ハリー・ポッターと欲望の錬金術師   作:ドラ夫

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第3話 ストリップショー

 俺様がロウェナ・レイブンクローの杖を取ろうすると、杖に残っていたロウェナ・レイブンクロー(前主人)の魔力が暴れ出した。

 それを俺様の魔力で封じようとしたら、突然女が杖から出やがった

 

『私を呼び起こす者は誰です?』

 

「俺様はバーソロミュー・フラメル。貴様は?」

 

『計り知れぬ英知こそ我らが最大の宝なり。私の名前はロウェナ・レイブンクロー』

 

 おいおい、マジかよ。

 過去の人間を呼び起こした?何だこの現象は?

 俺様でさえ、何が起きてるのかさっぱり分からない。

 それに、ロウェナ・レイブンクローだと?

 確かに容姿のそれは伝説とも言えるレベルだが、魔女魔法使いとして肝心となるの魔力量が低すぎる。

 こいつは本当にあのロウェナ・レイブンクローなのか?

 いや待て!それ以上に不可解な事がある

 

「アン、メアリー。こいつが見えるか?」

 

 ロウェナ・レイブンクローを名乗る女を指差す。

 しかし、アンとメアリーは首をかしげるだけだ。それはオリバンダーも同じ。

 やはり、この女は俺様以外には感知できないようだ。

 アンとメアリーには許可無く俺様に近づく人間を迎撃する様設定してある。それが発動しないという事は、つまりそういう事なのだろう

 

『どうやら、私の姿は貴方意外には知覚できない様ですね、バーソロミュー』

 

「ああ」

 

 嘘はついていない。心理学と開心術を完璧に納めている俺様が言うのだから間違いない。つまり、この女もこの現象を把握出来ていない。

 ならば自分で考えれば良いだけだ

 

 ふむ、この女は杖から、ロウェナ・レイブンクローの杖から出現した。そして、この杖は未だにロウェナ・レイブンクローに忠誠を誓っていたという。

 『直前呪文』の類──『直前主人呪文』とでも言うべきか。杖の中に残っていたロウェナ・レイブンクローの魔力の魂の残り滓を無理矢理人の形にしたのか。

 しかし、そんな事が可能か?

 いや、オリバンダー曰く最強の杖と俺様の中のこれ(・・)が共鳴し合えば可能かもしれん。

 現にこの女が出現したのは杖からだが、俺様の腕からも可視魔力線(金色の光)が生じていた。

 この仮説が正しいとするなら・・・

 

 俺様が杖をオリバンダーが持っている紫色のクッションに戻すと、あの女は消えた。もう一度杖を取ると、再び女が現れた。やはり、俺様とこの女には杖を通して繋がりのようなものが出来ている様だ。

 どうやら、俺様の仮説はそう間違っていなかったらしいな。

 

「一つ質問したいのだが、俺様が杖を置いた後も貴様はそこにいたか?」

 

『ええ、居ました。……バーソロミュー、貴方と私の間に、杖を通して何らかの繋がりが出来ている様ですね』

 

「その様だな」

 

 どうやらこの女も、俺様と同じ結論に至ったらしい。

 案外、この女がロウェナ・レイブンクローというのは本当かも知れん。まあ何にせよ、俺様と同レベルの思考回路を持っているのだ、天才には違いない

 

 いやしかし、こいつは俺様の中にあるこれ(・・)の存在を知らない。となると、この女の杖と俺様の持つなにか(・・・)とが繋がったのか分からないはずだ。つまり、この女が持つ知識だけでは真実にたどり着く事はない。

 しかしそれは俺様も同じだ。

 何故この杖にこれ程(人の形を具現化する程)の魔力と魂が込められていたのか分からない。

 幾つかの推測は出来るが、所詮推測は推測。対象が未知であり、他に判例がない以上、真実にたどり着く事は決してない。

 とどのつまり、お手上げだ。

 しかしそれはあくまで一人でこの現象を解明しようとした時の話、協力者がいればまた話は別。

 要はこの女が持つ情報を貰えばいい。そして恐らく、この女も俺様と同じ結論に至っているはずだ。お互い協力しよう、とな。

 しかし、ここでまた新たな問題が発生する

 

 それは──俺様が負けず嫌いだという事だ!

 故に、俺様はこいつから情報を貰うのではなく、奪う!!!

