宮守の神域   作:銀一色

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南一局一本場です。

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第83話 決勝戦 ㉛ 決死の囮

 

 

 

 

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南一局一本場 親:宮永照 ドラ{三}

 

小瀬川 23,800

照 44,500

辻垣内 21,400

洋榎 10,300

 

 

 

前局、親の宮永照が三十符三飜の6,000、2,000オールを和了り、『加算麻雀』による役満発動まで、残り七飜とした。そして他3名との点差も広げ、二位の小瀬川とは20,700点差、三位の辻垣内とは23,100点差、ラスの愛宕洋榎とは34,200と、一時期は二位と10,000点ちょっとしかなかった点差だが、東四局二本場の和了と、前局南一局の和了によって点差はまた元に戻ってしまった。後半戦の最初の方から示唆されてきたものの、ここにきて加速しだした宮永照。更に点棒を重ねるべく、己が手をどんどん進めていく。

だが、宮永照はある事を心から心配していた。それは、小瀬川白望のこと。彼女の身に異常が起き始めたのを彼女が最初に気付いたのは東四局一本場の和了後から。彼女の本質である闇が、彼女の流れを奪っている事に気付いた。ここまでならまだ良かったのだが、東四局二本場から彼女の様子がおかしくなり始めたのだ。

東四局二本場では{赤⑤}を打って宮永照に振り込んだと分かった時、小瀬川は{赤⑤}をまるでそれと別の牌を切ったかのような自分でも驚いた表情をしていたし、先ほどの南一局でも、捨て牌がはっきりと見えていないのではないかと思わせるほど危険牌を切ってきたりなど、流れだけでなく、小瀬川の身体にも影響が及んでいるとうかがえる。南一局一本場が始まろうとしている今も尚小瀬川の状態は悪そうであり、その目は虚ろで、いつ倒れてもおかしくないほどの状態であると見ただけで分かる。彼女は大丈夫だと言っていたが、一局経った今ではそんなことも言っていられないであろう。思わず小瀬川に大丈夫かと聞こうとしたが、宮永照はここである事に気付いた。

 

(・・・白望さんの闇が、弱く……いや、白望さんが闇を上回った……?)

 

微かではあるが、小瀬川を蝕む闇の勢力が落ちているように感じた。しかし、上回ったと言っても未だ闇は小瀬川の事を侵食し続けている事には変わりない。だが、闘っているのだ。小瀬川は、ありとあらゆる障害に立ち向かっているのだ。そんな姿勢を示す小瀬川を改めて見た宮永照は、もう小瀬川に大丈夫かと問おうとはしなかった。小瀬川の闘志を、無下にする事は宮永照にはできなかった。

 

 

 

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三巡目

 

「カ、ン……」

 

 

小瀬川:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {裏⑥⑥裏}

 

 

新ドラ{発}

 

 

 

そしてこの南一局一本場、まず最初に動いたのは己が闇に抗っている最中の小瀬川白望。小瀬川が三巡目にして{⑥}を暗槓。新ドラ表示牌には{白}が見え、新ドラは{発}となった。体調がマシになったとはいえ、やはり何らかのアクションする度に小瀬川の体には異変が起こる。今回は頭痛。字面だけ見れば大した事はなさそうだが、頭痛のレベルが違う。痛い、というよりも激痛の方が近いだろう。頭を針で刺したかのような鋭い痛みをこらえ、嶺上牌を王牌からツモってくる。その手は弱々しく震えていたが、しっかりと嶺上牌を掴み、一息置いてからそれを確認する。

そして、小瀬川はその牌をツモ切った。

 

小瀬川

打{3}

 

 

この三巡目は小瀬川が暗槓をしただけとなったが、その次、四巡目からこの南一局一本場は激化し始める。

 

 

「チーだ」

 

辻垣内:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {横879}

 

打{発}

 

 

 

辻垣内が宮永照の切った{8}を鳴き、先ほどドラとなった{発}を捨てる。これで一向聴となり、一気に和了へと近づく。

 

そしてこの四巡目、これだけでは終わらない。小瀬川がツモってきて宮永照のツモ番へと回り、五巡目になろうと思われたまさにその時、小瀬川は疲弊しきった顔で精一杯手牌にある内の四牌を晒す。その牌は全て{中}。つまり{中}の暗槓だ。

小瀬川は声を振り絞って宣言する。

 

 

 

「カン……!!」

 

 

小瀬川:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏} {裏中中裏} {裏⑥⑥裏}

 

 

新ドラ{発}

 

 

