宮守の神域   作:銀一色

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南二局一本場からです。
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第85話 決勝戦 ㉝ 立ち向かう時

 

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南二局一本場 親:辻垣内智葉 ドラ{七}

 

小瀬川 18,900

照 32,200

辻垣内 25,300

洋榎 23,600

 

 

前局の南二局、小瀬川が3,900を辻垣内智葉に振り込んだ事により、順位が大きく変動することとなった。宮永照は相変わらず前半戦のオーラスから依然トップを保ち続けているが、下三人の順位は混戦を呈しており、3,900の直撃でも大きく動いた。まず、3,900を打ち取った辻垣内は二位に浮上し、振り込んだ小瀬川は四位、ラスに転落した。そしてその影響で愛宕洋榎は繰り上げで三位となり、3,900だけで南二局、三人の順位がガラッと変わることとなった。

さて、先ほど『宮永照は依然トップを保ち続けている』と説明したが、もうそんなことも悠長に言ってられなくなる状況になってきている。後半戦スタート時の二位との点差は45,300もあったが、この南二局一本場の時点で二位の辻垣内との点差は僅か6,900と、ツモなら5,800、直撃なら3,900でも逆転という状況まで辻垣内は迫っており、いつでも宮永照のその背中を刺せる間合いまで辻垣内は接近していた。

小瀬川が落ちてくれたおかげで結果的に三位に浮上することができた愛宕洋榎も、二位の辻垣内との点差はリー棒二本にも満たない1,900。宮永照との差も8,600と、満貫の出和了り一回でその差は殆ど吹っ飛ぶような位置づけであり、それこそこの南二局一本場で逆転しそうな勢いであった。

 

しかし、その一方で振り込んだ小瀬川の状況は悪い。一位との点差は絶望的なほどではないものの、少し差をつけられ13,300。これだけならまだ良い。が、小瀬川には自身の闇による侵食が絶えず行われているという最大の障害にしてハンデを背負っている。故に、あれだけ点差には意味がないと口煩く言っていたこの13,300という点差にも意味が生じてくるようになる。何故かと言われれば、それは小瀬川の身体の状態を考えれば自ずと答えは浮き彫りになるであろう。まず前提として、点差に意味はないと言ったのはあくまでこの卓を囲む四人だからこそである。何万点という差でも、少ない局数で逆転することが可能である圧倒的な火力を有しているから言えた話だ。だが、今の小瀬川はどうだろうか?彼女は今自分の手を進めようとしただけで激痛が走り、目が霞んだり足が動かなくなるほど体は闇に蝕まれており、今意識を保っている事自体が尋常でないという状況だ。

もはや火力云々とかの問題ではない。それ以前の問題。聴牌しようとすれば体は痛みを訴え、挙句南二局では和了るどころか聴牌にすら至っていない。頑張って抑えようとしても、残っている体力は極わずかであるため、抑え込む事ができない。事実南二局では聴牌できなかった。これではただただ体力を浪費するだけ、ジリ貧の状況。

故に、小瀬川は思考を変え、体力を無駄に削って土俵に上がる事よりも、土俵を降りて体力を温存する事を優先した。不確定要素は多いものの、それでも小瀬川はやるしかない。その道しかなかったのだ。例え体がどうなろうとも、逃げたり、勝負を放棄する事は小瀬川の考えには存在しない。あれだけ赤木を超える、赤木を倒すという目標を掲げてきたのに、こんなところで逃げては話にならない。少なくとも赤木が今小瀬川と同じ状況であれば、迷わず突き進むだろう。

其れの他にも、小瀬川はただ純粋にこの決勝という場から、卓を共に囲む三人から背を向けたくなかったのだ。後悔したくない、といういかにも子供らしい理由だが、それ以上の言葉があるだろうか?・・・少なくとも小瀬川には今それ以上の言葉では表す事はできない。

 

(くれてやるよ……一万だろうが二万だろうが、くれたきゃくれてやる。・・・ただ、南三局までに私の闇を抑えれるほどの体力を温存できれば良い……それに比べれば、点棒なんて安いもの……)

 

そう考えた後、小瀬川は体に力を入れずにあくまでも自然体になって、配牌を開いた。相変わらず流れは悪いようで、通常の人間がこれを見たら思わず顔を顰めてしまうほどの悪い配牌。普通に進んでも遠く、尚且つ国士にも字牌が少ないため遠い、まさに最悪の配牌。前局の何倍も悪い配牌だ。だが、それも当然の事。今まで無駄に体力を削って闇の進行を防ぎ、流れを改善させていた時の状態で聴牌すらできなかったのだ。そして今小瀬川は最低限意識が保たれて、尚且つ体力を温存できる程度にしか闇を防いでいない。となればこの局の配牌は悪くなって当然という事だ。何も闇の進行が急激に進んだというわけではない。むしろこれが普通なのだ。逆に言えば、これで普通となるほど、闇の侵食による影響が多いという事が伺える。

 

 

 

「・・・ツモだ」

 

 

辻垣内:和了形

{一一一①②③④⑤⑥2267}

ツモ{8}

 

 

「ツモのみ。一本場を加えて600オール……」

 

 

親の辻垣内がノミ手ながらもあっさりと自摸和了。これが四巡目の事。前局と和了を積み重ねたため、やはりスピードは圧倒的に速い。小瀬川を除く二人がまだ手牌を整理する段階であったのにもかかわらず、辻垣内はそれを知ったこっちゃないと言った風にスピード和了。これで南二局は二本場へと突入する。

だが、辻垣内は不信感を覚えていた。それは勿論、小瀬川に対して。

 

(・・・ツモ切りのみ。まるでわざと手を進めようとしていない見たいだ……それか、ツモ切る事しかできないほど酷い容態なのか?)