 

『私が持つ知識を与えます。なので貴方の持つ知識も私に──何をしているのですか?』

 

 俺様とこいつには確かに繋がりが出来ている。今はこいつが俺様の魔力を吸い取って具現化している状態だ。

 そこで考えた訳だが、俺様の魔力を一時的に改造(錬金)する。吸魂鬼のそれにな!

 

『あ、ああ、ああああああ!!!やめて、私の中にそんな穢らわしい物を入れないで!』

 

「どうした?」

 

 吸魂鬼はキスで相手の魂を抜き取り、その後空いた箇所に自分の魔力を注入する事で、人間を吸魂鬼(同族)にする。

 今は魂を抜き取ってないから直ぐに吸魂鬼になる事はないが、その代わりに吸魂鬼の魔力が身体の中を犯す苦しみが増すだろう

 

『これを早く止めて!私が私じゃなくなる!杖を離して!』

 

「止めてやっても良いが、その前に知ってる事を話してもらおうか」

 

『無理ィ、無理です!こんな穢らわしい物を入れられながら、話なんて出来ません!』

 

「出来るか出来ないかじゃない、やれ」

 

『本当に無理なのにイイィィ!ああああああ!!!』

 

 

 

     ✳︎     ✳︎     ✳︎

 

 

 

「ほら、出来たじゃないか」

 

『ハア、ハア、ハア……貴方、ロクな死に方しませんよ?』

 

 話を聞いた限り、こいつは本当にあのロウェナ・レイブンクローだった。

 何でも、ホグワーツ魔法魔術学校を建てた後、そのあり方を巡って争いが起きたそうだ。しかし全員の力量は近く、いつまで経っても決着がつかなかった。

 そこで、『英知』を司るレイブンクローが提案したそうだ。

 自分達の魔力と魂を何らかの『魔法逸品(マジックアイテム)』に詰め、半永遠の命を得ることで、とりあえず次世代の成り行きを見守る事にしよう、と。要は先延ばしだ。

 それ(マジックアイテム)がレイブンクローの場合、杖だったそうだ

 

「他の奴らが何に詰め込まれているのかは分からねえのか?」

 

『貴方、私にあれ程の仕打ちを成しておいて、何故普通に話し掛けられるのですか?しかし、ええ…確かに分かりません』

 

 まあ、それはそうだろうな。

 他の人間が何の魔法逸品(マジックアイテム)に込められているのか知った暁には、それを破壊したり、学校外に追い出そうとする奴が居るかもしれんからな

 

「何故お前はここに置かれていたんだ?」

 

 しかしそうなると、オリバンダーの店(ホグワーツの外)に置かれていたレイブンクローは誰かの策略にあい、ここに置かれているという事か?

 

『私は……娘に逃げられたのです』

 

「は?」

 

『恥ずかしながら、私は死ぬ間際、病気で床に伏せていたのです。日に日に力が弱まって行く中、私は死を感じました。そこで思い付いたのです。通常、魔女が死んだ時にはその杖を共に埋葬します。そこでホグワーツに墓を作るよう遺言を書き、杖に私の力のほとんどを残しました。私が病気が弱り切る前に』

 

 自分達で作ったホグワーツだ。そこに墓を作っても問題はないだろう。

 それに、幾ら争いが起きたと言っても昔は旧知の仲、グリフィンドール達が墓を荒らす事はなかっただろう。

 しかし、ホグワーツにロウェナ・レイブンクローの墓があるという話は聞いた事がない。つまり失敗に終わったということだろう

 

『ええ、遺言は成されませんでした。娘であるヘレナは私から逃げました。どうしてそうなったのか、私には分かりませんでしたが。しかし、私は娘に遺言を託さなければなりませんでした。ですが私は病気になってしまいました。そこで、ヘレナの恋人に全てを託しました。そして彼が娘を連れて帰ってくるのを待っている間に──』

 

「死んでしまった、と」

 

『然り。その後どういった経緯でそうなったのかは分かりませんが私の墓は作られず、杖は当時のオリバンダーに渡されました。そして今の今まで眠っていた私を、貴方が呼び起こしたのです』

 

「なるほど……」

 

