駄文小説家見習いコエンマです。
現在、私はこのハーメルン様に二作品ほど投稿させていただいておりますが、様々な理由で筆が止まっている状態にあります。
このお話が以前にお知らせしたクロス小説で、メッセージによる要望があれから多数届きましたので、こちらに掲載していただくことにいたしました。
そこでも書いたことではありますが、この作品は他の二作品の問題を片付けているあいだ小説を書く腕が落ちないようにするためと、自分が苦手とする戦闘描写、その他あらゆる描写の練習をするというコンセプトで書かれています。
なので、更新はとにかく不安定で、二作品の問題が解決したあとも細々と続けていくつもりではありますが、場合によっては打ち切りもあり得ます。
そのことに対してクレームを書かれても、一切応じることはできません。
それを念頭におき、なおかつ許容できる方のみご覧ください。
それでは不思議な物語のはじまりはじまり~。
光の滝。それが頭の片隅に浮かんだ言葉だった。
倒れ伏すオレを包み込むように、天空から落ちてくる光の壁は次の瞬間には違う色へと変わり、あたりの景色を染め上げていく。その中心にオレはいた。
雨あられのように降り注ぎ、次々と地面に叩きつけられる光。だが、それらは温かみとは程遠い冷たい痛みを帯びていた。
「あ……ぁ…ああ………ッ……!」
遠くなる意識。必死に引き寄せようとするも、それは既に叶わぬことだった。その間にも降り注ぐ光の凶弾が次々に身体を貫き、俺の全てを焼いた。
―――消えていく。
身体を焼きつくすような熱の感覚が。
全てをかけて守ろうとした世界が。
仲間たちの死と引き換えに長らえた……その命さえも。
――――消えてしまう。
自分が急速に遠のいていく。頭の中を塗りつぶされるような感覚の中、浮かんできたのは最愛の弟子の顔だった。
(もう足手まといにはなりません!)
誇り高き王の血を引いた少年。彼なら、彼ならばきっと、自分を超える戦士になれる。自分にできなかったことを成し遂げてくれる。
この世界に残った最期の希望。その姿を思い描いたオレは、死に際であるにもかかわらず笑っていた。
「……頼んだ……ぞ………ト……クス…………」
真っ白に染まった世界に目を閉じる。そして瞼を焼き焦がす光が極大に達したとき、オレは意識を手放した。
-Side Kazuko Kawakami-
「ふぇえ~、すっかり遅くなっちゃったよ~!」
川神市、午後六時半。情けない声を上げながら、私、川神一子は帰りの道を急いでいた。夕暮れはとうの昔に過ぎてしまっており、あたりには完全に夜の帳が下りている。
「まさか梅先生がやってなかったトコをピンポイントで当ててくるなんて……迂闊だったわ」
顔に縦筋を浮かべながら、先ほどまでのことを思い返す。正直思い出したくない内容だったが、きちんと復習しなければならないから仕方がない。次にまた同じ失敗をするなど考えたくもなかった。
「はぁ……」
ため息がこぼれる。さっきまでの独り言でどんな状況か大体わかると思うが、本日私はちょっとした失敗をしてしまっていた。その内容は担任の小梅先生の授業でちょっとしたポカポをやらかしてしまったこと。原因は授業で当てられた際に解答できなかったことに起因する。
もちろん予習はした。しかし時間が足らず、僅かに手をつけられなかった部分があったのだ。それを運悪く、本当に運悪く当てられてしまい、まったく答えられなかった私は彼女の教育的指導を受けた後、さらに放課後の補習まで言い渡されたのが運のつきと言える。その補習に際しても、恐ろしくしっかりやるのだから参ってしまった。さらに勉強を進めるうちに理解できていなかった部分が次々と出てきて、それらの補足内容を受けているうちに否応なしに時間が延び、その結果今に至る。
