out-

 

 

 

 




記念すべき第一話でした。

さてさて、今回はあまりお話は進まない上に、バトルもなしでしたがいかがでしたでしょうか。

マジ恋キャラと悟飯の性格をきちんと表現できているか心配ですが、キャラは壊れていなかったでしょうか?

その点だけは私も十分注意して書いていきたいと思っておりますので、よろしくお願い致します。

それではまた次回にてお会いしましょう。

再見(ツァイツェン)

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