 この話は中々興味深い。

 何処が、というと冒頭の部分。レイブンクロー達が自分達の魔力と魂を魔法逸品(マジックアイテム)に込め、意思を残したというところだ。

 俺様もアンとメアリーを作った(・・・)時に同じ様な事をした。しかし、あの方法はもう二度と使えない。故にちょうど、新しい方法を模索していたところだ

 

「おい、レイブンクロー。俺様は今からホグワーツに行く。一緒に来い」

 

『さっきも言いましたが、私にあんな仕打ちをしておいて、良くそんな事が言えますね!ですが、私もこうして起きた以上、ホグワーツの行く末も見届けなければなりません。非常に、非常に不本意ですが、貴方に着いて行く事にします』

 

 創設者の一人であるこいつにホグワーツの案内させるというのは、さぞかし面白いだろう

 

「店主、この杖貰って行くぞ。幾らだ?」

 

「お代は結構です。その杖は売り物ではござらん故……」

 

 そう、この杖は本来売り物ではない。人に渡して良いものではない。

 しかし、オリバンダー老人の杖作りとしての長年感が告げていた。この杖はバーソロミューに忠誠心を捧げている、共に行きたがっている、と。

 杖の意思を人の意思より尊重するオリバンダー老人のこと、バーソロミューにその杖を託すのは半ば必然の事だった。

 しかし、バーソロミューの方はそうはいかない

 

「俺様は施しは受けない。もう一度聞く、幾らだ?」

 

 バーソロミューがオリバンダー老人を見つめた。

 すると、先程までオリバンダー老人が感じていた杖作りとしての矜持は跡形もなく消え去った。

 ただ、ここまで言ったバーソロミューに恥を掻かせたくない、その一心が頭を支配した

 

 こうしてバーソロミューは七ガリオン支払い、杖とロウェナ・レイブンクローを手にした後、オリバンダーの店を後にした

 

 

     ✳︎     ✳︎     ✳︎

 

 

 キングクロス駅、9・3/4番線のプラットホームに一組の、魔法使い達が言うところのマグルの家族がいた

 

「それじゃあ行ってきます、パパ、ママ!」

 

 少女は、今日何度目になるかわからないハグをした。しかし両親は困った様子を見せず、むしろ嬉しそうにハグを返した。

 それだけで、この家族の絆が確かな事が伺えた

 

「いってらっしゃい、ハーマイオニー!」

 

「何か困った事があったら、すぐに手紙に書きなさい」

 

 少女──ハーマイオニー・グレンジャーは力強く頷き、ホグワーツ特急に乗り込んだ。

それを見た両親は心の底から喜んだ。というのも、娘のあんな嬉しそうな顔を見るのが久々だったからだ

 

 ハーマイオニーは天才だった。幼い頃からその天賦の才を遺憾なく発揮し、両親を何度も良い意味で驚かせた。

 その上ハーマイオニーはその才能に慢心する事なく、常に勉学に励んだ。また正義感も強く、その才能を悪事に使う事は決してなかった。

 しかし、賢く気高い彼女が生きるには、世界は愚かで醜すぎた。

 ハーマイオニーは学ぶ意欲が高かった。当然両親はそれを応援した。つまり、ハーマイオニーを進学校に入学させた。

 しかし進学校というのは謂わば受験に向けての競争の場、大半の人間が周りに負けたくないと、蹴落としたいと思っている。

 純粋にただ学びたいと願って入ったハーマイオニーとは合わなかった

 

 また賢すぎた(・・・)彼女は周りに嫉妬され、差別の対象となった。更にハーマイオニーは正義感が強すぎた。

 自分の事は兎も角、他人が差別されているのを黙って見過ごせなかった。

 しかし多くの場合、差別を行っているのはクラスの中心にいる様な女の子。そんな彼女達に楯突けばどうなるかは、火を見るよりも明らかだった。

 ハーマイオニーは目に見えて衰弱して行った。

 そこに届いたのがホグワーツからの招待状だった

 

 魔法という素晴らしい学問と未知の世界。それはハーマイオニーに再び活力を与えた。

 実際、『ダイアゴン横丁』に来た時ハーマイオニーは今まで見た事が無いほど楽しんでいた。

 買った教科書と杖を大事そうに抱えながら、不思議な味のするアイスを頬張る姿は両親をしてとても可愛らしかった。

 最も、魔法に夢中になるあまり寝不足になる程教科書を読み込もうとするハーマイオニーを辞めさせるのに、両親は手を焼いたが。

 しかしそんな事さえ嬉しいとさえ思える程、ハーマイオニーがのめり込むものを見つけた事を両親は喜んだ。

そして今、期待に胸を膨らませながら列車に乗るハーマイオニーを見て、その気持ちはより一層強くなった

 

