宮守の神域   作:銀一色

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まさかの祝日前にこの辛さ……
ギリギリセーフです!
そして明日は祝日……!感謝……!圧倒的感謝……!


第86話 決勝戦 ㉞ 死、そして蘇り

 

 

 

 

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南三局 親:愛宕洋榎 ドラ{二}

 

小瀬川 18,300

照 57,200

辻垣内 1,500

洋榎 23,000

 

 

 

(・・・ここまでか……クソ……!クソッ!!)

 

辻垣内智葉が思いっきり卓を叩く。今の三倍満の振り込みで、宮永照との点差は55,700。それだけでも脅威だというのに、今の和了は三倍満の十一飜。つまりどういうことか、というとそれは宮永照限定の能力が絡んでくる。半荘で合計十三飜和了ると、その次局に役満を配牌で聴牌するという能力。この後半戦、この和了十一飜分を加えると合計で十八飜。つまり、条件を達成しているのだ。故に、この南三局で宮永照が役満を和了ると仮定すると、辻垣内との点差は90,000点以上となり、役満直撃でもひっくり返らないほどになってしまう。故に、辻垣内の勝ちの目はさっきの振り込みによってほぼゼロとなった。悔しい。辻垣内は素直にそう思った。まだ対局が終わったわけでも無いのに負けを認めてしまう自分が不甲斐なさすぎて悔しかった。

その悔しさが涙となって辻垣内の目尻に涙が溜まるが、それを強引に拭う。涙だけは流したく無い。その一心で無理矢理拭った。

 

(・・・負けるの、がほぼ確定したとしても、私は……諦めない……!!)

 

だが、いくらそう決心し、ゴシゴシと涙を拭おうとしても涙は止まらない。止まることを知らなかった。そしていつしか涙は辻垣内の頬を伝っていった。

 

 

 

 

(・・・終わった……ここまで、やな。そうか……終わりか……)

 

そして愛宕洋榎もまた、敗北という現実を目の当たりにして、辻垣内のように拭わなければ溢れるほどではないにしろ、確かに涙を浮かべていた。自分の弱さを痛感したと同時に、今まで支えてくれた自身の妹に対する申し訳なさでいっぱいだった。

 

(なんでやろな……どうして、まだ終わったわけやないのに、悔しがってんやろな……)

 

心の中で無理矢理自分に対して笑う。自分で負けを認めた事に対しての呆れ、憤りをひっしに隠そうと、笑った。だが、それも限界になり、涙がどんどん加速していった。

 

 

 

 

(・・・勝った……いや、まだ決まっていない。私は私のやることをやるだけ……)

 

そしてほぼ勝ちが確定している宮永照は、まだ決して喜びはせずに、ただ淡々と牌を打つだけと決めている。そう、油断が命取りなのだ。この決勝戦、油断が故にピンチを招いたのは何回もあり、嫌でもわかりきっていた。

南三局で役満を和了ったとしても、まだオーラスがあり、親は最も危険な小瀬川である。いくら容態が悪いとはいえ、このまま黙って見過ごすわけにもいかない。

故に、宮永照は決して油断しない。

 

ギギギ、ギギギギギ!

 

『加算麻雀』特有の、あの歯車を強引に回したような音が響く。これで次局、役満を聴牌する事が確定。あとは南四局を逃げ切るのみとなった。

 

 

 

そうして宮永照、愛宕洋榎、辻垣内智葉の三人は思い思いの感情を募らせながら、山を崩して中央の穴に入れようとした。

 

 

だがその時、恐れていた事が遂に起きてしまう。無情にも。

 

 

 

ガタッ!

 

 

 

(((!?)))

 

 

 

あろうことか小瀬川が声もあげずに静かに卓に突っ伏したのだ。

ジャラジャラと牌が小瀬川の体によって強引にかき混ざる音が無情に響く。それを間近で見ていた三人は、思わず立ち上がり、小瀬川の肩を揺さぶった。そして三人が小瀬川に声を一生懸命にかけるが、小瀬川からの返答はない。目は閉じており、完全に意識を失っている。

 

 

(・・・!真っ黒……!?)

 

宮永照は小瀬川の闇の容態を見ようとすると、小瀬川の中にある闇が小瀬川を取り囲んでいた。先程まで蝕んでいたとはいえ、侵食は半分以下であったはずだ。それにも関わらず、今小瀬川は闇によって包まれている。

しかも、完全に小瀬川は闇に侵食されてしまっているため、このままでは小瀬川は死んでしまってもおかしくはない。闇が抗い続ける小瀬川を不要と見なせば、それで終わりだ。だが、止めようにも止める事ができない。宮永照の『照魔鏡』でさえも侵食しようとしたあの闇だ。下手にやれば小瀬川と共倒れという可能性も否めない。

 

三人が恐れていた最悪の結果。これが現実となってしまった。辻垣内が先程までとは違う理由での涙を流し、必死に小瀬川に声をかける。

 

「シロ!!起きろ……起きろ!!」

 

 

辻垣内の悲鳴にも聞こえる声が、対局室に無情に鳴り響く。しかし、小瀬川はまだその目を瞑ったままであった。

 

 

 

 

 

 

 

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???

 

 

(・・・あ、れ?)

