宮守の神域   作:銀一色

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東二局です。
まだまだ4分の一どころか8分の一しか終わっていないという事実。
まあ、前々から分かってたことなので驚きはしませんがね。


第59話 決勝戦 ⑦ 誘導、掌握

 

 

 

 

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視点:神視点

東二局 親:宮永照 ドラ{①一}

 

小瀬川 27,300

照 26,600

辻垣内 21,100

洋榎 24,000(+リー棒1,000)

 

 

小瀬川:手牌

{裏裏裏裏} {裏南南裏} {北北北横北} {西西横西}

 

宮永照が切った牌、{北}を鳴き、それによって得た嶺上ツモで{南}を暗槓した小瀬川。

小瀬川の手は隅に晒されている字牌を見れば一目瞭然。四喜和であると予測できる。そして、ここで仮に小瀬川がツモってくれば直前に生牌の{北}を大明槓させた宮永照の責任払いになり、小四喜なら32,000。大四喜なら64,000と、この嶺上ツモで勝負が決まってしまうこともあり得るわけだ。

因みに殆ど意味はないであろうが、新ドラは{6}になった。役満聴牌であろう小瀬川にとっては本当にどうでもいいのであろうが。

 

 

小瀬川がゆっくりと王牌からツモってきた嶺上牌を引き込んでいく。ゆっくり、とは言っても、その一連の動作は十秒にも満たないものであったが、小瀬川以外の三人にはその十秒が永遠のように感じられた。

 

 

 

宮永照は心の中で作られた小瀬川に恐怖する。辻垣内は、たった二つの行動によって、オタ風だけの貧弱な手が、役満、ダブル役満の超高打点になったのを見て、あり得ないといった風に晒されている字牌を見つめる。愛宕洋榎は冷や汗をかきながら、それでも面白いといった感じで小瀬川をツモった牌を凝視する。それぞれが思い思いの感情を抱えながら、小瀬川に注目する。

そんな三人からの注目を浴びる小瀬川が、嶺上牌を己が手配四牌の横に少し離して置く。それを確認した三人は思わず息を飲む。

 

小瀬川はまたもやゆっくりと、その離して置いた牌を倒す。その牌は{白}。そしてそれを、勢いよく河へ放つ。

嶺上開花、ならず。それを少し遅れて理解した三人はほぼ同時に安堵のため息をして、椅子に凭れかかる。あわや役満という状況を鑑みれば、安堵したくなるのも分からなくはないが、まだ危機は去っていない。まだ小瀬川の四喜和の可能性を完全に潰したわけではない。勿論、そのことは全員が承知していて、安堵の表情を浮かべたのは最初の数秒で、すぐに真剣な表情へと元どおりになる。

 

 

宮永照:手牌

{四四四五六七八八八九} {一一横一一}

ツモ{東}

 

そして次、宮永照がツモってきた牌は{東}。四喜和のキー牌の最後の一牌。当然、これは切ることはできない。たとえ和了牌でなくとも、これを切って鳴かれると四喜和を完成させた報いとしての責任払い(パオ)が発生してしまう。

そういう意味もあって、この{東}は地雷である。故に、萬子のどれかを切らなければならないが、万が一流局した場合も考えて聴牌は維持しておきたい。親番を流されると、色々不都合だ。

だからこその{九}切り。

 

 

「ロン」

 

 

だが、その牌に対して発声し、牌を倒す者がいた。辻垣内、愛宕洋榎のどっちかに当たったのであろう。

宮永照はそう思って辻垣内と愛宕洋榎へと目線を移すが、二人は和了れて小瀬川の四喜和を潰せたという安堵を浮かべていたのではなく、戦慄を浮かべていたのだ。目線を下に逸らすが、辻垣内と愛宕洋榎の牌は倒れてはいなかった。

 

(……ああ)

振り込んだ。その瞬間、自分が振り込んだと悟った。四喜和、役満。32,000か、もしくは64,000か。ともかく、これで宮永照は優勝争いから程遠いところに行ってしまった。

別に油断していたわけではない。{東}だけが和了牌ではないことは分かっていたのだ。だが、あまりにも上手く条件が重なりすぎではないか。あんまりである。宮永照はそんなことを自分に言い聞かせながら、震える手で点棒を取り出そうとしていた。

だが、様子がおかしい。辻垣内と愛宕洋榎の表情が、おかしいのであった。四喜和を和了られて戦慄しているというよりは、別の何かに驚愕しているようだった。

どういうことか?と放心状態の宮永照が虚ろな目で小瀬川の手を見る。

 

 

小瀬川:和了形

{三三三九} {裏南南裏} {北北北横北} {西西横西}

 

それを見た宮永照の虚ろな目は、一瞬にして辻垣内や愛宕洋榎のような戦慄、驚愕の目へと変化する。

あれだけ四喜和を意識させておきながら、結局北、対々和、混一色の満貫ぽっち。それだけではなく、完璧な形で宮永照の思考を誘導、いや、掌握して操っていた。四喜和という役満の恐怖でまず芽を植え付け、間を空けずに嶺上開花での責任払い(パオ)によって恐怖を煽る。そして一度は安堵させておきながら、{東}という地雷を抱えさせる。この時点で、小瀬川は四喜和かどうかという二択から、四喜和を和了られるか潰せるかという二択に移行が完了されている。

そうなれば、{東}は切ることはできなくなり、守りへと思考が移る。あとは聴牌という誘惑に駆られ、自ずと振り込む。全て小瀬川のシナリオ通りであった。

 

「満貫。8,000……」

 

 

宮永照は、さっきとはまた違った意味で手を震わせながら点棒を小瀬川へと渡した。違う、とは言っても恐怖、戦慄という感情から震えがきていることは同じである。だが、その恐怖の矛先が違うのだ。先ほどの震えは、役満に振り込んだという役満に対しての恐怖だった。だが、今の震えは、自分を最初から最後まで完璧に操ったという小瀬川に対しての恐怖であった。人の思考を読み、掌握し、行動を操る。しかも、誰にも悟られず、だ。

 

 

だが、宮永照はそれ以外のことに対しても恐怖していたのだ。

 

(違う?白望さんのアレ()は、これじゃない……!?)

 

違うのだ。そう、『照魔鏡』でみたあの闇は、これではないのだ。感覚だけの直感ではあるが、違うと確信した。これだけでも恐ろしいものだが、これの何倍も恐ろしいモノが、小瀬川には隠されているというのだ。まあ、小瀬川はそれを意図的には出せないのだが、宮永照はそんなことを知っているわけもなく、ただその存在に怯えるしかないのだ。

 

小瀬川白望という、悪魔に。

 




次回は東三局。役満よりも大きな恐怖をを背負った皆はどうシロに立ち向かうのか……?

……やはりシロが主人公してないですね。

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