 

     ✳︎     ✳︎     ✳︎

 

 

 誰かしら魔法使いが居れば相席し、魔法界の事を話してもらおうと探してみるも、まだどのコンパートメントにも人は居なかった。

 結局、ハーマイオニーは列車の中央辺りのコンパートメントに一人で座った。

 窓の外からプラットホームを淡い期待を持ちながら見てみるも、既に両親の姿はない。と言うも、両親は優秀な歯科医であり、もうすぐ今日の診察の時間だ。それ故こうして、列車が出発する3時間も前からここに来ているのだ

 

「本でも読もうかしら」

 

 何となくハーマイオニーは独り言を言いながら、鞄から教科書を取り出した。まだ買って二ヶ月と少しのそれは何年も使い古したかのようにボロボロになっていた

 

「あ、そうだわ!もうここでは魔法を使えるのよね!」

 

 教科書を読み進め二時間経った頃、ハーマイオニーはその事を思い出した。というのも未成年の魔法使いには『臭い』という物が付いていて、許可された場所以外では魔法を使う事は出来ない。

 そしてここ、ホグワーツ特急はその許可された場所の一つだ

 

「ん、ん゛ん゛……『レバロ 直れ』!」

 

 ハーマイオニーが呪文を唱えると、先程までボロボロだった教科書がたちまち新品同然になった

 

「おい」

 

「きゃっ!」

 

 ハーマイオニーが初めて魔法を成功させた喜びに浸っていると、急に声をかけられた。

 びっくりしてハーマイオニーがそちらを見ると、いつの間にかコンパートメントの扉から一人の少年が顔を覗かせていた。

 その少年は美しく、恋や恋愛に興味の無いハーマイオニーだったが、その彼女でさえ少し胸が高鳴った。

 しかし彼女は即座にその胸の高鳴りを抑えた。

 幼い頃から差別にあい、人間不信に陥ったハーマイオニーは自身の心を操ることに長けていた

 

「相席してもいいか?」

 

「え、ええ。構わな……貴方もしかして、バーソロミュー・フラメル?」

 

「ああ、俺様がバーソロミュー・フラメルだ」

 

 バーソロミューはハーマイオニーの正面に腰掛けた

 

「私、貴方の事知ってるわ!参考書を二、三冊読んだの。貴方の事『近代魔法史』『錬金術の盛隆』に書いてあった。それに貴方が書いた『トロールにわからない程度の錬金術シリーズ』も勿論読んだわ!あ、私はハーマイオニー・グレンジャーよろしくね」

 

 ハーマイオニーは一気にそう言った

 

「よろしく、グレンジャー。こっちの二人はアンとメアリー」

 

 一体いつからそこに居たのか。

 バーソロミューの隣にアンが、ハーマイオニーの隣にメアリーが座っていた。

 二人は軽くお辞儀をすると、大きなトランクから紅茶とスコーンを取り出し、バーソロミューとハーマイオニーに渡した

 

「ありがとう。ねえ、どうしてアンとメアリーはメイド服を着てるの?」

 

「そう作られた(・・・・)からです、グレンジャー様」

 

「そ、そう」

 

 ハーマイオニーは良く意味が分からなかったが、これ以上踏み込んでは行けない気がした。

 というより、アンとメアリーには関わってはならない予感がした。そこでとりあえずは、出来るだけバーソロミューとだけ話す事に決めた。

 とりあえずと言っても、勿論ハーマイオニーにとってバーソロミューは大変興味深い人物だ

 

「さっきの呪文、上手く出来てたかしら?練習のつもりで簡単だと思う呪文を試してみたんだけど。あ、私の家族に魔法族は誰もいないの。だから手紙をもらった時、驚いたわ、とてもね。何かのドッキリかと思った位。でも本当だとわかって、勿論嬉しかったわ。だって、最高の魔法学校だって聞いてるもの。あら、そういえば貴方はボーバトン魔法アカデミーに入学するってきいてたけど……。『日刊預言者新聞』に書いてあったわ、貴方が首席生と特待生の両方を勝ち取ったって。二ヶ月前からとってるの。まあでも、やっぱりホグワーツよね。教科書は勿論、全部暗記したわ。それで足りると良いんだけど……」

