宮守の神域   作:銀一色

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東一局です。
急いで書いたので、何かおかしい所があるかもしれません。


第54話 決勝戦 ② 照魔鏡

 

 

 

 

 

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視点:辻垣内智葉

東一局 親:小瀬川 ドラ{⑧}

 

小瀬川 25,000

照 25,000

辻垣内 25,000

洋榎 25,000

 

 

やっと始まった。名実共に日本の小学生最強を決める運命の半荘二回戦。

相手はいずれも同等もしくは格上の雀士。こいつらをまともに相手して勝つことは極めて難しいであろう。こいつらは本当に化物だ。こいつらを相手して勝つ人間など、少なくとも私が知る限りは一人位しか思い浮かばない。それほどまでにこいつらは、何倍も……私より何倍も異常なのだ。……だが、そんな事は自分が一番分かっている。理解している。

だからこそ私は諦めたりなどはしない。まだ勝負が決まったわけでもないのに諦めるなど、それこそ勝つ可能性を下げる愚行だ。少なくとも、そんな気持ちで挑んでもこいつら三人に勝つ事は絶対に無理だ。

 

勝つ可能性が低いとしても、決してゼロではない。力量差があったとしても、それが勝利につながるほど麻雀は単純ではない。

 

 

そんな思いを胸に抱き、配牌を開いていく。

 

 

 

辻垣内:配牌

{一二三七八①⑥⑨269西発}

 

 

良い感じに手を進めることができれば平和純チャン三色の満貫、ツモってくれば跳満の可能性さえ有り得る、なかなかに高打点を望める配牌。

 

 

だがまずまずの滑り出し……とは到底思えなかった。この東一局、牌譜通りであれば南家の宮永照はこの局を使って『照魔鏡』を使用してくる。

 

宮永照のソレは『照魔鏡』という名に相応しく、最初の一局を和了らず放棄する代わりに、対戦相手の能力、力量を全てその一局で理解するという能力のようなもの。それが『照魔鏡』。魔の隠れた本性を映し出す鏡……

 

 

それ故にこの東一局だけは、対戦相手が一人減ったと言っても過言ではない。宮永照が『照魔鏡』を使ってくればの話に限るが、十中八九使ってくるだろう。

 

 

だからこそこの局の配牌は速く、尚且つ高い最高と言って良い配牌を欲していた。次局からの配牌がどうなってもいいから、この局の配牌が良くあって欲しかったのだ。

だが、現実は非情であった。速く高い配牌を望んだが、開いてみたら中身は五向聴というこの有様。

 

こんな遅い手では折角和了れる可能性が高くなっているこの局が、他の二人のモノにされてしまう。

 

 

この配牌に心の中で舌打ちしながらも、頑張って手を進めようと試みる。

 

 

 

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6巡目

辻垣内:手牌

{一二三七八①⑨⑨12679}

ツモ{7}

 

 

あの五向聴の配牌から6巡で二向聴へと手を進めることができた。しかもうまく幺九牌が手牌に絡み、三色は無理そうだが、純チャン聴牌が現実的なものとなりかけていた。

 

そしてやはりこの局、宮永照は『照魔鏡』を使うらしく、和了りに向かおうとはしていなかった。

 

肝心な小瀬川白望と愛宕洋榎だが、愛宕洋榎の方はおそらくどんなに遅くても一向聴。もしくは聴牌に至っているだろう。捨て牌を見る限り、断么平和の系統であろう。もしかしたら三色も付いているかもしれない。

残った小瀬川白望の方だが、彼女の捨て牌を見たところで何の情報も得られないという事は知っている。彼女は捨て牌さえ武器にするような奴だ。ならわざわざその武器に触れる意味は無いだろう。

それに、捨て牌で待ちを読むのが許されないどころか、聴牌しているかどうかさえも捨て牌を見ても全く分からないのだ。その良い例として、ブラフが挙げられる。だから本当に彼女の捨て牌は、私にとって惑わすだけの地雷なのだ。

 

……故に、小瀬川の捨て牌はこの対局が入ってからは一度も凝視していない。見たとしても瞬間的に目に入るだけで、それについては一切考えないようにしている。

 

 

 

だがその同巡、私は小瀬川の捨て牌を見ざるを得ない状況になってしまう。

 

 

 

「……リーチッ!」

 

 

 

 

 

 

小瀬川が1,000点棒を置き、牌を横に曲げる。しかも、それを私が確認するようにゆっくりと牌を指で隠しながら放つ。

 

 

それによって、見てしまった。まるで真面目に手を進めようとはしていない様に思えるほど、馬鹿みたいな捨て牌を。

 

 

小瀬川:捨て牌

{白白白⑧四6}

{横白}

 

 

 

馬鹿げている。{白}の暗刻を切った後、リーチ宣言牌で最後の{白}を切り出すという、ふざけた捨て牌だ。こんなのを見て、どう待ちを読めば良いのか分からない。

 

 

