宮守の神域   作:銀一色

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南二局です。
アンケートもよろしくお願いします。期限は24日の23:59まで!


第84話 決勝戦 ㉜ 己の身を賭けても

 

 

 

 

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南二局 親:辻垣内智葉 ドラ{4}

 

小瀬川 22,800

照 32,200

辻垣内 21,400

洋榎 23,600

 

 

南一局一本場。この小瀬川による決死の囮、暗槓二回によって愛宕洋榎にドラを乗せ、ノーテンリーチで小瀬川の安牌を宮永照に打たせるように誘導し、見事愛宕洋榎の跳満が宮永照に突き刺さった。

 

(・・・っ!)

 

 

宮永照も、小瀬川によって増えた新ドラの{発}を愛宕洋榎が抱えたのを確認すると、小瀬川のリーチが囮であったことを察し、思わず歯噛みする。しかし、それと同時に宮永照は小瀬川に対する不安も覚えた。この局だけでなく、前局から宮永照は彼女が手を進めようとしたり、暗槓する度に彼女の顔が苦痛に歪むのを見てきた。そう踏まえると、彼女が和了ろうとすれば、今まで以上の痛みが彼女を襲うと考えても不自然ではない。そして南一局、彼女が和了に向かわなかったのを見ると彼女の容態はよろしくはないのだろう。少なくとも、一回の和了分の痛みには耐えられないほどには。そんな小瀬川白望を心配する目で見ていた宮永照だが、小瀬川はその視線に気付いたのか、小瀬川は目で宮永照に訴えかけた。ただ見つめるだけで、何かを伝えるようなジェスチャーはしなかったが、宮永照は小瀬川の目から放たれる熱い視線によって小瀬川が訴えている事を理解した。

 

『心配するな』と。

彼女の表情を見る限り、先ほどのような辛い状態と比べて一段とマシになったようだ。だが、それでも辛いことには変わりない。宮永照はすぐにそれを痩せ我慢であると見抜いたが、彼女の意志を曲げることはしない、と南一局一本場が始まる時に決意した宮永照には、もう何も小瀬川に口出しはできない。せめて小瀬川の容態が少しでも良くなってほしいという思いを込めて宮永照は小瀬川にコクリと頷くと、宮永照は視線を愛宕洋榎に移して、12,300点分の点棒を払う。あれだけ小瀬川の事を心配していた宮永照だが、これで宮永照の最後の親は流れ、またもや点差は大幅に縮まった。小瀬川の問題も随分深刻であったが、宮永照自身も結構深刻な問題を抱えていたのであった。

 

 

 

そして場は南二局。辻垣内智葉の親番に回ることとなる。

 

 

 

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観戦室

 

 

「上埜、絹恵、そこをどき……そして……竜華、離しや。腕」

 

ところ変わって観戦室、そこでは席から立ち上がり、観戦室の出口に向かおうとした園城寺怜の腕を掴む清水谷竜華と、そんな竜華の方を見つめる園城寺怜、そして園城寺怜の行く道を遮るかのように園城寺怜の前に立つ上埜久と愛宕絹恵がいた。全員が真剣な目つきをしていて、場は既に一触即発の状況を呈していた。

そして園城寺怜の腕を掴む清水谷竜華は、園城寺怜に向かってこう言った。

 

「何処行くつもりや。怜」

 

それを聞いた園城寺怜は少し声を荒げて清水谷竜華に言う。

 

「何処……?何処やって、イケメンさんのとこに決まってんやろ!?」

 

その園城寺怜の発言に愛宕絹恵が園城寺怜を静めようと園城寺怜の肩に手をかけようとした、が。

 

「園城寺さん、ちょっと落ち着いてください」

 

「うるさいんや!」

 

園城寺はその手を払いのける。そして三人に向かってこう言い放った。

 

「あのイケメンさんの顔見てもまだ落ち着けっていうんか……!?どう見ても辛そうやろ、苦しんどるやろ……!・・・まさか自分ら、イケメンさんの『大丈夫』って言ったこと間に受け取ったんか?」

 

園城寺がスクリーンを指差す。いきなりの事に、周りの観客も騒めき出す。注目を浴びているといち早く気付いた上埜が園城寺の肩を掴み、強引に座席に座らせ、園城寺に顔を近づけてこう言った。

 

「私だって……小瀬川さんを助けたい。小瀬川さんにこれ以上苦しんでほしくない……!だけどね、『続ける』って言うのだから仕方ないの……他の誰でもない、小瀬川さんが。・・・痩せ我慢だとしても、小瀬川さんは『続ける』と言う限り、私らには小瀬川さんを止める権利はない……そうでしょ?」

 

園城寺は自身に語りかける上埜を見てハッとする。口では力強く言っているが、園城寺を掴む上埜の腕は頼りなく震えていた。横を見ると、清水谷竜華、愛宕絹恵のどちらもが自分の手をぐっと握りしめていた。それを見て園城寺は確信する。つまり、同じであったのだ。皆小瀬川を助けたい。今すぐにでも助けたい。試合を止めてまで小瀬川を助けたい気持ちでいっぱいだったのだ。自分と愛宕絹恵と上埜久の想い人である小瀬川を。清水谷竜華の準決勝で競い合った戦友である小瀬川を。

だが、彼女らは必死に堪えていた。小瀬川の意志を優先するため。小瀬川に後悔してほしくないため、必死に……必死に……!

