宮守の神域   作:銀一色

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東二局二本場です。


第76話 決勝戦 ㉔ 天と地

 

 

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東二局二本場 親:辻垣内 ドラ{⑥}

 

小瀬川 14,300

照 47,000

辻垣内 31,700

洋榎 7,000

 

 

前局、小瀬川が援護する形で辻垣内が宮永照を振り抜いて、30符四飜の一本場4,000オール。実質親満をツモ和了った。この和了のおかげであれだけあった点差も一気につまり、辻垣内と宮永照との点差は15,300と、うまくいけば今局で逆転できるような点差になった。一方三位とラスの小瀬川白望と愛宕洋榎は、小瀬川の方は32,700点差、愛宕洋榎は40000点差と、この二人はトップとはまだまだ点差はあるものの、連荘はあったものの東二局まででもう点差は10,000点も縮まっている。そういう意味では、決して遠い点差ではない。

点差だけで考えれば、宮永照がこの後半戦から若干押され気味のように感じるが、実のところ一概にそうとは言えない。前局も、前前局、というよりこれまでの後半戦の全局、宮永照は和了れはしなかったものの、聴牌していたのは事実である。しかも全て満貫以上の手であり、宮永照の好調の翳りは全く見える様子はない。むしろ、良くなっているようにも見える。故に、未だ宮永照の好調な流れはまだ終わってはいない、むしろ始まったばかりだ。だが、その好調な流れは本来の力を発揮していないのもまた事実。地震のように初期微動があるように、宮永照に吹く風も未だ予兆程度でしかないのだ。逆に言えば、あと少しで主要道、本命が来るということだ。その間に他三人はなんとかしたいところである。

 

そしてこの局、前局、前前局と連続で和了り連荘をしてきた辻垣内の立ち上がりはあまり良いとはいえない。前兆状態の宮永照も何方かと言えば良くない。そして小瀬川も愛宕洋榎も例外なく配牌は悪い。つまり全員の配牌が悪かったのだ。

 

一巡目

愛宕洋榎:手牌

{五八九赤⑤⑦⑦⑧679南北北}

ツモ{北}

 

 

そして愛宕洋榎の最初のツモは{北}。愛宕洋榎にとってオタ風の{北}が暗刻となってしまった。オタ風が暗刻になるなど最悪。観客もオタ風の暗刻を見て早くもこの局、愛宕洋榎の和了は無いと思われたが、実は違う。この{北}こそ導火線。愛宕洋榎の爆発的な流れに火をつける導火線なのだ。宮永照のように予兆などではない。宮永照が地震だとしたら、愛宕洋榎の流れは雷。予兆なしに突発的に地面へ降り注ぐ電流の矢。この天と地の闘い、この局はスピードの違いによって愛宕洋榎側に軍配が上がるようだ。

 

二巡目

愛宕洋榎:手牌

{五八九赤⑤⑦⑦⑧679北北北}

ツモ{⑥}

 

打{五}

 

まず二巡目。愛宕洋榎は手始めに{赤⑤と⑦}を繋ぐ架け橋、{⑥}をツモってくる。これで一歩前進。

 

 

三巡目

愛宕洋榎:手牌

{八九赤⑤⑥⑦⑦⑧679北北北}

ツモ{八}

 

打{九}

 

 

四巡目

愛宕洋榎:手牌

{八八赤⑤⑥⑦⑦⑧679北北北}

ツモ{八}

 

打{9}

 

 

そして続く三巡目、四巡目と連続で{八}を重ね、{八}を暗刻とし、これで三面子。一向聴とし、僅か四牌のツモで聴牌目前まで詰め寄った。三人と比べればその速度は異常なほど早い。好調の予兆状態の宮永照でさえも未だ牌が繋がりにくい受けが良くない二向聴、小瀬川に至ってはまだ三向聴で、やっと字牌処理を終えた頃だ。

無論、この流れは絶えることなく五巡目、聴牌へと至る。

 

愛宕洋榎:手牌

{八八八赤⑤⑥⑦⑦⑧67北北北}

ツモ{7}

 

{7}を対子、雀頭とし、聴牌{⑥⑨}待ち。手自体はそんなに高くはない。リーチをかけなければ出和了りできないものの、あの配牌で五巡目聴牌は恐ろしい速さだ。しかし、愛宕洋榎は牌を曲げずに一巡待った。

 

(・・・まだやろ。こんなもんやないやろ!)

