100話以内には終わるでしょう(希望的観測)
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視点:神視点
東二局 親:宮永照 ドラ{①}
小瀬川 27,300
照 26,600
辻垣内 21,100
洋榎 25,000
宮永照の絶対的能力、『照魔鏡』が小瀬川によって破られたり、小瀬川の親があっさりと流されてしまうなど、まだ東二局ではあるのにもかかわらず既に場は波乱に満ちていた。
宮永照のもう一つの秘策、『加算麻雀』が前局の和了によって始まり、役満発動までは残り十二飜。まだ発動には程遠いものの、視点を変えてみれば跳満二回で発動するとも捉えることができるため、ただべらぼうに遠いとは一概には言えない。いや、通常なら跳満を二回和了れと言われてできる人間は殆どいないであろう。どんなに最善を尽くしてもノミ手でしか和了れない、果てには聴牌すらできないという事もあるのだ。そう考えれば、自ずと跳満を二回というのは高い壁であるということは分かるはずだ。だが、それでも宮永照、いや、この卓を囲んでいる者達なら悠々とやってのけるであろう、と思えるから彼女たちは恐ろしいのだ。通常の感覚が麻痺してしまうほど、彼女たちは異次元、異常であるのだ。
そんな彼女たちが織り成す決勝戦前半戦東二局。場は一時膠着状態となっていたが、その均衡を最初に破ったのは愛宕洋榎。
「出鼻挫きリーチ!」
洋榎:捨て牌
{1九⑦61発}
{②⑨2横一}
11巡にしてやっと場がリーチによって動いた。それまでリーチはおろか、鳴きすらなかったこの東二局。このリーチが引き金となり、場は一気に動き出す。
「カン」
照:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {一一横一一}
ドラ表示牌
{⑨九}
ドラ
{①一}
愛宕洋榎のリーチ宣言牌を宮永照が大明槓。それによって得た新ドラはまさかの{一}。つまりこの宮永照の手は一気にドラ4を持つ確定満貫という羽を得る。『加算麻雀』の頂である役満までに必要な十三飜という目的地へと一気に近づくことのできる羽を宮永照は身につける。
だが、それをただ黙って見過ごすほど、この真っ白な悪魔は優しくはなかった。
打{西}
「ポン」
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {西西横西}
打{7}
小瀬川が宮永照が切った{西}を鳴き、打{7}。だが、小瀬川にとって{西}はオタ風。しかも、鳴いたことによって小瀬川の手牌の自由度は一気に狭まることとなる。それに加え、捨て牌には萬子、索子、筒子が満遍なく切られていて、混一色の染め手ではないのは一目瞭然。故に、小瀬川の手は必然的に役牌抱え、もしくはチャンタ手に限定される。ドラを暗刻で抱えている場合を考慮すれば一応満貫にはは届くが、まあ暗刻はないであろう。よくてドラ1どまりだ。
そして次ツモってきた牌は{北}。チャンタにしても、役牌狙いだとしてもこの{北}は危険ではあるが、宮永照にオリの二文字は無かった。なぜか、と言われれば宮永照の手が勝負手であるからの一言に尽きる。
照:手牌
{四四四五六七八八八九} {一一横一一}
ツモ{北}
{四-七、八、九}の4面待ちで、尚且つ清一色ドラ4の親倍満という高打点。しかも、宮永照にはそれだけではない特典が付いてくるのだ。そう、『加算麻雀』の飜数が、この手を和了れば残りは三飜だけとなるのだ。もしこれを和了って、次局、例えばメンタンピンを和了った時点で合計十三飜。役満を聴牌することが可能となる。親番であれば16,000オール。親倍満と合わせれば少なくとも24,000オールと、他三人の点棒が同時にハコ下になってしまうほどの驚異の打点。トビありの勝負であればもうそれでおしまいである。いや、例えトビなしだったとしてもそれを逆転するのは難しいであろう。
その24,000オールという未曾有のチャンスを考えれば、オタ風を晒した程度の脅しで引き下がるわけもいかない。故に打{北}。
「カン」
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏} {北北北横北} {西西横西}
だが、宮永照が予測したであろう事態にはならなかった。しかし、それは悪い方向に、である。
新たなドラ表示牌には{8}が見えたが、今はそれどころではない。問題は小瀬川の嶺上ツモである。
小瀬川は、王牌から嶺上ツモとして一枚牌を引き入れる。それを盲牌で確かめた小瀬川は、微かに邪悪な笑みを浮かべながら、それを手中に収めて、その収めた牌の横にある4牌を晒す。それが指し示すのは暗槓の宣言。
「カンッ……!」
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏} {裏南南裏} {北北北横北} {西西横西}
{南}を暗槓。まさかの暗槓。この暗槓によってさっき候補として挙がっていたチャンタや役牌抱えよりも、ある役満の可能性が浮上してきた。
四喜和。そう、これで四喜和のキー牌{南、西、北}が揃った。しかも、大明槓の
(なんで……こんなことに?)
左隅の、小瀬川の副露を晒す場所にある{南と西と北}をただ呆然と見つめながら、宮永照は思う。さっきまで、自分が優位であったはずだ。自分が合計24,000オールという武器によって追い詰めていたはずだ。なのに、その優位関係が1分も経たずして逆転した。宮永照の親倍満という計十三飜までの道を行く羽は、白い悪魔によって見るも無残、ボロボロの羽に変わりつつあった。
ーー凄いでしょ?
(……!?)
宮永照の背後から聞こえた、小瀬川の声。いや、それは宮永照の脳内にある架空の小瀬川であり、本物ではない。だがしかし、容姿は確かに小瀬川である。『照魔鏡』の闇といい今といい、小瀬川に対する恐怖が脳内で形作ってしまったのだ。
ーー漸く分かった?これが私。これが、小瀬川白望……私が怖い?
宮永照の脳内で作られた
「……」
心の中の小瀬川に怯えている宮永照を気にも留めず、現実の小瀬川はまたもや王牌に手を伸ばしていた。
ただゆっくりと、しかし淀みなく。そして宮永照の脳内にいる偽物と、全く同じ笑みを浮かべて。
次回は嶺上ツモからです。
嶺上開花でツモ和了ってしまうのか?もしくは無駄ツモなのか?それとも……?