やはり見るべきでは無かった。と思ったが、これも小瀬川の策略なのだろう。どんなに見ないと固く決心しても、人間は未知という魔性の誘惑には勝てないのだ。事件現場で何が起こっているのかを、危険と知っていても行ってしまう時のようなあの野次馬根性。

地震が起きた後、津波がどうなっているのかと、川の近くに行ってしまう時のようなあの未知の誘惑。

 

知らないから知りたい。分からないから理解したい。そんな人間の当たり前の欲望すら、彼女は操ってくるのだ。

 

 

 

そして一度よく見てしまったら、もう逃げられない。逃げたとしても、その先を狙ってくるのが彼女の悪魔的手法だ。逃げる事は許されない。ただ当たらないように、私は裸足で地雷原を突っ走るしかない。

 

 

 

 

辻垣内:手牌

{一二三七八①⑨⑨12679}

ツモ{1}

 

 

私の次のツモは{1}。そしてここからが悩み所だ。まず、手を進めるために順当に捨てていくのは論外だ。私が振らずとも、小瀬川の引きなら私が聴牌する前にツモるだろう。しかも溢れ牌を狙われているかもしれない。百害あって一利無しだ。

となると、小瀬川の和了を待つしか無い。もしくは愛宕洋榎に和了ってもらう事だ。どちらになろうと、私は小瀬川に振らないければ良いだけだ。

 

だが、何を切って良いのか分からない。どれが安牌なのかが分からない。

 

まず、今ツモってきた{1}と、溢れそうになっている{①}は切れない。掴まされたかもしれない。溢れた牌は狙われそうだ。そう考えればもう切れる牌ではなくなった。

 

 

そして捨て牌にある{⑧四6}の近くの牌も危ない。無筋の牌を切るよりかは、その近くの牌を切った方が幾らかはマシだが、そんなもの彼女に通じるとは到底思えない。むしろ、無筋の方がかえって通るかもしれない。

 

 

となると、切れそうな牌は{一七八29}くらいだが、筋を考えれば、{一七9}は通りそうだ。が、そんな程度で切れるなら切ってやりたいものだ。

 

 

結局、私にとって如何にか切れそうな牌は{八と2}のどちらかになってしまった。

もうこの二牌は捨て牌では安全が予想できない。できそうにも無かった。

 

 

そうして私が悩みに悩んだ末、切り出した牌は{八}。

 

 

 

色々考えた結果だ。私の頭脳を精一杯フル稼働させて出した結論だ。

 

 

 

 

でも、やはり、彼女の一歩上に行く事は不可能であった。

 

 

 

 

 

小瀬川:和了形

{二三四八123456北北北}

 

 

「ロンッ……!」

 

 

 

裏ドラ

{8}

 

 

 

「リーチ一発……裏なし。3,900」

 

 

 

 

有り得ない。宮永照が『照魔鏡』を使っている今、チャンスなのは私だけではない。小瀬川だってそうだ。なのに何で、一発がなければ2,000の手で勝負しようと思ったのだ。{白}の暗刻を切らなければ、7,700程度にはなっていたはずだ。あれで暗槓していれば、ドラが増えて大物手にまで化けていたかもしれないのに、たった3,900でチャンスを棒に振るなど、考えれられない。

 

小瀬川も、宮永照の恐ろしさは前に渡した資料で分かっていたはずだ。それなのにもかかわらず、そういう事をするということは、何か秘策でもあるというのか?

 

 

 

……分からない。小瀬川が何を考えているのかさえ分からない。謎だらけだ。

 

 

 

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視点:愛宕洋榎

 

 

(何や何や……やっぱ気づいとったのか……)

 

リーチ一発の3,900で和了ったシロちゃんを成る程と思いながら和了った形を見る。

辻垣内は勿体無いと思っているが、あの判断は案外正解であったりする。

 

 

洋榎:手牌

{12345赤56789中中中}

 

実はウチは混一色一通ドラ1の跳満を張っていたりしていた。おそらく、あそこで辻垣内が振らなきゃ、ウチがツモっていただろう。あそこで辻垣内が振り込むよう、迷わせる為だけに打点を下げて、ウチの跳満をわざわざ潰した。

 

 

確かに宮永の『照魔鏡』は脅威だ。そしてそれを発動しているこの東一局はチャンスになる。が、ウチに和了られるよりは流した方が良い……そう考えたのだろう。

 

 

 

(流石やな。シロちゃん……)

 

 

 

 

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視点:神視点

 

 

3,900の和了によって東一局が終わり、小瀬川の連荘の一本場になるが、ここで全員が危惧していた宮永照の『照魔鏡』が発動することとなる。

 

 

 

バッキィィィ!!という音と共に、三人の背後に、鏡が出現した。

 

 

 

これこそが、『照魔鏡』である。




次回は東一局一本場ですね。
そういえば、照は原作では咲ちゃん曰く昔と打ち方が違うと言っていましたが、この小説ではどうしましょう……?
まあ、考えておきます。

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