 

そう、小瀬川はこの局、ツモ切りしか行っていない。辻垣内にとっては知る由もないが、小瀬川からしてみれば手を進めようとしただけで激痛に耐えなければいけない。そしてこの局はもとより体力を温存するときめている。わざわざ激痛に耐える必要もないだろう。故に小瀬川はツモ切りしかしていなかったのだ。ごく当然の事である。しかも、辻垣内が和了ってくれたことで局数が増え、休める時間も増えた。小瀬川にとってはこの辻垣内の和了はありがたい事この上なかった。

 

 

しかし、そんな事情を知るわけもない。不信感を抱く辻垣内だが、小瀬川の方を見るとやけにリラックスしていた。辻垣内は更に疑問に思ったが、結局答えはでず、二本場へと場は動いた。

 

 

 

 

 

 

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南二局二本場 ドラ{⑤}

 

 

南二局二本場、この局も小瀬川はツモ切りしか行わず、更に皆の疑心が高まった。が、それとこれとは別問題と言うかのように場は動く。まず最初に動いたのは四巡目、

 

「リーチ!」

 

辻垣内

打{横四}

 

辻垣内:手牌

{一二三①①①②③13789}

 

純チャン三色が確定している大物手、辻垣内は迷わずリーチをかけたが、この決断が辻垣内に悲劇を生む事となる。

 

 

「・・・カン」

 

宮永照:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {裏22裏}

 

新ドラ{2}

 

宮永照の暗槓。しかも、槓したのは辻垣内の唯一の和了牌{2}。これで辻垣内の和了牌は宮永照に潰され、辻垣内はただ牌を切るだけの木偶の坊となってしまった。

それだけではない。あろう事か新ドラは槓をした{2}。つまり、宮永照のこの手、どんなに安くとも満貫が確定した。方や和了目を失ったツモ切りマシーンの辻垣内と、方やダマでも最低満貫が確定している宮永照。誰がどう見ても優勢なのは宮永照であり、宮永照に風が吹いていた。

そして九巡目にとうとう辻垣内が宮永照に掴まされてしまう。

 

(ぐっ……)

 

 

辻垣内

ツモ{赤⑤}

 

ツモってきたのは{赤⑤}。あまりにも危険すぎる{赤⑤}。これひとつでドラ二つ分という地雷そのものだが、辻垣内はリーチをかけているため、切るしかない。

 

(・・・クソッ!!)

 

 

辻垣内

打{赤⑤}

 

 

 

「ロン」

 

宮永照:和了形

{六七八赤⑤⑧⑧⑧444} {裏22裏}

 

 

「断么三暗刻ドラ8……24,600」

 

 

しかも、宮永照の手牌にはもう一つ一枚でドラドラの{赤⑤}を抱えていた。断么三暗刻にドラ8を加えて三倍満。24,600を振り込んでしまった。一度のリーチによって、こんなにも変わってしまうという場の恐ろしさを辻垣内は身を以て知る事になる。

辻垣内が宮永照に三倍満を振り込み、点差は格段に開いた。これで勝負が決まったか……と思う観客も少なからずいた。

だが、まだ終わっていない。次は辻垣内の親が流れて南三局。つまり、小瀬川が動く時。休んでから二局しか経っていないものの、体力は温存できた。あとは、自分の精神を信じるのみ。

 

 

(・・・止める……!)

 

 

全神経を集中させ、小瀬川は体を蝕む闇を強引に押さえつけようとする。今まで自分を蝕んできた闇と向かい合う、それと同時に立ち向かう時。

 

 

小瀬川が力を入れたその瞬間、今までの何十倍もの痛みが小瀬川を襲った。

 

 

 




次回は南三局。
さてシロはどうなってしまうのか……!?

そういえば今日テレビで「アカギ」が取り上げられてましたね。テーマは現実時間との乖離が大きい順のランキングでしたが、アカギは市川戦と浦部戦の時にも、鷲巣麻雀編前の時も漫画内で結構な間があったので、トータルで見ればそんなでもないのはランキング開く前になんとなく予想できましたが、まさか10位とは……
それよりも鷲巣麻雀だけで見れば一年で25分しか進まないという圧倒的一位に驚愕……と思ったけどオーラスは配牌で10カ月使ってるから、一年で25分も進んでいるのかと思えてきますね……恐ろしい恐ろしい……

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