宮守の神域   作:銀一色

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東四局……と思わせておいてのその間の話。
明日まで引っ張っていく赤木スタイル。(自虐)

日間ランキング見たら10位で草。
評価10の恐ろしさを知りました。おお怖い怖い。


第78話 決勝戦 ㉖ 小瀬川白望という別領域

 

 

 

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東四局 親:小瀬川白望 ドラ{8}

 

小瀬川 16,300

照 43,800

辻垣内 25,500

洋榎 14,400

 

 

宮永照:手牌

{①①①⑥中中中} {横⑦⑧⑨} {横一二三}

 

 

小瀬川:和了形

{七七①②③④赤⑤⑦⑧⑨666}

 

 

 

愛宕洋榎

打{⑥}

 

 

 

頭ハネ。東三局、愛宕洋榎が切った牌で宮永照が和了ったと思われたが、愛宕洋榎の上家である小瀬川の和了牌だったが故に、宮永照の和了は認められず、頭ハネとなった。

 

 

(・・・んなアホな……っちゅうことは二巡で聴牌して、尚且つ宮永が鳴ける牌が溢れたってことやないか……)

 

ありえない。愛宕洋榎が小瀬川の手牌を見てまず感じた事はその一言だった。宮永照と同じ二巡で聴牌できるような好配牌で、更に切る牌は宮永照が鳴ける牌でないといけない。仮に宮永照が鳴けない牌を切ってしまえば、愛宕洋榎の注意は辻垣内、もしくは小瀬川に向く事となっていた。一巡目の{一}はともかくとして、二巡目の{⑦}は完全に怪しい。愛宕洋榎が恐る恐る切った牌であったから合わせ打ちという大義名分があり、怪しまれずにすんだが、通常ならまず怪しいであろう。

 

確率的に不可能だ。どんなバカヅキだったとしても、良いのは自分の速度や打点の高さ、

つまり自分だけに影響するのだ。しかし、小瀬川は違った。宮永照の手までも干渉したのだ。次元が違う。通常の者と、小瀬川との圧倒的差、スケール、発想、感覚、どれも小瀬川の方が段違いに上回っている。

別領域からの刃。小瀬川白望という、別領域からの刃。その刀身は鋭く、他とは異なった輝きを淡く発している。その異端の刃に、愛宕洋榎は柄にもなく冷や汗をかいていた。

 

 

 

(・・・今更何が起こったって私は驚かない覚悟はできている……私はそれよりも恐ろしいものを知っている……)

 

小瀬川の頭ハネによって和了りを妨害された被害者である宮永照は以外にもおどろきはなかった。何故かといえば、彼女の本質の闇、あれを宮永照は見てきたからに尽きるだろう。前半戦南三局、あの闇の片鱗に触れてきた宮永照にとってあれ以上の恐ろしさはない。

故に宮永照は動じなかった。いや、むしろこんな程度で驚いていては、身がもたないであろう。小瀬川白望が考えれば考えた分だけ小瀬川白望の武器の数となる。つまり、彼女の思考の上を行かなければ彼女の攻撃を完全に防ぐことはできない。当然、小瀬川の思考の上を行くのはまず無理だ。だとすれば、宮永照にできることは、できるだけ小瀬川の行動に冷静に対処することだ。さっきも言った通り、小瀬川の行動一つ一つに驚いていては冷静に対処もクソもない。それも合わさって、宮永照は今冷静に小瀬川に対峙できているのだ。

 

だが、あの闇が小瀬川の中の異常の、一際異常なだけで、無論今の状態も宮永照にとってまずい状況である。

 

(・・・白望さんの親番……ここが踏ん張りどころ……)

 

 

 

 

 

 

(・・・私の親が流されたと思ったらこのザマか……相変わらずの速度だ)

 

辻垣内は未だ三向聴である自身の手牌を伏せ、小瀬川の和了形を見て唖然とする。宮永照に傾きかけていた流れや愛宕洋榎に突発的に吹いた風など御構い無しに強引に小瀬川は和了った。そう、これこそが辻垣内が小瀬川と初めて会った時に感じた絶望感だ。ここから地獄が始まるという恐怖と、ここから小瀬川の真の麻雀と対峙できるのかという期待、恐怖半分期待半分を抱えながら、小瀬川を見据える。

策略も何もあったものではない。気がついたら既に小瀬川に操られ、常人の想像を超越する器量と運によって完膚なきまでに叩きのめされる。そこに一切の隙はなく、気がついた時には既に眼前に刃を突きつけられている。逃げるとかそんなのを考えている暇もない。時既に遅しとはまさにこの事を言うのだ。

 

 

 

(・・・やっと、本命が来たか)

 

 

確かに、今までの小瀬川の麻雀も脅威であり、常人とは一線を越す力である。だが、まだ対抗できる余地がある。人間にどうにかできる範囲での力だ。故に、違うのだ。辻垣内が感じたあの時……僅か二局で飛ばされた時に触れた、あのどうやっても抗えず、ただただ点棒が消えていくあの絶望感とは、違うのだ。

