三人は照の役満を防げるか……?
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南四局 親:愛宕洋榎 ドラ{5}
小瀬川 24,300
照 29,600
辻垣内 18,600
洋榎 27,500
宮永照:手牌
{東東南西西北北白白発発中中}
『宮永選手、配牌で役満聴牌です』
『例の加算麻雀……か』
前半戦オーラス、自身の持つ能力『加算麻雀』によって、ローカル役満の一つである大七星。俗に言う字一色の七対子形を配牌で聴牌した宮永照。それを実況室から眺めていたアナウンサーと大沼プロもとい大沼秋一郎。アナウンサーは宮永照の能力による役満が目の前で展開され、雀躍する心を押さえ込み、実況という職務を全うしようとする。その一方大沼秋は宮永照の役満手を興味深そうに見つめていた。そして大沼はアナウンサーにこう質問をした。
『・・・宮永選手が加算麻雀を発動した局、和了るのはだいたい何巡かな?』
アナウンサーはそれにいち早く対応し、近くにあった書類を手に取ると、宮永照の牌譜や傾向が書かれてあるページを見つけると、それを大沼に見せるように答えた。
『だいたい平均三巡、どんなに遅くとも五巡には和了っています』
アナウンサーがそう言うと大沼は立派に生えた顎髭を指で弄びながら、その資料をまじまじと見る。そしてそれを見ること数秒、大沼がアナウンサーに問いかける。
『ああ、ありがとう。少しそれを貸してもらってもいいかな?』
それを聞いたアナウンサーは『大丈夫です』と認めの意を示すと、大沼へ資料を手渡した。大沼はそれを受け取ると、解説の役目を忘れてそれをじっくりと見つめた。
それを見たアナウンサーは、資料を見て集中している大沼を気遣って、一人で実況を再開した。
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(さあ、まずはどれを切るかやな……)
愛宕洋榎:配牌
{二三六七七②③③④278東北}
この南四局オーラスの親である愛宕洋榎は最初の最初、第一打目でどれを打とうか悩んでいた。宮永照が役満を張っている今、結論から言ってしまえば、全て危険牌となり得るのだ。過去のデータとして、宮永照が『加算麻雀』によって張る役満は、複合やダブルにならない、もしくはなりにくい役満の国士無双と九蓮宝燈が大半で、次点で大三元と緑一色が彼女の張る役満の種類である。ここで問題なのは国士無双と九蓮宝燈が大半を占めているという点である。性質上、国士無双は一九字牌の全種類が和了牌と成り得る。そして九蓮宝燈は萬子だけのイメージが高いが、筒子や索子でも九蓮宝燈として成立する。つまり、数牌の三種全てが和了牌である確率を有している。即ち、
(・・・心臓に悪い黒ひげ危機一発やな。これは)
確かに手牌全てが危険牌であり、どれを切っても当たる確率があるというのは黒ひげ危機一発と類似しているだろう。しかし、実際黒ひげ危機一発のルールは当初『飛ばした人の勝ち』というルールだったので、意味的には全くの逆なのだが。
そして余談ではあるが、黒ひげ危機一発の"発"は一髪の"髪"ではない。よく勘違いする人も多いのだが、危機一発という言葉は存在せず、あくまでも商品名というだけであって、正しくは危機一髪である。
豆知識はここまでにして、話を戻す。
愛宕洋榎は結局、配牌が全員に配られて十数秒の間打牌に悩んでいて、未だ結論を出せないでいる。全てが危険牌となっているこの状況ならば仕方ないといえば仕方ないのだが。
(・・・決めたで)
そこから更に十数秒が経ち、ついに愛宕洋榎は結論を出した。
愛宕洋榎
打{北}
それは危険を承知して突き進むこと。全て危険牌ならば、何を切っても結果は変わらない。つまりどう考えたところで、当たってしまうかもしれない、当たらないかもしれないという事は切ってみなければ分からない。考える行為そのものが意味を成さないのだ。ならば、怯えて立ち止まるよりも、宮永照の役満手を潰すことができるように一歩でも手を進めるべきだ。逃げずに、立ち向かう愛宕洋榎の意思。それに同調するかのように辻垣内が場を動かした。愛宕洋榎の次のツモ番である、小瀬川の切った牌に反応する。
「ポン!」
辻垣内:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {三横三三}
打{9}
小瀬川白望が切った{三}を辻垣内が鳴き、多少躊躇しながらも打牌する。愛宕洋榎と小瀬川白望の逃げない意思を見習って、此方も逃げる気はさらさらないようだ。
そしてまたもや愛宕洋榎のツモ番になり、山からツモ牌を手に取って手中に収めると、すぐさま{東}を切った。
その次は小瀬川白望。さっきのように小瀬川はいつもと変わらない動作で山から牌を手にとって、手の中へ入れて打牌した。
「・・・どうすか」
小瀬川白望:捨て牌
{5}
その牌はまさかのドラ、ドラ強打。しかも無筋のドラ{5}。おそらく誰かに鳴かせようとして切ったのだろう。だが、辻垣内は二連続起こったその強打を疑問に思った。
(・・・さっきといい今といい、それだけ手が遅いのか?)
