宮守の神域   作:銀一色

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南入前の観戦者たちの会話です。
お菓子総選挙を見ながら書いていたので、色々おかしいところもあるかもしれません。お菓子だけに(激寒)


第63話 決勝戦 ⑪ 無色透明な水

 

 

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特別観戦室

視点:臼沢塞

南一局 親:小瀬川白望 ドラ{七}

 

小瀬川 33,300

照 18,500

辻垣内 11,200

洋榎 37,000

 

 

決勝戦前半戦の東場が終わり、現在シロは二位。二位とは言っても、赤木さん曰くあの面子では順位での優劣はなくて、いつひっくり返ってもおかしく無いのだという。だから、今の二位という順位は全くもって安全圏では無いそうだ。次の南一局の親はシロ。私としてはこの親で大量に稼いで安全に逃げ切って欲しいと思うが、赤木さんのさっき言った事と、他の人たちも相当な実力者な事を併せ考えると、おそらく最後までギリギリな戦いになるであろう、と思う。しかも、シロの打ち方は本当に理解不能である。最後の最後まで理解できない事もあるので、見てるこちら側としてはヒヤヒヤされっぱなしだ。いや、シロは自信を持ってやっているのだから、シロとしては全然ヒヤヒヤも緊張もしていないのだろうが、こっちとしてはたまったものではない。

そう考えている内に、ふと昔のシロの事を思い出した。

そういえばシロは昔、麻雀物凄い下手だったなあ、と。

昔のシロと今のシロを比べてみれば一目瞭然だ。それほど、昔のシロが弱く、今のシロが物凄く強い。まるで別人のように。斯く言う私も、久々にシロと打った時は本当にびっくりした。まさかあのシロがこれほど強くなったなんて……って。それに、強くなった事以外にも変わった事はある。それは、シロが本当に楽しそうに麻雀を打つようになった事だ。以前までは、麻雀の定石や牌効率などに悩まされていたようで、のびのびと打てなかったらしかったのだが、あの打ち方に変わってから、悩みは全て消え去ったらしく、本当に楽しそうに麻雀をしている。……たまにシロが怖くなる事もあるが、シロなりに楽しんでいるのだろう。とにかく、私としてもシロがあの打ち方に変わって良かったんじゃないか、と思う。まあ、そのおかげでライバルが増えた事に関しては、仕方ないといったところか。あのイケメン力は昔も今も変わらないからなぁ……容姿もそうだが、クールで、誰にでも優しく接して、自分でダルいダルいばかり言っているのにも関わらず、常に他人の事を気遣ってくれる。そんなシロに魅了される人が多いのは当たり前と言っては当たり前か。

シロの昔の事を思い返していると、私にふと疑問が湧いてきたのだ。もし、私も赤木さんに教えてもらえれば、シロに近づけるのか?という疑問だ。今までシロの晴れ舞台を見てきたが、正直シロが羨ましい、と思った事もあるし、シロと同じところに立ちたい、と思った事もある。嫉妬、というよりは憧れに近い感じだ。

 

そこで、シロの師匠的な存在である赤木さんに直接聞いてみる事にした。

 

「赤木さん、単刀直入に言いたい事があるけどいいかな?」

 

【どうした?】

 

「私にも、シロのような打ち方に変えられるかな?」

 

結構無茶な質問をしたかな、と言った後で思った。赤木さんはハハハと笑い、笑い終わった後に間を置かず、きっぱり

 

【無理だ】

 

と答えた。意外である。無理難題な質問ではない。意味的には麻雀の打ち方を教えて欲しい、という質問だ。確かに決して簡単に返せる質問ではない。だが、普通はきっぱりとは答えられないはずだ。それなのにも関わらず、予想外の返答の速さに私は思わず目を丸くしてしまい、

 

「む、無理なんですか?」

 

と、自分でも間抜けと思うような素っ頓狂な声で聞いてしまった。それに対し、赤木さんは真剣な声で質問に答え始める。軽々しく聞いた私とのその声との温度差に、私だけではなく、胡桃までもが息を飲んだ。

 

 

【簡単に言っちまうと、白望だから教えてやる事ができたってわけだ。】

 

「シロだから?」

 

 

胡桃が聞き返すと、赤木は【ああ】と答える。シロだからこそ打ち方を教えられた?どういう事なのかさっぱりわからない。胡桃の方を見ると、胡桃も分からないらしく、缶ジュースを口につけながらむむむと考えていた。

 

 

【……ヒントは、水と色、だな】

 

 

私と胡桃がいつまでたっても正解に辿り着かなさそうと思ったのか、赤木さんががヒントを言った。

水と色……それが何を指し示すのだろうか。水と色といえば、学校で図画工作に授業をする時に、絵の具の色と、筆を洗う時に使うバケツにある水くらいしか思い浮かばない。絵の具といえば、初めて絵の具で授業を行った時、バケツの水を絵の具で色を変えて何色になるかで遊んでいたっけか。それで結局グロテスクな色になり、収集つかなくなって胡桃に「遊ばない!」って怒られたっけ。

 

 

(いや、バケツの水を染める……?)

