宮守の神域   作:銀一色

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半荘始まるまでです。
二話連続で麻雀描写なしで申し訳ない……!気がつけば……描写なし……!二話連続麻雀描写なし……!やってしまった……!流石に二話連続は猛省……!

ていうことで、次回はちゃんと麻雀します。


第72話 決勝戦 ⑳ 後半戦開始直前

 

 

 

 

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後半戦東一局

 

小瀬川 16,300

照 61,600

辻垣内 10,600

洋榎 11,500

 

 

 

「・・・あれ、皆もう来てたんだ」

 

 

その言葉と同時に小瀬川白望が対局室の扉を開ける。他の三人は既に対局室に来ていて、もう卓の近くに立っていた。三人は後半戦の開始を今か今かと待ちわびていたらしいので、小瀬川がやっと入ってきたのを確認すると、小瀬川の方を一斉に向く。いや、それだと少し語弊がある。別に小瀬川は遅れたわけではない。自分の身体に鞭打ち、ちゃんと時間の十分前行動を取れたのだ。怠惰の象徴と言っても差し支えないあの小瀬川が、だ。ただ、小瀬川が早めに来たと感じさせないほど、他の三人は小瀬川よりも早く対局室にいただけなのだ。

 

「シ……小瀬川。席決めはもう済んである。私ら三人が既に開いているからもう決まっているようなものだが、一応確認してくれ。同じ牌が混ざってたりするかもしれんからな」

 

てっきり一番最初だと思っていたので少し不思議そうに三人を見ていた小瀬川に辻垣内が声をかける。それを受けて小瀬川は対局室の中央の位置する卓の元へとゆっくり歩きだす。そして卓の目の前まで来た小瀬川は、先ほどの辻垣内の指示通りに、卓上に置かれている四つの牌の内、唯一伏せられている一牌を人差し指でひっくり返す。既に卓には{南、西、北}が晒されていたので、わざわざ見るまでもなかったが、辻垣内に言われた通り他の牌が混ざってたりする可能性もあるため、小瀬川は一応確認する事にした。

 

小瀬川

{東}

 

当然のことではあるが、小瀬川が開いた牌は{東}。心の中でまた仮東かあ……と思ったが、よく見てみると{南}は宮永照の立っている所の近くに、{西}も辻垣内の近く、{北}も愛宕洋榎にあるのが確認できた。即ち、前半戦と席が全く変わってないのだ。多少運命的なものを感じた小瀬川だったが、まあ正直席順などはどうでも良かったので、深くは考えなかった。これで席決めが終わり、四人はそれぞれの席へと座る。前半戦と席を変えるための席決めだったはずなのにもかかわらず、見える景色は前半戦と何ら変わりないが、四人にとってそんなことは重要ではない。

さっきまで他三人の思わぬ行動の早さに呆気にとられていた小瀬川も、椅子に座るなりその目つきを変え、先ほどの小瀬川とは別人のような真剣な表情をする。無論、他三人も真剣な表情だ。

 

そして小瀬川は後半戦の起家を決定づけるために、卓の中央にある赤と白に塗られた二つの賽子を回すべく、賽子の手前にあるボタンを押そうとした。

 

 

 

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決勝戦を演じる四人が席に座るのを実況室から見ていたアナウンサーと大沼秋一郎は、まだ対局が始まるまで時間があったのだ。実況もテレビ局によって放映されるが、一応今は休憩中という時間だ。それ故にマイクは切られているので、二人は現在状況や、ここだけの話誰が有利などかについて話していた。

 

「……ああそう、宮永照の資料、参考になった。ありがとう」

 

大沼はそう言って、先ほどアナウンサーから手渡してもらった宮永照の牌譜などが記述されている資料をアナウンサーに返却する。アナウンサーはそれを受け取り、持参していたファイルにその資料を入れると、部屋の隅に置いてある自分のバッグの中へ入れた。それを遠くから見ていた大沼は、アナウンサーに向かって質問する。

 

「……そういえば、小瀬川白望の資料はあるかい?」

 

それを聞いたアナウンサーは、バッグに資料を入れながら返答する。

 

「ありますよ。流石に準決勝のは研究は終わってないので、牌譜しかありませんが。県大会と一回戦の分もありますよ。……まあ研究といっても彼女の傾向などは全然分かりませんでしたけど」

 

「別に構わないさ。それじゃあ、それを頼もうか」

 

そうアナウンサーに言った大沼は、スクリーンに映る小瀬川を見て少し考えていた。

 

(……出てこねえ。小瀬川白望が昔いた誰かの打ち方に似ているってのと、そいつが小瀬川白望と同じ白髪だってことは思い出せるんだが……肝心の名前と顔が出てこねえ)

 