どういうことかというと、まだ鳴かせるといった結論に至るにはまだ早いということだ。役満が複合してしまうルール上、地和だけは絶対に有り得ない。故に、一回目のツモでは絶対に和了ることはないのだ。だから、どんなに最速でも二巡。まだ時間はあるのだ。それなのに自分の手牌を考慮せず鳴かせようとするのは、自分の手牌がそれほど和了りに程遠いか、もしくは……
(ま、まさか……一回目のツモで和了るというのか!?)
そう、本来有り得ない一回目のツモ和了という可能性である。確かに、地和がある関係上一巡目で引く可能性はまずない。だが、その前に鳴きが入れば地和はつくことはない。それなら一回目から和了る可能性があるということだ。地和の可能性があるから、決して一回目のツモではツモ和了らないのではないという事ではない。即ち地和の可能性が無かったら一回目のツモ和了れるという、認識の違い、錯誤。
そして生憎辻垣内も愛宕洋榎も{5}の対子が無かったため、鳴くことができない。誰も鳴かないことを確認すると、小瀬川は手牌を伏せる。辻垣内の僅かな可能性は悪いことにどうやら的中してしまったようだ。
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【あらら……】
「「え!?」」
それと同時刻、特別観戦室にいた赤木はなんとも言えない感じに呟く。赤木はそんなに動じていなかったが、隣にいる塞と胡桃は思わず立ってしまうほど焦り、動揺してしまっている。
【流石に止めるのは無理だったか……ククク】
「わ、笑い事じゃないよ!!どうするの!?」
胡桃が赤木に問い詰めると、赤木は笑ってこういった。
【まあ少なくとも、最後までギリギリの闘いになるってことは確かだな……】
胡桃と塞には悪いが、どうやら決勝戦も最後まで緊迫していないといけなくなるようだ。
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そして宮永照はガッ!!と卓の
「「「!!」」」
ギギギ、ギギギギギ……といったこの局の最初に宮永照から発せられた音が再び聞こえてきた。卓の角を掴んでいない左手の方から。あの何かが軋んだような、聞いていて決して良い気持ちにはならない不穏な音が、再び。
まるで左手に何かの力が収束していくかのように。
そしてその音が止んだと思ったら、宮永照の左手は既に山へと向かっていっていた。一直線に、淀みなく。そしてツモ牌を左手で取る……否、掴むと、勢いよくその牌を卓へ叩きつける。あまりにも勢いが良すぎて、その牌が高速回転してしまい、それが何かを確認するまで時間がかかってほどだった。だが、宮永照はそのツモ牌を確認することなく手牌十三牌を両手で倒す。
「ツモ」
宮永照:和了形
{東東南西西北北白白発発中中}
「字一色。役満……8,000-16,000です」
ツモ{南}
前半戦、終了。
役満を和了ったことでリードを得た照。シロたちはどうやってこの点差を詰めるのでしょうか……?