この時間では部活帰りでも歩いている生徒などおらず、すれ違う人も皆無だった。完全に一人きりの状態だ。
しかも先ほどから雨まで降ってくる始末である。土砂降りとまではいかないが、予想以上に強い。朝の天気予報を見て折り畳み傘を持ってきていたからよかったものの、この降りではそれもあまり用を成していなかった。
まぁ、それは自分が急いでいるせいもある。
今日は金曜日。週に一度、私の所属する、という言い方もおかしいが、風間ファミリーと呼ばれるグループの集まりがあるのだ。金曜というのはあるときからはじまったのが、今では習慣になっている。別に強制ではないのだけれど、みなその日は予定を入れないようにして集まるから出来るだけ顔を出したい。
それに何より、
「もうみんな集まってるわよね? あ~ん、また大和にいじられる~。先生が補習びっちりやりすぎなのがいけないんだわ~」
本音が泣き言になってこぼれる。まぁ率直に言えば、罰補習なんて理由で欠席してしまった日には、我ら風間ファミリーが誇る軍師や遠距離戦担当に何を言われるのかわかったものではないのだった。
だから急ぐ。傘を前方に傾けて、雨に対するシールドにする。気休め程度だがないよりマシだ。そうして商店街を横切り、水溜りを飛び越え、なるべく雨に当たらないようにしながら誰もいない多馬橋へ至る。
そして、広い歩道に敷き詰められたタイルに足を踏み入れたときだった。いつもはない違和感を感じ、私は立ち止まった。
「……あれ?」
橋を照らす街路灯に見下ろされるようにしてある『それ』。光に照らされた雨がその激しさを物語るなか、その飛沫を受けて何かが浮かび上がっている。場所は今自分がいる陸橋の端部分からすると、ちょうど中心部であろうか。
「道の真ん中に…………何かしら?」
飛ばされてきたゴミにしては大きすぎるし、柵か何かが倒れているにしても、その大きさからして微妙である。
誰かが忘れていったものかもという考えに行き当たり、しかし即座に打ち消した。これだけ遠くから見えるのだ、あれだけのものを忘れていく人は早々いないであろう。
「とにかく、行ってみよ」
動悸が少し早くなる。私は何かに急き立てられるようにその場へと向かった。だんだんと早くなっていく足取り。気づけば私はかなりの速度で駆けていた。
ほどなく橋の中央部にたどり着く。果たして、そこにあったのはは想像もしていなかったようなものだった。
「な…………!?」
目の前に広がる光景に私は息を呑んだ。そこにあったのはモノなどでは断じてない。
それは人だった。力なくうつ伏せになった人間が、なんの遮りもなく雨に打たれていたのだ。
「こ、これって……!」
私は言葉を失いつつも、目の前に倒れ伏す人に近づき、恐る恐る覗きこむ。
青年。私よりも少し年上、姉と同じくらいに見える男子だ。
彼は道着のようなものを着ていた。濃い山吹色の道着の下に青いアンダーシャツという二枚着、背中には大きく『飯』と染め抜きが入っていた。その彼の周りにもさまざまなものが転がっている。それらは種類も大きさも一見バラバラのようだが、なんだか統一感のようなものも感じられた。状況から察するにこの青年の持ち物だろうか。
ともかく、頭を冷静に整理する。推測するに彼は武道家だろう。姉の挑戦者でこんな様相の人は見たことがないし、少し派手で見慣れないが風体と体格からしておそらく間違いない。
だが、問題はそんなことではなかった。
「酷い怪我…………!」
私は思わず口元を覆った。倒れた彼の体には、その全身を埋め尽くすように傷跡が走っていたのだ。彼の着ている道着も泥や煤によって汚れており、傷だらけでボロボロの状態だった。もはや服というより布を纏っているといったほうが正しい。
傷も大小さまざまだが、全体を見れば決して楽観していいようなものではないことは確かだった。無傷な場所を探す方が難しいくらい、彼の体につけられた傷は夥しい数だった。