 

 ハーマイオニーはまくりたてる様に話した。

 それに対し、バーソロミューはいつもの不機嫌そうな顔を、ほんの少し緩めた

 

「さっきの呪文が初めてだというなら、中々の才能の持ち主だ。誇っていい。学校生活云々は教科書を全部暗記してるなら、とりあえず授業には困らん。その程度(教科書暗記)の事が出来てない人間が多いからな。その点、貴様は中々見所がある。故に、貴様の疑問に答えてやろう。俺様がボーバトンを蹴り、ホグワーツに入学したのは究極の物質、『賢者の石』を追ってきたからだ」

 

 バーソロミューがこのコンパートメントを選び、入った理由は一重にハーマイオニーの容姿にあった。

 彼女自身に美容といったものに興味がないためか髪の手入れやメイクはしていないが、磨けば光る物があると思い、バーソロミューはこのコンパートメントを選んだ。

 しかし、今は容姿よりもその中身が気になった。

 彼女はマグル生まれだという。つまり、この二ヶ月程で教科書を暗記したという事だ。更には他に参考書も幾つか読んでいるという

 

(中々どうして、当たり(・・・)引いたかもしれんな)

 

 バーソロミューにとっての当たり(・・・)とはつまり、自分と同レベルになる事が出来る可能性を持った人間の事だ

 

「呪文が上手く出来てたなら、良かったわ。貴方が言うなら間違いなさそうね。これで一応学校生活はやっていけそうだわ。……でも『賢者の石』ってつまりあの、貴方のお爺さんが作った?でも確かに、ダンブルドアと貴方のお爺さんは旧知の仲だって聞いた事があるわ。預けても不思議じゃないかもね。ところで、貴方はどの寮に入るかわかってる?私、色んな人に聞いて調べたけど、グリフィンドールに入りたいわ。絶対一番いいみたい。ダンブルドアもそこ出身だって聞いたわ。でもレイブンクローも悪くないかもね……」

 

 『レイブンクローも悪くないかもね』その言葉を聞いたバーソロミューは、左斜め上のあたりを見ながらニヤリと笑った。

 ハーマイオニーもつられてそっちも見たが、やはり何もない

 

「何かそこにいるの?」

 

「ああ、レイブンクローが居る」

 

 『どういう事?』ハーマイオニーはそう聞こうとしたが、その時列車が動き出し、衝撃で体が揺れて上手く呂律が回らなかった。

 ジョークだった時の事を考え、時間が経ってからその質問をするのは躊躇われた。

 二人はその後、ハーマイオニーの呪文の練習をしたり、魔法界の事や魔術の知識を語り合った

 

 

     ✳︎     ✳︎     ✳︎

 

 

「む、そろそろ時間だな」

 

 時計も見ずにバーソロミューが呟いた。

 バーソロミューは一度見聞きした事は絶対に忘れない。故に、一秒の長さ(・・・・・)というものを覚えている。つまり、彼の体内時計は完璧だという事だ。

 しかし列車がホグワーツに到着するにはまだ時間がある。ハーマイオニーがその事を疑問に思っていると、メアリーとアンがトランクを開け(すず)やクリスタル、布等を取り出した

 

「少し離れてろ。今から俺様とこの二人の学用品を作る(錬金する)。巻き込まれると、お前まで材料として使ってしまう」

 

 そう言いながら、バーソロミューは凄まじい速度で羊皮紙に文字や図形を書いていく。

 錬金術とは即ち、行程を取り除く技だ。

 (すず)を熱して溶かし、金槌で叩き形を整え固める。そうする事で初めて(すず)は大鍋となる。

 錬金術はその行程を書類上と頭の中(・・・・・・・)で行い、現実世界で行わなずとも済むようにする。

 故に錬金術師となるためには、様々な知識が必要となる。

 今日この場合(学用品作り)では大鍋や秤を作る過程、制服の編み方などを知っていなくてはならない。

 勿論、バーソロミューの頭には全て入っている

 

 バーソロミューが魔法陣を書き上げた羊皮紙の上に材料を乗せ、指を鳴らすと一瞬の光の後、見事に学用品の数々が出来上がっていた

 

