宮守の神域   作:銀一色

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前半戦と後半戦の間です。
やっと折り返しと思ったら既に19話使っているという事実……


第71話 決勝戦 ⑲ 一時の休息

 

 

 

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宮永照:和了形

{東東南西西北北白白発発中中}

ツモ{南}

 

 

「字一色。役満……8,000-16,000です」

 

 

『宮永選手、役満ツモ!この役満ツモによって更に大差をつけて決勝戦を折り返しました!』

 

 

役満。宮永照の『加算麻雀』による役満和了によって決勝戦前半戦が終了した。これによって点棒が大きく変動した。

 

小瀬川 16,300

照 61,600

辻垣内 10,600

洋榎 11,500

 

二位の小瀬川でさえも宮永照との点差は45,000点以上あり、辻垣内に至っては点差は50,000点もある。点棒だけ見てみれば独壇場ではあるが、何度も言った通り点棒の優劣はあまり関係はない。それほど四人の力は拮抗していて、尚且つ平均打点が恐ろしく高いのだ。無論、点棒が多ければ多いほど有利なのは変わりはないが、決定打となるほど優劣を分けるわけではないということだ。むしろ宮永照以外の三人からしてみれば、点棒的な意味でのショックよりも、宮永照の役満を止められなかった事に対してのプライドが傷つけられた事の方が精神的なダメージが大きかった。

 

 

「いやー!宮永の役満止められんかったわー!絹!」

 

愛宕洋榎は、控室で妹の愛宕絹恵と前半戦について振り返っていた。確かにプライドは傷ついたものの、そんな程度で折れるほど愛宕洋榎はヤワではない。まるでさっきのショックが無かったかのように明るく絹恵と話していた。

 

「……お姉ちゃん、大丈夫なんか?」

 

明るい洋榎に対し、絹恵は現状の点差に対して若干焦っていた。まあ点棒上では優劣がつかないという事情を知らない人からしてみれば50,000点近くの差があると聞いたら焦るのも仕方ない事ではある。

それを察した愛宕洋榎であったが、絹恵の肩に手を回して大声で笑った。

 

 

「大丈夫や絹!お姉ちゃんにまかしときや!」

 

 

その後愛宕姉妹の談笑がしばらく続き、そろそろ後半戦が始まろうとしていたので、洋榎が対局室へ向かおうとしていた。

 

「・・・じゃあ行ってくるわ」

 

 

「行ってらっしゃい、お姉ちゃん」

 

洋榎が一息ついて、席を立つ。腕をぐるぐると回しながら扉の近くまで歩き、扉を開けようとした直前に洋榎が絹恵に向かって堂々と宣言した。

 

 

「勝つのはウチ、愛宕洋榎や。絹、よー覚えとき」

 

 

洋榎が部屋から出て、扉を勢いよく閉めるとそのすぐあとドタドタドタという音が壁越しに聞こえてきた。それを聞いた絹恵は、いくら小学生とはいえ会場内を走る奴がいるか……と額に手を当てハアとため息をついた。

 

 

 

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「お嬢、前半戦お疲れ様です」

 

 

「ああ、すまない」

 

辻垣内が控室に戻ると、辻垣内の側近である黒服が辻垣内に向かって頭を下げて一礼した。辻垣内が控室に設置されている椅子に座り、グラスに注がれている水を飲んだ。

 

 

(・・・点差は50,000点、か。字面だけ見ればなかなかな点差ではあるが、そこまで絶望的ではないな)

 

辻垣内は水を飲みながら現在の状況を把握する。一位とは51,000点差、二位とは5,700点差、三位と900点差での四位という、二位までとの差は小さく、一位との差はかなり大きいイレギュラーな状況だが、それはあくまでも点棒だけの話である。事実、小瀬川は準決勝清水谷相手に四局で100,000点差をひっくり返している。あのハイレベルな二人で100,000の点差がひっくり返るのだ。この決勝戦でも起こらないとはいえない。むしろ、起こる確率の方が大きい。

 

 

(・・・一番の敵は、やはり小瀬川白望となる。か……)

 

そして、辻垣内の勝利への道の最大の障害となるのが小瀬川白望である。確かに宮永照の『加算麻雀』も、愛宕洋榎の純粋な火力も脅威ではあるが、それよりももっと手強く、対策が難しいのは小瀬川白望だ。どんな展開になろうとも、最後に立ちはだかるのは小瀬川白望であろう。そんな感じが決勝戦が始まる前からしていたのだ。

