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南二局一本場 親:宮永照 ドラ{西}
小瀬川 27,300
照 23,200
辻垣内 15,500
洋榎 34,000
前局、親である宮永が一盃口ドラドラの三飜、7,700を辻垣内に直撃させ、順位を辻垣内と入れ替わるように三位に戻し、それと同時に宮永照の『加算麻雀』発動まで、残り六飜とした。これでもし次に宮永照が跳満以上を和了れば合計十三飜となり、次局で役満を自動的に聴牌することができる。仮に、宮永照が親番のこの局跳満を和了ってまた役満を和了るとなれば、6,000オール+16,000オールで計22,000オールとなる。つまり、上手くいけばたった二局で66,000点を稼ぐ事が可能という事である。もしそうなれば宮永照の勝ちがぐっと近づく事になる。
当然、他の三人からしてみればそんな事は少しも、微塵も望んでいない。子の役満でさえごめんだというのに、親の役満なんてとんでもない事である。故に、早々に宮永照の親を蹴りたい所である。が、宮永照も単純ではない。前述したように、跳満を和了れば一気に役満聴牌だが、別にわざわざ跳満を和了る必要はない。ようは六飜和了ればいいのだ。一飜ずつ和了ろうが、跳満を和了って一発で決めようが、どちらにせよ役満を聴牌できるのなら、わざわざ時間をかけて跳満まで手を育てるというリスクを背負うよりかは、一飜や二飜などの速攻の和了りを繰り返してじわじわと攻めていったほうが安全である。
三巡目
宮永照:手牌
{二二四六六七九⑤⑥33中中}
ツモ{中}
三巡目、宮永照は序盤にして役牌の{中}を暗刻とする。そして打{九}。本来ならばこの手、{33}の対子と{⑤⑥}の両面搭子を落としていき、{一三五八}を引き入れて萬子の中混一色一気通貫の跳満にまで育て上げることが可能である。だが、宮永照は早々に{九}を切って中ノミの手の方針を確定させた。跳満という欲につられず、確実な和了を目指そうという意思。そして、まるでその宮永照の意思に牌が応えるように宮永照は有効牌を引き続ける。
四巡目
宮永照:手牌
{二二四六六七⑤⑥33中中中}
ツモ{三}
打{二}
五巡目
宮永照:手牌
{二三四六六七⑤⑥33中中中}
ツモ{3}
打{七}
四巡目、五巡目と立て続けに有効牌を引き入れて聴牌に至る。中ノミの安手ではあるが、今この場で重要なのは和了る事であるので、打点は今は関係は無いのだ。故に、宮永照は警戒されやすいリーチはかけずに黙聴を取った。
そして七巡目、宮永照はツモった牌を確認すると、そのまま手牌十三牌の横にツモ牌を置き、手牌を晒す。
「ツモ」
宮永照:和了形
{二三四六六⑤⑥333中中中}
ツモ{⑦}
「自摸、中。1,400オール」
これが捨て牌が二段目行く前の七巡目というスピード和了。この局の宮永照の手は色々と打点を高める事は可能であったが、それよりもスピードを優先し、最短距離を駆け抜けた。それにこの和了りは、たまたま聴牌する時に面前だったから自摸がついただけで、鳴ける牌が切られたら鳴いて中ノミの手も考慮していた。考慮していたというよりかは、それを大筋として考えていたので、自摸がついたのは全くの偶然であった。
だが、この二飜和了りは大きい。これで『加算麻雀』発動まで残り飜数は四。ドラを暗刻とすればその時点で満貫が確定し、それを和了れば次局役満聴牌である。
「一本場……」
宮永照が呟き、そしてこれで二本目となる100点棒を置いて場は南二局二本場へと移行する。
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南二局二本場 親:宮永照 ドラ{4}
小瀬川 25,900
照 27,400
辻垣内 14,100
洋榎 32,600
前局に引き続きこの局も、宮永照は打点を高める事はせず、速攻重視で和了りを目指していく。三人も止めようとはするが、それよりも宮永照の方が優勢である。明らかにスピードが違う。五巡目でありながら既に役牌の{南}を鳴き、{八}をポンして{①④}待ちの聴牌に至っている。宮永照に好調な風が吹いているのは確定的に明らかだ。ここぞという場面で流れが良くなるのは、後に宮永照が『牌に愛された子』と呼ばれる由縁であろう。だが、それよりも打点を捨て速さを重視する判断を下した宮永照の采配が大きい。攻めたくなる場面ではあるが、堪えて確実な和了りを目指すのは流石といったところだ。