 

 

倒れた小瀬川が目を覚ますと、そこは対局室ではなく、全くの別世界であった。

真っ暗で何も見えず、決して楽園などとは言い難い異世界。右を見ても左を見ても一面闇。だが、そんなこと小瀬川にとってどうでもよかった。決勝戦。小瀬川は決勝戦を闘っていたはずだ。そして勝負所の南三局、小瀬川は温存していた体力を全て使って闇を抑え込もうとして、そしてそれまでとは比にならないほどの激痛が小瀬川に走って……そこまでは小瀬川も覚えている。だが、肝心のそこからが全く覚えていない。予測ではあるが、おそらく倒れてしまったのだろう。

そして、挙句目覚めたところは辺り一面闇に包まれた空間。それが指し示すことはただ一つ。

 

(・・・負けちゃったのか……闇にも、勝負にも……そして、死んじゃったのか……)

 

不思議にも、それに対する、自分が負けたということに対しての悔しさはなかった。自分のやれることを全力でやりきったのだ。その結果敗れたのなら、何も言うことはない。ただ自分の力量が足りなかっただけだ。

それよりも問題なのは、

 

(みんなに迷惑、かけちゃったな……)

 

そう、自分のことを信頼してくれて、また自分も信頼していた友を残して旅立った事が唯一の心残りだ。彼女らは優しいから、こんなわがままな私の死に対してもきっと泣いてくれるだろう。

彼女らを散々心配させた挙句、その結果彼女らを泣かせてしまうという事が情けなかった。

そして、

 

(・・・赤木さん……超えられなかったな……)

 

 

何よりも師を越える事ができなかったことに対しての悔しさで一杯だった。あれだけ赤木を超える、神域になると言ってきたのにも関わらず、志半ばで終わってしまった事が悔しく、赤木に対して申し訳ないと思っていた。

 

これから、小瀬川がどうなるのかは分からない。ここから閻魔大王のいるところで裁かれるのか、それともずっとこのまま何もない闇の世界に居続けるのか、小瀬川は予想ができなかった。

とにかくここにいても何もする事がないので、小瀬川はどこかに向かって歩き始めた。右も左も分からないこの空間、一体どこを歩いているのかも分からなかった。

 

そうして歩いて、何分かが経った時、どこからか微かに声が聞こえた。声が発せられた方向はなく、まるで自分の脳内に直接に語りかけるかのように。

何を言っているまでは聞き取れなかったが、小瀬川が更に進もうとすると、その声らしきものは段々大きくなってくる。そしていつしかその声が何を言っているかを聞き取れた。

 

 

シロ。その声は自分の名を呼んでいたのだった。小瀬川が先へ進めば進むほど、その声はますます大きくなり、声が最大になったと思えば、そこには一人の老人が小瀬川に背を向けて立っていた。そして、その老人の向こう側には、闇の中で輝く淡い光。小瀬川は思わず身構えるが、老人は笑って小瀬川にこう言った。

 

 

「そうか……貴様も()()()()()()()()()()ということか……カカカ……!!色は同じだが、中身は儂と同じようなもの……つまり、()()()とは正反対の存在にも関わらず、か……!」

 

「・・・誰」

 

小瀬川はその老人に尋ねると、老人はこう答えた。

 

「・・・かつて麻雀で身を滅ぼした者、とだけ言っておこう……カカカカ」

 

小瀬川の問いに対する本質的な答えにはなっておらず、思わず首を傾げた小瀬川だが、その老人は続けて言う。

 

「しかし……己の闇と闘ってまで、そこまでして()()()()()()()()()()というその心意気……運命に抗うというその無謀……!儂は嫌いではない……!」

 

そうして老人は光を指差してこう言った。

 

「・・・行くがいい。そして抗ってみせろ。己が運命に……!」

 

 

小瀬川はゆっくり頷くと、未だ輝き続ける光に向かって歩き出した。ここをくぐれば、現実に戻れる。そう感覚で悟った小瀬川は、今度こそ負けない。そう再度決意し、その光をくぐった。

 

決勝戦をするために。そして勝つために。

 

 

 

 

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「どうして……こんな……!」

 

辻垣内が卓に突っ伏して倒れている小瀬川の横に立っていたが、へなへなと座り込んでしまう。涙はもう止まらない。想い人を失うという辛さに、辻垣内の心は壊されかけていた。

辻垣内とは反対方向にいる愛宕洋榎も、絶句して言葉もでない表情をしている。何をしたらいいのかわからず、思わずそこに立ち尽くしていた。

 

 

「シロ……!シロ!!!!」

 

ガチャ、という音が扉の方から聞こえてくる。三人が扉の方を見ると、塞と胡桃がそこにいた。よく奥の方を見ると小瀬川の知り合いである人達が勢揃いであった。そして誰しもが小瀬川のことを心配しており、皆泣きそうであった。

 

そしてそのすぐ後に警備員と担架が到着し、突っ伏している小瀬川を担架に乗せようとする。だが、その時だった。その事に気付いたのは宮永照ただ一人だけだったが、確かに決定的な何かが起こった。

 

 

 

バキッ!!!

 

 

 

(闇が……砕け、散った……?)

 

小瀬川を取り囲んでいた闇が爆発四散する。突然の出来事に戸惑う宮永照だったが、直後の出来事によってその戸惑いは嬉しさへと変換される。

 

 

 

「ベタベタ触らないで……」

 

 

小瀬川の体から声が発せられた。幻聴ではない。この場にいる全員が確かにそれを聞いた。

 

 

「勝負は南三局……まだ終わっていない……そうだったね……」

 

ゆっくりと顔を上げて、この場にいる全員に向かって笑って見せた。それは明らかに無理をした笑いだったが、小瀬川が起き上がった。その事実だけで良かったのだ。

 

 

小瀬川、生還。

 

 

 

 




次回は南三局。
結構急いだので文がおかしくなってるかもしれませんが多めに見てください。

アンケートの方もラストスパートです。今のところ怜が優勢でしょうか。締め切りは24日23:59までなので気をつけてください!!

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