 

 

(とにかく、宮永の『加算麻雀』は封じなければ、な)

 

だが先ず対策すべきは宮永照の『加算麻雀』であろう。小瀬川も洋榎も、宮永照が十三飜和了らせないように対策するはずだろうが、もう一度宮永照に役満を和了られてしまえばそれこそ宮永照の優勝がほぼ確定してしまう。それだけは避けなければいけないし、そして宮永照を一位の座から引きずり下ろすのが今の辻垣内の目的だ。

 

 

「お嬢、そろそろ時間でございますが」

 

そこまで考えていたところで、黒服からそろそろ時間だということの報告を受ける。それを聞いた辻垣内は椅子の手すりに手をかけ、立ち上がる。そして黒服に向かって一声かけて、控室を後にする。

 

 

「わかった。行ってくる」

 

 

 

(逃げる気など毛頭なし。全力で潰してやろうじゃないか)

 

 

 

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「ふぅ……」

 

宮永照は控室に置いてあった色々な菓子類を口に含みながら前半戦を振り返っていた。

 

(この点差を守れるかどうか……)

 

現在宮永照が他者につけた50,000点という点差は確かに意味を持っていないけども、これを守らずして優勝という道はないのだ。これを守りきってこそ、初めて勝ちに近づけるのだ。何故なら、この決勝戦で宮永照が卓を囲んでいるのは愛宕洋榎と辻垣内智葉と小瀬川白望だ。気を抜いたら50,000なんて点差は一気に吹っ飛ぶだろう。だからこそこの点差は死守しなくてはならないのだ。だが、ただ守ってばかりでじりじりと点差を詰められるだけの対局は宮永照の性に合わない。故に宮永照は守りよりも、後半戦は攻めを重視しようとしていた。所謂攻めこそ最大の守りというやつだ。

 

 

(……負ける気はない。もう一度『加算麻雀』で役満を和了る気で攻めにいく)

 

 

俗にいうお菓子を食べ終わった宮永照は、その目に闘志を燃やしながら、席を立ち、控室を出る。

 

 

 

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「あー、塞、胡桃……」

 

バタン。という音が扉から聞こえて、小瀬川が扉の方を見るとそこには臼沢塞と鹿倉胡桃がいた。だが、少し様子がおかしい。どういうことかというと、胡桃が猛スピードで小瀬川の方へと向かっているのだ。

 

 

 

 

「シローー!」

 

 

「ぐぇっ……!」

 

 

そして鹿倉胡桃は猛スピードを保ったままそのまま小瀬川白望のお腹へ頭突きをかました。そしてドスッっという鈍い音が聞こえ、その頭突きによって小瀬川が仰向けに倒れ、胡桃が馬乗りになるような体制になる。

 

 

「いたたたた……何するの胡桃……」

 

「何するも何も、役満和了られて大丈夫なの!?」

 

胡桃から叱咤を受けた小瀬川は、頭をポリポリとかきながら答える。

 

「まあ、50,000点なら大丈夫……」

 

そう。50,000点程度ならいくらでも取り返すことは可能なのだ。だが、その過程を見ている側の塞と胡桃側からしてみれば心配極まりないのだ。

 

「そう言っていっつもギリギリになるんでしょう?シロ」

 

やはり塞にそこを指摘され、小瀬川は返答に詰まってしまう。

 

「……ま、勝機はあるんでしょ?」

 

返答に困っている小瀬川を見て塞が質問を変えると、小瀬川はすぐに

 

「ある……」

 

 

と答えた。それを聞いた胡桃は小瀬川から体をどかして、小瀬川に指をさして激励の言葉を言い残した。

 

 

「とにかく、絶対後悔しないこと!わかった!?」

 

 

それを聞いた小瀬川は、右手を頭の全部に当てて、敬礼の構えをとって

 

「……了解」

 

といった。そしてしばらくして、そろそろ後半戦の時間になったので、控室を後にした。

 

さっきまでダラダラしていた小瀬川の姿とは打って変わって、一気に真剣な目つきになる。

 

 

(……さあ、始めようか)

 

 

 

 

 




次回から後半戦です。
話が進むにつれて私の忙しさも過激になっていきます。
もう(忙しさから)逃げたいメゲたいつらいつらい(末原感)

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