宮守の神域   作:銀一色

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南二局三本場。
さあ役満を聴牌することができるのか……?


第67話 決勝戦 ⑮ 誘導

 

 

 

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南二局三本場 親:宮永照 ドラ{①}

 

小瀬川 25,900

照 30,900

辻垣内 14,100

洋榎 29,100

 

 

 

南二局三本場。宮永照はこの親番で和了りを重ね続け、『加算麻雀』による役満聴牌まであと二飜というところまで近づいていた。ここまで誰も寄せ付けずに最短距離で和了ってきた宮永照。いくらこの化け物揃いのこの卓でも、今の絶好調の宮永照を止めるのは容易ではない。事実、二本場は止めに行ったもののそれを上回る速さで逃げ切られ、一本場に至っては誰も成す術もなく和了られてしまった。故にこの三本場も宮永照がものにし、四本場で役満を張るであろうというのが観客の大半の予想であった。だが小瀬川白望も、辻垣内智葉も、愛宕洋榎も、ただ指を咥えて宮永照が役満を和了るとこを眺めるわけにはいかない。例え無理だと言われようとも、無謀だと言われようとも、死力を尽くして宮永照を止めなければならないのだ。

 

 

「チー」

 

 

宮永照:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {横③②④}

 

打{西}

 

 

しかし、そうは言っても宮永照の手は速い事には変わりない。二巡目にして既に一副露と、桁違いなスピードである。だが、それに必死に喰らいつくように、小瀬川は今さっき宮永照が切った{西}を大明槓。

 

 

「……カンッ!」

 

小瀬川:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {西西西横西}

 

 

新ドラ

{東}

 

 

打{⑨}

 

 

大明槓によって得た新ドラ表示牌は{北}。つまり新ドラは{東}となった。だが、それを確認した宮永照は、小瀬川の大明槓に対して腑に落ちず、どこか釈然としなかった。

 

 

(オタ風を大明槓……?何でわざわざそんな事を……?)

 

そう、結論から言うとこの大明槓に小瀬川が得る直接の利益は全く持って存在しない。バカ混でさっさと場を流したい時にオタ風をポンする、というのはよくあるが、何も大明槓するほどのことでもない。普通、大明槓をする場合、多くは新ドラや嶺上開花による打点の上昇を狙うために行われる。だが、今小瀬川たちの狙いは打点ではなくスピードだ。わざわざ面前を捨てて新ドラを増やす必要性が微塵も感じられない。しかも、その新ドラがオタ風の{東}である。小瀬川の意図が全然分からないのだ。

異彩を放つこのオタ風大明槓。いや、別に今に始まった事ではない。これまでも小瀬川の不可解な行動は度々、要所要所で見られたので、もはや見慣れてしまったと言っても差し支えないものだが、やはりいざこの状況で謎な行動をされると、対処に困ってしまう。もっとも、小瀬川からしてみれば困らせるためにやっているので、当然といえば当然であろう。

まだ捨て牌が一列目の半分すら届いていないものの、既にこの南二局三本場は荒れそうな予感を醸し出していた。が、そんな予感とは裏腹に

 

 

「ポン」

 

六巡目

宮永照:手牌

{二二三四六234} {七横七七} {横③②④}

 

打{六}

 

 

 

六巡目、まるでそよ風のようにあっさりと宮永照が聴牌に至る。しかも、場が荒れそうな予感を作り出した原因の小瀬川はあの大明槓以降目立った動きはない。捨て牌も特に異常は見当たらず、ただ順当に牌を切っているようにしか見えない。当然、愛宕洋榎も、辻垣内智葉もリーチは疎か鳴きすらなく、一本場や二本場のような独壇場と何ら変わりない状況であった。本来、宮永照にとってはこの状況は嬉しい事態である。が、上手く進みすぎているからこそ、宮永照に疑惑が湧いてくる。そして宮永照が抱いた疑惑が妄想を育て、妄想は恐怖を生む。宮永照にはこの状況が、宮永照が圧倒的有利なこの状況が()()()()()()()()()状況にしか見えなくなっている。

 

 

七巡目

宮永照:手牌

{二二三四234} {七横七七} {横③②④}

ツモ{南}

 

 

そして聴牌してから最初のツモである七巡目、このツモってきた{南}で、明らかに宮永照の動きが静止する。通常ならば、この{南}はノンストップで切れる牌であろう。だが、この{南}はもし小瀬川が混一色に向かっていればそう易々と切れる牌ではない。絶対危険とまでは言えないものの、確かに危険牌である。だが、ここは行くべきであろう。混一色、とは言ったものの、この局で小瀬川がやったことといえばオタ風の{西}を大明槓しただけだ。それ以外は特別な打ちまわしは一切合切していない。

 

 

(切る……切ってやる……!)

 

 

切る。そう決心し、ゆっくりツモってきた{南}を手に取ると、そのまま一気に河へと放つ。この時の宮永照は小瀬川に当たらないかという事で緊張し、心臓はバクバクであった。それ故に、辻垣内がツモるまでの僅かな時間が永遠という単位で長かった。が、辻垣内がツモったのを確認すると、張り詰めた緊張の糸がプツンと切れたように露骨に安堵した。

 

 

 

九巡目

宮永照:手牌

{二二三四234} {七横七七} {横③②④}

ツモ{白}

 

そして次にツモってきた混一色ならば危険牌である牌は{白}。だが、この{白}は小瀬川の捨て牌に存在している。つまり、この{白}は小瀬川には絶対に当たらない牌である。であるから宮永照は、余裕を持って切る事ができた。

 

 

 

だが、お忘れではないだろうか?確かに、小瀬川の捨て牌には{白}がある。フリテンの関係上、小瀬川に和了られる事は絶対ない。だが、この時宮永照は盲目であった。どういうことかというと、宮永照は小瀬川しか見ていなかったということである。確かに、この宮永照を困惑させる状況を作り出したのは小瀬川だ。故に、どうしても小瀬川に注意が向いてしまう。小瀬川が和了りにきていると思ってしまう。

 

 

 

「ロン!」

 

 

 

辻垣内:和了形

{一一五五⑤⑤⑦⑦33東東白}

 

 

 

「七対子ドラドラ。7,300!」

 

 

 

 

生憎ながら、全て小瀬川の算段通りだ。あの大明槓によって自身に宮永照の注目を向けさせたのも、最初から計画通りである。

 

 

(誘導っ……!)

 

 

それに気づいた宮永照は思わず歯嚙みしてしまう。振り込んだ自分でも、思わず成る程と思ってしまうほど、綺麗な誘導だった。

そしてこれで宮永照の親は流れ、地獄の親役満の可能性は完全に消えて無くなった。だが、これで役満自体の可能性は消えてはいない。次局、もし宮永照が和了れば、オーラスには役満を聴牌してしまう。まだ脅威は残り続けている。

 

 

 

残り、二飜。

前半戦終了まで、残り二局。

 




次回は南三局。
さあ一体どうなることやら……

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