宮守の神域   作:銀一色

99 / 473
南三局だと思っていたら1話使ったという。
さすがに祝日とはいえ休みすぎましたね……これは猛省


第87話 決勝戦 ㉟ 輝く闇

 

 

 

-------------------------------

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 

「「「シロ!!」」」

 

 

起き上がった小瀬川を皆が有名人を追うパパラッチの如く取り囲んだ。

嬉しさで涙を流す者、一安心して胸を撫で下ろす者、小瀬川を取り囲む者は思い思いの感情をあらわにしていたが、彼女ら全員が同時に思った事がある。

小瀬川白望が、起き上がってくれてよかった、ということ。

 

 

「良かった……良かった……!!」

 

辻垣内が今回で3度目の涙を流す。今度は1度目や2度目の時の悔しさ、絶望に溢れた悲しい涙ではなかった。かけがえのない、大切な人が戻ってきてくれたことに対しての、感謝、喜び。そういったものに対しての涙だった。

 

そんな辻垣内の頭を撫でながら、小瀬川は皆に向かってこう言う。

 

 

「・・・ごめん。迷惑かけて……」

 

それを聞いた皆んなは安堵の溜息をつく。そして臼沢塞は思わず小瀬川の目の前に立って、ギュッと小瀬川のことを抱き締め、小瀬川に向かって叫んだ。

 

「バカ……!人の気持ちも知らないで……私たちがどれだけシロのことを心配したと思ってるの……!?」

 

 

「倒れた時……シロがもう戻ってこないんじゃないかって……本当に心配で……!」

 

 

「塞……」

 

塞が思いっきり自分の気持ちを小瀬川へとぶつける。小瀬川はそれを聞いて何て返したらいいかわからず、数秒の沈黙が生まれた。周りに人がいるというのにもかかわらず、二人はただ静かに見つめ合っていた。他の人も場の空気を察したのか、塞を小瀬川から引き離そうとする者はいなかった。そしてしばらくすると、弱々しく震える手で小瀬川は塞の体を抱き締め返し、塞に向かって呟く。

 

 

「・・・本当にごめん。塞……」

 

 

 

「んなっ……!?」

 

 

ひんやりとした小瀬川の体が塞の体と密着し、塞の熱が小瀬川に伝わっていくのを塞は感じた。しかし、塞の後ろに回っている小瀬川の手には力が入っていない。おそらく小瀬川本人は思いっきり抱きしめているはずなのだろうが、肝心の体がまだ力を出せるまで回復できていなかった。

だが、そんなことは塞にとってどうでも良かった。小瀬川に恋して数年、多分こんなに積極的に小瀬川から塞に何かをしたのは初めてだろう。

 

・・・しかし、そうだとしてもこの状況は恥ずかしすぎる。周りからの目線には殺気が含まれているし、何より警備員まで来ているのだ。小瀬川は気付いていないのかわざとやっているのか分からないが、おそらく小瀬川は気付いていないのだろう。ずっと小瀬川の隣にいた塞だからこそ分かる。小瀬川はああ見えて純粋でヘタレなのだ。もし気付いているのなら恥ずかしくてたまらないはずで、すぐにやめるはずだ。。なのにも関わらず小瀬川はそれを止めようとはしないということは、気付いていない事の証明である。

しかし、衆人環視の中で抱き合う、二人。この公開処刑レベルでのあまりの恥ずかしさに、冷たい小瀬川の体を直接触っているはずなのに、塞の顔は真っ赤に染まっていた。

だが、その恥ずかしさもいつしか消えて、塞は再び小瀬川の事を抱きしめる。強く……強く。その心地良さに塞と小瀬川はどっぷりと浸かっていく。

そして再度生まれる沈黙。しかし、とうとう堪えることができなかったのか、側にいた愛宕洋榎が大袈裟に咳払いをする。そのおかげで我に返った塞は今自分がやっていることの

恥ずかしさという一度離しかけた理性を取り戻す。

 

 

「・・・!ごめん、シロ……」

 

 

「いや……大丈、夫……」

 

 

思わず塞が小瀬川から離れると、小瀬川も我に返って自分のしたことを冷静に振り返り、すぐに顔を真っ赤にする。幸い、小瀬川が倒れてからは流石に人が倒れているところを放送する事はできないといったテレビ局側の配慮によって中継は止まっていたので、あんな恥ずかしい行為をお茶の間に流すということは無かった。

その後は大会を運営する麻雀協会の人達が来て、小瀬川がこのまま続行を希望するということを伝えると、改めて南三局から再開するということに決まった。無論塞たちは勝手に対局室に入った事を注意されたが、すぐに観戦室へと帰された。

 

 

 

-------------------------------

 

 

そしてその数分後、改めてブザーが鳴り、部屋の照明が点く。卓は南二局二本場が終わった時の状態だったので、卓の中央にある開閉板を開け、牌をそこの中へ入れるところから始まった。

 

 

「・・・大丈夫かいな、シロちゃん。代わりにウチが牌、入れてやるで?」

 

 

愛宕洋榎が小瀬川に声をかける。何故声をかけたかというと、小瀬川が牌を中に入れる事すらままならなかったからである。牌を入れようとしても手に力が入っておらず、その腕は不規則に震えていた。そう、いくら小瀬川が奇跡の生還を果たしたとはいえ、もともと小瀬川の体は闇によってボロボロだったのだ。故に、闇に打ち勝った今も、小瀬川は今度は体の疲労、残った痛みと闘わなければならないのだ。

 

「大丈夫……」

 