愛宕洋榎
打{①}
「ロン」
宮永照:和了形
{②③④④234} {八横八八} {南南横南}
「南ドラ1。……二本場を加えて3,500」
愛宕洋榎が打った{①}で宮永照は和了を宣言。南ドラ1の二飜。これで計十一飜となり、残りは二飜。次止めなければおそらく二飜を和了られて役満を聴牌されるであろう。が、次局で親を流したとしてもその次にたった二飜を和了れば目標達成なので、この時点で既に手遅れとも言える。だが、それでも親を流して被害を抑える事をしなければ16,000オールという甚大な被害を被るであろう。
(……そろそろ止めなアカンな)
愛宕洋榎は宮永照に3,500の点棒を渡し、そう考えた。今は一位であるが、役満をツモられれば一気に一位という王座は陥落する事になる。前半戦をトップで折り返したい愛宕洋榎にとってはこの条件はまさに不利な条件である。それに加え、愛宕洋榎はラス親。もし仮に宮永照の親番を流したところでオーラスに役満の親被りという事も考えられる。だが、それはその時になってから考えればいいだろう。それよりも今は親の役満という馬鹿げた事を止めなければならない。それが先決だ。
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観戦室
「……そろそろ来るで。宮永さんの
清水谷がスクリーンを見据えながらふと呟く。それに反応したのは今まさに決勝を闘っている愛宕洋榎の妹、愛宕絹恵。
「『加算麻雀』……」
愛宕絹恵自身は麻雀をやっておらず、サッカー一筋であるが、姉から『加算麻雀』の情報は度々聞いている。いつも姉は宮永照の話になれば、『加算麻雀』の突破口がないかと考察していたほどだ。結局、「宮永に和了らせないようにする」という脳筋な対策法が結論となったが、愛宕洋榎は天才だ。それはいつもその背中を見ている愛宕絹恵が一番よく知っている。口では変な事を言ってたとしても、いざ勝負所となれば相手を完膚なきまでぶ叩きのめすほど、彼女は天才なのであった。
だから、宮永照の『加算麻雀』も完封してくれる、と愛宕絹恵は願っていた。
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特別観戦室
【あと二飜、か。面白い……】
赤木が興味深そうにスクリーンに映る宮永照を見て言った。小瀬川から聞いていた例の『加算麻雀』。いくら赤木と雖も、流石にスクリーン越しからではその全貌は掴めない。果たして本当に十三飜和了れば役満を聴牌できるのか、小瀬川にとっては辛くなるだろうが、内心見てみたいという気持ちで一杯だった。
「ちょ……赤木さん縁起でもないこと言わないで!親の役満とかになったらどうするの!?」
だが、そんな事を聞いた胡桃が赤木に指摘する。まあ、応援する側の人間が相手の役満を聴牌するところを見てみたいと言えば当然の反応だ。
【ククク……まあ何もこの次宮永が二飜を和了ったとしても、それが即ち16,000オールとはならない……そうだろ?】
「どういうことですか?」
それを聞いた塞が赤木に聞く。赤木の口ぶりは、まるで宮永照の『加算麻雀』の役満を止められるという口ぶりであった。
【単純さ。その役満が天和でなければ、和了るまでに若干の猶予がある。ならその隙に和了っちまえば問題はないわけだ。和了れるまで役満を聴牌し続けるとか、そういう例外がなければ可能だ。……まあ、十中八九宮永の方が先に和了るだろうが、一応の解決策ってのはあるもんさ】
確かにそうだ。と塞と胡桃は思った。『加算麻雀』での役満聴牌は、聴牌が確定されるだけであって、和了れるとは限らない。例え配牌から聴牌されていても、和了れない時は和了れないのだ。確かに赤木が言った通りそんなことはまず起こらないだろうが、そういう可能性が少しでもある時点で、完全ではないのだ。つまり、阻止できるかもしれないのだ。
(シロ……)
役満聴牌まで、残り二飜。
次回は三本場。役満を止められるかが今後の展開を左右しますね。