 

 

ここで私に電流が走った。もし、シロや赤木さんの打ち方を水、つまり透明な色と考え、私や胡桃などのそれ以外の打ち方を他の色、とすれば全てが上手く繋がる。そして一度染まった水は、決して元の無色な透明には戻る事はない。つまり、何に染まるか悩んでいたシロだからこそ、透明のままを貫き通せた。

 

 

「「も、もしかして!」」

 

この発見を胡桃にも教えなくては、と思い胡桃に声をかけたが、それと同時に胡桃も立ち上がって声を上げた。どうやら胡桃も気づいたらしい。

 

 

【どうやら分かったようだな……】

 

 

赤木さんがクククと笑って言う。これが正解らしい。

 

 

【その通り、所謂何色にも染まっていない透明な水こそが俺らの打ち方だ。あいつがまだ何色にも染まっていなかったから、俺が色を染める以外の方法を教えただけだ。……そして何故無色透明な水が俺らの打ち方かと言うと、それはただ単純。純粋な打ち方だからだ】

 

 

純粋な打ち方。私には到底そうは思えないが、そう思うのも多分、"染まっている"からなのだろう。

 

 

【麻雀においても勝負においても……もっと言えば日常生活においても、俺らの打ち方の根源、つまり"自分の信頼"と"予測"ってのが最も必要なものであり、中心となっている……それに自分のオカルトやら牌効率やら色んなものを足していってしまうから、それが薄れていってしまい、理解できなくなっちまうんだ。本来それが一番大切な事のはずなのに、だ。だから俺らの打ち方が純粋な水なんだ】

 

【当然、染まっている水が一概に悪いとは言えねえのも事実だ。その色は個性であり、それが人とは違う事の証明でもある。色の種類が人によってそれぞれ違うから、また違った面白味というのもある。だが、それは元々俺らの打ち方が基盤となっている事を忘れちゃあいけねえし、それが消されかけているのも忘れちゃあいけねえ】

 

 

【ま、そんな事だな。そろそろ南一局が始まるぜ】

 

 

なるほど、と私は素直に思った。自分の信頼と予測、確かにそれが元となって麻雀を打っている。そしてそれが元であり、一番大切な物なのだから、それを極限まで高めたシロや赤木さんは強いわけだ。当然といえば当然である。

改めて、シロの強さの秘訣を知った私と胡桃は、スクリーンに映るシロを、さっきまでとはまた違った観点から見る事にした。

 

 

 

 

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観戦室

視点:神の視点

 

 

「こんにちは、清水谷さん。園城寺さん」

 

 

所変わって観戦室では、園城寺、清水谷、愛宕絹恵がいた席の近くに、上埜久がやってきた。

園城寺と清水谷は上埜に普通に(園城寺は少し睨みつけながらだが)挨拶するが、初遭遇の愛宕絹恵にとっては、誰だこいつ状態になっている。

 

 

「あら、もしかしてあなたも小瀬川さんに惹かれた人かしら?」

 

 

そんな愛宕絹恵に、挨拶代わりとして上埜が質問する。突然の質問に、愛宕絹恵は思わず吹き出してしまう。

 

「な、なんや!アンタ、シロさんのなんだっちゅうんや!」

 

 

愛宕絹恵が立ち上がって上埜に向かって指をさして問う。

 

 

「私?私は小瀬川さんのかn」

 

 

「嘘をつくなや!」

 

 

上埜が何かを言いかけたが、園城寺からの腹パンによってそれは遮られる。病弱な彼女の腕からは考えられない鈍い音が放たれ、上埜はうっ、とお腹を抑える。

 

 

「な、何するのよ園城寺さん!」

 

 

「嘘つきには制裁が必要や。次ウチの目の前で言うたら許さへんで……」

 

 

「……いずれそうなるわよ」

 

自分のお腹に手を当てながらボソっと呟くと、それが園城寺の導火線に火をつけたのか、上埜にもう一度腹パンをしようと試みるものの、清水谷に抑えられてしまう。

 

 

「放しーや、竜華!こいつはここで懲らしめなかアカン!」

 

 

バタバタと暴れる園城寺。そして、それを哀れむように見る周りの観客。清水谷はやれやれと言った感じで園城寺を抑え続ける。

 

 

 

「はーなーせー!」

 

 

園城寺の叫びが、決勝戦前半戦の南場の始まりを告げるように虚しく響いた。

 




次回は南一局です。

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