小瀬川の二回目の暗槓によって増えた新ドラ表示牌はまたもや{白}。つまり、これで{発}は一枚でドラ二つ分の力を持った。

小瀬川は再び王牌から嶺上牌をツモってくる。その手はさっきにも増して震えているようにも見える。だが、きっちりと牌を右手で掴み、自分の手牌へと引き入れる。そして、小瀬川はまさかの1,000点棒を取り出した。疲弊によって動作がいつにも増して遅かった小瀬川は、ここで一気に体を動かす。

その時の声は、先ほどの暗槓の宣言の何倍も強く、小瀬川の負けないという固い意志が見られた。

 

 

「リーチッ……!!!!」

 

 

小瀬川

打{横五}

 

 

立直。小瀬川、満を持して牌を横に曲げて宣言する。宣言直後こそは体の異常に顔を歪めていたが、しばらくして落ち着いたのか、小瀬川は息をゆっくり吐いて背凭れに寄りかかった。

そして小瀬川がリーチをした直後の宮永照のツモは{⑧}。{⑥}と{中}を暗槓している、筒子の混一色かと思われる小瀬川に対しては危険牌の筆頭。いくら{⑥⑦}の搭子がない事は確定しているとしても、{⑧}が安全という事には決してならない。小瀬川が身を削ってまで立直をしているのだ。一筋縄では躱すことはできない。故に、絶対に当たらない小瀬川の捨て牌にある{東}を切った。これは小瀬川の一打目に切られており、それに続く形で辻垣内が二巡目に切っている。しかも、今は南場であるので、宮永照自身以外は{東}はオタ風。つまり絶対安全な牌と言えるだろう。無論、この牌に対して反応するものは居らず、

辻垣内のツモ番へと回る。一発直撃は回避できた。

そして場は小瀬川のリーチから一周し、リーチ後初の小瀬川のツモ番になる。小瀬川は体を動かし、ツモってきた牌を凝視すると、その牌をゆっくりと河へと置いた。一発ツモではなかったのだ。

そしてその直後宮永照のツモは{①}。またもや筒子をツモってきたが、宮永照は切る気は毛頭ない。守備の徹する。この瞬間、宮永照は小瀬川の策から抜け出せた、と思われたが、小瀬川の策はまだ終わってはいない。いや、むしろここからである。

 

(・・・逃げ切った気でいる……みたいだけど……違う……()()()()()……)

 

そう、小瀬川のリーチはいわば囮。宮永照が小瀬川の安牌を打たせるための誘導。小瀬川は体だけでなく、流れも侵食されている。故に、たった2回の暗槓如きでは流れは良くならない。つまり、小瀬川はこの時ノーテンだったのだ。最初から和了る気などなかったのだ。

それに、例え小瀬川が聴牌していたとして、和了ったとしたら小瀬川の体は良くなったばかりなのに、直ぐに幻覚や体の自由を奪われたりなどの状態に戻ってしまう。だからこの局、小瀬川は和了れないし、和了ってはいけない局であった。

ならば、どうするべきか。和了れないし和了ってはいけない局で小瀬川はどうすれば一位の宮永照の点棒を削れるか。と言われれば、その答えはただ一つ、()()()()()()()()()()()()()。ただそれだけだ。その準備のために、新ドラを乗せたり、安牌を打たせるためにリーチをしたのだ。

そして文字通り命を賭けた誘導が、ついに報われることとなる。

 

宮永照

打{3}

 

安牌。小瀬川に対して安牌である{3}打ち。これこそが、小瀬川の狙い。

見るまでもない。当然、牌を倒す。

愛宕洋榎が。

 

 

「・・・ロンや」

 

愛宕洋榎:和了形

{二二六六⑧⑧⑨⑨377発発}

 

 

 

「跳満……12,300」

 

 

 

愛宕洋榎の和了。小瀬川が新ドラを愛宕洋榎がその時既に対子としてもっていた{発}に乗せ、手を跳満まで育てた。そして、小瀬川がリーチをかければいつかは宮永照が切ってくれるという算段。宮永照が早目に振り込んでくれたのも小瀬川の身体の状態的にも嬉しい結果となった。

 

 

(・・・今ので、更に楽になった……そろそろ……仕掛けないと……)

 

 

小瀬川は息を切らしながらも、宮永照にどんどん詰め寄っている。

 

決着まで、残り三局。決勝も終盤戦。ここから更に熾烈となる予測が、最も簡単にできた。




次回は南二局!
いやー、土曜日曜からの月曜日は辛いですね。

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