生きているのか疑問に思うほどに痛々しい、凄まじい量の傷跡。ボロボロになった彼の胴着。雨の中、なぜ一人でこんな場所に倒れていたという疑問。頭に浮かぶものを挙げていけばキリがないだろう。
だが、そんなことはこの際どうでもいい。そんなことは後でいくらでも確かめられる。彼が生きてさえいれば。
川神院でその手の知識を少しばかりかじっているとはいえ、私の目は素人とさして変わりはしないだろう。だがそんな私から見ても、一刻も早く治療しなければ手遅れになることは容易に理解できた。それほどに彼は危険な状態だったのだ。
頭を振り、自分がいま何をすべきなのかを私は強く心に刻んだ。
「何やってるの、やることはひとつしかないじゃない。しっかりするのよ私!!」
止まっていた足が動き出す。そして今度こそしっかりと彼を見た。
一瞬後、愕然とする。よく見ると倒れた彼には、人間の両側に必ずあるはずのものがなかった。不自然に窪んだ肩口。左の袖口、そのすべてが完全に地面についたアンダーシャツ。本来そこから出ているはずの肌色のものがどこを探しても見当たらない。
そう。彼からは―――――左腕が失われていた。
「…………っ」
思わず目を背けたくなるような光景。思わず自分の左肩を意味もなく抱きしめてしまう。
だが、私はほんの僅かの逡巡を抑え込み、意を決して彼のそばにしゃがみこんだ。うつ伏せになっている彼の横顔に私の塗れた髪が掛かる。
「だ、大丈夫!? ねぇ、しっかりして!」
強く、しかし乱暴にならない程度に肩を揺する。
反応はない。私は唇を引き結ぶと彼の手をとり、祈るような気持ちでその手首に自分の手を当てた。
「! 生きてる……!」
弱弱しいが、確かに脈があった。
彼は生きている。生きようとしている!
そう思ったとき、私の中に強い決意が宿った。
考えて達したものではない。ただ、人として生きている自分の心が奥底から叫びを上げていただけだ。
彼を死なせるわけにはいかない、と。
「と、とにかく早く運ばなきゃ!!」
急いで携帯を取り出し、番号を呼び出す。
メンバーに頼むことも考えたが、私はまずおじいちゃんに連絡することにした。ここからなら川神院のほうが近いし、こういった状況なら川神院の師範である彼のほうが適任だろうと思ったからだ。修行僧も大勢いるから、人手がいる作業ならきっと助けになってくれる。
私はおじいちゃんに連絡を入れ、教えてもらった応急処置を施した後、大和にも簡単に状況の連絡を入れた。連絡を受けた大和は驚いていたけれど、すぐ冷静にこちらの状況を尋ねるとすぐに動くと言ってくれた。
とにかく体を冷やしてはいけないようなので、つなぎっぱなしになっている大和の電話の指示の元、彼の上に傘を被せて雨が当たらないようにする。
その間にも電話越しにこちらを気遣ってくれる辺り抜け目がない。さすがは風間ファミリーの軍師と言われるだけあると苦笑してしまった。
大和の声を聞きながら、青年へと視線を戻す。冷たくなりかけている彼の手を取って握り締めた。
「頑張って。もうすぐ助けがくるから!」
そうしてみんなが到着するまで、私は精一杯の励ましをかけ続けた。
どうか助かって、と祈りを込めながら。
-Side out-
さて、どうでしたでしょうか。
久々の完全新作の文章でしたので、腕が落ちていなければいいのですが……。
ご意見がある方は感想欄からどんどん下さい!
後々、銭湯描写が入ってくると思いますが、
「こうすると、臨場感が出るよ」
「もっとここをこうした方が、キャラに感情移入しやすいかも」
などありましたら、遠慮なくお願いいたします。
出来れば具体例(短い文章など)で書いていただけると、自分のスキルアップ&今後の励みにもなりますので、よろしくお願い致します。
それでは、また皆様とご縁があらんことを。