園城寺は下を向いた。結局、弱かったのは自分だけだったのだ。自分だけが小瀬川を助けたいという気持ちを抑えられなかったのだ。園城寺は率直に『馬鹿者だ』と自分に思った。自分の一辺倒な気持ちを優先しようとして、小瀬川の気持ちを考えていなかった自分に心底呆れた。

 

園城寺は自分に失笑すると、上埜達に向かってこう話した。

 

「・・・すまん。ウチが悪かった……自分らも、抑えていたんやな……」

 

「怜……」

 

上埜はそれを聞くと自分の席に座り、愛宕絹恵と清水谷竜華はホッとして席に座り直す。園城寺は大きく深呼吸してから、誰にも聞かれないよう、心の中でこう言った。

 

(・・・イケメンさんが帰ってきたら、イケメンに心配させられた分のお返しで全力で抱き締めてもらうとするわ……せやから、絶対に無事に帰ってくるんやで、イケメンさん……)

 

 

 

 

 

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(・・・体調はだいぶ良くなった……攻めればまた悪くなるんだろうけど、そろそろ攻めなきゃ勝てない……)

 

南二局、小瀬川は配牌を開いて改めてそう思った。点差が縮まったと言っても、この時点で小瀬川は三位。そして残すはこれを入れてあと三局。そろそろ攻めなければ優勝を手にすることはできない。故に、向聴数を一進めるだけで悲鳴を上げる自分の体に鞭を打ち、全力で和了りに向かう。一回一回のツモが重く、また手を進めようとすればさらなる痛みが小瀬川を襲う。だが、それでも小瀬川は前へ進む。勝利への意欲、勝ちへの執着、そんな自身のギャンブラー精神が彼女を突き動かした。体が軋み、悲鳴を上げても構わない。勝ちたい、勝負したいというどうしようもない衝動だけで彼女は今ここにいる。

 

だが、現実はそう上手くはいかない。小瀬川がどれだけ決意を固めて動いたとしても、闇が体と流れを支配しているこの状況、小瀬川が他の三人と対等な流れに持っていくには、これ以上の痛みを覚悟して、闇を強引に抑えるしかない。しかし、今小瀬川は闇を真っ向から抑えられるほどの体力はなく、抑えようと試みても小瀬川の体が動かない。そのため、圧倒的不利の状況で今小瀬川は闘っているのだ。故に、聴牌速度も、打点も他三人と比べれば天と地の差、小瀬川には成す術もなく六巡目、小瀬川が手を進めようと切った{一}が、運悪く辻垣内に当たってしまう。この時、小瀬川には辻垣内の捨て牌は視界がぼんやりとしていてはっきりとは見えておらず、尚且つ前へ前への前傾姿勢のため、振り込みは避けられなかったのだ。

 

 

 

小瀬川

打{一}

 

 

 

 

「ロ……ロン」

 

 

辻垣内:和了形

{一二二三三九九④赤⑤⑥888}

 

 

「3,900……」

 

 

辻垣内が一瞬躊躇ったが、それは小瀬川に対する侮辱だと感じたが故に、辻垣内は思いっきり手牌を倒した。そして宣告する。

 

 

(・・・まだ……体が追いついていない……なら、ここは耐えるべき……)

 

小瀬川は自身の体に全神経を集中させ、体の容態を探る。やはりまだ体は闇の重圧によって体力を消耗している。足は既に動かない。何故なら足を動かす体力を上半身に持ってきているからだ。

故に、体の体力の回復を待つべきが得策だと思考する小瀬川。この南二局は動くべきではない。そこで小瀬川が見据える勝負所は、南三局。小瀬川の親である南四局でなく、南三局だ。無論南四局も大事なのだが、いつ闇が体を蝕むスピードを加速させてくるか分からない。小瀬川の感覚的に、南四局まで持つか……と言われると若干怪しい方だ。ならば、南三局に一発で逆転し、残りの南四局、南三局の余力で耐えきり終局……これが小瀬川の考えつく最高のプランだ。だが、それを簡単に実行できたとしたらどれだけ楽なものか。前提として、南三局に闇を強引に抑え込む必要がある。もしその時に闇を抑えきれなければ、小瀬川が勝てる可能性は限りなくゼロになる。もしかしたら勝てる勝てないどころか、勝負にすらならず、ぶっ倒れてしまうかもしれない。そういう危険な賭けが必要なのだ。だが、小瀬川は逃げない。勝つために、勝利するために、南三局を待つため、この場を必死に耐える。

 

 

己の身を賭けると分かっていても、だ。




次回は南二局一本場。

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