無論、小瀬川本人は意識して違くしているのではないのだろう。唯一辻垣内に思い当たる節があるといえば、赤木しげる。恐らく、あの絶望感を味わえるのは小瀬川が赤木に最も近づいている、ないしは赤木と同等になっている時だけなのだろう。

そしてその時はまさに今だ。あの時感じたものと同じ気迫、威圧だ。辻垣内が待ちわびていたもの、そして己が超えるべきもの。

 

(・・・やるか)

 

 

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実況室

 

 

 

(・・・小瀬川白望……確かに彼女の麻雀には見覚えがあるはずだ)

 

所変わって実況室、そして時はほんの少し遡って東三局が始まる直前、東場も終盤に差し掛かったのにもかかわらず、大沼秋一郎は未だにアナウンサーから拝借した小瀬川白望の資料を見て、自分の記憶を探っていた。

しかし、流石にアナウンサーも痺れを切らしたのか、アナウンサーが大沼秋一郎に声をかける。

 

「大沼プロ。そろそろよろしいでしょうか?」

 

それを聞いた大沼秋一郎も流石にまずいと感じたのか、一旦記憶に蓋をして、解説に回ろうとする。

その後の大沼秋一郎はさっきまで黙っていた分を取り返すか如く、一手一手を詳しく解説していった。そして、三巡目に切った愛宕洋榎の{⑥}で和了宣言をした宮永照を遮るように小瀬川が声を発する。大沼秋一郎に電撃が走ったのはまさにその時だった。

 

 

『照ばかり気にして……つれないなぁ……』

 

 

(・・・まさか)

 

 

『たまには見なよ……私を……』

 

 

 

『ロン。一通ドラ1、5,200の頭ハネ……』

 

 

 

(・・・っ!!)

 

大沼秋一郎が思わず立ち上がってしまう。そう、大沼秋一郎は完全に思い出した。小瀬川白望の麻雀に似ていたあの人物、赤木しげるを、漸く。

 

それを横から見ていたアナウンサーはびっくりして言葉を失うが、直ぐに実況という自分の役目を思い出す。アナウンサーは大沼秋一郎にわざと聞こえるように咳払いをし、大沼秋一郎に座るように促す。声を出してお茶の間の人たちや会場の観客に不信感を出さないように、あえて咳払いで大沼秋一郎に悟らせた。大沼秋一郎がプロ雀士とすれば、アナウンサーの方はプロアナウンサーといった所か。

 

対する大沼秋一郎は冷静を取り戻したように椅子に腰掛け、解説を続けるが内心は驚愕でいっぱいだった。何故、小瀬川白望が赤木しげるの打ち方に似ているのか。今度はそこが分からなかった。大沼秋一郎の記憶が一気に蘇る。その記憶の中には、自分が赤木しげるの打ち方を独学で学ぼうとしていた、若き頃の自分。無論、赤木の境地に辿り着くことはできなかった。だが、だからこそ大沼秋一郎は理解している。赤木しげるの打ち方に似せたり、己のものとする事は不可能だと。なのに何故、小瀬川白望は赤木しげると同じ麻雀ができるのか。分からない、それと同時に、大沼秋一郎の心はワクワクによって高揚していた。自分が必死になっても辿り着けなかったあの境地。赤木しげるがこの世にいない今、もう二度見れることは無いであろうと思っていた、そしていつしか忘れてしまうほど遠い存在であったあの境地が、今目の前で見ることができることに、大沼秋一郎は途轍もない喜びを感じている。

 

 

(・・・人間、長生きするもんだな。まさかここであの麻雀(神域)を見ることができるとは……全くこれだから人生ってのは理解できねえ……)

 

 

 

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(・・・この親番を入れて、親番は後二回……それでトップとは27,500、か)

 

 

自分の押したスイッチによって回るサイコロを見つめながら、小瀬川は現状を再確認する。残り五局で、27,500点差。準決勝で100,000点差を四局で返した小瀬川だが、あまりにも条件が違いすぎるのだ。準決勝では清水谷一人だけだったが、この決勝戦では一人だけではない。難易度はぐっと上がる。そもそも、点棒の大小など関係ないこの場では、それこそ例え100,000点差があったとしてもそんな大差はない。

 

サイコロが止まり、出た目に沿って配牌を小瀬川から取っていく。四人の思いが複雑に絡み合う東場最終局、後半戦東四局の配牌がこれで出揃った。

 

 

 

決勝終了まで、残り五局。

 

 




次回こそ東四局。
赤木スタイルといえば、ふと1話で1ツモとかやってみたいと思ってた時期がありました。でも流石に1話分心理描写考えるのも辛いので、やるにやれないんですけどね。
そもそもやるつもりもないという。なら何でそう思ったのか自分でも分からない。

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