そう。先ほどから小瀬川に似ている誰かを知りたかったのである。名前さえ覚えていれば、ネットが普及しているこの御時世、昔にいた雀士といえど、有名であればすぐに探すことが可能であろう。だが、肝心要その名前が分からないのだ。

……まあその人物は言わずもがな赤木しげるであるのは間違いない。赤木は数々の逸話があるので今でも知っている人などは多いのだが、いかんせんもう大沼秋一郎も年である。定年を迎えた66歳の老いぼれだ。流石に何年も前のことなど、とうに忘れているだろう。だが、それでも尚大沼は知りたがっていたのである。

そこで、小瀬川の牌譜を見れば何かを思い出すのではないかと思ったので、アナウンサーに頼んだのであった。

 

(確か「あ」から始まったような気もするが……いや、「た」だっけか?とにかく強いってのは分かるんだが……流石に"とにかく強い雀士"で調べても出てこないだろう。十中八九小鍛冶とかにヒットするだろうしな……)

 

そこまで考えていたところで、アナウンサーが小瀬川白望のと思われる資料が入ったファイルをバッグから取り出して、そのファイルから資料だけを取り出して自分の元へ近づいてくるのが見えた。

 

「見るのは構いませんが、大沼プロは解説が役目ですので、ちゃんとお願いしますね」

 

アナウンサーはそう言って大沼に資料を手渡した。大沼はそれを受けると、バツが悪いような感じで、

 

「……ああ、すまんすまん。さっきは申し訳なかった」

 

と言った。が、その直後大沼の全目線は今さっきアナウンサーが渡した小瀬川についての資料に注がれていた。それを見たアナウンサーは、やれやれといった感じで、腕時計を見た。後半戦までは後五分。流石に五分では読み終わらないだろうなあ、とアナウンサーは一人だけで実況するであろうと腹を括った。

 

 

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観戦室

 

 

所変わって一般観戦室。観戦室では、休憩中ということなので、スクリーンには何も映っておらず、暗黒が広がるだけ。なので席を立って飲み物を買いに行く者もいれば、何処かに行って休む者もいた。園城寺たちは相変わらず小瀬川の件でギスギスして、一触即発の状態だったが、そこから少し離れたところでは、白水哩と小走やえが隣同士で座っていた。

 

 

「小走。お前はこの決勝戦どうなっぎ思う?」

 

腕を組んで、真っ黒なスクリーンを睨みつけながら白水が小走に質問する。それに対し小走は冷静な表情で返答する。

 

「……そうだな。点差はこの際関係ないが、宮永照がもう一度役満を和了れるかどうかが重要だな」

 

その返答を聞いた白水も真剣な表情で小走の方を向いて言う。

 

「……なんばい。小走もやっぱり気づいよったのか。点差は関係なかって」

 

「当たり前だ。ニワカと一緒にするな。……それにしても、辻垣内や愛宕洋榎の動向も気になるな」

 

 

そんなやり取りを続けていると、突然白水が真剣な表情を崩して、さっきの白水は何処へやら。いかにも楽しそうな感じで小走を肘で突きながら質問する。

 

「小走は小瀬川のことどう思っよっのかな?」

 

その質問を聞いた小走は完全に取り乱す。

 

「ど、どうって……」

 

返答に詰まった小走を見て、白水はやれやれといった感じでこう言う。

 

「どぎゃんしこら王者といっても、恋愛に関してはまだまだニワカか……」

 

「な、なんだと!?」

 

悔しくても言い返せない。そんな敗北感を白水から叩きつけられ、顔を真っ赤にする小走であった。

 

 

 

 

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ビーーーーー

 

 

ブザーの音とともに、照明が一段と明るみを増す。観戦室ではスクリーンに対局室が映り、テレビでは実況の声とともにCMが終了する。それと同時に、先ほど親番を決めた結果、起家となった宮永照がボタンを押して、賽子を振る。

 

 

(……後半戦。まずはそのうざったい点差をさっさと退かさなきゃね)

 

(守りなど不要。攻めて攻めて捻じ伏せる)

 

(さあ、これからもここからも正念場。気は抜けないな)

 

(ええやん、ええやん!この緊張感!やっぱこれがあってこその決勝戦やで!)

 

 

ボタンを押したことによって回る赤と白の賽子を見ながら四人がそれぞれの思いを馳せる。全国大会決勝戦。全国の小学生で最強を決める最後の半荘が、後に"世紀の対決"と称される後半戦が今、始まる。

 

 

 

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後半戦東一局 親:宮永照 ドラ{西}

 

小瀬川 16,300

照 61,600

辻垣内 10,600

洋榎 11,500

 




さあ次回から後半戦。
優勝者は一体誰になるんですかねー!?

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