宮守の神域   作:銀一色

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南三局です。
何気にこの小説も次回で50話(外伝除き)ですね。
早かったようで長かったですね……
まあ、まだまだ続くんですけどね。


第49話 準決勝 ⑭ 役満を捨て去るという意志

 

 

 

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南三局 親:モブB ドラ{⑦}

 

小瀬川 41,700

モブA -16,000

清水谷 104,000

モブB -29,700

 

 

 

人は残り二局で62,300という点差を聞いて、どういう反応を示したらいいのだろうか?通常なら、絶望的だと感じるであろう。一応、62,300点差は役満の直撃で一局だけで逆転はするものの、少し麻雀を打ったことがある人間ならそれでもなお絶望的である事実は揺るがないであろう。何故なら役満など滅多に出ることはないのを知っているからだ。

当然ながらではあるが、狙って役満を出すことなど不可能である。だからこそ、役満の中でも特に珍しい天和や九蓮宝燈などは和了ったら死ぬと言われてしまうのである。

そう。あり得ない。こんな役満が欲しい状況で役満を狙える配牌が入ることなど、有り得ないのだ。

 

 

だが、そんな点差を目の当たりにしても、観客は未だ勝負の結末が分からないでいた。

その理由は、言わずもがな小瀬川白望である。小瀬川白望の対局を見てきた者ならわかるであろう。

 

……小瀬川は、ここでというところで勝負手を引いてくる。と。

 

 

そんな観客の予感、期待を背負った小瀬川がどんどん牌を引いてくる。

四牌ずつ、四牌ずつ小瀬川が配牌を取っていく。最初の方は黙っていた観客達も、配牌を取り終える頃には観戦室は歓声に包まれていた。

 

 

そんな小瀬川の配牌がこれである。

 

 

小瀬川:配牌

{一一四八⑧89白白発中中}

 

 

 

{白}と{中}の対子に、一枚の{発}。誰がどう見ても、これは大三元を十分狙える配牌である。

そして次の小瀬川のツモに、観客の歓声は更に大きくなる事になる。

 

 

小瀬川:手牌

{一一四八⑧89白白発中中}

ツモ{発}

 

 

 

 

{発}。{発}引き。これで大三元の種{白発中}が対子となった。

 

そして小瀬川の奇跡はここで絶えることなく、小瀬川に引き寄せられるかのように次のツモは{白}。

まるで、神のような何かが小瀬川を勝たせようと馳せ参じているかのようである。もしくは、小瀬川が引き寄せているのではなく、牌が小瀬川に近寄っていくかのようだ。

 

 

 

当然、この後も要所要所も牌を引き入れていき、遂に7巡目に、観客の歓声が絶頂を迎えることとなる。

 

 

 

小瀬川:手牌

{一一一四四八白白白発発中中}

ツモ{中}

 

 

 

聴牌。{四、発}のシャボ待ち。高めの{発}が出れば役満大三元。{四}でもツモってくれば四暗刻。{発}ツモなら四暗刻大三元のダブル役満になるという正に異常事態である。

*ダブル役満ありです。

 

 

 

勿論{八}を打って聴牌を取る。リーチはかけず黙聴。

だが、清水谷は小瀬川の大物手、勝負手が聴牌したと感覚で察知していた。故に、役満の待ちとなりそうな一九字牌は聴牌後は全く切っていない。

 

 

そして清水谷側から{東}が四枚見えたとなると、今度は一九牌を切り出していき、手にする字牌は一層切ろうとはしないという意志が聞こえてくる。局が進むごとに、観客の声はいつしか消えていた。

 

そして流局間際15巡目、最初は歓声であった観客の声がとうとう嘆声の声に変わってしまう。

 

 

清水谷:手牌

{一七九③④44東東西西北白}

ツモ{発}

 

 

清水谷が小瀬川の和了牌の{発}をツモってくる。この{発}は切られることはないのは分かっているが、嘆声に変わった理由は他にもある。

それは、この{発}が最後の四枚目であったからだ。既に(小瀬川から見て)上家の捨て牌には小瀬川が聴牌する前にあったので、この{発}が最後の希望であったのだが、正真正銘清水谷が握りつぶしてしまったのだ。

 

こうなれば小瀬川は{四}をツモってくるしかないが、これも既に捨て牌に一つあり、地獄待ちとなっていて、{発}をツモる前に握り潰されてしまった小瀬川がツモってくる確率はかなり低いし、何より流局寸前である。

 

 

そんなこと御構い無しといった感じで清水谷は{発}を、この牌だけは出さないという固い意志で手牌の中へ取り込む。

 

 

(これで耐え切った。耐え切ったで……!)

 

 

 

そして{一}打ち。観客が諦めかけていたその時だが、

 

 

 

 

 

 

「……そうかな?」

 

 

 

 

「まだ……分からない」

 

 

 

小瀬川:手牌

{四四白白白発発中中中} {一一一}

 

 

「カンッ!」

 

{一}の暗刻を倒して、宣言。小瀬川がここで動く。誰しもが諦めていたが、小瀬川だけは諦めなかった。小瀬川は、この一瞬の機、チャンスを待っていたのだ。

 

 

 

大明槓によって王牌から嶺上ツモを行う。そしてそのツモ牌を盲牌し、卓へ叩きつける。

 

 

 

「ーーーーーツモ」

 

 

小瀬川:和了形

{四四白白白発発中中中} {一横一一一}

ツモ{四}

 

新ドラ:{①}

 

 

「嶺上開花混一色小三元白中対々和三暗刻。11飜で三倍満の責任払い……24,000だ」

 

 

 

役満という淡い夢を完全に捨て、役満を追っていれば決して手にすることができなかった最後の{四}を王牌からツモってくる。その決断をするために、一体どれだけの覚悟が必要であったのだろうか。あそこで槓せず、{四}が出れば同じ三倍満であった。もし嶺上ツモでツモ和了できなかったら三倍満にも満たない倍満に手が下がっていた。だからあの状況での大明槓をするという事はあそこでしか和了れないと確信していないとできない愚行だ。でなければせっかく残されていた四暗刻という役満を意図的に棒に振ったという事になる。それが友人らとお遊びで卓を囲んでいる時ならできたであろう。だが、今の状況は決してそんなお遊びでは決してない。

青春、信念、プライド……そんな金よりも重い自分自信を賭けているのだ。

そんな状況下で、あんな決断をするという小瀬川の精神、意志が異常であることがこの場にいる全員が感じていた。

 

 

役満という夢をも捨て去ってでも、勝利という現実を突き進むという意志。その意志は、常人では決して辿り着くことができない境地であり、理解することは不可能であろう。

これが小瀬川という名の悪魔である。

 

 

 

そしてこの現実を追求した和了によって点棒は

 

 

小瀬川 65,700

モブA -16,000

清水谷 80,000

モブB -29,700

 

このように変化し、かつては100,000以上あった点差も、今となってはたった14,300ぽっちであり、清水谷の背はすぐそこまで迫ってきていた。

どちらも譲れない闘い。プライドを賭した死闘にも、次局で決まってしまうこととなる。

 

 

そして勝負は運命のオーラスに突入する事になる。

 

 

 

 

 




次回は50話にしてオーラスです。
因みに、私が今回でのシロの立場になったら竜華が発を握りつぶしたことも分からずにツモを狙いに行ってたでしょうね……
そう考えるとシロは勿論、役満張ってると察知できる竜華もなかなかにぶっ飛んでますね。絶対に同じ卓で打ちたくない(震え声)

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