「すごい……」

 

 その精度の程は、あのお喋りなハーマイオニーを黙らせる程だった。

 しかし、ハーマイオニーが本当に驚くのはここからだ

 

「よし、完成だ。そろそろ着くから、制服に着替えろ」

 

「「かしこまりました」」

 

 ハーマイオニーがギョッとしたのも束の間、アンとメアリーは何の躊躇いもなく服を脱ぎ、その豊満な肉体を惜しげも無く晒した。

 それも、ただ晒しただけではない。

 二人は見せつける様に、少しずつ服を脱いでいった。

 まず、メイド服を隠していた純白のエプロンの結び目を解いた。解かれたエプロンは重力に従い、ストンと足元に落ちた。

 エプロンの下に着ているメイド服本体、ワンピースの様に上下繋がっているそれは首から胸元にかけて三つのボタンがあり、それをゆっくりと外していった

 

 一つ目のボタンを外すと、白い鎖骨が露わになった。

 言ってみれば、鎖骨というのはそこまで隠す様なものではない。それを露出する服装をしている人間も多くいる。

 しかし、二人の鎖骨は見てはいけない物に、淫靡な物に思えた。

 次に二つ目のボタンを外すと、今度は胸元とそれを隠す下着が露わになった。アンは赤い色の、メアリーは藍色の大人びた下着を着けていた。

 二人は続いて三つのボタンを外すと、今度は胸が完全にさらけ出された。

 ハーマイオニーが唖然とする中、二人はボタンが全て外れたメイド服をゆっくりと脱いだ

 

 下着姿となった二人は続いてホグワーツの制服を、これまたゆっくりと着ていく。

 胸や臀部、脇やうなじといった箇所をバーソロミューとハーマイオニーに見せ付けながら、たっぷり二十分ほどかけて制服を着た。

 その光景は艶かしく、女性であるハーマイオニーでさえ胸が高鳴った

 

「さあ、次は」

 

「グレンジャー様の番ですよ」

 

 ハーマイオニーが驚きと羞恥に包まれる中、アンとメアリーがそう語り掛けてきた。確かに、もうそろそろ制服に着替えなくてはならない時間だ。

 しかしコンパートメント内には男性──バーソロミューが居る。

 ハーマイオニーがその事を告げようとした時、ふとバーソロミューの方を見た。見てしまった

 

「グレンジャー」

 

 バーソロミューはゆっくりと語り掛けた。

 先程までの不機嫌そうな雰囲気は消え、儚げな雰囲気を纏っている。

 彼の声を聞いたハーマイオニーは頭の中が霧がかかった様になり、思考が上手く纏まらなくなった。

 そして吸い込まれる様に彼の紫色の瞳を見ると、急に下腹部の奥のあたりがピリピリと疼いた。

 バーソロミューは音もなく立ち上がり、ハーマイオニーの頬を撫でた。

 すると撫でられた頬がじんわりと熱くなった。ハーマイオニーはこの感覚を知っていた。オリバンダーの店で初めて杖に選ばれた日、これに近い感覚を味わった。

 しかしバーソロミューのそれはずっと熱く、快楽を伴っていた。

 ハーマイオニーが熱に浮かされ、全てを彼に委ねようとした時──コンパートメントのドアがノックされた。

 その音にハーマイオニーはハッとし、頭の中の靄が消え去り、熱も引いた

 

「どういったご用件でしょうか?」

 

 メアリーがドアを開け、何事もなかったかの様に対応した。

 そこには冴えない顔をした少年が立っていた。彼はメアリーの美しい容姿に驚き、しどろもどろになりながら要件を話した

 

「ぼ、僕のヒキガエル見なかった?トレバーって言うんだけど」

 

「申し訳ございませんが、存じ上げていません」

 

 メアリーはそうきっぱり告げて、ドアを閉めようとした。

 しかし、それをハーマイオニーが遮った

 

「私も探すの手伝ってあげるわ!そのまま着替えてくるから、多分もうこのコンパートメントには戻らないわ。それじゃあ、ホグワーツでまた会いましょう!」

 

 ハーマイオニーはヒキガエルを探しに来た少年を引き連れて、違う車両へと歩いて行った。

 バーソロミューはそれを満足そうに見送った


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