 

そう。この手に潜められた可能性。この手、一手挟むだけで打点がグッと上がることとなる。愛宕洋榎はそれを期待してリーチを一巡遅らせた。そしてそのすぐさま次巡、六巡目に待ち望んでいた牌を引き寄せる。

 

六巡目

愛宕洋榎:手牌

{八八八赤⑤⑥⑦⑦⑧77北北北}

ツモ{⑦}

 

{⑦}引き。これで聴牌し直し、打{⑧}で{④⑦、7}の三面張。高目の{④⑦}が出る、もしくは{7}ツモで三暗刻がつくこととなる。1,000点棒を取り出すと、愛宕洋榎は{⑧}をガッと右手で掴み、横に振りかぶる。そして思いっきり野球のサイドスローのように腕を地面に対して平行に動かす。そして、{⑧}を横向きにしかながら捨て牌に並ぶ五牌に向かって叩きつける。それと同時に持っていた1,000点棒を置き、宣言。

 

 

愛宕洋榎:捨て牌

{南五九96横⑧}

 

 

「リーチ!」

 

多少物議を醸しそうな牌の扱い方でリーチする。が、愛宕洋榎はそれに留まることなく、手牌の両端に両手をかけ、手牌を一つ残らず晒す。

 

 

「オーープン!!」

 

 

愛宕洋榎:オープンリーチ

{八八八赤⑤⑥⑦⑦⑦77北北北}

 

 

オープンリーチ。愛宕洋榎は手牌十三牌を全て晒すことを条件に、一飜を己が手に加算させる。これでツモればオープンツモ三暗刻赤1の跳満。裏が二つ以上乗れば倍満になる。

 

 

(こんなに早くに跳満、倍満手だと……?冗談じゃないぞ)

 

親の辻垣内は愛宕洋榎の晒された手牌を見て顔を顰める。辻垣内の手は未だ二向聴。しかも、聴牌できたとしてもノミ手。そんな自分と愛宕洋榎との手牌の格差に心の中で苦言を呈する。

 

そしてオープンリーチをされたところで、まだ他の三人は聴牌には程遠い。故に差し込んで流したりする事も不可能だ。三人が何もできないまま場は一巡し、愛宕洋榎のツモ番となってしまう。

 

 

愛宕洋榎が力を込めて山からツモ牌を引き抜く。そしてツモった牌を盲牌し、頭の中でそれが何の牌かを親指の感覚だけで確かめる。

 

 

((まさか……!?))

 

 

(……)

 

辻垣内と宮永照は愛宕洋榎のツモった牌を焦ったようにして凝視し、小瀬川はクールな表情を崩さず、愛宕洋榎が盲牌している様を眺めていた。親番を終わらせたくない辻垣内と、好調な流れの本陣を早目に引き入れたい宮永照が焦るのはしょうがない。逆に、全く焦る様子のない小瀬川が異常なのだ。彼女からしてみれば点棒が減るだけで、弊害はないものの、倍満の可能性がある、しかもオープンされた状態の最初のツモを意にも介さないという時点で、彼女の感覚は吹っ飛んでいるのだ。……主に赤木という彼女の師が原因なのだが。話を戻して愛宕洋榎のツモ。愛宕洋榎は盲牌していた親指をぴたりと止め、ゆっくりと上に上げていた手を下ろす。

 

 

「……まあ、そんなに上手くはいかんな」

 

 

愛宕洋榎:捨て牌

{南五九96横⑧}

{①}

 

 

愛宕洋榎がツモってきた牌は{①}。{④⑦}と同じ筋ではあるが和了牌に{①}は含まれていない。つまり、一発はなかったのだ。それを見た辻垣内と宮永照がホッとしたのも束の間。

 

 

八巡目

愛宕洋榎:和了形

{八八八赤⑤⑥⑦⑦⑦77北北北}

ツモ{7}

 

裏ドラ{2}

 

「ツモ!!オープンツモ三暗刻赤1、跳満!3,200-6,200!」

 

 

 

二人が一息ついたその瞬間に、愛宕洋榎が二牌目によってツモ和了る。裏は乗らず跳満だが、無事ツモ和了って辻垣内の親を蹴ると同時に、宮永照にグッと近づいた。

そしてタイミングが良いのか悪いのか、次局の親は愛宕洋榎。

 

 

(エンジン全開で行くで!)

 

 




次回は東三局。
土日というありがたみがわかりますね

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