漸く濃密な闘牌(主観的)が始まります。
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南一局 親:モブA ドラ{一}
小瀬川 19,700
モブA -14,000
清水谷 124,000
モブB -29,700
小瀬川:配牌
{二二八①①④④24466南}
とうとう小瀬川が動き始めたこの南一局。立ち上がりの配牌は速さでは恵まれたものの、いまひとつ打点が乏しいという微妙な配牌。
親のツモから一巡し、ついに小瀬川のツモ番になる。小瀬川は山からゆっくりとツモる。ツモった牌は{赤⑤}。それを手中に収めて、{①}の対子を落とす。時間はまだあるので、断么をつけにいったのであろう。
その後は{二}を重ねて{①}を完全に切り落とす。どうやら小瀬川は七対子ではなく、三暗刻。もしかしたら四暗刻を狙いにいったと観客は思った。
そう思われた。しかし4巡目、思わぬ事態が起きてしまう。
モブA
打{4}
「ポン」
小瀬川:手牌
{二二二④④赤⑤266南} {44横4}
打{八}
副露。まさかの鳴き。鳴いてしまってはリーチもかけられず、打点が望めないどころか打点を下げてしまっている。
そんな意味不明な副露。観客から見てみれば愚行極まりない副露。
しかし、清水谷側から見てみればこの鳴きは、本当に愚行だったと言えるのだろうか?
当然ながら、清水谷側からは小瀬川の手牌は分からない。であるからこの鳴きが打点を下げる意味の無い行動だとは思わない。故に、鳴いたとしても打点を望める手牌であるはずだと思ってしまう。
(清一色……!)
副露ありでも満貫跳満を目指せる役といえば、先ず思いつくのは清一色であろう。
{4}鳴きとなれば、索子の清一色。断么も絡めば跳満。{赤5}を持っていれば断么が無くとも跳満である。
そう思ってしまえば、清水谷とてただ漫然と牌を切って振り込むわけにもいかない。
清水谷
打{八}
故に、清水谷はオリに回ってしまう。副露後に切った{八}を切るというあからさまなベタオリ。
それと同時に、この局清水谷の和了りはまず消える。
これら一連の流れは全て小瀬川の作戦通りである。当然、あの鳴きも清水谷を降ろす為だけの副露であり、鳴く事によって得る直接の利益は無い。
清水谷が一歩引いてしまえば、限界まで追い込むのは容易である。清水谷が流れて行くであろう逃げ道をどんどん潰していけば良いだけなのだから。
小瀬川:手牌
{二二二④④赤⑤266南} {44横4}
ツモ{4}
そして6巡目、小瀬川が4枚目の{4}を引き入れ、そのまま加槓。
「カン……ッ」
小瀬川:手牌
{二二二④④赤⑤266南} {444横4}
ツモ{④}
加槓によって得た嶺上ツモは{④}。これで一歩前進ではあるが、正直今は小瀬川にとって手の進み具合などどうでも良い。加槓をした意味はそんなものの為ではない。
新ドラ
{一南}
加槓によって得られるのは嶺上ツモだけでは無い。新ドラもあるのだ。新ドラは小瀬川に丁度手牌にある{南}。
だが、この{南}というドラを持つべき者は小瀬川ではない。
小瀬川
打{南}
(これで場が動く……)
「ポン!」
モブB
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {南南横南}
モブB
打{八}
そう。ドラを抱えるべき者は、清水谷が差し込む可能性のある他家である。もし清水谷が差し込みに回ろうとした時のために、{南}ドラ3というインスタント満貫を持たせたのである。
しかも捨て牌を見る限りこれは萬子の混一色。{南}混一色ドラ3。ドラの{一}も対子で抱えていると仮定すれば倍満にまで届いてしまう。
満貫跳満程度なら小瀬川に振り込むよりは幾らかマシであろう。仮に小瀬川に満貫を振れば点差は8,000のいってこいで16,000縮むが、跳満を差し込んでも12,000しか縮まないのである。が、倍満クラスとなると16,000の出費となり、満貫直撃となんら大差はない。
それを見越しての、加槓。これで清水谷は差し込みによる逃げはできなくなった。
小瀬川:手牌
{二二二④④④赤⑤266}{444横4}
ツモ{6}
{南}が鳴かれたそのすぐ後に引きれた牌は{6}。これで{③-⑥、⑤}待ちの聴牌へと至る。
打{2}
「リーチ」
モブA:捨て牌
{発⑨81二⑤}
{横七}
そして幸運な事に、親からのリーチが入ってきた。
*点棒がマイナスの状態でもリーチをかけられる設定とお考え下さい。点棒は鷲巣麻雀のような点棒マイナス時の黒色の点棒のようなイメージでお願いします。
このリーチによって、清水谷の最終手段の親への振り込みも無くなった。
親への振り込みは清水谷にとって点棒は減る。連荘が起きるなど、良い事は無い。が、それでも不注意での小瀬川への振り込みや、ツモよりはマシだと考えた場合での最終手段ではあった。が、それはあくまでも親が安めの時の場合に限る。リーチがかかっている以上、リーチのノミ手であっても裏ドラが乗ったりする恐れもあるため、易々とは振り込むことができない。
即ち、清水谷はこの局、流局まで粘り続けるしか道は無くなった。和了に行くこともオリ途中であるから不可能であるし、差し込みもできない。しかも、流局まで粘るのもそう容易なことでは無い。
まず手牌にある索子は切れない。これは小瀬川が索子の清一色であると思い込んでいるため、切れないのは必然である。萬子、字牌は下家の{南}ドラ3混一色に対して危険。すると清水谷が切れそうなのは筒子であるが{⑤}は小瀬川の和了牌であり、しかも高めである。生憎、親の捨て牌には{⑤}があり、清水谷が安牌を切り続けていけばいつかは切り出される牌である。
無論、清水谷はまさか{⑤}が小瀬川の和了牌だとは夢にも思わないし、そう感じていたら清水谷は今窮地には立たされていない。
そして9巡目にその時が訪れた。
清水谷
打{⑤}
清水谷の{⑤}切り。安牌だと信じて打ったこの{⑤}に淀みは感じられない。が、現実は清水谷の上を行った。
「ロン」
小瀬川:和了形
{二二二④④④赤⑤666} {444横4}
「断么対々和三暗刻赤1。跳満……!12,000」
小瀬川が倒した手牌を見て、漸く清水谷は自分が振り込んだ事に気がついた。清水谷にとっては衝撃であろう。何しろ安牌だと信じて切った牌であってしまったのだから。
だが、清水谷はもう折れない。折れずに、小瀬川の猛攻を真正面から受け止める。
兎も角、この跳満によって12,000と親のリー棒1,000の点棒が動き、25,000点分点差が縮まる事となった。
小瀬川 32,700
モブA -15,000
清水谷 11,2000
モブB -29,700
25,000点分縮まったとは言え、未だ点差は79,300と、80,000近く存在しており、点棒上の優位は清水谷に揺るがないと言ってもなんら間違いでは無い。
だが、清水谷にとっては不幸な事に次の南二局は清水谷の親番。和了れば連荘になってしまい、ツモによる親被りの危機は続いてしまう。和了るのだから点差は多少は広がるのだが、それで親被りのリスクを背負うよりかは他家に差し込んで流した方が良い。
だが、先ほどのように差し込みたいけど差し込めない状況にもっていかれると苦しくなるのも事実だ。
逃げる清水谷。追う小瀬川。二人の状況が鮮明になった南一局が終わり、南二局へと移る。
終局まで、残り三局。
次回は南二局です。
やはり心理戦の描写は頭を使いますね……