それを気遣って愛宕洋榎は声をかけたのだが、意外にも小瀬川は助けを借りずに、震える手をめいいっぱい動かして牌を入れ終える。

 

-------------------------------

南三局 親:愛宕洋榎 ドラ{二}

 

小瀬川 18,300

照 57,200

辻垣内 1,500

洋榎 23,000

 

そして改めて南三局が始まり、山が麻雀卓からせり上がってくる。二回サイコロを回して、親の愛宕洋榎から順々に配牌を開いていく。配牌を開く四人の表情はさっきとは比べられないほど険しい表情をしている。それはそうだ。何故ならこの局、宮永照は『加算麻雀』によって配牌で役満を聴牌する手筈となっている。ただでさえトップの宮永照に役満を和了られてしまえば、差は絶望的になる。それに加えて、この南三局を入れて対局は残り二局しかない。故に、宮永照にとっては絶対に和了らなければならない局であり、三人にとっては宮永照を絶対に抑えなければいけない局である。

 

 

 

 

 

 

・・・そのはずだった。

事件が起こったのは宮永照が最初の配牌の四牌を山から取り、それを開いたまさにその瞬間。

 

 

バキィィィ!!!という破壊音が鳴り響いたかと思うと、宮永照の背後に存在していて、宮永照の『加算麻雀』の象徴と言っても過言ではない歯車が木っ端微塵に砕け散っていた。いや、正確に言うとそれは宮永照のイメージ内での出来事なのだが、確かに宮永照の歯車は何かによって粉砕されたのだ。

 

(なっ……!?)

 

宮永照が驚いて背後を振り返ると、そこには歯車だった何かがあった。その歯車だったものを凝視すると、その近くにそれを破壊したと思われる闇を発見した。そのおかげで宮永照は理解できた。破壊した張本人を。そう、宮永照の歯車を破壊したのは言うまでもなく、小瀬川白望。だが、おかしい。宮永照は小瀬川が意識を取り戻す直前に闇が砕け散ったのを見たはずだ。消えて無くなったはずだ。なのに何故小瀬川にはその闇があるのか、もしやまた小瀬川を侵食し始めたのかと焦った宮永照は小瀬川の方を見ると、小瀬川の周りにはあの砕け散ったはずの闇が存在していた。

しかし、様子がおかしい。感覚ではあるが、南二局二本場までの時の闇とは違うような感じがした。宮永照はじっくりその闇を見ると、明らかな違いを発見する。

 

 

(・・・違う、あの時の闇じゃない……!?)

 

 

そう。前までの闇はもっと濁っていて、澱んでいたものだった。それを見て良い思いをする人はいないだろう。それほどまでに前までの闇は不穏な存在であり、不吉な感じがしていたのだ。

だが、今の闇はどうだろうか。そんな濁りや澱みは無く、輝きを発して透き通っている。闇なのに輝きを発している、透き通っているという矛盾めいた話だが、それ以外に形容し難いほど、その闇は特殊であった。煌めき、とでも言うのだろうか。その闇は他者から見ても綺麗で、人を魅了する、そんな闇であった。闇であるはずなのに、闇らしさはどこにもなかった。地球から肉眼で見た宇宙、夜空のような感じだと言えば分かりやすいだろうか。そんな感じの闇なのだ。

 

まあその話は一先ず置いて、ともかく今の闇とさっきまでの闇とは違うのだ。コントロールはできていないのだろうが、小瀬川を蝕み敵対する害悪なものから、小瀬川を守り味方となる護衛となった。

そしてその小瀬川を守ろうとすべく、その闇は宮永照の歯車を破壊したのだろう。宮永照自身、まさか歯車自体が破壊されるなど夢にも思っていなかったため、この局の配牌がどうなるのか予想もできなかった。

宮永照が改めて恐る恐る配牌を開く。その四牌は{中中白中}。これは誰がどう見ても役満の大三元コース。宮永照の『加算麻雀』の性質上、観客は十中八九大三元だと予測した。だが、宮永照は察していた。この次からの配牌、確実にそのまま大三元を聴牌できる牌は来ない、と。

 

 

そしてその宮永照の予想を裏付けるが如く、次の配牌の四牌。

 

宮永照:配牌途中

{中中白中②七98}

 

 

逸れる……!大三元だと思われていた宮永照の配牌がここで逸れる。観客の予想に反して、あらぬ方向へ……!と言っても、宮永照の『加算麻雀』の象徴である歯車が壊された今、配牌が大三元から逸れるのは当然なのだが。

 

そして最後の五牌の配牌を山から取ってきても、大三元の種は宮永照の手元には来ず、役満を聴牌するはずだったこの局の宮永照の配牌、最初の布陣は

 

宮永照:配牌

{二七①②②赤⑤⑥89白中中中}

 

このような結果となった。宮永照は思わず歯嚙みする。体がボロボロであり、そもそも闇も無自覚で出していた小瀬川相手には大人気ないが、宮永照は小瀬川の事を睨みつける。

自覚はないとはいえ、結局のところ彼女にしてやられたのだ。またもや勝ちの目から遠ざからされた宮永照。

 

この南三局。当初は宮永照の役満の出来レースだと思われていたが、配牌が揃った後にはそんな予想は全て無くなった。

そして親である愛宕洋榎の第一打から、誰にも予測できない南三局が始まった。




次回こそ南三局。
アンケートの方も明日までですので、よろしくお願いします。
それよりもアンケートで幼馴染の塞と胡桃の名前が一切出ないってどういう事なの……
そして半ばネタで入れた赤木が意外にも人気で草。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。